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デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は、生成AIなどのデジタル技術の進化によってますます重要性を増しています。特に、新薬開発という極めて複雑かつ時間を要するプロセスがある製薬企業のR&D領域は、DX推進が非常に重要な意味を持ちます。
生成AIを含むデジタル技術は近年、企業の業務においてもその活用が進んでおり、PoC(概念実証)や要件定義などを経て実際のサービス開発に至るケースが増加しています。本コラムでは、製薬企業のR&D領域を対象に、実際に組織をリードする、あるいは業務に携わる製薬企業17社40名に対しPwCコンサルティングが実施した「DX推進に関するアンケート」結果をもとに、DX推進の成果と課題、DX推進チームに求められるケイパビリティについて解説します。
調査概要
PwC Japanグループは、製薬企業のR&D領域におけるDX推進状況について、内資/外資製薬企業19社を対象に、2025年4月にWebで調査を実施し、17社から回答を得ました。
調査方法
対象:内資/外資製薬企業
案内送付数:19社
回答協力者数:17社40名
回答協力率:89%
実施期間:2025年4月14日~4月30日
新薬開発には基礎研究、臨床試験、規制当局の承認などのプロセスを経るため、通常10年以上の期間と多額のコストを要します。
一方で、最終的に承認に至る確率は非常に低く、約3万分の1とされており、新薬開発に要する期間を短縮し成功確率を高めることは、製薬企業にとり、長年の課題でした。
生成AIやその他のデジタル技術の活用は、リード化合物の選定のスピードを向上させ、臨床試験の設計を最適化することを可能にします。また、データ解析の自動化と予測モデリングにより治験期間やコストを削減し、プロジェクトの進行管理の効率化も実現可能です。
図表1:R&D領域のDX推進成果(n=40 複数回答)
実際にアンケートでR&D領域におけるDX推進の成果として重視する項目に関する質問では、「研究・開発期間の短縮」との回答が85%、「従業員の生産性向上」との回答が77%にのぼりました。デジタル技術を活用することで、研究成果を迅速に実現する体制を整え、最終的に市場投入までの期間・コストを削減する効果が期待されていることが分かります。しかしながら、その達成度については、いずれの項目においても「3(成果は見え始めているが道半ばである)」未満であることから、DX推進による成果の刈り取りはまだ道半ばと言えます。
また、個人に焦点を当てた「従業員の生産性向上」は、達成度が2.6と比較的成果を上げやすいことが解ります。一方「研究・開発期間の短縮」の達成度は2.2にとどまりました。「研究・開発期間の短縮」には組織横断的なプロセスを伴うため、一朝一夕に成果を体感することは難しいことが数値に表れた結果といえます。
したがって、「研究・開発期間の短縮」に代表される、全社に関わるより本質的な課題解決を実現するためには、組織全体を通してDXを推進するIT/DX部門との連携が必要不可欠と考えられます(図表1)。
R&D領域においてDX推進を加速させるためには、R&D部門とIT/DX部門のコラボレーションが不可欠になります。そこでそれぞれの相手部門への連携満足度に関する質問をしたところ、5段階評価でR&D部門が2.0、IT/DX部門が3.4と、いずれから見ても満足度が高いとは言えない状況にあることが明らかになりました(図表2)。
図表2:R&D部門とIT/DX部門の連携(n=39)
また、相手部門への期待度と満足度について、項目別に聞いたところ、R&D部門は満足度が低い項目が多い一方で、IT/DX部門は満足度が中程度の項目が多数を占めました(図表3)。この項目別の満足度の違いが、R&D部門とIT/DX部門の連携満足度の差となって表れていると考えられます。
R&D部門は、DX推進の重要性を指摘されており、IT/DX部門との連携に高い期待を抱いていることが想定されます。一方でIT/DX部門は、他部門でのDX推進の経験から、その実現が容易ではないことを認識しており、R&D部門に対して現実的な期待値を持つ傾向があるという背景が満足度の差に反映されていると推察されます。
