{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.text}}
2021-10-13
医師や看護師などの医療従事者、最新の知見や技術を持つ研究者、医療政策に携わるプロフェッショナルなどを招き、その方のPassion、Transformation、Innovationに迫るシリーズ「医彩」。第5回は慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授の川森雅仁氏と筑波大学医学医療系精神医学 准教授の根本清貴氏をお迎えします。
日本発の脳の健康管理指標で、国際標準規格としても認められたBHQ(Brain Healthcare Quotient)が近年、注目を集めています。健康増進の動機付けや生活習慣の改善だけでなく、認知症予防対策にも役立つと期待されるBHQが今後、世界で役立てられるために必要なことは何か。川森氏や根本氏と同じくBHQの規格策定に携わったPwCコンサルティング合同会社ディレクターの山川義徳を交え、BHQの可能性や健康に関するデータの取り扱いについて意見を交換しました。(本文敬称略)
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授
川森 雅仁氏
筑波大学医学医療系精神医学 准教授
根本 清貴氏
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
山川 義徳
PwCコンサルティング合同会社
シニアマネージャー
倉田 直弥
(左上)川森氏、(右上)根本氏、(左下)山川、(右下)倉田
※所属法人名や肩書き、各自の在籍状況については掲載当時の情報です。
倉田:医療の発達やデジタル化の進展に伴い、「脳の健康」の見える化が夢ではない時代になっています。脳は加齢と共に機能が衰えますが、脳波や画像によって現在の機能を推定できることによって、認知症の予防にもつながることが期待されていますね。
根本:おっしゃるとおりです。人口に占める認知症患者の比率は75歳以降に増えると考えられています。現在、日本が直面している超高齢社会においては、認知症の比率が今後さらに高まることが予想されますので、脳の健康を保つ重要性がますます高まりますね。
山川:そうした中で川森先生と根本先生は、脳の健康管理(Brain Healthcare)を指標化(Quotient)し、その指標を国際標準規格(H.861.1)に準拠させて共通化しました。BHQは、MRIを活用して脳を撮像した画像データを解析して算出される脳の健康管理のための指標で、ストレスの蓄積や運動不足などの日常生活が脳の機能に及ぼすリスクを分析して脳の健康状態を把握できるというものです。例えば、BHQと脳に影響を及ぼすと考えられるさまざまな因子の関連を調べたところ、ストレス、疲労、住環境などが実際に脳の機能に影響を及ぼすことが分かってきました。
今後、BHQを健康管理に役立ててもらうためにはどのような取り組みが必要と考えられますか。
川森:「前に進むステップ」と「横に行くステップ」の二軸が必要だと考えています。前に進むステップとは、BHQの言葉と概念を多くの人に認知してもらうための取り組みです。医療関係者以外で「脳の健康管理指標」と聞いてピンとくる人は少数でしょう。ですから、まずはBHQの概念を理解してもらい、さまざまな場面で使用されることを目指します。
一方、横に行くステップとは、海外展開や医療業界とは異なる領域で使用してもらう取り組みです。そして、「BHQを使用するとどのようなメリットがあるか」をきちんと伝えていくことです。
根本:BHQ使用のメリットは、「これまで主観的に議論されていたことが、共通の指標(数値)をもとに議論できるようになる」ことです。例えば「○○を食べると脳が大きくなる」という主張をする人がいます。しかし、「大きい」「小さい」というのは個人の主観であり、その感覚は人それぞれです。こうした主張に対し、BHQの数値という「単位」があれば、「○○を食べたことでどのくらいBHQが変化するのか」という客観的な視点で議論ができるようになります。
今後、世界に普及していくにあたりハードルがあるとすれば、それは磁気共鳴画像(MRI)へのアクセシビリティです。日本は人口当たりのMRI装置の台数が世界一多く、脳ドックや頭痛の精密検査などで誰でもMRI検査を受けることができますが、海外では、そうはいきません。
川森:ただ、MRI装置が使えない場合のオルタナティブ(代替)もあると考えます。その1つが血液検査です。われわれはBHQを研究する中で、生活習慣を把握することでMRIを撮らなくても簡易にBHQの推定値を得られるメソッドを開発したのです。
山川:血液検査であれば、どこの国でも実施できますからね。血液中のγGTPや血糖値が高い人の脳が萎縮していることが、さまざまな研究から示唆されています。そうした研究とBHQを掛け合わせて分析すれば、BHQの推定値を得ることができるのですよね。
もちろん、その国や地域によって文化や生活習慣は異なりますから、現地の特徴を加味してBHQの推定アルゴリズムをチューニングする必要はあります。ただ、こうした努力を積み重ねていけば、BHQの考え方が世界に普及していくことでしょう。MRI装置がなくても、BHQを推定できるようにすることが何よりも大切だと考えています。
