{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.text}}
PwCコンサルティングのPublic Service(PS:官公庁・公共サービス部門)は、多様な領域に対応する専門性を有する15のInitiativeチームから構成されています。この連載(全10回)では、テーマごとにさまざまなInitiativeからメンバーが集まり、よりよい社会をつくるために、社会課題解決へのアプローチや、新たな価値創出のアイデアなどについて語り合います。
第1回のテーマは「未来の教育とデジタル技術」です。国による「GIGAスクール構想」が始まって5年が経ちました。その間には新型コロナウイルス感染症による外出制限が起きるなどの背景もあり、学校教育ではデジタル技術が急速に取り入れられています。
加えて、ビジネスモデルの変革の流れを受けて社会人のリスキリング促進が強まるなど、あらゆる世代が効果的な学びを得るための施策が進められています。
デジタル技術を活用した教育は人々にどのような影響を及ぼし、将来的にどのような効果をもたらす可能性を秘めているのでしょうか。教育、人材、デジタル、スポーツの各領域が専門の4人のコンサルタントが議論しました。
(左から)平本尚弥、大塚千尋、安達 裕一、手嶋 麻衣子
大塚 千尋
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
文部科学省において初等中等教育・高等教育・科学技術分野の政策企画立案・実施に従事し、在任中三重県教育委員会に出向。文部科学省退職後、大手コンサルティングファームにて大学などの組織・人事改革や業務改革に従事し、2023年より現職。現在は学校の働き方改革や教育現場でのデータ利活用推進などに携わる。
平本 尚弥
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
国内SIerにおいて民間企業の基幹システム導入ならびにクラウド化検討支援などに従事。2022年より現職で、地方自治体のシステム標準化に係る移行検討および調達の支援に携わる。
手嶋 麻衣子
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
総合コンサルティングファーム、メガベンチャー企業(人材派遣・紹介業など)を経て現職。雇用・労働領域案件を中心にコンサルティングサービスを提供。近年は、リカレント教育推進事業に携わり、社会人の学び直しや就労支援事業に従事している。
安達 裕一
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
約10年にわたり国内シンクタンクなどで、主に官公庁、地方公共団体に対するコンサルティング業務に従事。2017年より現職で、スポーツ政策およびスポーツとICTによるマーケティング手法の検討や実証事業、障害者スポーツ政策支援などの支援に従事。
大塚:
私が担当する教育分野では、国の予算で全国の小中学生に1人1台のデジタル端末が配布され、子どもたちが自分のデバイスで学ぶ環境が整ったことが近年の大きな変化です。端末の整備に伴い、学ぶためのデジタルコンテンツやプラットフォームも充実してきました。
デジタル技術を教育に活用すると、学びの質が大きく向上すると言われています。最大のメリットは、一人ひとりの子どもが学びたい内容を自分に適したスピードで学べる、個別最適な学びの実現です。
さらには、デジタルデバイスを介してお互いの考えをシェアしやすくなりますし、学習履歴がデータに残るので、長期間にわたって学びを振り返ることもできます。
平本:
学校教育の現場では、校務のDX(デジタルトランスフォーメーション)も検討が進んでいます。国が主導する地方公共団体の情報システム標準化やGIGAスクール構想といった動きを踏まえ、各自治体ではクラウド技術を基盤としたシステムやデータの標準化が進められています。これらを実現することで、子どもたちの個別最適学習や、教員の業務効率化を目指している状況です。
手嶋:
人材育成の観点では、成長分野であるDXやGX(グリーントランスフォーメーション)や、関係省庁が重要分野とした医療・介護、地方創生、起業などで多様な人材が求められており、これを背景として、大学などで社会人の学び直しを支援するリカレントプログラムが多数展開されています。また、キャリア開発の観点では、「キャリアは会社から与えられるもの」から「一人ひとりが自らのキャリアを選択する」時代になってきており、一人ひとりが自らの意思で新たなスキルを獲得し、処遇改善や労働移動の機会を確保するなど、キャリア形成していく必要性も高まっています。
企業の中には、社会から求められているスキルを持つ人材が社内外のさまざまな場面で活躍できるように、働き方や報酬、評価などに係る制度を整えたり、社員に対してキャリア開発プログラムを提供したりする動きが見られます。現在、関係省庁とともにさまざまな施策に取り組みながら、こういった個人や企業の動きをサポートしています。
