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日本の医療機器大手・テルモがM&Aを通し成長した背景にある「組織の軸」とは何か──前編の議論ではそれが浮き彫りになりました。では、成功裡に成立したM&Aでグループが獲得した人材や新分野を成長のてことしてどう生かし、どう戦略に組み込むのか。後編では、その鍵を握る「人事」について、テルモ人事部門責任者の2名と、PwCアドバイザリーのパートナー3名が話し合いました。(本文敬称略)
(左から)赤間 穏子、後藤 孝江、岩井 知子氏、足立 朋子氏、河 成鎭
出演者
足立 朋子氏
テルモ株式会社 経営役員 チーフヒューマンリソースオフィサー(CHRO)
岩井 知子氏
テルモ株式会社 グループ人事戦略部 部長
河 成鎭
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー ディールズ・ストラテジー
後藤 孝江
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー/PwC Japanグループ チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー
赤間 穏子
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー
河:
クロスボーダーM&Aでは、新たに獲得した海外人材を日本にヘッドクオーターを持つグローバル組織の中でどのように登用・活用していくかが、その後の成長を左右する重要な鍵の1つだと言えるでしょう。テルモでは、この点についてどのようにお考えでしょうか。
足立:
テルモでは、次世代の幹部候補をグローバルに把握して重要ポストへの登用や育成・後継の計画を話し合う「人財会議」を毎年開催しています。その中で、ここ数年感じていることがあります。それは、テルモの企業理念や価値観に共感し、それを実践している人ほど活躍しているという事実です。国や国籍という枠組み自体は、本質的な要素ではないと私は考えます。私たちが提供している価値に、日本的な文化・考え方が影響を与えている面は確かにありますが、それらは「日本」「日本人」という言葉を使わなくても十分に表現し得る価値です。
私たちが大切にしている価値は、競争上の強みにも、他社との差異化要因にもなるものです。そのことを理解して事業を推進してくれるのであれば、その担い手が必ずしも日本人である必要はありません。海外の医療機器メーカーで働いた後にテルモに加わった人材も多くいますが、その社員たちが「テルモの方が、患者さんにとっての良いことを実現しやすい」と感じて活躍してくれることが重要です。私たちにとって何が最も大切な価値で、何が競争優位性なのかを明確にし、ぶれることなくその軸を担える人材を育てていくことが第一なのです。
テルモ株式会社 経営役員 チーフヒューマンリソースオフィサー(CHRO) 足立 朋子氏
河:
グループ全体の規模がグローバルに広がる中、人事を通して各組織の人材をどうつなぎ、どう生かすかという課題に向き合うケースもあるのではないかと思います。
足立:
グループの事業が拡大する中で、これまで進めてきた比較的緩やかな統合が機会損失につながるリスクをはらんでいる面があったことは事実です。その点については、グループ全体としての課題意識を持っています。
人事面では、次世代の人材を成長のてことしてグループ全体でどう生かすか、テルモグループに新たに加わった人材にどんな機会を提供できるか、人材同士のつながりをどう生み、どう活躍につなげるかなど、人的資本マネジメントの領域に着手しています。
とはいえ、現時点で完全統合型(フルインテグレーション)を目指しているわけではありません。完全統合に向かうか否かは、買収した相手企業との関係に加え、テルモグループ全体が次のステージへ進む中で考えるべきテーマだと思っています。
河:
グループの理念、組織のあり方、さらには人事を貫いて響くテルモの通奏低音が、今後どのように展開されるのかに注目していきたいと、お話を伺って感じました。
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー ディールズ・ストラテジー 河 成鎭
赤間:
他社での職務も経験してきた足立さんですが、テルモに入社してから、価値観や理念の浸透という点で他社との違いを感じたことはありますか。
足立:
他でもなく、テルモの社員が「医療を通じて社会に貢献する」という想いを非常に明確に持っていることに驚かされました。異業種だった前職でも、社員それぞれが「自社に対する誇り」を持ってはいました。ただ、各自が感じている「自社らしさ」の中身には、人によってかなり差があったように感じます。テルモではその軸がまったくぶれません。その点は明らかな違いだと言えます。
もう1つ、業界の構造上、競争において米国企業を強く意識せざるを得ない点も、前職との大きな違いです。テルモの価値の1つはやはり「米国系の医療機器メーカーとの違い」にあり、それは人事面でのEmployee Value Proposition(EVP)、つまり従業員に提供する価値をどう提案するかにも反映されます。「テルモで働くことの価値は中長期の視野で患者さんや医療に向き合えること、そして自分自身も長い時間をかけてより成長できることにある」という点も、非常に明確だと認識しています。
赤間:
岩井さんは、テルモの「医療を通じた社会貢献」という軸がぶれない理由を、どのように捉えていますか。
岩井:
私自身のキャリアは、テルモに新卒入社して営業職からスタートしました。とはいえ、「医療を通じて社会に貢献する」という企業理念の言葉そのものを当初から強く意識していたわけではなく、どちらかといえば、日々仕事をする中で軸が強くなっていった印象です。その後コーポレート部門に異動し、さらにグローバルのメンバーとも関わるようになる中で、この理念の深い浸透ぶりを実感するようになりました。浸透の要因を考えると、例えば年に1回患者さんの話を直接聞く場がグローバル各社で用意されていたり、拠点内にテルモ製品で治療を受けた患者さんからの感謝のコメントが大きく掲示されていたり、そうしたことの積み重ねの効果も大きいと感じます。
働く地域や場所を問わず、誰もが同じ想いを共有する──M&Aを経てテルモグループに加わってもらった仲間たちにも、この根を広げていきたいと思います。
テルモ株式会社 グループ人事戦略部 部長 岩井 知子氏
赤間:
教えられたり、学んだりして身に付くというよりも、日々の仕事や内部・外部とのさまざまな接点を通し、自然と想いが根づく環境があるのだと理解しました。そうした企業カルチャーが、グループとしての一体感を担保しているのかもしれません。
足立:
加えて、理念の「分かりやすさ」も、浸透を促している理由の1つでしょう。言葉がシンプル、かつ極めて明確です。「自分たちの製品で救える命がある」「病気で苦しんでいる人が、テルモの機器で苦しみを克服できる可能性がある」と考えると、誰もが自らを励ましやすく、わが事と受け止めて確信を強められます。
河:
人の命や健康に直接関わる業務ならではの責任感であり、かつ、それが組織としての強みにもなっていますね。
河:
買収した企業のトップマネジメントの人事は本社で決定する一方で、それ以外の方々の人事については既存マネジメントに任せるというお話が前編でありましたが、人事評価についても同様なのでしょうか。
足立:
グループの経営陣など影響力の大きいポジションの人事は、目標設定や評価、報酬を基本的に本社で見ています。それ以外の層については、これまでグループ各社でかなり異なっていました。しかし現在、目標の立て方やマネジメント手法がグループ間であまりに異なると連携が取りづらいのではないか、あるいは、もう少しシナジーや機会が生まれやすいかたちを探った方が良いのではないか、といった議論は出てきています。
河:
共通の職務権限や等級をグローバルな基準で整えていく、報酬については各国・各地域の水準に合わせた調整を行う、という方向性でしょうか。
足立:
グローバルな等級制度はまだ策定されていません。とはいえ、その必要性に対する意識は高まっています。報酬については、テルモでは基本的に各マーケットに合わせるというのが現時点での考え方です。米国企業であれば自国の報酬水準が相対的に高いため、それをグローバルに展開しやすい面がありますが、テルモの場合本社のある日本の市場での適正値をそのまま海外に適用するのは、あまり効果的ではありません。
後藤:
M&Aを今後さらに進める中で、人事の関わり方にも変化が生じるのではないかと考えます。直近の案件で、これまでとは違っていた点が何かありましたか。
岩井:
直近の複数のM&Aでは初めて、人事も本格的なPMI(Post Merger Integration)を行いました。PMIを行う前提でデューデリジェンスに入り、Day1から実際に動き出しました。PMIでは、従来の「自律性を尊重するので、今までのプラクティスをDay1から大きく変える必要はありません」というアプローチに加え、「半年、1年といった時間軸の中でどの部分をテルモに合わせてもらうか」の対話を重ねて両社の合意形成を図りました。買収した相手側の既存価値を最大化した上で、グループ全体としての力をどう効率的に生かすかを探るためでした。
河:
ここまでのお話を踏まえると、テルモの現在の取り組みには、私たちを含む多くの企業の人事課題と重なる側面があるように感じられます。後藤さんは、足立さんと同じくPwC JapanグループのCHROという立場から、どのあたりに共通点を見いだしましたか。
後藤:
EVPのお話がありましたが、PwCでもグローバルで共通のPeople Value Proposition(PVP:従業員にとっての価値)を打ち出しています。
従業員にどのような価値を提供できるのかを考える上で、私たちは「成長」を重要なキーワードにしています。私たちのPVPではまず、PwCが個人の成長を可能にし、さらなる高みを目指せる環境であることを掲げ、働く国・地域によらず、PwCで働くことで共通の経験・価値が得られる環境を実現することにコミットしています。また、この価値を実現するために一人一人に求められる行動様式を定義しています。
PwCは、グループ各社が強い本社にぶら下がる構造の組織ではなく、ネットワークとしてつながり合っている組織です。だからこそ、共通の価値観や行動様式が極めて重要になります。その意味では、足立さん・岩井さんのお話とも通じる部分があると感じました。グローバルな広がりの中で働く多様な背景や専門性を持つスタッフ一人一人が最大限の力を発揮し、それにより成長できる環境を目指しているということを、私たちも改めて打ち出していこうと考えています。
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー/PwC Japanグループ チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー
後藤 孝江
赤間:
共通点がある一方で、異なる側面があることも感じます。PwCは「パートナーシップ型の組織」です。本社や社長が全責任を持つという形式ではなく、メンバーファーム間でのネットワークや信頼関係を前提にしてガバナンスを執行している──つまり、トップダウンでの強い統制がありません。テルモでは緩やかな統合を進めていたとのお話でしたが、その中でも「ガバナンスのかたち」に関しては、PwCとはまた違った側面があるのではないでしょうか。
足立:
テルモでは、予算であれ評価であれ、最終的な意思決定者がいるからこそエコシステムが成り立っています。今のお話を伺い、PwCのエコシステムがどう成立しているのか、大変興味を引かれました。そうした組織を支えている要因として、例えば他のコンサルティングファームとの差異化要素などはどこにあるのでしょうか。
後藤:
正確に比較するのは難しいのですが、「人材の良さ」ということは間違いなくあると感じています。AI等による環境変化が加速する中、人そのものが差異化の源泉となります。PVPとともに再定義した「PwC Professional」という行動様式の浸透をハード・ソフト両輪で進めています。
赤間:
例えばこんな話ならどうでしょう。PwCは、会社組織や法人格が別々でも、「いざ、案件」となると必要な人材が素早く参集してくる特徴があります。税理士法人や弁護士法人も参画して横断的にチームを組むことが求められる案件でも、レスポンスが非常に速い。その背景には、「クライアントにとって何が最適なのか」「自分の専門性の観点から、どのように最適に貢献するのか」を追求するカルチャーがあるのだと思います。さらに、いろいろな垣根の低さ、風通しの良さという特徴もあります。これらの点が「人材の良さ」につながり、1つの差異化要因になっていると言えるのかもしれません。
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー 赤間 穏子
足立:
価値観や文化が組織を支えている点は、テルモと同じですね。
河:
日本のグローバル企業によるM&Aを巡り、有意義な視点の数々を交換できたと感じます。本日はありがとうございました。
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