ガイドワイア×PwCコンサルティングが展望する損害保険業界の変革

損保DXの未来図

  • 2025-12-26

損害保険業界は、急速なテクノロジーの進化、規制の変化、顧客ニーズの多様化により、変革を迫られる時代に入りました。この複雑な環境下で競争力を維持し成功を収めるためには、テクノロジーの活用が不可欠です。今回、損害保険に特化したソフトウェアを提供するガイドワイア ソフトウェア社のShaji Sethu氏、江端美幸氏をお招きし、日本の損害保険市場の課題、それが示す未来への可能性、そして革新を支える持続可能な環境構築のあり方について、PwCコンサルティングの専門家と話し合いました。

左から、高 盛華、江端 美幸氏、Damanjit Singh、垣内 啓子、Shaji Sethu氏

登壇者

ガイドワイア ソフトウェア社

  • Shaji Sethu氏(APAC マネージングディレクター)
  • 江端 美幸氏(ガイドワイア ソフトウェア日本法人代表)

PwC米国

  • Damanjit Singh(グローバルアライアンスリード/アクセラレーションセンター統括)

PwCコンサルティング合同会社

  • 高 盛華 (金融サービス事業部[保険、データ・アナリティクス、グローバルビジネス担当])
  • 垣内 啓子 (金融サービス事業部[保険、ガイドワイアアライアンスリード担当])※モデレーター

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

進まない顧客セグメンテーション―日本の損害保険会社の抱える課題とは

垣内:本日の対談では、ガイドワイアとPwCコンサルティングの両社の視点から、損害保険会社の成長戦略を支える革新的かつ持続的な環境構築について議論します。急速なテクノロジーの進化や顧客ニーズの多様化、そして規制環境の変化に直面する中で、損害保険業界がどのように変革を遂げ、競争力を維持・強化していくのか。その鍵となる最新の取り組みや課題、そして今後の展望について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。まずは、近年のグローバルな損害保険業界のトレンドについて教えてください。

Shaji氏:損害保険業界では、「事業費の削減」が依然として大きな課題です。また、企業はグローバル市場やアジア太平洋地域における顧客の拡大をより一層図ろうとしています。その上で、異なる国での自然災害に対するコンプライアンスの強化も重要なテーマです。企業には、公正さと各国の法令遵守に必要な対応を充実させることが求められています。

Shaji Sethu氏

垣内:日本の損害保険市場についてはどのような傾向が見られるでしょうか。

高:ご存じのとおり、日本は非常に自然災害が多い国で、災害が発生する度に損害保険会社の収益に大きな影響が出ています。また、日本の損害保険業界は代理店を中心にしたビジネスモデルが主流であり、ダイレクトチャネルの開拓があまり進んでいません。このため、保険会社によっては顧客データの収集が十分に行われず、それが顧客セグメンテーションの遅れを招いています。その結果、顧客一人一人に最適化された商品やサービスを提供することが難しく、限られた保険サービスになってしまうケースが生じます。

高 盛華

高 盛華

垣内:つまり、代理店主導の販売体制が顧客データの活用を制約し、その結果、個々の顧客に最適化されたサービスを提供することが難しくなっているということですね。このような課題に対して、日本の損害保険各社はどのような取り組みを進めているのでしょうか。

江端氏:日本の損害保険会社のCxOの方々と会話を重ねる中で、数年前に比べて「海外の事例を学びたい」という意欲が高まっていることを強く感じています。最近では、海外の保険会社がどのようにデータを活用しているのか、そのベストプラクティスを知りたいという声が増えています。経営層が収益性を向上させるためには、適切な顧客セグメンテーションが特に必要だと認識しているからです。顧客データが不足すると、適切なセグメンテーションができないため市場のニーズに応えるサービスを提供することが難しくなり、結果的に収益性に影響を与えることがあります。ですので、経営層は海外の成功事例を参考にし、データ活用を強化することで、このつながりを改善しようとしています。

