{{item.title}}
{{item.text}}
Download PDF - {{item.damSize}}
{{item.text}}
2022-09-08
縮小均衡局面にある事業の中長期的な見通しを整理し、取るべき方向性が見えてきてもなお、経営判断できないケースがあります。危機が訪れる時期が当面先であれば、課題は先送りされがちです。国・地域の住民・産業にとって不可欠なエッセンシャルな事業でありながら、縮小均衡局面に入った事業に焦点を当て、その再成長のあり方について検討する連載「エッセンシャルビジネスの再興支援」。第4回となる本稿では、課題の先送りを回避して将来世代のために先手を打ち、危機を拡大させない未来傾斜型の経営姿勢の重要性について論じます。
縮小均衡局面にある事業においては、投資抑制的な姿勢がしばしば見られます。M&Aを通じた業界再編はおろか、設備・システムへの投資が先送りにされ続けるなど、「80年代に構築されたシステム」や「50年前の設備」が使い続けられていることも珍しくありません。事業継続リスクが非常に高い状態であるにも関わらず、なぜこうした状態が発生してしまうのでしょうか。投資抑制的な姿勢が生まれる原因として下記が想定されます。
事業ポートフォリオに縮小均衡局面にある事業がある企業においては、当該事業の担当者の発言力が低くなりがちです。普段は当該事業の収益の低さは経営層や他部門から見て見ぬふりをされているのかもしれませんが、大きな投資を求める場合、その投資対効果や意義などを議題に上げざるを得ません。しかし、その説明および説得の難しさから、担当者は波風を立てることを避けたいとの思いから、投資を求めることを先送りにしがちになってしまいます。
M&Aや設備・システムの刷新は一大プロジェクトであり、高度な判断力と推進力が求められます。他方で当該事業の成長性と収益性の低さに、投資抑制的な経営姿勢もあいまって、縮小均衡局面にある事業においては、M&Aや設備・システム刷新の機会は極めて限定的となります。そもそも社内にその経験者がほとんどいないという状態も珍しくありません。社内に一大プロジェクトを推進する体制が整っていないため、そもそも設備投資の発起人がいない、発起人がいたとしても計画を策定しきれず合意形成に至ることができないという事例も多く見られます。
縮小均衡局面にある事業は低利益体質という構造的な課題を抱えており、投資回収に長い年月を要するケースが多いです。投資を極力抑制し、減価償却を終えた設備を使い続けることで赤字化を免れてきた事業も多く、投資することにより、事業としての存続が許容できないレベルまで収支が悪化する可能性があります。
こうした投資は縮小均衡局面にある事業を長期的に継続させるためには必要ですが、同じ時間軸で当該事業の将来性を見てくれるステークホルダーの存在は極めて限られます。経営者は通常、四半期ごとの情報開示、株主からの近視眼的な要請など、短期的な視点による課題に直面しています。従業員は当面の雇用および賃金への関心が高く、債権者や取引先はリスクに対する警戒感が強いため、現役世代が将来世代のために負担を負うことに対しての理解は進んでいません。
顧客や取引先との結びつきが強いほど、設備・システムの刷新は難しくなります。
例えば生産設備を刷新するには、認証を再取得する必要があるほか、更新対象の設備の稼働を休止し、一時的に生産を移管して並行稼働しなければなりません。顧客や取引先が認証を再取得する必要がある場合、調整過程の中で競合他社へスイッチされたり、価格交渉の材料とされたりするリスクがあります。そのため、システムを刷新するにあたっては、接続先や他社システムに影響が発生しないことが大前提となります。顧客や取引先との接点がない設備・システムであっても、刷新にあたってはコストなどの観点から、社内から強く抵抗されることも想定されます。
縮小均衡局面にある事業は大手企業の子会社や孫会社が管掌しているケースもあります。そのため、当該事業の経営層の裁量が限定的であること、経営人事は本社の論功行賞的要素が強く頻繁に入れ替えがあること、現場は本社出向人材と叩き上げ人材が一枚岩になり切れていないことなどから、上記1~5の事例が顕在化しやすくなります。
縮小均衡局面にある事業において、一時的に収支が悪化することが予想されたとしても、長期的に成長するための投資を実現するためには、どのような取り組みが必要になるのでしょうか。
外部環境が大きく変わらないことを踏まえると、縮小均衡局面にある事業においては6~10年の長期成長戦略を策定することが有効です。逆に、低利益体質であるがゆえに、3年ごとの中期経営計画の達成にこだわると、一時的に収支を悪化させてしまうような投資は忌避される可能性が高くなります。長期成長戦略を策定した上で、当期当期の業績でなく、その戦略の遂行状況をもって経営を評価することが望ましいと考えます。
縮小均衡局面にある事業を長期的視点に立って経営するためには、同じ時間軸で経営を理解してくれる株主の支持が必要です。株式の長期保有による複利を狙う株主や、政策保有株主はその支持者となり得ます。金融商品取引法の改正が前提となりますが、長期保有を前提とした株主の意見を取りまとめ、長期的視点から企業と対話する仕組みを設けることは、長期成長を実現する上で有用です。
縮小均衡局面にある事業においては現業が優先され、それに伴う人材不足により、企画機能の立場が弱くなりがちです。他方、当該事業が十分な投資により長期成長を遂げるためには、現業から少し離れ、大局的な見地からリードする経営企画部門の力が必要です。長期成長戦略を遂行するためには、現業のエース人材を経営企画部門にあてがう人事戦略の実行、エース人材の成長に寄与する人材の獲得、経営企画機能の権限を強化する体制の構築が求められます。
欧州では事業経営に次世代の視点を入れるべく、取締役会の構成に従業員代表を含める動きが進んでいます。また国内でも取締役の社内公募や最高未来責任者(CFO)の設置など、実験的な取り組みが見られます。他方で縮小均衡局面にある事業では採用力の弱さと現業優先のOJT文化が根強く、取締役会が労働組合と同一化する可能性も高いと言えます。経営企画機能の強化と併せて、次世代の育成を中長期的課題の1つとして取り組んでみても良いかもしれません。
縮小均衡局面にある事業の長期的成長戦略や収支目標が他の事業と整合しない場合に、当該事業を別枠で管理するため、子会社として切り出すことも有効です。なお、分社化に際しては、100%子会社とする必要はありません。顧客、取引先、銀行、ファンドなどからの出資を受け入れ、それらの資本をもって長期的な視点から経営能力と投資資金を確保することも視野に入れるべきです。
取締役会や経営会議のボードメンバーには、複雑な経営判断に耐え得る豊富な知見や実績が求められます。自然と平均年齢は高くなるため、20年、30年先の業績を向上させることへの動機付けは、それぞれのボードメンバーが持つ正義感や美学などに依存せざるを得なくなります。縮小均衡局面にある事業は低収益であるがゆえ、いかに今を乗り切るかが定常的な課題となり、その長年の積み重ねが未来傾斜型の経営を難しくしています。
近年は「中長期的に持続する企業」の担保としてESG経営やSDGs経営が提唱され、地球全体の未来を良くする経営の動機付けは整いつつあります。他方で企業内の将来世代のために投資する動機付けは途上段階です。「中長期的に持続する企業」の定義については、ESGやSDGsの枠に留まることなく、今後も継続的に議論することが必要であると考えます。
{{item.text}}
{{item.text}}