エッセンシャルビジネスの再興支援 第3回 中長期的に取り得るポジショニングの明確化

2022-09-01

はじめに

縮小均衡局面にある事業の需要は右肩下がりの傾向にあります。取引関係は固定的で、売上を伸ばすことは限られたシェアを奪うことにつながり、競合が対抗することで消耗戦に陥りがちです。他方で、供給側がシュリンクする可能性もあります。供給側に中堅・中小企業が多く、経営者の高齢化および後継者不足、赤字の慢性化といった課題があるためです。

国・地域の住民・産業にとって不可欠なエッセンシャルな事業でありながら、縮小均衡局面に入った事業に焦点を当て、その再成長のあり方について検討する連載「エッセンシャルビジネスの再興支援」。第3回となる本稿では、縮小均衡局面にある事業の将来性を検討することの重要性について論じます。

来たる業界再編に向け、取るべきポジショニングを明確化

このような業界構造を踏まえると、「今の事業を継続し続けて残存者利益を狙う」という戦略では勝ち筋は見えにくく、当該業界での成長を真剣に目指すならば、業界構造自体を能動的に変えるべく、業界再編を引き起こすことが不可欠です。成長の仕方として想定されるパターンを下記に示します。

吸収合併を進める上での注意点:

同業他社の吸収合併を進め、業界最大手としてのシェア獲得を目指すケースが考えられます。縮小均衡局面にある業界において、シェアの高さは川上・川下企業に対する高い交渉力、規模の経済、顧客への顕示効果、ブランドにつながり、優位な立場をもたらします。

なお、同業他社の吸収合併を進める上では、「業界内でエクスポジャーが高くなることの回避」「吸収合併を進める上での資金調達」が課題となります。またシェアが高まりすぎると独占禁止法に抵触する可能性もあり、留意が必要です。

独占・寡占の回避:

最大手となることによるシェアの独占・寡占を防ぐため、川上・川下の企業と一定の取引関係を継続することで生き残るケースが考えられます。この場合、単なる取引関係を継続するのみならず、資本を受け入れて一体運営を目指すことも視野に入ります。

川上・川下企業のグループ会社となることで、事業に安定性がもたらされるとともに、親会社の人材・ネットワーク・ブランド・他経営資源およびそれに紐づく資金調達力を活用した成長が期待できます。他方で川上・川下の企業においては、当該事業の出資に対する「投資対効果の有無」「連結是非」などが課題となりがちです。また閉鎖的な業界においては、異業種受入に伴う「業界内でのエクスポジャー悪化」も論点となり得ます。

生業として残存:

業界内での大々的な成長を目指さず、従業員・顧客・取引先・地域との関係性維持を最優先事項として、生業ビジネスとして残存するケースが考えられます。非上場であり、かつ株主が関係者に限られている中堅中小企業にとっては、こうした選択肢も一般的です。

他方で上場企業においては、こうしたスタンスを取る場合、対外的な説明が求められます。少なくともWACCをROICが上回るだけのコスト削減策を実行し、当該事業内でキャッシュを創出することで、それを当該事業の成長に投資し、事業内循環を実現する必要があります。実際に、他事業で得たキャッシュを当該事業の存続のために使うケースも見られます。

撤退または売却の判断:

業界内での勝ち筋が見えない場合、自供の継続をあきらめて当該事業を売却することも選択肢の1つとなります。

その際、低利益かつ赤字であること、債務が紐づいていること、過剰な人材や老朽化した設備やシステムを抱えていることなどから、事業価値はほぼゼロとなる可能性があります。少しでも高値で売却できるよう、売却前に事業構造整理、債務返済、利益捻出を行うべきでしょう。

異業種連携を通じた新たなマネタイズ:

業界構造の将来的な変容に着目し、先手を打つ姿勢も必要です。

例えば縮小均衡局面にある業界において、後継者不足による事業承継を見越して金融機関・M&A仲介業界のプレイヤーが参入してくる可能性が考えられます。人手不足は人材派遣業、省人化を目指したファクトリーオートメーションやロボティクスの導入には通信ハイテク業といったように、異業種の参入機会は至る所に存在します。

ノウハウ・知見・実証実験などの提供を通じてこれら異業種と連携し、新たなビジネス・マネタイズの機会を獲得することも期待できます。

図3 中長期的に取り得るポジショニング 概要

最後に

縮小均衡局面にある事業の経営者にとっての悪手は、「大した根拠もなく、残存者利益獲得を錦の御旗として現状維持を続けること」です。残存者利益獲得は容易ではありません。需要が右肩下がりの供給過多状態から抜け出すには業界再編が必要です。また、この需要が右肩下がりの見通しの中においては、自事業は中長期的にどのポジションを取るかを定めることが必要であり、そのポジションの獲得に向けて能動的に準備を進める姿勢が求められます。

主要メンバー

岡山 健一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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