
大林組:「新しい仕事のスタイル」をつくるゼロから始まったデジタル変革
総合建設会社大林組の「デジタル変革」に伴走し、単なるシステムの導入ではなく、ビジネスプロセスの抜本的な変革を推し進めたPwCコンサルティングの支援事例を紹介します。
2023-03-29
世界的な地政学リスクの高まりを背景に経済安全保障推進法が2022年8月1日から一部施行されました。同法の目的は、国際情勢の複雑化、社会経済構造の変化などにより、安全保障の裾野が経済分野に急速に拡大する中、国家・国民の安全を経済面から確保するための取り組みを強化・推進することです。
これまで主に政府レベルで語られてきた外交・防衛など安全保障の射程が経済にまで広がったことにより、企業の経済活動には善悪両面の影響が生じ、さまざまな対策を講じていく必要に迫られることになります。軍事情勢などの国際環境から領土領海、基幹インフラ、サプライチェーン、コーポレートガバナンスにまで及ぶ経済安全保障という潮流に対して、経営者はどのように向き合えばいいのでしょうか。
PwC Japanグループ(以下、「PwC」)は、2022年からPublic Serviceに関わる各グループ法人間のメンバーにより、社会課題解決を目指し、積極的なコラボレーションや議論を推進しています。今回はメンバー4人に、経済安全保障の課題とPwCによるアプローチについて聞きました。
対談者
PwCコンサルティング合同会社
パートナー 渡邊 敏康
PwCあらた有限責任監査法人
ディレクター 徳山 馨一
プライスウォーターハウスクーパース WMS Pte. Ltd
シニアマネージャー 濱田 未央
PwCコンサルティング合同会社
シニアアソシエイト 笹田 綾
※所属・肩書は当時のものです
(左から)徳山 馨一、濱田 未央、渡邊 敏康、 笹田 綾
――それぞれの担当領域から考える経済安全保障上の課題とリスクは、どういったものがあるのでしょうか?
渡邊敏康(以下、渡邊):私は中央省庁や国の研究機関に対して、宇宙・航空、モビリティ、新エネルギー、蓄電池、量子通信など、先端技術領域での産学官連携事業に携わっています。その中で、素材や要素技術、サプライチェーンでのモノの動きはもちろんですが、技術を作るための仕組みづくりという技術マネジメントのような側面においても、「情報を国外に出して良いのか」「経済安全保障に抵触するのではないか」という声を耳にします。その意味では官民それぞれの「意思決定の迅速化」が一つの課題だと考えます。そもそも科学技術は明るい未来に貢献することもあれば、同じ技術や機能であっても軍事に転用できるという二面性を持っています。経済安全保障という重要な課題を解決していくための新しい概念が登場したことにより、これから顕在化していくリスクに対して官民が迅速に意思決定していくことが求められます。
徳山馨一(以下、徳山):会計アドバイザー業務に従事し、リスクマネージメントという形で企業と関わっていると、渡邊さんのいう「意思決定の迅速化」の必要性が高まっている背景には、これまで中長期のリスクと捉えられがちであったリスクが短期のリスクとして再認識されるようになったことがあると感じます。これに加えて、例えば環境リスクはその他のリスクへの波及や結びつきが強くなるなど「管理しなければならないリスクの性質が変化し、複雑化していることで予測困難性が高まったこと」自体が、まさにリスクだと言えます。企業の業績がマーケット情勢や顧客ニーズだけではなく、各国の政策からも影響を受けるようになったので、経営者が捉えなければならないリスクの範囲が広がり、深度が深まりました。