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2023-02-17
鼎談者
株式会社セールスフォース・ジャパン
常務執行役員 公共営業本部長
今井 早苗氏
デジタル庁
企画官
大平 利幸氏
農林水産省
大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官
信夫 隆生氏
PwCあらた有限責任監査法人
パートナー
辻 信行
モデレーター
PwCコンサルティング合同会社
Government&PublicServices シニアマネージャー
片桐 紀子
※本文敬称略
※法人名・役職などは対談時(2022年12月)のものです。
左から)片桐 紀子、今井 早苗氏、大平 利幸氏、信夫 隆生氏、辻 信行
片桐:
行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めていくためには、システムの内製化を進めるのも重要な要素の1つです。農林水産省共通申請サービス(eMAFF)の開発に携わったメンバーを含め、農林水産省内では内製化への職員育成にどう取り組んでいるのでしょう。
信夫:
デジタル人材育成のためのさまざまな研修を用意しています。例えば、民間のオンラインサービスを利用して、情報処理技術の国家資格であるITパスポート試験の講座は累計660人、基本情報技術者試験講座は同95人、応用情報技術者試験講座は同20人、情報セキュリティマネジメント試験講座は同60人が受講しています。eMAFFの担当職員から、早朝・深夜や休日に勉強の時間を割いて資格を取った話を聞き、これを美談で終わらせてはならない、組織として研修の機会を用意するべきだと考えました。よりレベルが高い知識を得られる研修も職員からのニーズを把握して企画していきます。
今後力を入れていきたいのは、クラウド利用が当たり前になっていく中、クラウドサービスをどう使いこなせば効果的なのかを学習する機会です。
気を付けないといけないのは、勉強すること自体を目的にしないということです。勉強して資格を取っただけでは仕事の成果に結びつきません。研修で学んだ知識を生かして、ITベンダーなどの方々と一緒に仕事をする中で実践的な技術やノウハウを身に着けていくことが重要です。
農林水産省
大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官
信夫 隆生氏
1991年農林水産省入省。産業連携課長、内閣官房内閣参事官(官邸)、大臣官房政策課長などを経て、2019年7月~2022年12月まで同省のデジタル化を推進した。デジタルの力で消費者に新たな価値を創造・提供できる農業(FaaS)の実現を目指す。2023年1月から関東農政局長に就任。
デジタル庁
企画官
大平 利幸氏
2003年、デジタル化による行政改革を志し、総務省に入省。以後、業務・システム最適化、情報システム整備等標準ガイドライン、デジタル・ガバメント推進方針等デジタル化の方針・計画に関与。内閣官房、内閣府、消費者庁、愛媛県西予市に出向し、組織・業務・システム改革等にも貢献。
大平:
デジタル庁では国家公務員への情報システム統一研修を実施しています。受講者は年々増えています。ただ、受講した結果が現場で生きるのか、というのは正直まだ手探りであり、職員が現場に出て、肌で感じて、物事をうまく回す経験を積むことが大事になります。これとは別に、デジタル庁の中では毎日のように何らかの研修をしています。中には他省庁にも声をかけて輪を広げようとの動きが自然発生的に起きています。
信夫:
私のところでは、PMO(Portfolio Management Office)の職員を中心に、みんなで「デジタル人材」に必要なスキルの種類と習熟度をマトリックスにして体系化し、可視化しています。そこで見えてきたのは、システムやセキュリティ、ITマネジメントなどの知識を習得する機会や資格は民間にもたくさんあるのですが、より実践的なスキル、例えばデータマネジメントやデータサイエンス、ビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)、EBPM(証拠に基づく政策立案)などの技法を学び、資格をとり、試す機会が比較的少ないということです。もちろん、これらのスキルはOJTで身に付いていくものでもありますが、OJTに加えて、学んだスキルや新しいツールを実験的に試せる「サンドボックス」もあるといいな、と思います。自ら応用を利かせられる環境を整えていくことが効果的ではないでしょうか。
辻:
デジタル化に対し、やる前から厳格なルールを強いるようだと前に進みません。ある地点までは自由に、サンドボックスのような場でやってもらう。試して試して「これはいいんじゃないか」となったときにルールを整えていく方法じゃないとなかなか進まないですよね。できない習慣を変革する力も組織運営には欠かせません。一方、自由にやりすぎると、思いがけないリスクに晒される事態に陥ります。PwC Japanグループとして、利便性とガバナンスのバランスの最適解を探るサービスを今後も提供していきます。
楽しみながら大人が学べる機会をもっと根付かせたいですよね。今、子供向けのプログラミング教室がたくさんありますが、子供たちが解いている課題を大人に与えると、周りと話すことなく、個人で最適解を導き出そうとします。一方、子供たちは、楽しみながら色んなアイデアを次々に出すんです。問題に関係ないことも楽しそうに。これが面白く、刺激を受けました。
信夫:
興味を持って面白いと感じるのはとても大事ですね。その上で、面白いと思って始めたことを継続するには目標が必要です。そして、目標をクリアして目的を達成することで「人のために役に立つ」という実感を得られることが大事です。前編でお話しした「厚さ50センチのファイル」の事例はその象徴です。申請書類を減らす手立てを、頭を柔らかくして考え、身に付ける。これだけ減らそうという目標を立て、実行し、達成したら人から感謝され、スキルを身に付ける意欲がまた湧く。こうした好循環が回り始めれば、組織文化や風土が変わるきっかけになるのではないでしょうか。ルールを決めるだけでは組織文化は変わりません。行動して初めて気づくことがあります。年齢や役職は関係ありません。
PwCあらた有限責任監査法人
パートナー
辻 信行
金融機関、航空会社やテクノロジーをベースとしたスタートアップなどに対して、ITガバナンス、デジタル戦略の立案、プロジェクトアシュアランス、サイバーセキュリティ、ビジネスレジリエンスに係るサービスを幅広く提供している。
辻:
顧客接点を持つ従業員が、(複雑なプログラミングが不要な)ローコード開発、(プログラミングの知識が要らない)ノーコード開発ができるようになれば、自分たちのつくったシステムが顧客の感動体験を生むことを実感できるはずです。これがシステムだけではなく、ポジティブに業務全体を見直すような好循環につながるように思います。
大平:
2000年代前半にはそうした気軽に試すことができる環境がほとんどありませんでした。技術が進歩し、自分たちで簡単にシステムをつくれる時代になりました。デジタル化の本来の目的である「顧客のためになる」ということがより近づいてきているのではないか、と思います。成功体験を積み重ねることで主体的に学び、実践するようになるんですね。
信夫:
行政機関はDXと距離がある組織だと思われがちです。できるだけ多くの職員にeMAFFのノーコード開発のツールを触ってもらい、ユーザーの立場で「こんなことができるのか」と経験してほしいと思っています。こうした個人の「点」の経験が、組織の「面」に広がっていくようになればいいですね。
片桐:
人材育成には「面白がりながら人の役に立つ実感を得られる」ことが重要だ、というのは行政機関も民間企業も同じですね。システムの内製化を進めるには、サンドボックスのような実験の場を用意するのが有効だ、との指摘にもなるほどと思いました。一方、組織の成り立ちや社会での役割、構成する人が違えばDXの進め方も千差万別にならざるを得ないのかもしれません。それがDXの進度の違いに現れている、ということはないでしょうか。
信夫:
他省庁のIT部門の方から「農林水産省はどうやってDXを進めているのか」と聞かれることがあります。eMAFFを中心に農林水産省の取り組み内容や進め方をお話しするのですが、そのまま当てはめようとしても、うまくいくとは限りません。組織の成り立ちが全然違うからです。例えばデジタル庁のように組織文化をこれからつくる組織と、農林水産省のように長い歴史の中で形成された風土を持つ組織では、進め方が全く異なります。それぞれの事情に応じた進め方を模索しないといけません。
私が農林水産省で重視しているのはPMOの活動です。各部局から独立して、部署の枠を超えて個々のプロジェクトを実施するPJMO(Project Management Office)の指導・支援を行っています。行政職員と民間出身職員、ITの専門家から構成されており、「省内デジタル庁」のようなものですね。PJMOとコミュニケーションを取りながら、システムの構築や各種サービスを利用するメリットとデメリットを指摘し、なぜそれをすべきなのか、それをどうやって進めるのかという「Why」と「How」を理解してもらう努力を続けています。縦割りの強い組織では全体の方向性と違えないよう時に厳しく指導することもありますが、苦労しながら頑張るPJMOには親身になって伴走しています。