江端 美幸氏

江端 美幸氏

コストの可視化と軽減を可能にするSaaS型プラットフォーム

垣内:今までの議論のとおり、顧客データの活用が収益性向上に重要だという認識が日本の損害保険業界で広がっています。これを受けて、経営層が収益性をより重視する動きを見せていることは非常に興味深いです。顧客の360度管理が進まない要因としては、契約管理番号主義のレガシーシステムから顧客データ主義のモダナイゼーションが進まないこと、個人情報を適切に保護に関する規制やガイドラインの枠組みが厳格であること、文化的に個人情報の取り扱いに対する高いプライバシー意識があることなどが挙げられます。
Damanjitさん、グローバル市場でも同様に、顧客データの活用が収益性の改善につながっている例はありますでしょうか?

Damanjit:はい、北米・欧州・オセアニアの多くの企業では、顧客データの効果的な活用が収益性の改善に大きく寄与しています。デジタルトランスフォーメーション(DX)を通じてデータを活用し、コスト削減や業務効率化を図る動きも依然として活発です。さらに、損害率の改善を目的に、リスク管理やデータ分析技術が強化されています。高度なデータ分析を用いて事故や災害リスクをより正確に予測し、顧客のリスクプロファイルを評価することで、保険料の設定や損害査定の精度を向上させています。これにより、損害率を改善しつつ、収益性の高いビジネスモデルを構築する例が増えています。経営層はこのような戦略的な取り組みを通じて、競争力の強化と持続可能な成長を追求しています。

Damanjit Singh

Damanjit Singh

垣内:高さん、日本の損害保険会社におけるDXの状況についてはどう感じていますか。

高:日本の損害保険業界では、たしかにIT活用は進展していますが、内製化においては海外に比べて遅れが目立ちます。特に、デジタルソリューションの導入に伴う投資回収の面では課題が多く、コストの負担が先行している状況です。システム統合やデータ分析の高度化による業務効率化が期待されますが、その実現にはまだ時間がかかっているようです。

日本の企業はコスト削減の重要性を理解しているものの、具体的なコストの構造や増加要因を詳細に把握できていないケースが多々あります。CFOから「コスト構造の透明化を図りたいが、どのようにアプローチすればよいのか」という相談を受けることも多いです。効果的なコスト分析ツールや、プロセス改善のためのデータ活用戦略がいまだ十分に整備されていないことがその背景にあります。こうした課題は、より精緻なコスト管理とデジタル化を図るための重要なステップとして考える必要があります。

垣内:ガイドワイアではこれらの経営課題の解決を目指し、損害保険会社に特化したSaaS型の基幹システムのパッケージを提供されています。PwCコンサルティングは、2025年にガイドワイア ソフトウェア ジャパンとの協業を拡大しました。これは損害保険サービスの競争力強化において、クラウド型基幹システムを活用したDXの推進を支援することを目的としたものです。私たちはガイドワイアが提供する総合ソフトウェアプラットフォームを活用しながら、損害保険会社が変化の速い外部環境に適応し、持続的なビジネスの成長をもたらす体制を構築することを支援しています。ただし、日本国内ではまだガイドワイアのソフトウェアについて詳しく知らない企業もあると思います

Shaji氏:経営戦略、オペレーション、財務の各面でのベネフィットを最大化できます。まず経営戦略の観点ですが、日本の保険業界は直面する人口減少の問題に対応するため、1顧客あたりの収益を向上させる必要があります。これには、事業運営コストの徹底的な効率化が欠かせません。ガイドワイアは、損害保険業界に特化した一貫性のあるプラットフォームを提供することで、業務プロセスの標準化と簡素化を可能にし、日本特有の複雑な業務を大幅に効率化します。さらに、ガイドワイアのソリューションは、データ分析能力や自動化技術を備え、保険会社がリスク管理を精緻化したり、顧客セグメンテーションを最適化したりすることを支援します。これにより、財務面では保険引受の精度向上や損害率の改善が期待でき、オペレーショナルエクセレンスの実現を加速させます。このように、ガイドワイアは日本の保険業界の現状と未来に対応し、持続可能な競争優位性を築くための基盤を提供します。

「海外から学びたい」―日本の損害保険業界でのマインドセットの変化

垣内:システムの導入にはコストと労力が非常に重要ですが、昨今の急速な社会変化の中で、企業にとってはアジリティが欠かせません。一方で、新しいシステムを導入することが逆にアジリティを損なう懸念もあると聞きます。ガイドワイアのプラットフォームがこうした課題をどう解決するのか、具体的にお聞かせいただけますか?

