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PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 髙野 修一
エンタテイメント&メディア(E&M)業界では、制作から流通、ファンコミュニティの運営までを一貫して行う「垂直統合」への動きが加速するなど、ビジネスモデルの大きな転換期を迎えています。PwCのプロフェッショナルは、クライアントと一緒に議論し、その実現に貢献していきたいという熱い想いを抱いています。
インタビュー企画の第9回に登場するのは、さまざまな業界でビジネスを支える裏側の仕組みを構築し、企業体制の変革を支援してきたPwCコンサルティング合同会社ディレクターの髙野修一。製造業や通信など幅広いプロジェクトで経験を積み、現在はE&M業界を中心とするコンサルティング業務に従事しています。「日本のプレイヤーが再び世界で強くなれるような戦略支援を行う」という志を持つ髙野に、同じくE&Mを専門とする同社アソシエイトの水澤爽が、IPホルダーがゲーム事業を手がけるメリットや、企業経営における「サイエンス」の必要性について聞きました。
登壇者
PwCコンサルティング合同会社
TMT E&M ディレクター
髙野 修一
インタビュアー
PwCコンサルティング合同会社
TMT E&M アソシエイト
水澤 爽
※所属法人名や肩書きについては掲載当時の情報です。本文中敬称略
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 髙野 修一
水澤:
髙野さんはPwCで活躍されて11年目ですが、コンサルタントを志したきっかけは何だったのでしょうか?
髙野:
2008年のリーマン・ショックがきっかけでした。金融危機によって多くの日本企業が苦しむ姿を目の当たりにし、「どうすれば日本企業を強くできるか、その成長を支援できる仕事は何か」と考え抜いた結果、翌2009年に新卒でコンサルティングファームに入社しました。
水澤:
その後、2015年にPwCコンサルティングへ転職したというわけですね。これまでさまざまな業界の変革を担ってこられたかと思いますが、具体的にはどのような業界を担当されてきたのでしょうか?
髙野:
メインは製薬会社や医療機器メーカーなどのライフサイエンス・製造業分野です。それ以外にも、例えば不動産業界や通信会社におけるロボットの市場投入戦略なども担当しました。単なる戦略立案にとどまらず、商流や物流といった、ビジネスを支える裏側の仕組みをクライアントと伴走しながら構築してきました。
水澤:
そうしたキャリアを経て、現在はエンタテイメント&メディア業界のコンサルティングにも深く携わっていますね。他の業界と比較して、E&M業界にはどのような違いや特徴を感じますか?
髙野:
まず何より、広告や映画、アニメ、漫画といったコンテンツを生み出すクリエイターの方々の、作品にかける想いや熱量の凄まじさに日々刺激を受けています。
ビジネス的な特徴としては、この業界は非常に属人化している点が挙げられます。とはいえ、すべてをシステム化すればいいわけでもありません。個々の社員の力量が発揮されやすい領域と、徹底的に効率化すべき領域がある。この両者は切り分ける必要があるとも感じています。
水澤:
E&M業界においては、国内の市場を見ると、まだ比較的小さなスケールで事業を行っている企業が多いのが現状です。それだけに、戦略面などで成長できる余地がかなり残されているようにも思えます。この点について、髙野さんはどのように見ていますか?
髙野:
変革の余地は大いにありますし、私たちの支援に対する期待の高まりも強く感じています。
かつては外部の手を借りずに自社内で完結させる風潮の強かった業界ですが、現在は企業が「垂直統合」へと舵を切る大きな転換期を迎えています。
単にコンテンツを「制作」するだけでなく、それを届ける「流通」、さらには「ファンコミュニティの運営」までを一貫して手がけるような、これまでにないバリューチェーンや業務機能を自社組織に組み込む動きが加速しています。
企業にとっても未知の領域への挑戦だからこそ、戦略の策定やオペレーション構築の面で、私たちのノウハウへの期待が高まっているのだと思います。
水澤:
垂直統合を進められるのは、やはり既存の大手企業が中心になるかと思います。そうしたなかで、例えばゲーム市場において、大手以外のプレイヤーはどのように市場へ食い込んでいくべきだとお考えですか?