図表3:DX推進プロジェクトにおける相手部門への期待
図表3は、両部門のコラボレーション促進のインサイトを得るために相手部門への期待と満足度のアンケート結果を可視化したものです。
R&D部門は、IT/DX部門に対して、「技術で解決できる課題の特定・発見に向けた相談(期待度55%)」「新しい技術とその活用方法の紹介(同44%)」という項目に高い期待度を示しており、「技術的な情報提供」を求める傾向があります。また、「部門を跨いだ社内横展開の情報共有(同44%)」にも期待しています。これらの期待に対し、「技術情報の提供」については一定の満足度が得られていますが、「部門を跨いだ社内横展開の情報共有」の満足度は低く、部署横断での技術導入支援には改善の余地があると言えます。
開発や研究を担うR&D部門の業務は、専門性が高く複雑な部分があります。そうしたR&D部門各部署の具体的な業務について、IT/DX部門が理解するのは容易ではないと言えます。業務への十分な理解が困難なことにより、課題解決のための議論を深いレベルで行うことができず、結果としてDXを実装するにあたり、その技術要件が表面的な機能に留まってしまう可能性が考えられます。その結果が、部署を横断した技術導入支援の満足度の低さにつながっていると想定されます。
一方でIT/DX部門はR&D部門に対して「インパクトの高いユースケースの特定」を期待しています。インパクトに対する仮説設定や評価を正しく行うことができれば、PoCがスムーズに進み、結果としてDX推進に寄与します。しかし、R&D部門から見ると自部門の課題特定は可能であるものの、R&D部門単独では技術的な情報を踏まえた課題の解決策やそのインパクトの大きさの判断は難しく、実現できないケースが多いと推察されます。この点が、期待度と満足度のギャップを生じさせる要因になっていると考えられます。
こうした両部門の溝を埋め、R&D領域におけるDX推進を加速させるためにはR&D部門とIT/DX部門の橋渡しを担う役割が必要と言えるでしょう。
最後にDX推進を加速させるために、課題である両部門の溝を埋め橋渡しを行う人材に必要なケイパビリティについて考察します。
独立行政法人 情報処理推進機構はDXを推進するために「ビジネスアーキテクト」、「データサイエンティスト」、「サイバーセキュリティ」、「ソフトウェアエンジニア」、「デザイナー」の5つのケイパビリティの重要性を提唱しています。これらの5つの役割は一方向に指示・実行する形ではなく、協働関係を構築し、連携することが重要です。
図表4:「DX推進スキル標準」人材類型の定義
出典:独立行政法人 情報処理推進機構, 「デジタル人材の育成 - DX推進スキル標準(DSS-P)概要」
それぞれのケイパビリティについて記載した図表4を見ると、DX推進チームとしてデータサイエンティスト、サイバーセキュリティ、ソフトウェアエンジニア、デザイナーの4つの役割が必須であることは容易に理解できます。一方で、ビジネスアーキテクトの役割はしばしば見過ごされることがあります。ビジネスアーキテクトは「責任者」とは異なるレイヤーにあり、メンバー間の協働関係を土台から支える役割を担います。「実現したいこと」を達成するための一連のプロセスを推進するために、各役割/部門間の連携を構築し、双方の歩み寄りを促すための重要な位置づけです。
製薬企業においても、DX推進を加速させるためには、今回のアンケート結果において明白となったR&D部門とIT/DX部門の連携促進を推進する人材、部門が必要といえます。それを担う人材・部門には、ビジネスアーキテクトのケイパビリティが必要であると考えられます。
生成AIを含むデジタル技術の進化によって、企業の内部業務をデジタル化する動きは今後も加速することが予想されます。しかし、適切なケイパビリティを持つチーム組成ができない場合、目に見える成果を得られないリスクがあります。また、関係部署の連携と責任者の設定という観点だけではなく、チーム内のケイパビリティとして5つの役割を担うメンバーを確保することも重要です。
DX推進の成果を目に見える形で得るには、製薬企業においてもビジネスアーキテクトを含む5つのケイパビリティ・役割を意識したチーム体制、組織づくりが必須といえるのではないでしょうか。
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