倉田:少し気が早いのですが、BHQが普及した後の世界を考えてみましょう。BHQが用いられることで、医療の現場はどのように変わるでしょうか。
根本:病気の一次予防に大いに貢献すると考えます。医療には、一次予防、二次予防、三次予防という概念があります。一次予防は病気を未然に防ぐこと、二次予防は病気の症状が現れる前に早期発見し、治療を行うこと、三次予防は病気の症状が現れた人に対し、重度化の予防、合併症の発症や後遺症の予防に取り組むことです。これらのうち、健康寿命を延ばす上では一次予防が重要です。一次予防の段階でBHQを用いると、脳の健康状態と深いつながりがある病気(例えば認知症)の早期発見や早期治療の前段階から取り組むことができることになります。医療を「病気を治す」行為から、「健康を維持する」行為へと広げられれば、人々のWell-beingにも資することになりますね。
川森:おっしゃるとおりです。これまで医療機関は「病気になってから行く場所」と考えられがちでした。しかし、「人生100年時代」を考えると、65歳で仕事を引退しても、その先の人生はまだまだ長い。ですから今後は、医療機関は「病気を治す特別な場所」ではなく、「健康維持のために日常的に通う場所」になるのではないでしょうか。
とはいえ、一次予防は病院ではなく、自宅でも行えます。例えば糖尿病の治療は、病院での診察よりも日々の行動や食生活のコントロールのほうが大切です。最近では生活習慣や食事を管理する専用のアプリケーションも提供されており、患者自身が健康を管理する動きも活発になっていますね。
山川:医療機関に頼らない健康管理の話から派生するのですが、デジタル化の進展により、PHR(Personal Health Record)への注目も高まっていますね。PHRは、個々人が自らの医療・健康情報を収集し一元的に保存・管理する仕組みです。PHRには「自分でデータを保管することで、より健康を意識するようになる」という意見がある反面、「日本人は自分の健康データを保管することに慣れていない」との指摘もあります。そもそも「患者の健康データは誰のものか」という声も聞かれ、議論の余地があるのではないかと思っています。
根本:PHRは個人の価値観によって受け止め方がまったく異なります。私はオープンソースの概念に共感しており、情報はできる限り患者と共有したほうがよいと考えています。しかし、医師全体から見れば、情報共有賛成派は少数ではないでしょうか。医師が書く患者の健康状態に関するレポートには、個々の病状が克明に記されます。そこに書かれていた内容が深刻であれば、当事者である患者はショックを受けてしまうかもしれない。そんな心配が絶えないのです。
それゆえ、医師側には「患者のメディカルデータは治療にあたる自分のためのもの。第三者とは共有したくない」という意識が根強いように思います。山川さんのご指摘のとおり、日本にはデータシェアリングや「自分のデータは自分で管理する」という土壌がまだ整っていないというのが、私の正直な印象です。
川森:一方、海外では「自分が苦労して収集したデータは、幅広く利用してもらうことで初めて価値が出る」と考える人が多い。ですから、データシェアリングに積極的ですし、その仕組みも確立されています。そうした中では患者側の意識も変わってきます。以前にモンゴルの医療従事者と話したことがあるのですが、その方の患者さんは、自分のMRIデータを自主的に送ってくるそうなのです。文化的な背景や意識の差が、PHRの普及に色濃く影響していると感じます。
倉田:PHRデータの共有についてはどのようにお考えですか。
根本:データ活用の観点から考えれば、単一施設で所有できるデータは限定的であり、健康増進に向けてさまざまな領域でデータを活用するためには複数の施設がデータを共有し、共同で研究に取り組まないと、国全体の健康増進という大きな成果に結び付けることは難しいと考えています。
川森:データはビジネスの原動力となる「石油」だと言われています。2020年6月に個人情報保護法が改正され、個人情報に当たらない「仮名加工情報」は活用しやすくなりました。情報の扱いに関しては法律面も含めて課題もありますが、「よいものはみんなで共有して改善していこう」という考えのもと、データ利活用ができる体制をさらに構築していく必要があると考えています。
倉田:最後に、BHQに対する期待をお聞かせください。
根本:多くの人に「BHQとは何か」を知ってもらい、医療以外のさまざまな分野でもBHQを役立てていただけるようにしたいです。そのために、さまざまな視点で物事を見ることを忘れないようにしたい。私は精神科の領域で仕事をしながら脳画像解析にも携わっていますが、BHQに携わる以前は、「住環境が脳に影響を及ぼす」といった発想はまったくありませんでした。BHQの視点を得たことで、脳画像解析の研究でも新たな気付きを得ることができました。
川森:「脳は究極のフロンティア」と言われています。特に高齢化が始まっている国では、積極的に脳研究が進められています。そのような中、日本発のBHQが、人々の健康維持・増進に大きく貢献できることを夢見ています。
山川:私たちも、人や情報、知識のハブとしての役割を果たし、人々が生き生きと暮らせる社会の実現を支援していきたいと思います。本日はありがとうございました。
{{item.text}}
{{item.text}}
{{item.text}}
{{item.text}}