今井:
行政機関でもデジタルツールを活用できる余地はたくさんあるはずです。組織内の環境が整備されていないため、導入に二の足を踏むケースもあると感じています。
大平:
各省庁に「ラボ機能」を持たせるのも有効だと思います。予算要求をする前に、ちょっと機能を試して効果を検証できる環境があると、もっと有効な予算の使い方にもつながる可能性があります。デジタル庁がまず先陣を切ってやってみる、というのもありかもしれません。
辻:
デジタル人材をつなぎとめる意味でも一定の効果はありそうですね。コストはそれなりにかかりますが、常に最新のシステムに触れ、自らが検証できる環境があればコスト以上の効果が得られるのではないでしょうか。
株式会社セールスフォース・ジャパン
常務執行役員 公共営業本部長
今井 早苗氏
日本電信電話株式会社、日本マイクロソフトでパブリックセクター営業部長、通信・メディア営業本部長などを歴任。2016年セールスフォース入社。執行役員インダストリー事業本部パブリックセクター部長、常務執行役員インダストリーズ トランスフォーメーション事業本部長を経て2022年より現職。
PwCコンサルティング合同会社
シニアマネージャー
片桐 紀子
官公庁・公共サービスチームにおいて農業・食料分野のリードを担当。農林水産省eMAFFプロジェクトにおいてシステムコンサルティングサービスを担当。また、衛星画像やドローン等のリモートセンシング技術を活用した実証等、農業DXに関わるサービスを実施している。
片桐:
イノベーションとともにDXの質も中身もどんどん変わります。私たちも行政のデジタル化に貢献できるよう、絶えず成長しないといけないと改めて感じました。最後に、行政DXを今後もしっかりと進めるために必要な課題について、短期と中長期の時間軸ごとにどう見据えればいいでしょうか。
大平:
時代の変化はとても早いです。システムはあくまでツールにすぎません。時代時代のツールに素早く対応できる組織にならないといけないと感じます。短期ではまず、発足したばかりのデジタル庁自身の足元を固めていく必要があると思います。中長期では、デジタル庁自身がデジタル化に合わせて柔軟にトランスフォームできるようになることが課題と考えます。
今井:
欧米を中心にグローバルの行政機関では、新型コロナウイルス感染症をきっかけに「Time to Value=価値実現のための時間をどれだけ短くするか」をより考えるようになりました。日本でも、Time to Valueの重要性に気づき、根本から変えていくべきだと考えます。そのためのツールとしてテクノロジーは存在します。各産業では今、DX推進のためにSaaSを使って(短期間で検証や改善を繰り返す)アジャイル開発に変えていこうという波が押し寄せています。その波を行政機関にも届けられるようにしていきたいです。
信夫:
農林水産省における行政DXの取り組みではeMAFFをはじめとするデジタル基盤が形になってきており、短期的にはこれを着実に進めていきます。今後はこの基盤上でデータを政策に生かしていく取り組みを進める段階に入ります。eMAFFなどで収集する鮮度の高いデータを使いやすい状態で保有し、活用するためのデータマネジメント活動を本格化する予定です。民間から専門人材も採用しました。
データ活用基盤も整えながら、実際にデータを使って政策立案や業務の見直しを継続的に行っていきます。DXを推進するには、単にテクノロジーを使うだけでは不十分です。目的を定め、構想を練り、プロジェクトを立て、組織体制をつくり、必要な人材を育成・確保し、そして実行するというサイクルを回すことが必要です。新しい技術と常に向き合いながら、このサイクルの中で試行錯誤や改善を継続的に繰り返していくことで、職員自らがデジタルテクノロジーを使いこなせるようになり、新たな組織文化が形作られていくのだと思います。
辻:
まずやるべきことは、デジタル時代に対応するためのガバナンスやリスク管理の体制を整えることでしょう。私たち監査法人が強みを持ち、社会の役に立てる部分だと自負しています。関係者一人ひとりがデジタル化に伴うメリットとリスクをしっかり把握し、自分の組織で何をやるべきかをきちんと整理できる環境づくりを支えていきます。デジタル化の波はどんどん大きくなる可能性が高いです。社会としてサンドボックスを整え、社会実装する際にできるだけリスクを抑えながらメリットを最大限生かせるよう、私たち自身の社会における信頼を構築していきます。
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