
財経部門の業務プロセスを変える生成AI活用実証実験の裏側――チャットボットの枠を超えて、真の生成AI変革を実現
業務プロセスの改革を目指す大手商社の三菱商事株式会社とPwC Japanグループは、共同で生成AIを用いた財務経理領域の業務自動化の実証実験を行いました。専門的な知見とテクノロジーを掛け合わせ、実験を成功に導いたプロジェクトメンバーの声を聞きました。
2021-12-24
昨今、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、企業による不正・不祥事が急増している。同時に、業務のデジタル化やリモートワークの普及とともに、不正・不祥事の発見が困難になっているのが現状だ。そうした中、AIがメールやデジタル文書などの内容とやり取りを分析し、不正・不祥事に関する事実関係を解明し、その原因を究明する「デジタルフォレンジック」が注目を集めている。その導入意義と効果について、長島・大野・常松法律事務所 弁護士の深水大輔氏と、PwCアドバイザリー合同会社 池田雄一が語り合った。
池田:業務のデジタル化やリモート化が進み、効率や「働きやすさ」は改善される一方で、社員の勤怠などの行動管理や内部監査は難しくなっています。とくに海外拠点では、COVID-19流行の影響で渡航が制限され、現地での調査ができないため、企業の不正・不祥事は以前に増して起きやすく、検知しにくい環境になっているように感じます。
深水氏:全く同感です。VUCAの時代と呼ばれるように、世の中の仕組みが複雑化し、変化が速く、予測が難しい状況になっていますが、その主な要因としては、企業活動の高度化・複雑化、グローバル化、デジタル化などがあると思います。また、コミュニケーションのデジタル化が進んだことで、データや情報の量は爆発的に増大し、人間の力だけではシステムの全体像や物事の因果関係が把握し切れなくなってきています。
かつては、政府が企業活動に関する情報を一定程度持っていて、それを基に監視や取り締まりを行うことができました。しかし、情報があまりにも膨大化、複雑化した現在では、企業側からの情報提供がなければ不正や不祥事を検知するのが難しい状況になっています。不正・不祥事を外部からの観察によって認知し、摘発するという伝統的なガバナンスが利きにくくなっているのです。コロナ禍はこの傾向をさらに加速させたと言えるように思います。
長島・大野・常松法律事務所 パートナー 弁護士 深水大輔氏
池田:実際のところ、企業の不正・不祥事は後を絶ちませんね。米国では週1、2件のペースで上場企業による不正・不祥事が発覚していると聞きます。
深水氏:はい。とはいえ、これはあくまでも氷山の一角にすぎません。不正・不祥事の過半数は発見されることなく、あるいは発見されても内部的に処理され、場合によっては隠蔽されてしまうことによって、企業の中に埋もれてしまいます。
日本企業の場合、終身雇用や年功序列といった伝統的な組織体制の中で、不正の指摘や内部告発をすると、それが原因で会社に居づらくなってしまうという懸念から、社員が見て見ぬふりをする傾向が生じ得ます。それによって問題が表面化しにくく、長期化してしまうのです。
池田:とくに日本企業はそうした懸案事項も含めたリスクマネジメントの体制整備を急がなければなりませんね。しかし、PwC Japanグループが発表した「経済犯罪実態調査2020(日本分析版)」では、組織におけるリスク評価に関する不正防止プログラムの導入状況について、そもそも「リスクマネジメントは実施していない」と回答した日本企業は28%と、全体の3分の1近くを占めるという結果も出ています。
組織におけるリスク評価に関する不正防止プログラム
ひとたび不正・不祥事が発覚すると、企業はそれに対処するために膨大なコストを支払わなければなりません。深水先生がおっしゃるように“隠蔽体質”が生まれがちな日本企業の場合、なおさら不正な取引や不祥事のリスクがどこに潜んでいるか、社内でもみ消しが行われていないかなどを客観的にチェックできる仕組みを整えておくべきです。そのためにも「デジタルフォレンジック」を有効活用していただきたいですね。
深水氏:デジタルフォレンジックは、米国では企業の不正・不祥事を客観的なデータ分析に基づいて証拠づける技術として定着しています。日本ではいつごろから利用されるようになったのでしょうか。
