Global IPO Watch—世界のIPO動向 2021年第2四半期

1. 2021年第2四半期(2021年4月から6月)レビュー

世界の株価指数は景気回復に伴い上半期に上昇

2021年第2四半期の世界の株式市場は依然として好調を維持し、米国と欧州の株価指数は史上最高値の更新が相次ぐなど、上半期として10%を超える上昇を記録しました。ワクチン接種プログラムの実施、堅調なマクロ経済指標、緩和的な金融政策によって世界経済の再開が後押しされ、株式市場の景況感は好転しました。しかし、2021年第2四半期の途中以降、投資家の関心は、景気回復のペースやインフレへの影響、特に米連邦準備理事会の発言により示唆される利上げの可能性などへとシフトしています。

2021年第2四半期の世界のIPO活動は好調で、上半期としては過去最高を記録

好調な株式市場、低下傾向にあるボラティリティ、高いバリュエーションが相まって上半期はIPOによる株式発行に理想的な状況となり、世界のIPOによる株式発行は記録的な水準となりました。2021年上半期には1,309件のIPOがあり、3,340億米ドルの資金が調達されました。上半期の米州および欧州・中東・アフリカのIPO調達額はいずれも既に2020年のIPO総調達額を上回っています。また、2021年第2四半期に調達した1,310億米ドルは、2020年第2四半期より874億米ドル多くなっています。2021年第2四半期は、特に一部の地域で投資家は銘柄の選別を強め、価格に敏感になったため、記録的だった2021年第1四半期と比較すると、強気だった市場心理はやや冷え込みました。2021年上半期のIPOでは、業種としてテクノロジー、Eコマースおよび金融が目立ちました。

2. 2021年第2四半期の世界のハイライト

世界のIPOによる調達金額
世界のIPOによる 調達金額

Dealogic社2021年6月30日現在のデータを利用して作成

世界のIPO件数
世界の IPO件数

Dealogic社2021年6月30日現在のデータを利用して作成

2021年第2四半期における世界のIPO調達金額の主要国・地域別内訳(%)
2021年 第2四半期における世界のIPO調達金額の地域別内訳(%)

Dealogic社2021年6月30日現在のデータを利用して作成

IPO

  • 2021年第2四半期に世界全体で582件のIPOがあり、総額1,310億米ドルを調達しました。2021年第1四半期の記録的な高水準を下回ったものの、これは2020年第2四半期を大幅に上回り、第2四半期としては過去最高の水準となりました。
  • 2021年第1四半期の水準を大きく下回ったのは、2021年第2四半期にSPACの活動が鈍化し、調達額が世界全体で83%減少したことが大きく影響しています。
  • 米州では、取引件数、調達額ともに2021年第1四半期と比べると半減し、IPO活動が著しく減少しています。2021年第2四半期における同地域のIPOによる資金調達額の上位2件は、米州域外の企業によるものです。
  • 欧州・中東・アフリカは、案件の平均規模は小さいものの、2021年第2四半期は2021年第1四半期と同水準の調達額となるなど、IPOの勢いが続いています。
  • アジア太平洋のIPO活動は、2021年第1四半期の落ち込みから増加傾向にあり、2020年下半期に見られた高水準にほぼ回復しています。

公募増資(フォローオン増資(FO))

  • 2021年第2四半期は、889件のFOにより2,094億米ドルが調達されましたが、2021年第1四半期と比較して16%の減少となりました。米州のみFOの活動が減少しています。
  • 2021年第2四半期に大型の資金調達が複数あり、2021年上半期の上位5件の取引のうち4件は2021年4月に行われました。