江端氏:ガイドワイアのプラットフォームは、オンプレミス型ではなく、パッケージ化されたSaaS型ですので、導入に際して大きなコストや労力をかけることなく、迅速に各社の環境にデプロイ(導入・稼働)することが可能です。これにより、企業は必要なアジリティを維持しつつ、革新的な機能を活用できます。この点が、日本の損害保険業界で私たちのプラットフォームが受け入れられている理由の一つです。

また、日本企業におけるマインドセットの変化を非常に感じています。完璧を求める日本ならではの傾向が変革を阻む側面もありましたが、近年ではより柔軟で積極的に海外の取り組みを学びたいという意欲を、多くの損害保険会社から感じています。つまり、完璧さを追求するだけでなく、より柔軟かつチャレンジを歓迎する姿勢が育まれているのです。このような変化をサポートすることも、私たちガイドワイアの重要な役割と考えています。

垣内:たしかに、日本では顧客からの期待値が非常に高く、商品やサービスに完璧さを求める傾向がありますね。プロセスのシンプル化が顧客満足度に悪影響を与えるのでは、という懸念についてはどうお考えでしょうか。

江端氏:日本は少子高齢化に伴う労働力不足に直面しており、保険業界は他業界に比べて離職率が高いという課題も抱えています。コストをかけて人材を採用・教育しても離職してしまう可能性が高いことから、これまでの属人的なプロセスでは、顧客の期待に応え続けることが難しくなるため、オペレーションの自動化は不可欠です。極端な言い方をすると、入社間もない社員でも理解・実践できるシンプルなプロセスを構築していかなければ、今後の損害保険ビジネスの継続は難しいということです。その点、ガイドワイアのSaaS型プラットフォームは、ラーニングコストを抑えつつ、質の高いサービスを維持することを可能にします。

垣内:ITの活用にあたっては、社員のラーニングコストの他に、システムの維持管理コストも問題視されることが多いです。

江端氏:そうですね。そのコストが十分に可視化できていないことも、先ほど指摘されたとおり大きな課題です。SaaS型プラットフォームを活用することで維持管理コストを透明にし、不要なコストを削減して、より付加価値の高い分野に資源を集中できます。

高:SaaS型プラットフォームは、従来のオンプレミス型システムに比べていくつかの面で優れています。

初期投資が抑えられ、保守や運用コストが軽減される点が特徴です。スケーラビリティが高く、需要に応じてリソースを調整しやすい利点もあります。また、定額制のサブスクリプションモデルにより、費用の予測と管理がしやすくなっています。これらの特性により、企業は効率的に技術を導入し、柔軟性を持ちながら競争力を維持することが可能です。長期的な費用対効果やカスタマイズの自由度など、企業のニーズに応じた評価をするためにもITコストを構造化することが重要ですね。

DXの成功にはトップからの継続的なメッセージが不可欠

垣内:では、SaaS型プラットフォームの導入、ひいてはDXを成功させるには、どのような要素が重要なのでしょうか。

江端氏:やはり、DXの成功にはトップからの継続したメッセージ発信が不可欠だと考えます。つまり、「わが社はこれを軸にして進む」という明確な姿勢を示し、社員と共有し続けることです。企業ごとに、DXで目指すべき姿や優先順位は異なります。例えば、サービス品質の維持を重視する企業もあれば、スピードを重視する企業もあります。最優先事項を実現するために何を切り捨てるのか、オープンな議論が促進されることで取り組みの「軸」が明確になり、最適なDXが実現できると考えます。

