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本コラムでお伝えしたいポイントは以下の3点です。
生成AIの普及、米中摩擦やウクライナ紛争などの地政学リスク、少子高齢化や需要構造の変化など、企業はこれまでにない環境変化に直面しています。
PwCが2023年に実施した第28回世界CEO意識調査では、「現在のビジネスのやり方を継続した場合、10年後に自社が経済的に存続できない」と回答した日本企業の割合は世界全体の42%や米国の24%と比較して高い、47%に上りました。日本のCEOは自社の持続性に強い危機感を覚えており、生き残りをかけて変革を早急に進める必要があると認識していると言えます。
また同調査では、日本のCEOは特に「マクロ経済の変動(29%)」「インフレ(27%)」「サイバーリンク(24%)」を自社の経営上の脅威として挙げており、強い懸念を抱いていることが浮かび上がりました。
多様なリスクの中、企業は従来の戦略を抜本的に見直す必要に迫られています。特に以下2つがその背景として挙げられます。
上記を背景として、企業はこれまで以上に多様なリスクに対応する必要が求められておりますが、対応できない場合、企業価値を毀損する要因となります。
対応策を取っていたもののリスクが顕在化する原因としては、リスクの定義が十分でないことが挙げられます。リスクの定義においては「スコープ」「発生確率」「経営への影響度」の洗い出しが重要です。特に、「経営への影響度」に関しては、リスクと経営管理指標を紐付け、影響をシナリオとして整理し、それぞれについて管理、評価する指標を定義します(図表1)。このように、リスクが発生する予兆や影響を可視化し、ネガティブな影響を排除するための経営管理を行うことが企業には求められます。
図表1:リスクが経営指標に与える影響の整理例
危機発生後に誤った対応を取った場合、企業価値毀損の影響はさらに甚大なものになります。2020年のPentland Analytics社の報告書「Risk, Reputation and Accountability」によると、企業が施設設備の喪失や製品不良などの自社のビジネスの根幹に関わるリスクに直面した際、投資家は「そのリスクにどのように対応したか」を注視していることが分かかりました。リスクの発現は企業価値を毀損するものの(図表2、➀)、危機時に適切な対応を取った場合、その企業は対応を評価され、市場の期待するパフォーマンスを20%上回ります。一方で適切な対応を取れなかった企業は市場の期待するパフォーマンスを30%下回り、その差は時間が経つほど開いていきます(図表2、➁➂)。この結果から、投資家は企業の危機発生後の対応に着目しており、その評価は中長期にわたり企業価値に影響を及ぼすことがわかりました。
図表2:風評危機に見舞われた企業の株価への影響度の推移
当然ながら、上記のようなリスク発生を見越して最大限予防策を取っていたとしても、予見できない事態が発生することはあります。
しかしながら、不慮の事態は当然のものとして常に未来を見据え、有事に対する受け身を取れる状態にしておくこと=先読み力を高めておくことがこれからの経営のアプローチとして求められています。
では、企業に求められる経営管理の在り方はどのようなものでしょうか。
図表3:経営管理の今後の在り方
日本の経営管理は、PL中心の管理会計からスタートし、その後、時価会計やキャッシュフロー管理へと議論が広がっていきました。近年では株式市場の要請も背景に、非財務価値の重要性が高まり、ビジョン・パーパスと戦略の整合性、非財務資本の価値の可視化が求められています。経営管理に求められる要件の複雑化が続く中、常に進化するテクノロジーの活用も含め、市場環境に柔軟に対応し管理、分析が可能な体系を構築する必要があります(図表3)。
多くの日本企業では、財務諸表をベースとした1年単位での目標数値を基に実績管理を行うことが主流ですが、変化の激しい時代においては、管理スコープ、サイクル、アプローチを変えていくことが求められるでしょう。
現状の経営管理の主要な手法である「財務諸表ベースの業績管理」は、過去の結果を基にした管理に過ぎず、結果指標のみの管理では成果を生み出すことは困難です。
一方で自社の財務諸表の背景には、その先行指標として「技術動向の変化」や「マクロ環境の変化」などの外部環境因子が存在します。市場の公開情報やベンチマークとなる関連企業の動向など、外部環境の変化をいち早く捉えるとともに、自社の企業価値にどのような影響をもたらすのかを把握し、タイムリーに環境変化に戦略を適合させる仕組みが必要となります。
