エッセンシャルビジネスの再興支援 第2回 縮小均衡局面にある事業の立ち位置評価

2022-08-25

はじめに

企業において、「祖業である」「かつての収益の柱である」「社内の思い入れが強い」などの理由により、低収益で縮小均衡局面にあるものの抜本的な改革の手が打たれることなく、継続している事業がしばしば見られます。改革を行うということは雇用問題にも直結しかねず、川上・川下企業の圧力など複雑な問題を引き起こすことにつながる可能性があることから、二の足を踏む経営者も多いと推察されます。赤字事業であればさておき、少ないながらも利益を生み出し続けていることも、現状維持を後押ししています。

縮小均衡の事業こそ「超過利益」の有無を確認すべき

縮小均衡局面にある事業に視線を戻します。このような事業には「非効率かつ薄利であるが、利益は出ている」「業界・雇用・取引先・退職者からの支持が強く、定性的な大義がある」などの特徴があり、事業を継続させる理由は多々あるものです。「経営戦略に適合しているか」「収益性はあるか」という2軸で事業性評価を行った場合、かなり微妙な立ち位置にあるものの、明確な撤退判断まではできないケースが大半です。

図2 事業性評価の軸 全体像(一例)
図3 事業性評価の結果イメージ(一例)

他方、その事業が株主から見て本当に継続すべき事業であるか、という観点には目が向けられて来ませんでした。上述の通り、「ROICとWACC」の比較を通じ、当該事業を継続することが株主の視点からも正しいかどうかを見定めることは、特に上場企業では存続に関わる重要な問題です。

「ROICとWACC」の比較による事業の評価は、将来予測も踏まえて検討する必要があります。例えば、現時点で事業のROICがWACCを下回り、現状は企業価値を押し下げる要因となっている場合でも、そのリカバリが現実的であれば将来的に企業価値向上に貢献するでしょう。一方で、現時点では事業のROICがWACCを上回っていたとしても、市場の縮小が見込まれ、収益性の悪化が見込まれる場合は企業価値の毀損につながりかねません。

将来的な売上向上・コスト削減などのポテンシャルを見た上で、その事業に挽回のチャンスがない場合、「当該事業は現行の延長線では企業価値を毀損している」という立ち位置にあると結論付けられるのです。

図4 事業別ROICとWACC分析イメージ

最後に

縮小均衡局面にある事業を継続すべき大義名分は必ず存在します。市場価格の安定や雇用確保はその典型例です。他方で、これらの大義名分を盾に企業価値を毀損し続ける事業を継続することは、営利企業としての存在要件を満たせていないと言えます。

外部環境が硬直的であるため、既存の延長線上で改善施策を講じてもその効果は限定的です。大義名分に配慮しつつ、価値を向上させるには抜本的な改革が必要であり、その羅針盤となる中長期戦略が必要です。

主要メンバー

岡山 健一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

本ページに関するお問い合わせ