実際、有価証券報告書に「地政学」「経済安全保障」を事業等のリスクとして記載する企業が増えており、これまでの経済合理性を優先してきた意思決定に、経済安全保障という別軸の判断が加わっていることがうかがえます。このような環境で必要となってくるのが適切なリスクシナリオの構築です。現在はコロナ禍や米中対立に端を発する半導体不足が、一部で継続していますが、ある企業は、安全保障環境が自社の業績に影響を及ぼすと予見し、平時の4倍もの半導体在庫を確保し、供給不足の被害を最小限に抑えたという例もあります。
濱田未央(以下、濱田):私が担当する貿易・関税の領域では、直接的かつ認識しやすいリスクとして、「規制の拡大」を挙げることができます。また、そのような規制にどう対応していくのかが課題になっています。私も半導体関連の企業から、今後の規制導入の見通しや対応について多くの相談を受けますが、この1年ほどで、企業側に先を見越したリスクへの意識が高まっているように感じており、徳山さんが例に挙げた、半導体の在庫を確保した企業の対応は本当に素晴らしいと感じます。今のところ、規制やそのビジネスへの影響はネガティブなものが目立ちますが、長期的な観点に立てば、政府は健全な経済発展を目指していると考えられます。
笹田綾(以下、笹田):私は2022年7月にPwCコンサルティング合同会社に入社したばかりですが、前職の官公庁で国際情勢をフォローする中で、米中対立の深刻化と時を同じくして経済安全保障が政策的なトピックとして注目を集めていく過程を目の当たりにしました。濱田さんが言及した規制については、これまでも制裁対象国等への輸出管理は行われており、防衛産業などは安全保障と経済合理性との関係を強く意識していました。しかし、今後は経済安全保障というより大きな文脈の中で、商取引や研究にこれまでと異なる対策や規制が求められるようになる可能性があります。そのため、国際情勢や政策動向に素早くキャッチアップできる企業とそうでない企業との間で、抱えるリスクの大きさに差が出てくるでしょう。
PwCコンサルティング合同会社
パートナー
渡邊 敏康
専門領域はインダストリー&テクノロジー(技術戦略/産学官連携/次世代情報通信/国際標準化など)。大手重工メーカー(航空宇宙)、大手自動車メーカー(商品企画)、日系コンサルティングファームを経て現職。中央省庁や研究機関に対して技術戦略や国際標準化戦略の策定支援を行っているほか、次世代情報通信分野に関する委員会にも参画。また、モビリティやスマートシティの分野における産学官連携事業など、産業・分野横断型のテーマと科学技術・公共行政領域の連携・融合を推進している。博士(工学)。
プライスウォーターハウスクーパース WMS Pte. Ltd
シニアマネージャー
濱田 未央
専門領域は関税・貿易。税関、大手コンサルティングファームを経て、2021年から現職。関税貿易チームに参画し、地域的な包括的経済連携(RCEP)、環太平洋パートナーシップ(TPP)など自由貿易協定(FTA)及びそれらの原産地規則、関税分類、関税評価等の関税制度に係る個別アドバイザリーを提供するほか、クロスボーダー取引に関する貿易コンプライアンス向上支援や関税コスト最適化プロジェクトなど貿易にまつわる体制構築・強化に関する企業支援に従事。
――これまで安全保障を意識する必要がなかった民側と、政策を推進する立場の官側とでは、趣旨の理解にやや隔たりがあるのが現状ではないかと考えます。そうであるとすれば、官民の理解の隔たりをどのようにして埋めていくべきでしょうか?