髙野:
おっしゃる通り、大手企業や巨大プラットフォーマーは、多大な資本と時間を投入して独自のエコシステムを築き上げてきた歴史があり、圧倒的な強さを持っています。
その結果、そこに抗いきれない中小のゲームデベロッパーなどのプレイヤーからは、「良い作品を作っても流通させられない」「思うようにマネタイズができない」という声が多数聞こえてくるのが現状です。
この課題を乗り越え、持続可能な仕組みをどう作っていくかが今、非常に重要になっています。
例えば、既存のルールを覆すような次世代のプラットフォーマーを目指す企業を育てるのか。あるいは、独立系企業同士が強固なネットワークを組むことで、大資本に対抗していくのか。
海外の巨大IT・ゲーム企業と比較しても、現在の日本には世界で勝ち続けられるリーディングカンパニーは、ごく一握りを除いてほとんど存在しません。だからこそ、一部の勝ち組だけでなく、国内の多様なプレイヤーが再び世界で強くなれるような、多角的な戦略支援を行っていきたいと考えています。
PwCコンサルティング合同会社 アソシエイト 水澤 爽
水澤:
そうした状況のなか、最近は強力なIPを持つ企業が、自社系列のゲーム会社を立ち上げて参入するケースが増えています。IPホルダーが自らゲーム事業を手がけるメリットはどこにあると思われますか?
髙野:
ゲームがヒットすれば、当然ながら多くのユーザーを獲得できますし、マネタイズの面でも非常に大きなリターンが期待できます。ただ、それは一つの見方でしかありません。
本質的な価値は、「IPとファンとの顧客接点」にあります。
IPを伝えるメディアの特性を考えてみると、例えば、映画、アニメ、書籍においては、それぞれの公開頻度や公開期間があり、ファンがそのIPに直接的かつ継続的に触れる機会は、実はそれほど多くありません。
一方、例えばゲームは日常的にプレイしてもらえるため、ファンがIPに触れる頻度が圧倒的に高いという見方もできますよね。生活の中で「常に寄り添うようなIP」へと育てていける。この点こそが、IPホルダーがゲーム事業を持つ最大のメリットではないでしょうか。
水澤:
顧客接点を増やす意味では、多角的な動線のデザインも重要ですよね。最近では、中国のトイブランドが K-POPアイドルのSNS投稿をきっかけにバズったように、チャネルや二次利用の展開を仕掛けておくことが認知の起点になります。映画の宣伝会社でアルバイトをしていた頃、「とにかく5回、その作品の情報に触れてもらう」というノウハウを教わりました。やはり、接点の多角化こそが重要だと感じます。
髙野:
非常に興味深いですね。一方で、多くのエンタメ企業のプロモーション手法は、いまだに従来型から脱却できていません。公開直前に広告費を一気に投入してマス認知を獲得しにいくモデルや、「書籍→テレビドラマ→劇場版」などといった定番の動線から抜け出せていない。もっと多様なアプローチがあっていいはずです。
今の時代、エンタメ企業が持つべきケイパビリティとして、多角的な媒体の中に「ゲーム」が抜け落ちているというのは、IPに触れ、親しんでもらう機会が減ってしまうリスクとも捉えられます。自社でゲーム事業を持っていなかったとしても、持っている会社とどう提携するかを考えるべきでしょう。
水澤:
強力な自社IPを持たない事業者であっても、独自のコンテンツを作って成長していきたいと考えるケースは多いと思います。その場合、どのような考え方が必要になるでしょうか?
髙野:
「何らかのIPを持っていたほうが経営の選択肢が増えて安定しやすい」というのは、業界の暗黙の了解としてある気がします。今後はAIを活用するなど、中小も含め、どんな形であれ、自社IPを生み出すことにトライする企業が、生き残りをかけて間違いなく増えていくと思います。
たとえ自社でIPを持っていない場合でも、他社から借りてくる交渉力がこれからの重要な武器になります。そして、手に入れたIPをこれまでとはいかに違う形でユーザーに届けられるか。その新しい動線を作ること自体が、これからの一つの価値になっていくでしょう。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 髙野 修一
水澤:
私は個人的に、エンタメ企業の成長戦略には「3つの変数」があると考えています。1つ目は、「自社IPか、他社IPか」。2つ目は、「新規IPか、既存IPか」。3つ目は、「既存事業か、新規事業か」。この3つの変数をどう掛け合わせるかで、事業の持続的な成長を作ることができるのではないかと。
髙野:
面白い視点ですね。もう少し具体的に伺えますか?
