
エンベデッドファイナンスがもたらす新たな価値 次なる成長に向けて既成概念を覆す
エンベデッドファイナンス(組込型金融)市場が急速に拡大し、既存金融機関は異業種との競争に巻き込まれています。本稿では、エンベデッドファイナンスがいかに金融業界の既成概念を覆すか、これを新たな価値創造に結び付けるにはどうすれば良いかを考察します。
2021-08-24
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大以前、世界のリース市場は成長基調にありました。2020年以降のコロナ禍によって一時的に需要が落ち込んだものの、数年後にはもとの市場規模へ回復することが予想されています。
一方、国内のリース市場は、リース設備投資額で見てみるとCOVID-19以前においてもほぼ横ばいの状況でした。設備投資額は上昇基調にあったものの、リース化率が継続的に低下していたためです。
また、金利水準もCOVID-19の感染拡大以前は超低金利状態から正常化に向かいつつありましたが、長引くコロナ禍の影響もあり、再び低金利化の傾向にあります。
国内リース市場の成長が見込めず、低金利環境のもとで銀行融資との競争激化が進むという逆風下において、リース業界はリース資産を積み上げて稼ぐモデルから、高収益の資産に転換し、資産効率をあげるモデルへの転換を求められています。具体的には、ファイナンス以外の収益源の獲得とグローバルアセットによる収益機会獲得という2つの軸です。
前者においては、メンテナンスリースや補助金コンサルティングといった「サービス」の拡大、さらにはプライベート・エクイティ・ファンドや発電といった「事業」への進出を通じて金利外収益を確保しようと試みています。後者においては、より成長率の高い「海外」への積極的進出により新たな事業機会を得ようとしています。
他業界に目を向けると世界的なメガトレンドともいえる大きな変化が起きています。COVID-19感染拡大以前からあった動きがさらに加速したものとしては、デジタル化とサステナビリティ経営の進展が挙げられるでしょう。
PwCのCEO Panel Survey2020※1によると、多くのCEOがデジタル技術を使ったビジネスやコラボレーションを日常的な業務に組み込んでいく必要性を認識しています。特にアフターコロナへの対応として上位に挙げられたのは、基幹業務やプロセスのデジタル化や、商品やサービスのバーチャル化でした。
長引くコロナ禍を受けて、企業経営におけるレジリエンスやサステナビリティも改めて注目されるようになってきています。サステナブルな経営を考える上では、気候温暖化のような、自然災害を招く社会課題への対応が求められます。PwC’s 2020 Annual Corporate Directors Survey※2によると、機関投資家が投資先企業の社会問題へのコミットメントを重視していることを受けて、企業経営陣もサステナビリティをはじめとする社会課題への関心を高めていることが示されています。
リース業界にも、こうした企業のデジタル化や社会課題への取り組みを支援するようなソリューションを提供していくことが強く期待されているといえます。
所有することにこだわらずに、必要な時に利用するというシェアリングエコノミーは、この数年で消費者の間で急速に普及してきました。近年は多くの企業向けサービスにも取り入れられてきており、それに伴ったサブスクリプションサービスの発展もめざましい状況です。リースはもともとサブスクリプションサービスですが、従来の月額課金システムに加え、重量課金や定額課金などといった形式を導入し、複雑化する顧客ニーズに対応する新たなサービスの提供も始まっています。
例えば、顧客のサステナビリティへの取り組みに対するサポートを、より手軽な課金システムと組み合わせたEnergy as a Service(EaaS)として提供しているアジア・太平洋地域の金融機関があります。エレクトロニクス、オートメーションからインフラ、エネルギーまで手掛ける世界的なテクノロジー先進企業との合弁会社を設立し、顧客に低コストのエネルギー(例:統合ソーラーバッテリーソリューション、マイクログリッド、暖房および冷房インフラストラクチャのアップグレードなど)を供給することで、持続可能性の目標を達成できるように支援するソリューションを提供しています。
この新しいソリューションは先行投資なしで利用できるため、企業や既存のクライアントだけでなく、自治体や学校、病院などにとっても利用しやすいものとなっています。そしてこれがリースの顧客層の拡大にもつながっています。
企業が所有する資産のライフサイクルに応じて最適なマネジメントを支援するクラウドサービスを提供するアジア・太平洋地域の総合リース会社もあります。AI、IoT、ARなどの先端デジタル技術を活用し、事業活動で使用される機械・設備・商材について、導入の計画段階から調達・管理・廃棄に至るまでの全プロセスを一元管理し、資産の情報や状態を可視化することができます。
これはリース会社として資産運用を長年手掛けてきたノウハウをもとにSaaS(Software as a Service)型の新サービスとして資産管理に悩む顧客企業に提供するもので、保有資産管理のデジタル化が遅れている中小企業にとっても、非常に強力なソリューションとなりうるでしょう。
サステナビリティにちなんだ新しい取り組みとして、企業の脱炭素の取り組みを支援する課金システムがあります。リース対象である船舶の二酸化炭素排出量に応じてリース料が変動するという画期的なサービスで、サステナビリティ目標の達成を可視化する取り組みとして非常に先進的です。
このように、メガトレンドをはじめとした大きな環境変化や、細分化および複雑化していく顧客のニーズに迅速に応える事業を展開していくためには、事業リスクや為替リスク、カントリーリスクなどこれまで以上に多様で複雑なリスクをコントロールしながら収益を上げていく必要があります。
また、新たに事業を立ち上げるには、顧客の潜在的なニーズへの洞察を持ったうえで、リース会社としてその事業を行う意義や提供価値を踏まえた戦略を明確にし、それに合致するパートナー企業と協業していくことが重要です。同時に事業ポートフォリオや関連会社が拡大することに対して、適切な資源配分やリスク管理を行う経営基盤の強化も必要になるでしょう。
しかしながら、従来のリース事業にとどまらない専門的な知見や経験を持ち、かつ新しい事業を推進できる人材には限りがあります。PwCは、これまでに培ってきた知見と実績をもとに総合リース会社の幅広い課題に対応し、適切なソリューションを提供することでクライアントを支援します。
※1 CEO Panel Survey:How business can emerge stronger【PDF 7,746KB】(英語)
※2 PwC’s 2020 Annual Corporate Directors Survey【PDF 3,906KB】(英語)
エンベデッドファイナンス(組込型金融)市場が急速に拡大し、既存金融機関は異業種との競争に巻き込まれています。本稿では、エンベデッドファイナンスがいかに金融業界の既成概念を覆すか、これを新たな価値創造に結び付けるにはどうすれば良いかを考察します。
事業ポートフォリオ管理に関連する課題を整理すると大きく以下の3つに整理されます。これらは相互に密に連携するテーマであり、必要な対応について企画・財務・投資管理・リスク管理などの本社関連部署が協力して推進していくことが重要になります。
リース業各社は、株主をはじめとするステークホルダーからのROE向上要請やメガトレンドへ対応するため、ポートフォリオの拡大ならびに事業の多角化による経営基盤の維持・強化に取り組んでいます。
コンプライアンスの領域が拡大し、金融機関に対する社会からの期待が高まる環境下において、相反する2つの要求を解決するための手段の1つとして、コンプライアンス領域のデータ利活用をご紹介します。