2020年に注目を集めたSPACブームの背景

2021-05-12

  • 2020年はIPOとSPACの活動が活発でした。
  • 株式上場の手段を決定する際、未上場企業とその関係者は、SPAC取引の利点と課題を考慮する必要があります。
米国のIPOとSPACの件数 (2020/11/30時点)
SPACと非公開企業の スケジュール

SPACの台頭

2020年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大に伴って経済が大きな影響を受けたものの、「SPAC」(Special Purpose Acquisition Company)と呼ばれる「特別目的買収会社」を使用した新規株式公開(IPO)が積極的に行われた年でもありました。企業が株式上場する手段として活発に利用されてきているSPACは「白地小切手」会社(blank check company)とも呼ばれ、当初投資家から資金を調達して設立され、追加資金を調達するためにIPOを行い、未上場の企業を買収して上場企業(またはその子会社)にします。

典型的なSPAC取引

SPACは株式・債券など伝統的な投資対象とは別の代替的な投資対象として長年にわたって利用されてきましたが、最近では未上場企業が公開市場を通じて資金調達する手段として人気が高まっています。2020年のSPAC人気は、主に以下の点がきっかけとなっています:

  • プレイヤー:経験豊富な経営陣を抱えた著名なスポンサーが、SPAC分野に参入してきた。
  • プライベートエクイティへの魅力:ターゲット企業への投資を現金回収しようとするプライベートエクイティに対して、SPACは従来型IPOよりも短期間でエグジットの機会を提供しています。

SPAC取引に期待すること

未上場企業とその所有者は、SPACが適切な投資ビークルであるかを決定する際に、SPACの利点と課題のすべてを考慮する必要があります。

利点

資金へのアクセスと同社株式の大量売却の可能性

SPACは、特に市場が不安定な時期に、未上場企業が公開市場にアクセスし、永続的な資金調達を行うことを可能にします。未上場のターゲット企業を買収する前に、SPACはIPOを通じて資金を調達します。対象となる未上場企業との取引を完了するために追加資金が必要であれば、パイプ(PIPE:Private Investment in Public Equity)と呼ばれる私募などさまざまな手段を通じて資金を調達することができます。

さらに、SPAC取引により、エグジット戦略を模索する未上場企業の所有者に対して、従来型IPO取引で可能であった場合よりも、企業の持分をより多く売却することを可能にします。

市場のより高い確実性

正しい価格設定は、従来型IPOの成功に重要な影響を与える可能性があります。SPACであれば、ターゲット企業は、契約の一部としてSPACスポンサーと「固定」価格を交渉し、市場の変動時に従来型IPOで起こりうるような評価額の変動を回避することができます。

柔軟な取引条件

SPACには会社の売却価格を交渉できるだけでなく、他の点についても交渉できる柔軟性があります。例えば、投資家が買収完了前に資本の取り崩しを決定した場合、SPACのスポンサーは、クロージング時に不足する分の資金供給に応じることができます。

経験豊富なマネジャーへのアクセス

強力なスポンサーと提携することにより、ターゲットとなる未上場企業は、その資源と経験から恩恵を受けることができるかもしれません。追加資金が必要なときには、既に経験を積んだスポンサーが役立つこともあります。また、ターゲット企業の強力な経営陣を構築するために、スポンサーのネットワークを活用することもできます。

課題

コスト増の可能性

SPACが組成されると、普通株式に加え、SPAC取引の完了後に行使可能となる(普通株式を購入するための)ワラントの端数からなるIPOにおいて、SPACは「ユニット」を発行します。新株予約権の希薄化の性質から、SPAC取引の経済的コストは、従来型IPOのコストを上回る可能性があります。

支配の喪失の可能性

SPACのスポンサーが取締役会での代表者を交渉することや、SPAC取引後に同企業へより積極的に関与する可能性があるため、未上場企業およびその所有者は、ある程度の支配権を失う可能性があります。

上場企業の準備状況

ターゲット企業とSPACが基本合意書に署名すると、一定期間内にSECへ書類を提出する必要があります。期間が短かいことは、未上場企業を早く上場できることを意味するかもしれませんが、期限が設定されることで未上場企業と経営陣にとって大きな負担となり得ます。一方、伝統的なプロセスを経て株式を公開しようとする企業の場合、IPOのタイミングはその企業が決めます。つまり、SPACを通じて株式を公開する企業は、従来型IPOと比較すると、上場企業の早期提出会社が準備するのと同じタイムラインを満たす必要があり、それは実質的に同一の準備を行い、デューデリジェンスの実施、目論見書の作成、SECの関与と監視が必要になります。それは次の事項を含むことになります。

  • ターゲット企業は、MD&A、1株当たり利益、セグメント、上場企業のタイムラインでの新基準の適用、期中報告などの、SECの報告要件を遵守する必要があります(ただし、従来型のIPOと同様に、ターゲット企業は、特定の状況において、より小規模な報告企業(SRC)または新興成長企業用(EGC)により一定の報告要件免除を受ける資格を有する可能性があります)。
  • 年次財務諸表は監査を受ける必要があり、また、期中財務諸表はPCAOB基準に基づいてレビューされる必要があるかもしれません。

会計および報告の複雑性

SPAC取引は、支配権の変更をもたらす可能性があります。ターゲット企業またはSPACのどちらが取得企業であるかの決定には、判断が必要であり、異なる会計モデルにつながる可能性があります。

通常、プロフォーマ財務諸表は、複数の資金調達シナリオを含むSPAC取引の包括的な見解を示すことが求められます。

さらに、SPACの取引には通常、税務上の影響を及ぼす可能性のある複数の法的または資本的リストラクチャリングのステップが必要となります。

今後に向けて

最終的には、株式公開の方法は、戦略的に決定することが求められます。ターゲット企業を求める既存のSPACに多額の投資が行われ、プライベート・エクイティ・ファーム、ベンチャーファンド、SPACを形成する運営者の数が増えていることから、SPACの新規案件は今後も堅調に推移するものと思われます。しかしながら、ディール構造やスポンサー関係にばらつきが生じる可能性があることから、未上場企業とその所有者は、SPACによる買収が彼らにとって正しい方法であるかどうかを決定する前に、利点と関連する課題を考慮する必要があります。

詳細については、英語原文 ”In the Loop US – What's behind the SPAC-tacular boom of 2020“(2020年12月22日発行)をご参照ください。

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主要メンバー

顧 威(ウェイ クウ)

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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