進化する取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)―成熟度×フェーズで描く「進化の設計図」―

  • 2026-06-22

前回のコラムでは、取締役会事務局が直面する構造的な課題を整理し、「形式から実質へ」の進化途上にある現状を確認しました。
では、その「進化」はどのように実現すべきなのでしょうか。
本稿では連載第3回として、取締役会事務局の進化を実現するための「設計図」を提示します。すなわち、成熟度に応じた段階的な進化と、それを実装するためのフェーズ別アプローチを体系的に整理します。

取締役会事務局の役割の再定義

まず、本連載を通じた取締役会とその事務局1についての前提を改めて整理しておきます。

  • 取締役会は、もはや単なる意思決定の承認機関ではなく、企業価値を高めるための問いを設定し、戦略的な議論を行い、経営の方向性を規定する場である。
  • 取締役会事務局は、その実現を支えるため、単なる会議運営の担い手ではなく、議論の質を設計し、情報を統合し、意思決定を支える中核インフラとして位置付けられる。

したがって、ここで言う「進化」とは、ロジスティクス中心の機能から、議論を設計し価値創出を支える機能への転換を意味します。

1 諸外国では、この役割は、「コーポレートセクレタリー(Corporate Secretary)」または「カンパニーセクレタリー(Company Secretary)」として制度的に確立されており、単なる事務局ではなく取締役会に対するガバナンスおよびコンプライアンスの専門的アドバイザーとして位置付けられています。これに対し日本では、総務・法務・経営企画などに分散した形で機能を担うケースが多く、単一の専門職として制度化されていないのが一般的です。
ここから、日本企業においては、直ちに海外型の専任組織を導入するのではなく、既存機能を統合・高度化し、段階的に“Co-secretary機能”へ進化させる現実的アプローチが求められると考えられます。

成熟度モデルによる「現在地の診断」

進化を考える上で重要なのは、自社の「現在地」を正しく認識することです。
取締役会事務局の成熟度は、大きく以下の3段階(図表1:レベル1~レベル3)
で整理できます。

図表1:取締役会事務局の成熟度モデル

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注記)本成熟度モデルは、PwC Japan有限責任監査法人が取締役会機能の実効性評価支援や各社の改善支援を通じて観察した「関与範囲(ロジスティクス→情報→論点→意思決定)」および「介在価値(運営→支援→設計)」の違いに基づき整理したものです。

取締役会は、段階を踏みレベルを高めた結果として、「過去の確認の場」から「将来を構想する場」へと質的に転換します。
このような状態において取締役会事務局は、経営陣と一体となって全社の戦略を推進し、意思決定の質を高める高度な役割を担う存在へと進化します。すなわち、理想的な事務局として、単なる支援機能にとどまらずコーポレートガバナンスの要として主体的に機能するようになります。

また、成熟度は、実務上は必ずしも明確に3段階に分かれるわけではなく、「レベル1.5(運営に加え、部分的な情報支援を行う)」「レベル2.5(議論設計に部分的に関与する)」といった中間の状態となるケースが多く見られます。したがって成熟度は、“厳密な分類”ではなく、自社の進化方向を可視化するための連続的な指標として捉えることが重要です。

重要なのは、いずれの企業も一足飛びにレベル3の「司令塔型」に到達できるわけではないという点です。進化は段階的なプロセスであり、まずは現状の課題構造を診断することが出発点となります。

成熟度に応じた「進化の処方箋」

取締役会事務局の進化は、一律ではなく、成熟度に応じて段階的に進める必要があります(図表2)。

図表2:取締役会事務局の成熟度に応じた「フェーズ別進化」

差込

まず初期段階(「基盤整備」フェーズ)では、会議運営の標準化や属人化の解消、資料の構造化、社外取締役への適切な情報提供といった基盤整備が中心となります。その目的は、形式的な運営にとどまらず、意味のある議論が成立するための土台を整えることにあります。

次の段階(「高度化」フェーズ)では、事務局は議論そのものに関与する存在へと役割を広げていきます。具体的には、論点起点でのアジェンダ設計や「問い」の設定を通じて、取締役会の議論を意思決定につなげる役割を担います。また、取締役会と執行側をつなぐ橋渡し機能となって、双方の視点を統合し、議論の質を高めていきます。

さらに高度な段階(「価値創出」フェーズ)では、取締役会の議論が実際の経営判断や変革に直結し、社外取締役の視点も経営に反映されるようになります。この状態では、取締役会と執行の間で知的な循環が生まれ、取締役会は「過去の確認の場」から「将来を構想する場」へと転換します。

こうした進化は一度の改革で実現するものではなく、段階的に進めることが重要です。まず現状の課題を可視化し、その上であるべき役割や工程を設計し、実務への適用を経て、最終的に標準化・定着させていくというプロセスを踏む必要があります。

取締役会事務局の高度化は、このような継続的な取り組みによって実現され、取締役会の実効性向上と企業価値の向上につながっていきます。

進化の本質は「経営基盤の再設計」

取締役会事務局の進化は、単なる業務改善ではなく、取締役会というガバナンスの中核機能を再設計し、企業価値創出のプロセスそのものを変革する取り組みです。
執行の立場からは、取締役会事務局を単なる「コストセンター」ではなく、「経営の質とスピードを支えるインフラ」として再定義することが求められます。それは、取締役会の実質的な議論を促進し企業価値の持続的向上に資する重要な投資であると同時に、会社全体を俯瞰し経営の最前線を学べる場として、将来の経営人材・幹部人材の育成にも資する機能を担うものと言えます。

おわりに

本稿では、取締役会事務局の進化を、成熟度モデルとフェーズ別アプローチを組み合わせた「設計図」として整理しました。ここで重要なのは、「どこから着手するか」ではなく、「どの姿を目指すのか」を明確にすることです。取締役会事務局の進化は、取締役会の進化を促し、ひいては企業価値の向上へとつながります。そして、自社の現在地を見極めることがその第一歩です。

執筆者

遠藤 亮

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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