安達:
私が専門とするスポーツ産業においては、アスリートのセカンドキャリアを支援する検討が進んでいます。これまではセカンドキャリアの形成はアスリート個人の自発性に依拠していましたが、政府や関係省庁がリードして、デジタル技術も活用しながらマッチングサービスを提供するなどの施策やノウハウの確立を進めようとしているところです。
大塚:
デジタル技術が普及し、職業の選択肢も変わりゆく中、子どもたちへのキャリア教育も見直しが必要です。さまざまな職業の方を学校に招いて教育に参画していただくなど、各学校や教育委員会が外部へ協力を求める動きが進んでいます。海外など遠方の講演者であってもオンラインであれば参画いただくことができ、子どもたちはより幅広い職業を知ることができますね。
大塚 千尋:PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
大塚:
デジタル端末が整備されて「機会の平等」は進んだものの、子どもたちがデジタル技術の価値に気づき、使いこなすことができるかどうかという点においては、子どもたちの周囲にいてサポートする大人の意識、自治体・学校によって差がある状態です。子どもたちがデジタル技術を活用して学ぶには、周囲にいる教員や家庭での働きかけが欠かせませんが、その意識やスキルにまだばらつきがあると捉えています。
安達:
スポーツ教育の観点では、体育の授業へのデジタル活用は今後発展すると考えられます。たとえば、鉄棒の逆上がりの様子を撮影し、どこができていないかをフィードバックするといった授業形式などが今後は想定されます。デジタル端末があれば撮影はできるので、今後活用が進む段階にあると思っています。
また、評価の捉え方も変化すると思われます。現状は運動神経がよい子どもが高い評価を受けますが、学びの観点で捉えると、走り方をアドバイスするスキルに長けている生徒を評価するという変化が起こり得ます。こうしたスキルがあると、将来はスポーツ分野でアドバイザーとして活躍できる可能性も考えられます。
日本では引退したアスリートがアドバイザーになるケースが多いのですが、アドバイザーの能力は運動神経と紐づかない側面もあるので、アドバイザーを発掘するという意味においても、評価や授業そのものが変わる可能性を秘めています。
平本:
校務DXの観点では、システムが分散しているがゆえにデータも独立して管理されており、個別最適な学びを実現するためのデータ利活用がしにくくなっています。子どもたちの学習端末についても、各家庭に持ち帰った際、どのデータまでアクセス可能にするかという議論も残っており、セキュリティを担保しつつデータ利活用を進める仕組み作りが課題です。
これらの取り組みは国がリードすべきではあるものの、実質的な運用面を考慮すると、教員の方々が現場の声をもっと上げられる仕組みも必要だと考えています。
平本 尚弥:PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
手嶋:
先程、デジタル技術を活用するにあたり、大人の意識やスキルにばらつきがあると話しがありましたが、社会人に目を向けると、今の環境下でも本人は大きな不自由がないため、改めてデジタル技術に係るスキルを学ばなくとも構わないと考えている方も一定数いるように思います。そういった方への学び直しが進まないことも課題だと思います。リカレント教育の認知度にも課題があり、個人(社会人)への外部からの働きかけなど、普及活動へのニーズが出てきています。
大塚:
山間部などの地域では、周囲の大人が就いている仕事のバリエーションが少なく、日常生活の中で、子どもたちが職業の選択肢を知ることに限界があります。こうした地域ほど、本来であればデジタルの恩恵をより大きく受けるのですが、逆にデジタル技術を十分に活用できていない現状があります。
どの地域に生まれたとしても、学ぶ機会や、将来の可能性を知る機会は平等であるべきです。デジタル技術をうまく活用することによって、生まれ育った地域に関わらず、子どもたちが多くの職業の選択肢を知って、自分自身の可能性を広げられるようなキャリア教育を展開していくことも可能になります。そのためには、国や自治体からの働きかけも必要です。
安達:
アスリートのセカンドキャリアの支援の整備も、学校教育などに組み込まれているべきですが、まだ不十分です。国際大会などに出場するほどのトップアスリートは幼少期から1つの道を究めてきた方々ばかりです。現役時はその他のキャリアの選択肢は、ほとんど考えたことがないという人も少なくありません。
この点では、北米は環境整備が進んでいます。学校教育でセカンドキャリアを考える機会が設けられていたり、大学スポーツでは学業成績も求められたりするなど、スポーツ偏重にならないような仕組みがあります。社会の価値観としても、他の道へ進むことへの寛容さがあります。アスリート引退後に弁護士や税理士になるケースもめずらしくありません。