水澤:
例えば、アニメーションスタジオの成長プロセスは、この3つの変数の掛け合わせで実現します。まず、下請けの制作会社としてスタートしたスタジオが、次のステップとして「元請け」になる。これは「他社IP×新規(or既存)IP×既存事業」の形です。
次に、自社オリジナルのアニメを作る段階になると、「自社IP×新規IP×既存事業」になります。
さらにその先は、製作委員会に出資して窓口権を取得し、アニメ制作機能しか無かった会社がライツ事業部を持つことで二次利用ビジネスを展開するようになる。つまり「自社IP×新規IP×新規事業」によって、自らビジネスを生み出す存在へとシフトしていく。これが掛け合わせによる成長モデルです。
髙野:
なるほど。私は前職で製造業や通信業界の支援も行っていましたが、例えば医療機器メーカーのグローバルプロジェクトなどでは、商品を企画・発売する段階で、需要予測をしっかり行い、徹底した販売・生産計画を敷きます。
ところがE&M業界では、こうした事前の予測がいまだに困難な部分があります。既存作品のシリーズものであれば過去の実績からある程度読めますが、新規作品がヒットするかどうかは、どうしてもア・ショット・イン・ザ・ダーク(当てずっぽう)にならざるを得ない側面があります。
もう一つの大きな課題は、ポートフォリオを組むうえで不可欠な「いくら投資したら、いくら儲かるか」というROIの可視化です。IP単位の管理会計やコンテンツ管理会計の仕組み自体は概念として存在しますが、これを実際に運用できているエンタメ企業には滅多に出会えません。
背景には、業界特有の「製作委員会方式」があります。権利や収益の分配ルートが複雑に分散しているため、例えば「IP全体としては大ヒットしているのに、自社の商材(グッズやゲームなど)の売り上げにはつながっていない」といった部分最適が起きやすい。これでは合理的なポートフォリオを組めません。プロダクトやサービス、IPに対する「投下資本」と「リターン」をクリアに見える化する仕組みづくりが、今まさに求められていると感じます。
水澤:
アニメ制作会社の場合は、収益還元まで長い年月がかかることもあります。ただ、そのような作品でも長く愛されるIPになれば「自社のブランディング」という見えない資産になり、未来の作品受注の交渉力にもつながります。
定性的なブランド価値の数値化は困難ですが、収益と制作費の予実管理は可能です。ただ、どんなIPもほぼ例外なく「滑り台状」の収益曲線を描きます。大半の作品はリリース直後の「初速」が最も高く、時間とともに収益は落ちていく。例えば「1周年イベント」といった施策で山を作ったとしても初速には届かず、繰り返すほど上がり幅はしぼんでいきます。だからこそ、初速をいかに最大化するかが重要だと考えます。
髙野:
もし同時に10作品を運用するとしたら、それぞれの初速が来るタイミングを時間軸のなかでずらしながら、全体のポートフォリオを管理することになりますね。収益が落ちていくフェーズでどれだけ追加投資を維持するのか、あるいは山が来た瞬間に資本を集中投下するのかなど、時間軸を組み込んだポートフォリオ戦略が必要になります。
水澤:
おっしゃる通りです。また、初速がどの程度になるのか、その後どれほど落ち込むのかは業界のプロでも予測できません。大きく資本投下して再度盛り上げるならシーズン2(続編)の放送が効果的ですが、人気が限定的な作品の場合は「放送5周年」などの記念イベント開催といった単発的な施策のみに留まるケースもあります。現状は結果論で数字の推移を見てその辺りの判断をしているのが実情ですが、早期に高精度で先々の収益を予測できれば経営判断の質は向上すると考えます。そういった領域も将来的に支援できるといいですね。
髙野:
これまで、作品の企画や結果の予測は、個人の感性に頼る「アート」の世界とされてきたように思います。
しかし、私たちはそこを「サイエンス」でも捉えられるようにしていきたい。数字で可視化し、施策の成果を構造的に把握できる状態にする。そうしたデータ主導のアプローチを取り入れることで、客観的な視点から経営資源の最適化を支援していきたいと考えています。
(左から)髙野 修一、水澤 爽
水澤:
最後になりますが、そうしたノウハウを用いて、今後、業界の企業やクリエイターたちにどのような形で価値を還元していきたいですか?
髙野:
今、業界内でM&Aや業務提携による組織構造の再編が活発化しています。それにともなって発生する人事制度、会計、IT、セキュリティなどの複雑な課題は、まさにPwCコンサルティングが統合的に解決できる領域です。
ただ、私たちの本当の狙いはその先にあります。「もっといい作品を世界に届けたい」「ファンを増やしたい」という企業の志に対し、業界全体の構造的な非効率を、外部の視点から解決していくことです。
E&M業界には、強い想い入れのある作品を世に送り出したいという方々がたくさんいます。その方々の想いに寄り添いつつ、背中を押せるコンサルタントになりたいと思っています。
正直、作品がヒットするかどうかは誰にも分かりません。しかし、作り手の想いが少しでも多くの人に届くための「仕組み」を作ることはできます。それが資金調達なのか、企業提携なのか、あるいはディストリビューションの改革なのか。
PwCコンサルティングの多様な視点とケイパビリティを活かし、作り手の皆さんが真っ先に想いを相談できるような、そんなファームやチームであり続けたいと思っています。
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