3. 2021年下半期の見通し

世界経済は回復基調を維持する一方、インフレ懸念が高まる

世界経済が回復基調にある兆候がある一方で、インフレと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の再拡大は依然として潜在的なボラティリティの要因となっています。中央銀行にとって重要なのは、この2つのリスクの間でバランスを取ることであり、この動向は2021年下半期の株式市場に根本的な影響を及ぼします。もしインフレとなった場合、金利の上昇が株式市場の強気の動きに歯止めをかける可能性があるでしょう。ただし、現在のインフレの急進は一時的なものであり、特にCOVID-19が経済の下振れリスクとして残っているために、主要な中央銀行が利上げに踏み切るまでにはまだ数年かかるとの見方もあります。この場合、株式市場への追い風は継続すると考えられます。

2021年下半期は好調なIPOが見込まれる一方、イノベーションが最重要課題

ポジティブな市場心理が世界のIPO活動を継続的に支え、多くの企業がIPOやSPACの合併に向けて準備を進めていることから、2021年下半期には安定した案件のパイプラインが予想されます。COVID-19によって従来型IPOの方法は崩れましたが、市場はバーチャルな働き方に適応し、イノベーションが最重要視されるようになりました。

2021年第2四半期に米国でSPAC市場が冷え込んだことで、欧州各地の取引所に上場された欧州のSPACの件数が増加しており、この傾向は今後も続く可能性があります。ただし、多くのSPACがターゲット企業の特定に入っているため、焦点はSPACの合併に移っています。こうしたいわゆる「De-SPAC」取引の成功は、株式市場におけるSPAC銘柄の動向に大きな影響を及ぼすでしょう。

投資家の環境・社会・ガバナンス(ESG)に対する優先度の高まり

以前のレポートで、ESG戦略がIPOのエクイティストーリーや企業価値形成の重要な柱となっていることを指摘しました。これは、最近の取引でも引き続き裏付けられており、投資家はESGを投資の意思決定プロセスにおける検討事項として組み込んでいます。投資家は株式公開を目指す企業に対し、より強固なESG戦略の策定や、KPIに関する情報およびレポートの公開を期待しています。

4. 米州—2021年第2四半期の概要

米州のIPOによる調達金額
米州の IPOによる調達金額

Dealogic社2021年6月30日現在のデータを利用して作成

米州のIPO件数
米州の IPO件数

Dealogic社2021年6月30日現在のデータを利用して作成

2021年第2四半期にSPAC市場が冷え込むも、上半期のIPO活動は異例の高水準

上半期は例年と比較すると異例とも言えるほど多数のIPO活動が行われました。2021年第2四半期のIPO活動は、第1四半期に比べて減少したものの、633億米ドルの資金調達となり、2020年第2四半期の調達額の2倍以上の水準となりました。2021年第1四半期と比較して件数および資金調達額が減少したのは、主にSPACに対する投資家心理の冷え込みを背景とした、SPACを利用したIPOの鈍化によるところが大きく、SPACの資金調達額は2021年第1四半期の960億米ドルから2021年第2四半期には128億米ドルに減少しました。ただし、現在の好意的な市場背景、株価の安定化、企業価値評価額の高さが発行体にとって魅力的な環境を提供していることから、IPO活動は2021年下半期も引き続き高い水準で推移すると予想されます。

2021年下半期にかけて経済成長に期待

米国経済は引き続き回復基調にあり、2021年には、近年において過去最高の成長を記録する可能性が高いと見込まれます。株式市場も投資家の期待を裏切ることなく、S&PとNASDAQの株価指数は上半期にともに上昇しました。これは、経済再開の進展を背景とした企業の業績の伸びによるものです。インフレは依然として重要なリスクであり、市場は米連邦準備理事会(FRB)による利上げの可能性について、その動向を注視しています。

ブラジルは引き続き米州内で第2位の活況なIPO市場

COVID-19による市場のボラティリティにもかかわらず、ブラジルのIPO市場は米州内で第2位となるほどの活況を呈しました。他の地域と同様にテクノロジー、金融、ヘルスケアがIPOの大半を占めています。また、個人投資家の参加も増え続けており、ブラジルの株式市場をさらに後押しするものと期待されています。