笹田:経済安全保障は、外交・防衛を柱とする国家安全保障の裾野が拡大したものとも捉えることができ、現状としては官による取り組みが民間の努力に先行している部分があります。そして、重要な技術や物資を守るというミクロな話と、安全保障上のリスクのある国に対して同盟国で連携して対処するというマクロな話が、同じ文脈で語られているように感じます。経済安全保障に係る諸政策の立案過程は民側から動きが見えにくいですが、一度世に出た政策は、民側に大きな影響を与えます。ゆえに今後の制度設計にあたっては、官側が政策の必要性について民側の理解を得ていく一方で、民側も運用面での課題や懸案を意思表示していくような、双方向で理解された制度設計が求められるのではないでしょうか。
渡邊:今の話を受けて考えると、サプライチェーンやエコシステム、アカデミアの「場」は国際的に広がり、そのうえで経済安全保障という大きな「流れ」が生まれてきているものと捉えています。昨今の情勢やテクノロジーの進展などが交差することで、場と流れの交通整理が必要になってきていると実感しています。特に民側は事業領域において、どのように経済安全保障の概念を考慮していくべきなのか、インセンティブあるいはペナルティがどのように与えられるかに関心が高まっているのではないでしょうか。そのため官側には、複合的な要素を加味して政策立案することが求められていることから、それぞれの産業・バリューチェーンの解像度を上げて、「木を見て森も見る」というアプローチが必要になっているものと考えています。同時に官民連携だけではなく、例えばデュアルユース問題の議論を見据えて産学官連携の流れも検討しなければならないでしょう。
濱田:官民の理解に隔たりがあるのではないかとの問いかけに対して、私はやや別の見方をしています。経済安全保障という概念を受けて民側が安全保障の重要性を認識しはじめたことによって、むしろ以前よりも官民ともに安全保障に対する危機意識が高まってきており、官民連携への道筋ができてきていると感じています。しかしながら、官民が関心を寄せているところは若干異なる部分もあり、渡邊さんが指摘したように、民側が最も関心を寄せているのは規制が自社ビジネスに及ぼす影響についてです。経済安全保障という観点においても、輸出入規制は従前どおり外国為替及び外国貿易法(外為法)で規定されています。今後より広い視野に立って経済と安全保障の両立を図るためには、制度の透明性を高めることはもちろんですが、雇用と収益を生み出しているのは企業であることを踏まえ、民側が声を上げて政策をリードする動きが求められます。また、官側もそのような民側のインプットを必要としていると考えます。
徳山:私もそもそも官と民は立場と目的が異なりますので、完全に同じ目線に立つことは難しいのではないか、という見方をしています。ですから、官民それぞれが特性を活かしながら連携することが重要になります。例えば、経済安全保障に関するルールメイキングでは、企業が得意とするエマージングリスク管理の手法を用いることができます。官側の規制が始まる前に民側が自主的な規制を課して、その結果を分析し、有効性を評価する。民側が先行してイニシアチブを取ることで、既成事実がルール化されていきます。そして、官側は民側の成果を受ける形で実効性のあるルールメイキングができますし、そのようにしてできたルールは他国を牽制するだけではなく、国民に与える影響をうまく排除できるようになるでしょう。官民連携にあたっては、民側が積極的に提言していくことが重要だと考えます。
――官側によるルールメイキングを待つのではなく、民側が自発的に行動し、意思表示していくことが重要であるなかで、民側に求められるマインドセットはどのようなものなのでしょうか?
笹田:これからの経済安全保障を論じる上でのキーワードは「柔軟性」だと思います。官側は機微技術の流出防止というミクロな視点と地政学リスクの暴発阻止というマクロ視点の両方から、外交的視点も踏まえて取り組みを進めています。民側はこうした文脈を的確にキャッチアップして、新たな秩序が形成されていることを認識して行動していく必要があります。例えば、日本経済の成長に不可欠であり、かつ経済合理性もあった中国市場への露出を本当に減らすべきなのか、その代替として米国や豪州、インドとの間でサプライチェーンや経済圏を構築することが本当にベストな戦略なのか。このような本質的な部分についても柔軟性をもって分析する必要があると考えます。
渡邊:さきほど「木を見て森も見る」アプローチが必要だと話しましたが、それを具体化するにはステークホルダー間で、コンテキストを共有できる抽象度で現状認識を共有していく必要があるものと捉えています。そのためには、サプライチェーンやエンジニアリングチェーン、政策意思決定プロセスなど、それぞれのチェーンや意思決定プロセスの目線をあわせて、どのようなリスクや課題が存在するのか、どこが結節点になるのかを俯瞰できる体系図を作成して、「見える化」することが良いでしょう。一方で、このような「見える化」は日本企業が決して得意なところではないかもしれません。協調と競争の観点で捉えると、技術や仕組みをブラックボックスにしたまま市場で勝ちたいという意識が強く、「見える化」のメリットへの理解とともに拒否感が併存しているように感じます。民側が「見える化」の目線を揃えて、官側が産業構造を具体的に把握するような官民の協調関係で議論を進めてほしいです。
PwCあらた有限責任監査法人
ディレクター
徳山 馨一
専門領域はブローダーアシュアランスサービス(BAS)戦略。公認会計士試験合格後、自動車や半導体などの製造業、小売業、サービス業等のさまざまな企業の会計監査業務に従事。その後、会計や経理・財務領域の業務改善や人材育成などファイナンス分野を中心としたアドバイザリー業務に従事。現在は、BAS戦略本部にて、新ソリューションの開発や監査法人・コンサルティング・税理士法人などのPwCの総合力を結集し、BASの成長に向けた活動を推進している。
PwCコンサルティング合同会社
シニアアソシエイト
笹田 綾
専門領域は公共事業。官公庁にて5年以上勤務し、国際情勢等のフォローや安全保障分野の職務に従事。公開情報に基づく調査・分析等に豊富な知見・経験を有する。2022年7月より現職で、地方創生、人材関連の事業に携わっている。
――PwCとして経済安全保障という新しい概念・制度に対して、どのように貢献することができますか?