池田:2000年代半ばに、ある企業の不正取引調査において関連するメールのやり取りなどを分析するために利用したのが、日本でも注目されるようになったきっかけだと言われています。さらに、デジタル化の急速な進展によってメールやデジタル文書などの量が激増し、人間の力でそのすべてを調べ上げるのが不可能になったことで、その需要は高まってきています。
デジタル技術を用いることで、キーワード検索機能などによって膨大なデータの中から不正に関連すると思われる内容のメールやデジタル文書を簡単にピックアップできますし、あらかじめ機械学習させたAIを使って、メールや文書のやり取りを分析し、誰と誰が関与しているのかを特定することもできます。
デジタル化によってデータの量は膨大になりましたが、紙の文書と違って内容は改ざんしにくくなり、やり取りの履歴もしっかり残されるので、むしろ不正・不祥事を発見しやすい環境が整ってきていると言えます。デジタルフォレンジックを活用すれば、迅速かつ、高い確度で実態を究明し、関与者を特定できる時代になっているのです。例えば、会計不正やデータの捏造・改ざんといったケースでは「誰が誰に指示をしたのか」という背景や動機を実際のコミュニケーションの中から客観的に突き止めていくことが可能です。
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー 池田雄一
深水氏:デジタルフォレンジックは、不正・不祥事が発覚した後の“有事対応”だけでなく、未然に防止する“平時対応”にも活用できますね。
“平時対応”では、不正の兆候をタイムリーに検知することが重要です。日ごろからメールやデジタル文書のやり取りをAIがチェックし、不正の兆候がないかどうかをモニタリングする仕組みを構築することで、不正やその兆候を早期に検知することができるでしょう。また、モニタリングが有効に機能していれば、不正を予防する効果を期待することができます。未然に防止できれば、不正・不祥事が発覚した後に高いコストを払って調査を行う必要もありません。
池田:デジタルフォレンジックの分野では次々と新たな技術が開発されています。不正リスクが高い購買、販売、経費といった領域だけでなく、会計不正や贈収賄など、数字に関わる事案であれば、想定される様々なシナリオを基にAIを用いてデータ分析を行うことで、潜在的な不正リスクを発見することもできます。取り返しのつかない事態に陥る前に、不正行為を防ぐ可能性を高めることができます。
PwCアドバイザリーでも、テキストデータ化されている情報だけでなく、ミーティング中にホワイトボードに書かれた文字や、デジタル化されていない会議資料、個人の携帯電話などに保存されている画像データなどまで読み取れるデジタルフォレンジックのツールを開発しています。こうした新しい技術によって、より広範囲な調査対象の中から精度の高い不正の証拠の検出が実現できることを期待しています。
深水氏:デジタルフォレンジックのためのツールが年々進化を遂げているのは、非常に興味深い動きです。
一方で、不正・不祥事を減らすには、企業が能動的に未然防止や発覚後の対応(調査や当局等への報告を含む)に取り組めるように制度も整えていかなければなりません。例えば米国では、企業が不正・不祥事を起こしても、政府が求める不正の予防・摘発の仕組みを日ごろから構築し、運用していた場合、罰金が大幅に減額される制度を設けています。このような仕組みには、データを有効活用した不正リスクのモニタリングの仕組みが含まれます。
同じように、日本でも企業に不正の予防・摘発を促すインセンティブを伴う制度を設ければ、企業自身が不正・不祥事のリスクを主体的に管理してくれるようになり、ひいては企業不正を抜本的に減らすことができるのではないでしょうか。
池田:おっしゃる通りです。同時に、経営者は不正・不祥事が発覚した場合に企業が受けるインパクトを想像し、それが起こらないようにするための対策を平時から打っておくべきでしょう。リスクマネジメントの重要な要素の一つとして、デジタルフォレンジックは今や欠かせない技術です。
※本稿は日経ビジネス電子版に2021年に掲載された記事を転載したものです。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
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