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組織の変革を推進するリーダーの思考に迫り、ヘルスケアの未来をともに創り上げるためのnext agendaを深耕するLeader's insight。第20回となる今回は、一宮市立市民病院副院長の阪井満氏、総合大雄会病院副院長の野中健一氏、同地域医療連携課特命課長の前田武彦氏をお迎えします。尾張西部二次医療圏に位置し、競合関係にある公立・民間の急性期病院同士が、協働し、地域の開業医や病院向けに実施した合同症例検討会を題材に、実施に至るまでの背景や意義、今後の展望や思いについて伺いました。
(左から)前田 武彦氏、野中 健一氏、阪井 満氏、小田原 正和
登壇者
一宮市立市民病院
副院長
阪井 満氏(医師)
総合大雄会病院
副院長
野中 健一氏(医師)
総合大雄会病院
地域医療連携課 特命課長
前田 武彦氏
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
小田原 正和
※所属法人名や肩書き、各自の在籍状況については掲載当時の情報です。
小田原:
尾張西部二次医療圏は、複数の急性期病院が存在し、厳しい競争環境にある地域です。厚生労働省が進める「2040年に向けた地域医療構想*1」では、より一層、医療機関同士の役割分担や連携が求められていますが、客観的には競合関係にあるように見える公立・民間の急性期病院が協働し、地域の開業医や病院向けに合同症例検討会を実施した例は、全国的にもあまり類を見ないように思います。今回の消化器疾患をテーマとした合同症例検討会には、地域の開業医を中心に50名以上が参加されたと伺いましたが、どのような経緯で実現したのでしょうか。
前田氏:
以前、地域からの信頼が厚い開業医の先生方をお招きして、総合大雄会病院(以下、「大雄会」)にて単独で症例検討会を実施しました。そこに阪井先生がお越しになり、「盛況で非常に良い取り組みでしたね」とお声掛けいただいたのです。これまでも製薬企業と協働した勉強会などはありましたが、私自身、かねてより「病院同士が立場を越えて本音で語り合う場が地域医療連携には必要ではないか」という思いを抱いていたこともあり、「それならば、次は一緒にやりませんか」という言葉が自然と出ていました。
阪井氏:
私たちも開業医の先生をお招きした症例検討会は定期的に開催していますが、どのようにすればより先生方に響くのか、試行錯誤を重ねていました。そのような中、大雄会さんが実施した症例検討会に多くの開業医の先生方が関心を持たれていたこと、そこに一宮市立市民病院(以下、「市民病院」)の医師が参加したことにも好意的な印象を持ってもらえていると感じたことが大きいですね。大雄会さんと市民病院が合同で症例検討会を実施することで、顔の見える関係づくりに加え、そこから次のステージにつなげられるのではないかと思いました。
野中氏:
私たちとしても市民病院の先生と顔の見える関係が構築できたことは非常に心強いです。一時的に医師が少ない状況が発生した際の相互フォローや、高額な検査機器の地域での活用など、互いの強みを生かして弱い部分を補完し合うことが、急性期病院同士の役割分担や連携につながるように思います。
前田氏:
私たちは地域医療支援病院*2ですので、地域の病院同士が競合しすぎるのではなく、互いに連携している姿を示すことにより、開業医の先生方に安心感を持っていただくことも重要と考えます。大雄会の私が市民病院の阪井先生とともに開催案内をお持ちした際にはとても驚かれましたが、「こういった取り組みを待っていた」という声を多くいただき、大きな手応えを感じました。
小田原:
それは印象に残りますね。取り組みの斬新さや本気度が伝わってきます。
阪井氏:
大雄会さんと企画を練る中で、「地域のための会にしよう」という話はよくしましたね。各施設における診療経験や治療方針を共有するとともに、開業医の先生方のニーズに合うようなトピックを検討しました。背景には、患者さんが安心してこの地域で適切な医療を受けられる体制づくりの第一歩となるように、という思いがあります。
一宮市立市民病院 副院長 阪井 満氏(医師)
小田原:
地域医療構想においては、医療機関同士の連携と集約化の推進がテーマの一つになっていますね。
阪井氏:
ガイドラインを読む限り、理念は伝わってくるものの、実際に競合する医療機関同士がどのように動けば良いのかという点について、解が示されているわけではありません。その点は現場に委ねられているとも言えます。こうした中では、互いに「連携する意味」を明確にする必要があり、その方向性が一致していることが重要です。つまり、互いの病院のことをよく知っておかないといけません。そのためには、診療実績などの各種指標のように単純なものだけでなく、その病院が大切にしている組織風土なども理解する必要があります。こうしたことを考えていた矢先にお声掛けいただいたので、断る理由はありませんでした。そして、実施してみたことで、継続が大事だという思いを改めて強くしました。
小田原:
昨今、企業においてもダイバーシティ(多様性)の重要性が叫ばれていますが、多様性のある人材がそろっているだけでは何ら意味がなく、お互いの知識や経験、価値観を知って理解し合うことが、イノベーション創出の第一歩と言われています*3。急性期病院同士の連携においても、お互いを知るプロセスがあって初めて、方向性の認識を合わせ、意味のある連携を実現できるように思います。
阪井氏:
将来の医療需要や人材の供給を見据え、「病院同士が競争するだけでなく、それぞれの強みを生かした形で、この地域で病病連携をしたい」という思いは10年以上前から抱いていました。私の専門は肝胆膵外科領域ですが、高難度手術は特定の手術や治療の年間実施件数が多い大学病院や、がんセンターのような医療機関のほうが、良好な治療成績が期待できると言われています。ただし、実際に診療にあたっていると、そのような医療機関を勧めても、ご高齢であったり、何らかの基礎疾患や社会的な事情をお持ちだったりといった理由で、「私は一宮から絶対に出ない」、「一宮で治療が受けられないのであれば、もう治療を受けない」とおっしゃる患者さんが少なくありません。肝胆膵外科医として、私たちがこの地域の医療レベルを維持していかないと、こうした患者さんの治療機会を奪ってしまうことになりかねません。地域の医療の質を担保していくためには、地域内の医療機関がそれぞれの強みを生かし、ある程度の機能分化を図りながら、地域全体で必要な医療を支えていくような連携ができないものかと思案していました。
前田氏:
地域の病院同士で競合しすぎていても、患者さんには関係のないことです。患者さんの容態によっては二次医療圏をまたぐこともありますが、ご家族が高齢であるなど、気軽に通えないケースもあります。地域内の病院が手を取り合って解決できるのであれば、それに越したことはないでしょう。
総合大雄会病院 副院長 野中 健一氏(医師)
小田原:
実施後の反響はいかがでしたでしょうか。
野中氏:
開業医の先生からの紹介症例をもとに、ロボット支援手術の動画などを用いましたが、非常に興味深く聞いていただけたように思います。会場での質疑応答や意見交換も活発でした。私たちが情報を提供するだけでなく、双方向でコミュニケーションを図ることができた点も良かったです。日頃から懇意にしていただいている先生からは、「次回はもっとこうしてはどうか」といったアドバイスもいただきました。地域の期待と熱量の高さを感じ、より一層応えていかなければという思いを強くしています。
前田氏:
50名以上の方々に参加いただきましたが、大雄会単独で開催していた頃と比較すると倍以上です。実施後に先生方から、「次はいつ開催するのか」「応援している」といったお声を多くいただき、私自身の励みにもなりました。
阪井氏:
「患者さんのために地域全体で学ぼう」という共通の思いが感じられました。
総合大雄会病院 地域医療連携課 特命課長 前田 武彦氏
小田原:
今回のアクションを踏まえ、今後の展望についてお聞かせください。
阪井氏:
競争から共創への流れは重要ですが、競争する部分も完全にはなくならないと考えています。お互いの健全な病院経営があってこそ、共創が成り立ちます。何を共創していくのか、その部分をこれからいかに増やしていけるか、という観点で進めることが重要と言えるでしょう。そのために、お互いの文化や価値観もすり合わせなければなりません。今回の取り組みは、その意味でも非常に重要な一歩だったと感じます。大雄会さんの理念や立場、考え方などを理解できましたし、私たちももっと情報を発信していく必要があると感じました。こうした積み重ねが、地域の患者さんや開業医の先生方への貢献につながるように思います。
野中氏:
地域の患者さんや開業医の先生方のためにも健全な競争は必要です。競争がないと進歩がなくなってしまう。お互いに切磋琢磨しながら共創していけるような関係を築いていきたいですね。
前田氏:
こうした取り組みは1回で終わりにせず、継続することに意味があります。幸い、地域の先生方からも継続を後押しする声を多くいただき、この秋には第2回となる合同症例検討会を企画しています。また、将来的には地域の患者さんに向けた市民公開講座を共同開催できると良いなと考えています。私たちの取り組みが少しでも地域の皆さまのお役に立てるのであれば、これほどうれしいことはありません。
小田原:
本日は、近隣の急性期病院同士が共創する意義や今後の展望について、興味深いお話を伺うことができました。前田さんからは学会発表などもしていきたいと聞いています。地域医療構想における病院機能分化と連携強化を実践するための第一歩として、他の地域にとっても参考になる発信が期待できますね。大変貴重なお話をありがとうございました。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 小田原 正和
対談以上に印象に残ったのは、収録後も先生方の会話が続いていたことでした。お互いの経験を共有しながら自然に相談し合う姿を拝見し、今回の合同症例検討会が単なるイベントではなく、相互に学び合える関係づくりの第一歩であったことを実感しました。地域医療構想や病病連携という言葉はしばしば制度や仕組みの議論として語られますが、その土台には「患者さんのために何ができるか」という思いを共有する人と人とのつながりがあるのだと感じます。こうした小さな共創の積み重ねが、地域医療の未来を形づくっていくのではないでしょうか。(小田原)
(左から)野中 健一氏、阪井 満氏、小田原 正和、前田 武彦氏
*1 厚生労働省「2040年に向けた地域医療構想」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000080850_00014.html
*2 愛知県「地域医療支援病院について」
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/imu/0000035382.html
*3 加藤守和、吉田亜希子(2026年)『異質を認め合う組織』日本能率協会マネジメントセンター
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