濱田:万が一、経済安全保障の観点からの対応に遅れが生じ、サプライチェーンの断絶が起こってしまうと、その経済的な打撃は深刻です。そのようなリスクが発現しないよう対応するためには、分野横断的な体制を立ち上げ、経営陣を巻き込んだリスク対応を議論していくことが必須だと考えます。幸いPwCは、分野や産業を横断して、コンサルティング、税務、金融といったあらゆる面から官民双方のクライアントをサポートさせていただいています。このようなクロスセクターが協調している特性を活かして、クライアントの分野横断的な体制構築を支援することが求められていると認識しています。
徳山:あるインターネット関連事業会社は、海外子会社におけるインシデントについて、記者会見で「経済合理性を理由に続けてきたが、潮目の変化を見落とした」とコメントしました。この例からわかるように、企業には経済安全保障の目線から先手を打っていく強い意思と行動力が求められます。しかしながら、リスクマネージメントは守りと攻めのバランスが大切です。官側の規制に従い、ある国から撤退するとその国に対する影響力が失われますので、別のアセットを投入して影響力を強める方策を同時に検討しなければなりません。会計の領域で言えば、財務以外の情報、例えば脱炭素への取り組みなど非財務情報を開示する流れが最近強まっています。それと同じように経済安全保障を事業リスクとしてどう捉え、モニタリングをどう効かすのかについて、お手伝いできると思います。
――経済安全保障への対策やリスクに備えようと真摯に向き合う日本企業が多い一方、米中対立といわれながらも2022年の米中貿易額は過去最高となっています。改めて経済安全保障を考える際に、どういったスタンスが必要になりますか?
渡邊:協調と競争の枠組みをどのように作っていくのか、企業同士でそれらの議論を進めていくことが重要になるのではないでしょうか。また、官側のルールメイキングを待つのではなく、民側もさまざまな領域や分野が協調して、分野横断的な活動を行うことで、自らの意思を政策に反映させるために提言していくべきでしょう。そのためには、分野・業界内での協調に加えて、例えば分野間のデータ連携のあり方やバリューチェーンの新たなガイドライン作りといった業界や省庁の枠組みを超えたさまざまな協議の場を有機的に繋げていく仕掛けづくりが求められていくのではないでしょうか。
徳山:これからの経営判断は、経済合理性を追求するだけではなく、国際情勢が国家や企業に与える影響など広い視点を持つ必要があります。それには経済安全保障の専門部署や担当役員の存在が不可欠であり、一部の企業はそのような機構を設置するに至っています。多様な人材がスクラムを組み、議論できる体制を構築することが、結果的にスピーディーな経営判断につながると考えます。
濱田:リスクを踏まえた上で、リスクを機会に転換していく発想が求められますが、そのためには、経済安全保障に関するガバナンスの確立が重要になります。しかし、コンプライアンスに偏りすぎると、時に経済発展と相反する動きになってしまうおそれがありますので、経済発展という長期目標に向けて、攻守をバランスよく見極めながら、自社の強みを活かした体制と戦略づくりが求められるのではないでしょうか。
笹田:先ほど申し上げました「柔軟性」が官民ともに求められると思います。ひとたび制定された法令を情勢に応じて改正するには、多大な時間と労力がかかりますので、渡邊さんが言うように、ルールメイキングされる前に、経済の実情を反映した民から官への提言が必要です。あわせて、官側も民側のニーズを適宜適切にキャッチしてく柔軟性を備えなければならないと考えます。
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