高:これは保険業界に限った話ではないのですが、日本では慢性的にIT人材が量・質ともに不足しています。かといって企業が自ら育成することは、コスト的に難しい現状があります。外部の企業やベンダーも人手不足で、期待どおりのサービスが受けられるとも限りません。だからこそ、適切なソリューションを導入し、技術面で対応することが重要だと思います。

Shaji氏:目の前の業務を担うIT人材だけでなく、将来的なDXのビジョンを描ける人材も不足しています。日々の業務はITソリューションの活用でできるだけ省力化し、将来に向けた本質的で戦略的な業務に人材を投入すべきです。

高:おっしゃるとおりですね。ただ、AIの進化がもたらす明るい兆しも見えています。AIの進化によって言語の壁が取り払われつつあり、グローバルな知見や人材へのアクセスが容易になっています。これは、人材不足に悩む日本企業にとって、非常に大きな機会ではないでしょうか。

保険ビジネスの変革を通じて、人と社会にとってより豊かな未来の創造を目指す

垣内:グローバルなエコシステムを活用できる時代になってきているということですね。ガイドワイアは保険と接点のある人々の行動様式の変化をサポートするテクノロジーを重視して、リスクや課題に対してもガイドワイア単独ではなく、自社のテクノロジーを基盤としたエコシステム全体で取り組んでいます。今後の日本市場における具体的な目標やビジョンについて、ガイドワイアではどのように描かれているのでしょうか。

垣内 啓子

垣内 啓子

Damanjit:保険は人々の暮らしを支える、社会にとって欠かせない仕組みです。私たちは、その保険がより効率的に運用されることで、必要な支援が行き届き、日本社会全体を力強く支えると考えています。こうした効率化の取り組みを、テクノロジーの力で支援していきたいと思っています。なお、ソフトウェアは単なる道具ではなく、目的をもって導入・活用されるべきものです。私たちは、社会に価値ある変化をもたらすソリューションを提供し、その実現を支えていきたいと考えています。

江端氏:私たちガイドワイアは2001年の創業以来、損害保険会社に特化したソリューションをグローバルに展開してきました。2008年からは日本でもビジネスを展開しており、今後も日本の損害保険業界とともに未来を創る存在でありたいと考えています。保険は社会インフラとして極めて重要な役割を担っています。その変革の過程を、私たちはテクノロジーの力でしっかり支えていきたい、そして、お客さまと並走しながら、損害保険業界全体の変革をともに実現していきたいと考えています。

このビジョンを実現する上で、PwCコンサルティングは、日本の保険業界に深く根差した知見とネットワークを持つ、信頼できるパートナーです。これからもともに知見を磨き合い、日本の損害保険業界の進化や、日本社会全体の発展に貢献していきたいと考えています。

垣内:ありがとうございます。本日の対話を通じて、損害保険業界が直面している課題の本質と、その課題を乗り越えるためのテクノロジーの可能性について、あらためて多くの気付きを得ることができました。少子高齢化や自然災害の頻発、そして人材不足といった構造的な課題に対して、今こそ業務の標準化と柔軟な仕組みづくりが求められていると感じます。一方で、日本企業のマインドセットにも確かな変化が表れはじめており、完璧さだけでなく「まずは挑戦し、学び、前に進む」ことを大切にする姿勢が広がっていることも、非常に心強く感じました。

高:まさに「保険の未来を、人とテクノロジーの共創で切り拓く」というビジョンが見えてきたように思います。日本の損害保険業界が、グローバルな視点とエコシステムを生かしながら、より強く柔軟に変化に適応していくことを心から期待しています。

左から、Kristi Garber、垣内 啓子、Damanjit Singh、高 盛華、Shaji Sethu氏、江端 美幸氏、Taylor Reid、石塚 喜昭

左から、Kristi Garber、垣内 啓子、Damanjit Singh、高 盛華、Shaji Sethu氏、江端 美幸氏、Taylor Reid、石塚 喜昭

PwC米国

  • Kristi Garber(アライアンス ディレクター)
  • Taylor Reid(アライアンス ディレクター)

PwCコンサルティング合同会社

  • 石塚 喜昭 (金融サービス事業部リーダー)

※法人名、役職などは掲載当時のものです。


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