
大林組:「新しい仕事のスタイル」をつくるゼロから始まったデジタル変革
総合建設会社大林組の「デジタル変革」に伴走し、単なるシステムの導入ではなく、ビジネスプロセスの抜本的な変革を推し進めたPwCコンサルティングの支援事例を紹介します。
2022年12月に中央教育審議会が取りまとめた答申に、「研修観」の転換が盛り込まれました。子どもの教育を変えるためには、教職員自身の学びも変わる必要があります。このチャレンジに取り組んでいるのが独立行政法人教職員支援機構(NITS)です。PwCコンサルティング合同会社はその取り組みを支援し、教職員の学びの変革を後押ししています。
本鼎談では、PwCコンサルティング公共事業部 マネージャーの高橋洋平がファシリテーターを務め、NITSの荒瀬克己理事長と同機構事業部事業企画課主任の目見田紋未さんに、研修観の転換を実現していく道筋についてお話を伺いました。
鼎談者
独立行政法人教職員支援機構理事長
中央教育審議会会長
荒瀬 克己氏
独立行政法人教職員支援機構
事業部事業企画課主任
目見田 紋未氏
PwCコンサルティング合同会社
公共事業部 マネージャー
高橋洋平
※法人名、役職、インタビューの内容などは記事公開時のものです。
(左から)高橋 洋平、荒瀬 克己氏、目見田 紋未氏
高橋:
本日は教師の学びを変えていく「研修観の転換」というテーマで、教職員支援機構(NITS)の荒瀬理事長と、実務担当者である目見田さんのおふたりにお話を伺ってまいります。まず研修観の転換とはどういうことでしょうか。
荒瀬氏:
研修というと、講師のお話を一生懸命聞き、ノートを取って知識を身に付けることがイメージされます。これはとても大事なことですが、現在施行されている学習指導要領は、身につけた知識を使って課題を解決していく、あるいは課題を解決するための段取りを組んで対応することの大切さも求めています。
技術や知識を身につけても、使わなければ本当に自分のものにはなりません。実際に使っていくなかでさまざまな気づきがあり、その中では課題にぶつかることもあります。たとえ困難に直面しても、粘り強くやり方を工夫する、あるいは調整して違うやり方に挑戦する。そういった経験を重ねることが大切です。それは従来から重要だと考えられていましたが、教職員の研修がそうなっていたでしょうか。教師を主語にした研修の場をつくっていく。その一連の変革を研修観の転換という言葉で表現しています。
ややもすれば研修は、知識や技術・技能を教わるという一方通行の側面があり、強制された義務のようなイメージがつきまといます。教師が学ぶことはもちろん義務ですが、一方で、子どもと同様にできなかったことができるようになるのは、とても楽しいことです。学ぶことを通して、そういう楽しさや面白さ、力がつくことの充実感を得ることができる研修は、教師にとって権利でもあるはずです。そのような考え方の転換も必要だと考えています。
高橋:
学校の代表者が教育センターに行って研修を受け、それを学校に持ち帰って伝える「伝達研修」がありますが、この名称に象徴されるように、研修にはたしかに一方通行の部分があるかもしれません。ただ、それをすべて悪いと言ってやめるのではなく、どう改めていけばいいのか、より主体的、対話的で深い学びへと充実させる術は何なのかを関係者と一緒に考えていくことが、研修観の転換なのですね。
独立行政法人教職員支援機構理事長 中央教育審議会会長 荒瀬 克己氏
PwCコンサルティング合同会社 公共事業部 マネージャー 高橋洋平
高橋:
荒瀬理事長がおっしゃった「研修は教師の権利」はたいへん心に響きました。先生自身がワクワクしたり楽しんだりして学びに探究的でないと、子どもを探究的な学びに誘うことはできません。その考えは、NITS戦略にもある、教師の学びと子どもの学びは「相似形」というフレーズにも通ずるものがあります。その相似形の意味するところを改めて教えていただけますか。
荒瀬氏:
言い過ぎかもしれませんが、学ぶという行為に大人と子どもで何か違いがあるのだろうか、とも思います。学ぶ対象や学び方、技術や知識の量が違うという部分はありますが、学習者であるという点ではまったく変わりません。それが、まさに相似形なのです。
大人は経験的に、学ぶ際には楽しいとか面白いとか、ワクワクすることが大事だと思っています。当然、子どもたちの学びもそうであるべきです。子どもたちを見て、なぜ楽しくないのだろうという問いが生まれたら、何が問題なのかを振り返ることができます。子どもの学びも大人の学びも、学びを通して目指すのは自立した学習者。したがって、大人も子どもも、自ら学習を調整し、自分にとってよりよい学びをつくっていくことができるようにしていける場が求められます。
