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2022-05-26
日本は世界有数の「ポイント大国」と言われ、今後もスマートフォンを通じたオンライン決済の利用増加や、国のマイナポイント事業の拡充などを背景に、ポイントサービスのさらなる拡大が見込まれます。このポイントサービスは消費者にとっては「どこでも貯まる・使える」ことで利得性・利便性が高まっているものの、一方で加盟店を含む事業者にとってはポイント原資が収益の圧迫要因になっている側面があります。さらに、マルチポイント化により競合他社との差別化要素が希薄になり、ポイントサービスの本来の目的である集客効果による収益貢献が充分に得られなくなっているというのが実情です。
欧米では、利得性に訴求したポイントサービスよりも中長期的な顧客との関係を維持・強化する自社独自のロイヤルティプログラムが主流であり、昨今では高度なデータ分析を活用したパーソナライゼーションサービスの提供により、顧客エンゲージメントの強化を実現しています。
本稿では、日本と海外の文化的背景の違いや消費者行動の変容を踏まえた上で、海外における先進事例を紹介するとともに、既存のポイントサービスを顧客エンゲージメント強化の手段へと昇華させるために日本企業がいま取り組むべきことについて提言します。
国内ポイント発行規模は年々拡大しており、2019年には2兆円を突破しました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で消費が減退する中においても、ポイントサービスの利便性はスマートフォンを通じたオンライン決済との一体化により一層高まっており、キャッシュレス・ポイント還元事業やマイナポイント事業といった国策事業の拡大も今後の堅調な推移を後押しするでしょう。また、2022年以降はコロナ危機下から消費が回復することで、ポイント発行額は一層拡大するものと予測されています。
ポイントサービスは大別すると、①購買やサービスを利用した店舗のみで獲得・利用可能な「ハウスポイント」と、②特定の店舗だけでなく加盟店となっている店舗で幅広く獲得・利用可能な「共通ポイント」の2種類が存在します。
決済手段や投資手段として利用できるようになるなどサービスの拡充が進み、利便性が高まったことを受け、近年では特に共通ポイントを新たに導入する企業も増加しています。共通ポイントの国内発行額は2020年時点で既に1兆円を超えていますが、多様な決済手段ニーズへの対応と同時にマルチポイント化(1つの店舗で複数種類のポイントを提供)が進むことで、共通ポイントの市場規模はさらに拡大する見通しです。
国内のポイントサービスの起源には諸説ありますが、1989年に大手家電量販店が値引き作業の負担軽減を目的にポイントカードを導入したのが最初と言われています。その後、特にバブル崩壊後の景気低迷期において、商品価格を下げずに消費者に利得性を与え、購買を促す手段として、幅広い業種でポイントサービス(マイレージプログラムを含む)が導入されてきました。
2003年には大手レンタルビデオ店が会員証の提示により他社店舗でポイントを獲得できるサービスを導入し、本格的な「共通ポイント」が登場しました。その後、各社の「ポイントバラマキ合戦」による利得性の追及に加え、スマートフォンの利用拡大、決済手段の電子化、決済とポイントの一体化といった利便性の向上を背景に、共通ポイントがポイント市場を牽引するに至っています。
共通ポイントの拡大により消費者の利得性や利便性は向上しました。しかしその一方で、導入する企業にとっては、ポイント原資負担の増加が期待される収益貢献にはつながらず、2021年以降、いくつかのポイント事業者はポイント還元率や手数料率を見直さざるを得ない状況に陥っています。
また、導入企業が増えたことで他社との差別化を図りづらくなり、本来の目的である集客効果が低減しつつあることも指摘されています。
公正取引委員会が共通ポイントサービス加盟店に対して2020年に実施したアンケート調査*1によると、サービスを導入した結果「競合他社との差別化につながった」との回答は41%、「現在のところ特になし」との回答は36%で、両者に大きな差は見られませんでした。今後マルチポイント化が加速することで、より一層その差別化効果は低減していくと考えられます。
欧米では、日本のような共通ポイント事業者は限られています。販売価格の一部を原資とする実質的な値引きが中心のポイントサービスよりも、より顧客とのエンゲージメント強化を目的とする各社独自のロイヤルティプログラムが主流になっています。
ポイントサービスを含むロイヤルティプログラムの世界市場規模は、2021年時点で78.5億米ドル、2028年までに176.5億米ドルに達すると予想され、年平均成長率(CAGR)は12.3%となる見込みです*2。
ポイントサービスが主流の日本と比較して、欧米ではロイヤルティプログラムが主流となっている背景には、国民性と民族構成の違いが一つの要素として考えられます。
まず、国民性の違いについてです。欧米ではより「性悪説」とも言える自身の価値観に基づき、購買行動においてもその企業が提供する価値が明確であるものや、自身のニーズに合っているものを好む傾向が強いと言われます。
また、欧米諸国は従来から移民や複数の民族で構成されていることから、消費者ニーズが多様化していると考えられます。従って、画一的なポイントサービスより、1人1人のニーズに合ったサービスの提供が求められているのではないでしょうか。
2015年に米国の大手クレジットカード会社が共通ポイントサービスを導入しましたが、加盟店数・利用者数ともに伸び悩んでいます。最大の加盟店であった大手百貨店も2018年に同サービスから撤退し独自のロイヤルティプログラムに移行するなど、共通ポイントのビジネスモデルに対する評価は高くありません。
一方、自社独自のロイヤルティプログラムの成功事例は散見され、例えば米国の大手スーパーのロイヤルティプログラムには2,800万人(2021年第三四半期時点)が会員登録しており、非会員と比較して2.6倍の購買実績があります。また、米国の大手コーヒーチェーンは米国内に2,640万人(2021年第一四半期時点)の会員を抱えており、その売上は国内総売上の53%を占めています。