5. 欧州・中東・アフリカ—2021年第2四半期の概要

欧州・中東・アフリカのIPOによる調達金額
欧州・中東・アフリカの IPOによる調達金額

Dealogic社2021年6月30日現在のデータを利用して作成

欧州・中東・アフリカのIPO件数
欧州・中東・アフリカの IPO件数

Dealogic社2021年6月30日現在のデータを利用して作成

2021年上半期の欧州のIPO活動は近年において最高水準

2021年第2四半期の3カ月間、欧州の株式市場は、好調な景気指標、COVID-19ワクチン接種の進展、ビジネスの全面的な再開に関する楽観論に支えられ、史上最高値を幾度も記録しました。このため、IPOはさらに勢いを増し、2021年前半は2000年以降で最も好調な6カ月間として推移しました。

好天から徐々に薄曇りの状態に

2021年第2四半期は、COVID-19の感染拡大以来、ボラティリティの水準が最も低く、上半期の業績も記録的に高水準なものとなりましたが、投資家の間ではインフレに対する懸念が高まっており、コモディティ価格の上昇に代表される物価上昇圧力に中央銀行がどのように対処するかが注目されています。そのため、2021年における企業価値評価額の高さは今後検証が進み、投資家は銘柄の選別を強め、株価に敏感になっていくでしょう。

2021年下半期のIPO候補の企業数は堅調に推移する見込み

投資家心理が引き続き好調であることから、世界の株式市場が堅調さを維持し、マクロ経済指標が引き続き下支えとなる限り、2021年下半期のIPO活動は記録的高水準を維持すると予想されます。これは、欧州の主要な証券取引所において、業種を広くカバーしている欧州のSPAC市場にも当てはまる可能性があります。

6. アジア太平洋—2021年第2四半期の概要

アジア太平洋のIPOによる調達金額
アジア太平洋の IPOによる調達金額

Dealogic社2021年6月30日現在のデータを利用して作成

アジア太平洋のIPO件数
アジア太平洋の IPO件数

Dealogic社2021年6月30日現在のデータを利用して作成

中国は経済成長の下支えのため、銀行の預金準備率を引き下げ

中国人民銀行は、中国経済の活性化のために1,000億米ドル以上の流動性を確保することを目的として、ほとんど全ての銀行の預金準備率(RRR)を50ベーシスポイント(bp)引き下げる可能性を示唆しました。こうした景気刺激策は、コモディティ価格の上昇やその他の現在の市場の不確実性によって中小企業が苦戦する中、経済がパンデミック前の水準に回復するのにさらに役立つと期待されています。

中国と香港が引き続きIPO市場の中心的存在

2021年上半期に世界の株式市場が回復する中で、この地域のIPO活動は引き続き中国がリードし、香港がそれに続きました。香港については、規制当局が新しいプラットフォーム、FINI(Fast Interface for New Issuance)の導入によって外国企業による上場プロセスの簡素化を提案しており、2021年下半期に向けて活発な活動が予想されます。FINIは、IPOの価格決定から取引までの期間を短縮し、市場参加者や規制当局の決済プロセスを全体的にデジタル化するものです。

中国の監視体制が強化され、中国国外でのIPO計画が頓挫する可能性も

好調な市場環境にもかかわらず、中国国外でのIPOを目指す中国企業の多くは、中国当局によるさらなる監視に直面する可能性があります。例えば、ニューヨーク証券取引所へ最近上場した中国企業は、米国市場での取引開始直後に、情報流出に関する懸念から禁止措置が取られ、10%を超える株価下落を余儀なくされました。このような中国の証券規制の強化や独占禁止法の調査は、中国国外に上場している中国企業を中国の規制当局がコントロールしようとするもので、IPO制度そのものを揺るがす可能性があります。

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主要メンバー

顧 威(ウェイ クウ)

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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坂元 新太郎

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