高橋:
いま社会ではアンラーニングやリスキリングの重要性が喚起されています。研修観の転換は教師と子どもだけの話ではありません。その相似形はどんどん広がり、あらゆる学習者に通ずる考え方になっていくと感じます。
荒瀬氏:
おっしゃったことはとても大事ですね。新しい学習指導要領では、学ぶことと生きることを重ね合わせ、生涯にわたって学び続けることができるよう、主体的、対話的で深い学びを経験しておくことが必要だと説いています。学ぶことは相似形なので、仕事や人生など、いろいろなものを自分の学びの対象として捉える。学びは生きるうえであらゆることに関わってくるのです。
高橋:
とても重要な意味を持つ研修観の転換ですが、それを実現していくためにNITSはどのような役割を担っていくのでしょうか。
荒瀬氏:
教職員に気づきの生まれるような機会を、どれだけ提供できるかが重要だと思っています。いかにしてそのきっかけをつくるかを大事にしていきたいです。
高橋:
NITS戦略の具体的な施策のひとつが「コア研修」だと思いますが、ポイントについて教えていただけますか。
目見田氏:
コア研修は、令和5年度から実施する研修です。何を学びと捉え、考えていくかを自分で考え、探究していく力は、今後、教師にとって中核になる力だと思っているため「コア研修」と名づけました。研修を受けていくなかで自分なりに考えて学んだり、新たな視点で物事を見たりすることで、学びのあり方が少しずつ変わっていく。そういう体験をしてほしいという思いで企画を練っています。
高橋:
お話を聞いていると、NITSが先生方の学びの「伴走者」であろうとしているのがコア研修のひとつの進め方なのかと感じます。
荒瀬氏:
おっしゃる通りです。ただ伴走は、期間が決まっています。伴走することを通して、学び手が自走できる力がついているか。VUCAとも言われる不透明で複雑な社会を生きていくためには、自分で考えて判断し、行動する力が必要です。伴走者が、ずっと伴走し続けることはできません。ある時点からは、学習者が自分自身で成長していただく必要があります。そこにどうつなぐか。
「教職員研修はこうやるべきだ」と頑なに進めるのではなく、参加してくださったメンバーにとって最良の方法を考えていただく。つまり、それぞれにふさわしい学びを追求し、互いに意見を出し合いながらそれをつくり上げていく取り組みを、支え続けていきたいと思います。
目見田氏:
従来の研修には、「受講者にこういう力を身につけてほしい」という提供者主体の発想が必ずどこかにありました。ただいろいろな方と議論するなかで、「参加者に自分なりに考えてもらう」という学び手主体の発想に私自身の考え方が変わってきました。コア研修を企画する過程で、自分が先にそうした「「学び」の捉え方が変わるプロセス」を体感し、私自身の研修にもなっていると実感しています。そういう場を設けることで、先生たちの学びも変わっていくと期待しています。
高橋:
学びの在り方を考えることを通じて学ぶ。とても素敵な話ですね。私たちコンサルティングファームではクリティカルシンキングと言いますが、「なぜそうなのか」「本当にそうなのか」を問い直すことで本質に迫ります。NITSでは教職員研修をアップデートするためには、研修の問い直しに取り組まれていますね。
独立行政法人教職員支援機構 事業部事業企画課主任 目見田 紋未氏
高橋:
令和5年度中には「次世代型教職員研修開発センター」が設置されると伺っています。その目的について教えていただけますか。
荒瀬氏:
繰り返しになりますが、教職員の皆さんに考えていただくための機会をつくりたいと考えています。そこで、各都道府県の教育委員会にお願いしてセンターに人を出していただき、研修をつくっていくということはどういうことなのかを一緒に考えます。皆さんからご意見をいただき、それを基に研修内容をデザインし、修正しながら、少しでも教師それぞれにとっての良い学びになるようにしたいのです。そういった経験を積んでくださった方が翌年、各都道府県に戻り、課題に対してどう対処していけば研修がうまく回っていくかを考えていただきたいと思っています。
ただ研修して終わりではなく、振り返りにも時間をかけてもらいます。インターバル型の研修も用意します。ここで研修を受けていただいた半年後くらいに、オンライン上のグループで振り返ってもらいます。何がうまくいき、何がうまくいかなかったのかを話し合い、交流をして、より良いものにしていただきたいと考えています。
