進化する取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)―なぜ今、取締役会事務局が注目されているのか―

  • 2026-05-15

取締役会の審議の質を高める上で、取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)は運営・事務を担うだけでなく、社外取締役が実質的な議論に参加できるよう、情報提供や審議設計を支える機能へと役割が広がっています。本稿ではその背景について、社外取締役の増加、金融庁の問題意識、コーポレートガバナンス・コード改訂案の方向性を中心に整理したいと思います。

取締役会事務局の役割の変化

取締役会の運営には、取締役会事務局の存在が不可欠です。事務局はいわゆる縁の下の力持ち的存在として認識されることが多かった一方で、近年こうした取締役会事務局の役割が脚光を浴びるようになりました。なぜ今、取締役会事務局が注目されているのでしょうか。

従来型の取締役会事務局では、日程調整・招集、会場設営、議事録作成などのロジスティクスを回すことで手一杯という企業も少なくありませんでした。しかし、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のためには、取締役会の機能強化、とりわけ審議の実質化・活性化が重要とされています。この10年で独立社外取締役は飛躍的に増加し、取締役会の過半数を占める企業も増えてきています。こうした社外取締役の経験や客観的視点は審議の質を高める一方で、会社固有の情報(業界特性や戦略・ビジョン、事業計画、用語など)に触れる機会は社内取締役と比べて限定されがちです。そのため社外取締役から有用な問題提起や建設的な意見を引き出すには、必要情報を適時分かりやすい形で届け、前提理解をそろえた上で議論に入ることができる状態を作ることが欠かせません。この点で、取締役会事務局は単なる運営担当ではなく、社外取締役への情報提供を行い、審議の生産性を高めるための要となります。

コーポレートガバナンス・コードの改訂

金融庁のアクション・プログラム2024では、取締役会等の実効性向上の観点から、社外取締役と投資家の対話の促進とともに、実質的な議論を促すための取締役会事務局による取組み(好事例)の共有が掲げられました。続くアクション・プログラム2025では、実務担当者や多様な関係者が議論する場としてコンソーシアムを立ち上げ、共有する好事例を一段と充実させる方針が示されています。このような流れを受け、コーポレートガバナンス・コード改訂に関する有識者会議が開催され、日本では3回目となるコーポレートガバナンス・コードの改訂が行われようとしています。今回の改訂では、以下のポイントが挙げられています。

  • 成長投資の促進
  • 取締役会の機能強化
  • 有価証券報告書の定時株主総会前の開示

このように改訂のポイントの一つとして取締役会の機能強化を図るためには、「取締役会を支える部署であるいわゆる取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)の機能強化等の取組みを推進することも重要である。 」とされています(改訂案の原則4-14の解釈指針)。

注目すべきは、審議の活性化や社外取締役・社外監査役への情報提供を含む支援を適確に行う観点から「取締役会を支える部署として事務局の機能強化を推進することが重要である」という方向性が示されている点です。取締役会事務局の機能強化は、望ましい取り組みの一つにとどまらず、審議の実質化を支える前提として位置付けが強まりつつあります。言い換えれば、取締役会事務局を「縁の下の力持ち」から、「取締役会の価値を高めるための司令塔」へ進化させる好機と捉えることができます。

ガバナンスを設計・支援する中核インフラとしての取締役会事務局

取締役会事務局がより多くの時間を割くべき業務として、例えば以下が挙げられます。

  • 取締役会議長と連携した、論点起点での議題設計・年間アジェンダ管理
  • 執行側の事務局等と連携した、意思決定に資する取締役会資料の品質向上(構成・論点・比較軸・前提の明確化)
  • 独立社外取締役に必要な会社情報の整理と、適時・適切な提供(用語、事業の前提、競争環境、KPIなど)
  • 事前説明の設計・運用(論点の明確化)

取締役会事務局は、単なるロジスティクス担当にとどまらず、取締役会の審議の質と生産性を支え、ガバナンスを設計・支援する中核インフラとしての役割が求められています。そのため、人材や権限・プロセス・関係部署との連携といった体制を見直すにはよいタイミングだと言えるでしょう。

事務局という名称が「事務方」という印象を与えるからか、取締役会事務局は日本ではコストセンターと見られがちです。そのため、リソースの配分が十分になされず、取締役会事務局はその業務量に比して人数が少ないことが多い現状にあります。一方、諸外国ではカンパニーセクレタリーあるいはコーポレートセクレタリーと呼ばれ、法域によっては、弁護士や公認会計士に加え、ガバナンス専門資格や一定の実務経験が求められることもあり、憧れの職種として捉えられてもいるようです。こうした動向を踏まえると、取締役会事務局の役割が進化していることを執行側で理解するとともに、リソース配分やAI投資などが取締役会の機能強化に向けた必要な投資であるという認識を持つことが期待されます。

本コラムシリーズでは次回以降、現場の取締役会事務局がどのような課題認識を抱えやすいのか、そして課題を解決するためのポイントを、より実務に近い形で整理していきたいと思います。

執筆者

足立 順子

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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