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2022-08-25
企業において、「祖業である」「かつての収益の柱である」「社内の思い入れが強い」などの理由により、低収益で縮小均衡局面にあるものの抜本的な改革の手が打たれることなく、継続している事業がしばしば見られます。改革を行うということは雇用問題にも直結しかねず、川上・川下企業の圧力など複雑な問題を引き起こすことにつながる可能性があることから、二の足を踏む経営者も多いと推察されます。赤字事業であればさておき、少ないながらも利益を生み出し続けていることも、現状維持を後押ししています。
薄くとも利益をあげているということは、事業を継続する最低ラインはクリアしていると言えます。
しかし投資家の視点から見た場合、事業の存続は大前提であるものの、加点項目にはなりません。投資家は、複数の投資案件から最も収益性が高くなるポートフォリオを組成するため、他の投資案件の収益性をその投資案件の機会費用と見なしています。そのため、「利益が出ていること」だけでは良しとせず、機会費用を上回る「超過利益が出ている(または出ると期待される)こと」を重視しています。
すなわち、超過利益が出ていない事業は企業に資金調達の制約を課し、長期的な成長機会を阻害し、企業の成長期待を下げるという悪循環をもたらしかねません。
企業価値については多角的な見方があります。長年の間接金融中心の資金調達は、企業の株価への注意力を劣後させてきました。しかしながら、現在は直接金融による資金調達環境が整備され(コーポレートガバナンスコードの整備など)、そのシフトが進んでいます。
この傾向を捉えると、単に利益をあげるだけでなく「超過利益」を創出する、または創出を期待させることで初めて、資金調達力の強化、成長機会の拡大、成長期待の向上をもたらし、「企業価値向上に貢献している」と言えるのではないでしょうか。
「超過利益」はどのように見るべきなのでしょうか。
伊藤邦雄氏を座長とした、経済産業省の「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト」の最終報告書において、ROE8%が一般的な資本効率性の目標水準として示されてから久しいですが、ROEが8%を上回ることを推奨するということは、株主資本コストという株主の機会費用が8%ということを意味しており、これを越えることでその企業に「超過利益」が生じていることを示しています。
しかし、ROEは株主に対する会社としての目標に他ならず、事業運営上は、これを事業側の目標に転換する必要性があります。近年では財務レバレッジの影響を受けずに、事業側で利用しやすいROIC(投下資本利益率)を用いることで資本効率性を測定する動きが広がっています。
ROICがWACC(加重平均資本コスト)を上回っていれば、大抵の場合はROEが株主資本コストを上回っており、「超過利益」を創出していると言えるのではないでしょうか。
縮小均衡局面にある事業に視線を戻します。このような事業には「非効率かつ薄利であるが、利益は出ている」「業界・雇用・取引先・退職者からの支持が強く、定性的な大義がある」などの特徴があり、事業を継続させる理由は多々あるものです。「経営戦略に適合しているか」「収益性はあるか」という2軸で事業性評価を行った場合、かなり微妙な立ち位置にあるものの、明確な撤退判断まではできないケースが大半です。
他方、その事業が株主から見て本当に継続すべき事業であるか、という観点には目が向けられて来ませんでした。上述の通り、「ROICとWACC」の比較を通じ、当該事業を継続することが株主の視点からも正しいかどうかを見定めることは、特に上場企業では存続に関わる重要な問題です。
「ROICとWACC」の比較による事業の評価は、将来予測も踏まえて検討する必要があります。例えば、現時点で事業のROICがWACCを下回り、現状は企業価値を押し下げる要因となっている場合でも、そのリカバリが現実的であれば将来的に企業価値向上に貢献するでしょう。一方で、現時点では事業のROICがWACCを上回っていたとしても、市場の縮小が見込まれ、収益性の悪化が見込まれる場合は企業価値の毀損につながりかねません。
将来的な売上向上・コスト削減などのポテンシャルを見た上で、その事業に挽回のチャンスがない場合、「当該事業は現行の延長線では企業価値を毀損している」という立ち位置にあると結論付けられるのです。
縮小均衡局面にある事業を継続すべき大義名分は必ず存在します。市場価格の安定や雇用確保はその典型例です。他方で、これらの大義名分を盾に企業価値を毀損し続ける事業を継続することは、営利企業としての存在要件を満たせていないと言えます。
外部環境が硬直的であるため、既存の延長線上で改善施策を講じてもその効果は限定的です。大義名分に配慮しつつ、価値を向上させるには抜本的な改革が必要であり、その羅針盤となる中長期戦略が必要です。
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