高橋:
単純に研修観がAからBになるというお話ではなく、教育に携わる幅広い人たちと一緒に研修の在り方を考えていく。そのハブになるのが次世代型教職員研修開発センターであり、コア研修だと理解しました。
高橋:
NITSがいろいろな仕掛けを考えていくなかで、私たちPwCはその支援をさせていただきました。まさに研修の転換とは何なのかということを考えていく過程だったと思うのですが、振り返っていかがでしたか。
目見田氏:
NITS内で研修観の転換を考えてきましたが、新しい視点や議論の多様性が不足しがちだと感じていました。そのタイミングでPwCの皆さんと一緒にお話をし、いままで自分たちが当たり前だと思っていたことを改めて問われ、整理いただきました。結果として発想が自分たちのなかでしっかり共有されていなかったと気づけましたし、決まりきった視点とは違うお話ができました。個人的にも刺激になり、視野が広がった感覚があって、毎回の議論が楽しかったです。
高橋:
何か印象に残っていることはありますか。
目見田氏:
ひとつは、オンラインの研修動画を分類していただいたり、事例集をつくるお手伝いしていただいたりしたことです。研修の目標・内容・手法を整理しながら考えていこうという話をし、一緒に取り組んでいただきました。年度の後半はその議論が多く、自分のなかでも研修について改めて考えていたタイミングで印象に残っています。
高橋:
オンデマンド動画を因数分解していく仕事ですね。今回は、NITSにとって初めてのコンサルティングファームとの協業だと伺っています。今後、社会に開かれたNITSを目指していくにあたり、こういうコラボレーションをしたいとか、新たな視点を取り入れていきたいといったご要望はありますか。
荒瀬氏:
いろいろな方々とお話をすると、さまざまなきっかけをいただくことができます。そのため出会いの機会を貪欲に活用させていただきたいです。まさに多様な他者との関わりが大事だと思います。我々はついつい大人との関わりを中心に考えるのですが、子どもたちはどう見ているのだろうかといったことも考えていく必要がある。越境していく、限界を簡単に設けないで考えるといった発想が大事だと考えています。
高橋:
たしかに、子どもたちと一緒に取り組むという考えは興味深いですね。子どもたちは、教職員研修をどう見て考えるか。そんなワークショップをやってみても面白いかもしれません。
荒瀬氏:
境界をつくらなければならない部分ももちろんありますが、一方でそれを外して自分の発想をどんどん越境していくことが必要です。
例えばオンラインという新たな手段は、非常に有用。しかし、リアルでやるものをオンラインで代替させるだけであれば、実際に集合した方が良いに決まっています。オンラインだとカメラが向いているところしか見えませんが、集合すると余計なものも見えますし、ノイズもあります。そういう一見不要に思える情報が、実は人間にとってとても大事です。一方でオンラインは、オンデマンドであればいつでも見られるし、現地に行かなくていいし無駄な時間がないなど、メリットがたくさんあります。発想に限界を設けず、良いところを生かしていくことが重要なのです。
良さを生かすためには実際に使ってみて経験しなければならないですし、一度使ったからといって「こうだ」と簡単に結論付けず、工夫して他の使い方がないのかといったことを考えることが必要です。そのプロセスは、いろいろな人に会ってさまざまな考えを聞かせてもらうことによく似ているような気がします。
高橋:
「意外にこうだったんだ」という体験は、越境したときに生まれる経験です。学びとはまさにそういう体験の蓄積だと思います。
研修観の転換というのは本当に大きいチャレンジです。正解があるチャレンジではなく、多様な人たちと共にありようを探し求め、対話的に深めていくもの。それは教育界だけの話ではありません。NITSを支援する私たちもまた、探究的な仕事の進め方が求められていると感じます。
大人の学びが子どもの学びと「相似形」というフレーズは画期的です。経済社会は教育界に「こうすべき」と要望しがちですが、むしろ子どもたちの探究的に学ぶ姿から大人が学ばないといけないのではないかという、ある意味逆転のメッセージを受け取った気がします。私たちも教育に限らず、いろいろな場所にこの種を蒔いていきたいと思います。
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