先に例に挙げた米国の2社はパンデミックを受けて、デジタルとリアルにおける顧客体験の統合、そして高度な分析技術によるパーソナライゼーションを一層加速させています。
COVID-19のパンデミックが拡大した2020年以降、米国の大手スーパーは複数のテクノロジー企業と積極的に提携し、新たな顧客体験の提供に取り組んでいます。例えば、いくつかのAIサービスと、Business Message Serviceなどのツールを組み合わせることで、買い物客が個人のニーズに基づいた買い物リストを素早く作成することを可能にしています。実店舗、オンライン、モバイル、ソーシャルチャネルを行き来する買い物客の意図を測定することで、小売・食料品ブランド独自の新サービスのカスタマイズに取り組んでいます。
米国の大手コーヒーチェーンは、2015年にモバイルアプリにオーダー・ペイメント機能を実装し、米国内で最も使われるペイメントプラットフォームへと成長させました。その後、AI技術の活用により顧客に合わせてアプリ、メール、テキストメッセージを組み合わせたパーソナライズされたオファーやディスカウントの提供を開始。2020年にはモバイルアプリを活用したOMO (Online Merges with Offline)で米国店舗ポートフォリオ変革を発表し、都心にモバイルオーダーの受取専用店舗を増設するなどOMO体験を強化しています。
また、米国の大手ファストフードチェーンでは、ユーザーがサイトやアプリの「どこを閲覧しているか」「何に接触しているか」というデータの収集を進めています。同社はこれを基に各顧客の全体像を把握し、特定の製品やサービスに対する関心度を数値化することで、パーソナライズされた顧客体験を提供しています。例えば、週に1度、同じセットミールを注文する顧客には、そのミールを期間限定で特別価格で提供することで2度目の来店を促したり、デザートなどの追加メニューの購入率が高い時間帯にアップセルのオファーを提供したりしています。
この流れは今後さらに拡大し、PwC英国は、ブロックチェーン技術を活用してロイヤルティプログラムを進化させることで、2030年までに世界経済に約540億米ドルが生み出されると予測しています*3。
特にブロックチェーン技術の以下の特長がロイヤルティプログラムの発展に貢献すると期待されています。
実際に、米国の大手コーヒーチェーンは今後ブロックチェーン技術を活用することで自社ポイントをトークン化し、暗号資産事業者との提携を通じて顧客とのデジタル接点を強化することで、よりパーソナライゼーションサービスを高度化させていくと発表しました。
先に挙げた日本と欧米における国民性や民族構成の違いはあるものの、顧客層の中心がデジタルネイティブにシフトするに伴い、日本国内においても顧客のニーズの多様化はこれまで以上に進展すると予測されます。消費者は企業に対してより自身のニーズに合った高度なサービスを求めるようになってきています。
PwC Japanが2021年に実施した「生命保険に関する消費者意識調査2021」では、個人情報の活用についての設問において、「若者単身世帯」は自らの個人情報を利用したサービス提案に対し、他の層よりも前向きな傾向を見せるという結果が出ています。これは、デジタルリテラシーや情報リテラシーの高まりが影響しているものと考えられます。
日本国内の消費者のニーズがより多様に・スピーディに変化していく中で、顧客のエンゲージメントを強化するためには、各企業は自社独自のポイントサービスやロイヤルティプログラムを通じて取得したデータを最大限利活用し、1人1人の顧客のニーズに合った特別な体験を提供すべく、以下の2つに取り組むべきだと考えます。
ポイントサービスをテコにパーソナライズされた顧客体験を提供し、顧客エンゲージメントを強化するための第一歩として、顧客を中心とした戦略のアップデートが必要です。
ポイントサービスを通じて収集したデータを高度分析することでパーソナライゼーションを進めるなど、戦略実現に必要な付加価値を創出するためのデータマネタイゼーションが求められます。
PwCが2022年に実施した「データマネタイゼーション実態調査2022」の結果からは、データマネタイゼーションの取り組み自体を認知は広まっているものの、事業化に至っている企業は少なく、社員のスキル育成といったデータ利活用全般の課題だけでなく、データマネタイゼーション特有の「マネタイズアイデアの創出」や「データの価値の判断」といった課題をクリアする必要性が示されています。
PwCでは、企業のマーケティング戦略に基づいて「目指すゴール」と「優先すべき観点」に従って4つの方向性を定義することで、データマネタイゼーション実現に向けた支援を行っています。
PwCは、これまでのマーケティング支援などを通じて培ってきた知見と実績を活かし、ポイントサービスを顧客エンゲージメント強化の手段へと昇華させるために必要な戦略策定・事業化・サービス設計といった「攻め」の面に加え、個人情報保護法を含む法令遵守・消費者の心理的障壁への対応といった「守り」の面も含め、適切なソリューションを提供することでクライアントのデータマネタイゼーションを支援します。
*1 公正取委員会『共通ポイントサービスに関する取引実態調査報告書』
*2 RESEARCH AND MARKETS “Global Loyalty Management Market Size, Share & Trends Analysis Report by Component, by Software, by Deployment, by Organization, by Vertical, by Region, and Segment Forecasts, 2021-2028”
*3 PwC United Kingdom, 2021. ”Reviving loyalty reward cards with blockchain”
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