また、財務指標の源泉として、人的資本などの自社の強みとなる未財務資本が存在します。未財務資本から財務指標へのつながりを明らかにし、人的資本・知的資本などの無形資本や、社内だけでなく価値提供先である顧客・社会・環境を価値構造として捉えて経営する価値構造そのものの拡張も求められます。
管理のアプローチそのものも見直していく必要があります。従来の日本企業の実績管理的な考え方は、「リスクが発生した後にどう対応するか(守りのアプローチ)」になりがちでしたが、将来のトレンドをいち早く捉え、「リスクを排除し機会を最大化するアプローチ(攻めのアプローチ)」へとシフトしていくことが求められます。テクノロジーも活用しつつ、データからリスクの先行指標となる情報を抽出することで、事前の予防策・対応策を明確にすることが可能になります。
また、リスクや機会を捉える時間軸も重要です。直近2~3年の短期的な時間軸ではなく、3~10年の中長期での時間軸でリスクを考える場合、人口動態やGDPなどのマクロ経済指標も必然的に企業の成長パラメータとなります。日本国内の人口減少が見込まれる中で、これから人口ボーナス期を迎えて大幅な成長が見込まれる諸外国をどのように機会として活用し、自社・自国内のリソースにとどまらない多様な戦略検討と、必要なプラットフォームや人材を整備することが求められます。
現在は1年単位での予算計画に基づくPDCAサイクルが一般的ですが、目まぐるしく環境が変化する中では、必ずしもそうした管理が適切とは言えません。
不確実性の高い環境変化に有効な管理手法が、OODAサイクル(Observe:観察、Orient:情勢判断、Decision:決定、Act:行動)です。OODAサイクルは目の前にある状況の「観察」を起点として、その時に最適な意思決定をします。PDCAサイクルと異なり、当初の計画に縛られないため、柔軟に打ち手を見直すことができ、戦略の実用性・競争優位性を担保できる考え方です。
先に見たとおり、目まぐるしく環境が変化する中では、一度立てた戦略を忠実に遂行していくだけでは太刀打ちできません。1年というサイクルに捉われず、立てた戦略を環境の変化に応じて組み立て直す、むしろ戦略を積極的に見直し軌道修正していくことこそが今後求められる姿です。
以上で見たように、多様なリスクに対応するためには、財務指標に表れていない指標を含め、未来を見据えた経営判断を迅速なサイクルで実現する必要があります。私たちはこのような経営の志向を、「先読み型プランニング」と呼んでいます。「先読み型プランニング」は、AI予測とビジネスロジックに裏付けられた計画シミュレーション機能を活用した経営管理手法です。外部環境分析・過去分析といった意思を必要としない予測は極力AIなどに任せることで、経営者はシミュレーションされた複数の将来シナリオを見て意思決定を行うことに注力することができます。さらに、成功要因・リスクに影響するパラメータを常時モニタリングし、オンデマンドでシミュレーションを実施することで、変化に対する現場の先読みアクションを促します。
参考:先読み型プランニング
https://www.pwc.com/jp/ja/services/consulting/finance-transformation/future-oriented.html
変化・リスクへの対応案として先読み型プランニングが優れている点は3つあります。
第一に、「外部パラメータを含むシミュレーションによるリスク予防」です。自社の財務指標のみならず、総需要の変動率やインフレ率などの外部指標を含む形へとパラメータを拡張することにより、起こり得るさまざまなネガティブシナリオを想定し、事前の打ち手の検討をすることができます。
第二には、「中長期視点での意思決定」が容易になる点です。前述の外部パラメータの拡張と同様、1年単位のみならず、複数年単位でビジネスの方向性を見渡すことで、資源配分の見直しなどの中長期にまたがる意思決定を可能にします。
第三に、「戦略再構築の迅速性」です。手作業でシナリオを立案する場合、通常業務の合間を縫うことから、微細な修正であってもシナリオの再構築に1週間程度かかることもあるでしょう。テクノロジーを活用し、前提となるパラメータを操作することで瞬時に見直した結果を出力でき、迅速な戦略見直しが可能です。
これにより、必要なタイミングで都度シミュレーションし、意思決定の見直しをすることが容易になります。
図表4:先読み型プランニングの目的・利用イメージ
本稿では、リスク要因の多様化を踏まえた今後の経営管理のあるべき姿と、その対応策として先読み型プランニングの有用性を見てきました。企業価値の向上には企業内部の管理にとどまらず、外部環境変化の兆しを捉え、柔軟に戦略見直しを図っていくことが求められます。本稿が企業価値向上に向けた経営管理改革の一助となれば幸いです。
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