アスリートは練習や試合で忙しいので、セカンドキャリアの開発においては、場所を問わず端末で学べるデジタルツールを活用することで浸透させられる可能性もあります。まずは自分のスキルを可視化することがスタートとなります。
手嶋:
アスリートに限らず、スキルの可視化は必須です。キャリア自律が提唱されている一方で、実現できている人は多くありません。変化する社会動向を踏まえてキャリアゴールを描いたり、その実現に向けて、今持っているスキルとこれから必要となるスキルを可視化したりすることは必要だと思います。
人は経験の範囲内でキャリアの選択肢が形成されますから、キャリア形成プログラムではその幅を広げるところからスタートすることもあります。
手嶋 麻衣子:PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
大塚:
デジタル化を促進しようとしている自治体や学校では、外部の専門家に、デジタル環境の整備やデジタル技術を活用した授業の実践に協力していただく動きが進んでいます。教壇に立つ先生も、例えばリカレントプログラムなどで、デジタル技術を活用した教育実践のための知識の学び直しが進めば、教育現場におけるデジタル技術の普及がよりスピーディに進むのではないでしょうか。
手嶋:
学び続けることの大切さを伝えることも必要です。大人になっても学び続けることの大切さを理解し、学びを求める人は、自発的にリカレントプログラムを活用してスキルを習得し、教育現場で活かそうとするでしょう。また、これまで培ったスキルと新たに習得したスキルをかけ合わせていくことで、キャリア形成もしやすくなると思います。デジタル技術を活用し、こうした個人のスキル情報を蓄積してマッチングなどに活かすことで、キャリアの選択を多様化させ、流動的な労働市場を支えるプラットフォームの実現に貢献できると思います。
リカレントプログラムに参加する社会人がもっと増えれば、たとえば民間組織にいる人が学び直したうえで、セカンドキャリアとして学校教育の道へ進む可能性も考えられます。キャリアの歩み方は多様であることを子どもたちが知る機会にもなるのではないでしょうか。
大塚:
デジタル化により個別最適な学習が実現されつつある中、子どもたちのモチベーションを維持することも重要なポイントです。個別に学習しながらも、他者とのつながりを作る必要があると考えています。学習で壁にぶつかったとしても、教師や他の仲間から刺激を受けることで乗り越えられたり、他者からの意見から気づきが得られたりするからです。
将来的には、たとえばメタバースを使って、物理的に離れた人同士が同じ空間にいるのと同じようにつながり、お互いをモチベートしながら学ぶといった取り組みも、公教育においてもさらに普及してくるのではないでしょうか。学校や地域、あるいは国境も越えて同じ興味をもつ子どもが集まって、研究成果を発表するなどの使い方もできると思います。
大塚:
学びの本質は、ワクワク感だと思います。これからの時代は、受験戦争を経てどの学校に在籍したかよりも、何を面白いと思って、何を学び、どんなことを実現するのかがシビアに問われるようになるでしょう。
私としても、子どもたちの知的好奇心を何よりも大切にしたいと考えています。多様な方法で子どもたちのワクワクした学びを実現したいですし、学校現場でも活用が広がるようにしていきたいです。その際、物理的な環境の制約を受けず、学びの可能性を広げられるデジタル技術は素晴らしいツールになるでしょう。
安達:
スポーツ産業の課題は、産業内だけで解決できるものではなくなっています。アスリートのセカンドキャリアであれば、リカレント教育の世界と協力しなければなりません。クライアントからご相談いただくその他の内容も、スポーツの枠を超えたものばかりです。
その際、PSには多様なプロフェッショナルが集まっているので、産業を超えたソリューションを提供できる強みがあると考えます。グローバルなネットワークを活用し、国外の参考事例を取り入れたご支援も可能です。
安達 裕一:PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
平本:
私が専門とするシステムの分野はAIやクラウドなど幅広い技術知識が必要です。それぞれの専門知識をもつコンサルタントが連携し、産官学のあらゆる組織における先行事例を通じて蓄積された知見を提供できることは大きな価値だと思います。
手嶋:
私も、1つの領域でソリューションを提供するというよりは、他領域とコラボレーションしてソリューションを提供しているという実感があります。PSでは他の領域のコンサルタントにオープンに相談したり、クライアントとの打ち合わせに同席してもらったりすることも珍しくありません。そのうえで、正式にプロジェクトが立ち上がり、領域のコラボレーションが決まれば、領域横断チームが組成されます。
大塚:
PSには社会課題を解決しようとする思いをともにする、多様なバックグラウンドやスキルを有する人材が集まっています。教育における課題が複雑化する中で、人材の多様性を強みにして価値を発揮していきたいと思います。
{{item.text}}
{{item.text}}