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PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)のPublic Service(官公庁・公共サービス)部門は、多様な領域に対応する専門性を持った15のイニシアチブチームから構成されています。この連載(全10回)では、テーマごとにさまざまなイニシアチブからメンバーが集まり、より良い社会をつくるために社会課題解決へのアプローチ、新たな価値創出のアイデアなどについて語り合います。
第6回のテーマは「子育て支援とウェルビーイング」。待機児童数は2017年に過去最多を記録しましたが近年は減少傾向にあり、コロナ禍を経てリモートワークが推進されたこともあって子育て環境の改善は進み、働き方の選択肢は広がりました。22年には育児・介護休業法が改正され、男性も育休を取れる社会に向けての歩みが進んでいます。
では、より子育てのしやすい社会と個人のウェルビーイングの実現に向け、どのような課題があり、どのようなアプローチをすべきなのでしょうか。今回は、PS部門でウェルビーイング、人材育成、健康・栄養、デジタルなどの分野を専門とする4人のコンサルタントが議論しました。
(左から)一二三達哉、正垣綾乃、西本光希、榎園りか
一二三 達哉
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
地方自治体にて子育て支援などに携わった後、独立行政法人の在ドイツ事務所にて対日投資支援や日本企業の海外進出支援に従事。2019年より現職。現在は、児童福祉や介護人材確保、感染症対策に関する調査研究、PMOに携わる。2児の父。
西本 光希
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
大企業向けソフトウェア会社を経て、2019年より現職。厚生労働省の健康、栄養などのヘルスケア領域の案件に主に従事。母子手帳や乳幼児健診など、こどもの健康や命、発育を支える政策に関して、子育て支援のテーマも扱う。1児の父。
正垣 綾乃
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
2018年に新卒入社。厚生労働省などを中心として、労働関係法令や非正規雇用分野などの調査研究、セミナー運営、PMOなどに係る業務に従事。直近では、社員のエンゲージメントに関する調査や人材マッチング分野に関する行政制度活用の推進、PMOなどに携わる。
榎園 りか
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
2020年に新卒入社。官公庁や民間企業の情報システムの企画、設計、開発、運用に関するコンサルティング業務に従事。直近では、中央省庁の地方公共団体情報システムの共通機能標準仕様書の改定支援や、デジタル庁所管の法人におけるクラウド移行に係る調達支援などに携わる。
一二三:
社会的な観点からみると、私が初めて子育て施策に関わった10年前に比べると良くなっていると感じます。
子育て支援施策としては待機児童対策が進み、保育所や認定こども園の数が増えました。10年前には約2万人の待機児童がいたのですが、近年では2,000人台まで減少しています。
制度としても、2023年にこども家庭庁が発足し、こどもに係る施策を社会全体で進めていくためのこども基本法やこども大綱ができました。ここで重視されているのは、こどもや若者を権利の主体ととらえ、こどもや若者、また子育ての当事者の視点や意見を尊重することです。つまり、国がこれまでよりも一歩踏み込んで、こども・若者、子育ての当事者にフォーカスしています。
西本:
ヘルスケアの観点からも日本が持っている制度をポジティブに受け止めています。特に、定期的に乳幼児検診や専門家のサポートを受けられる健診、母子手帳といった制度は、世界的に見ても素晴らしいものです。中東やアフリカでも国際協力機構(JICA)の手によって母子手帳が導入されていますし、今後もその利点は国内外に発信していくべきだと思います。
一二三:
待機児童数は減少している一方、児童虐待の問題があります。近年児童相談所は年間20万件ほどの児童虐待相談対応を行っており、その件数は増加傾向にあります。「子育て支援」と一括りにしても、当事者の状況や、感じている壁はさまざまです。また毎日のニュースでも、子育てに関する話題はどちらかというと「子育てのしづらさ」を感じさせる内容が多く、育児の喜びを伝えるようなものは少ないと感じます。そういった意味ではまだ、社会全体の雰囲気としても「子育てしやすい社会」とはいいにくいのかもしれません。
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 一二三 達哉
正垣:
自身の経験も踏まえ、労働環境から見ても、企業はまだ子育てを応援する雰囲気になりきれていない部分があるのではないかと思います。例えば、産前産後休業や育児休業を取得する人がいる場合、現実として、当事者の業務をカバーする負担が生じます。子育ての当事者も、会社に負担をかけると理解しているので肩身が狭いように感じるのではないかと思いますし、支える側も業務量が増えることを受け入れなければいけない空気になります。企業における子育ての制度や環境は改善傾向にあるといえる一方で、それが多くの人のウェルビーイングには直結していないと感じます。
榎園:
私は若者の立場として、正垣さんに同意します。デジタル社会とはいえ、1人でも人手が減ると、業務への影響は避けられません。ウェルビーイングのためには、子育て当事者だけに目を向けるのではなく、それを支えているメンバーを無視しない形での施策の検討が必要ではないでしょうか。
西本:
ウェルビーイングのお話しが出たので、もう1つ健康面の課題を挙げると、経済格差に伴う栄養や健康の格差が表面化しています。家庭が経済的に困窮すればするほど、栄養バランスの偏った食事になりやすく、貧困度が高いほど肥満児の割合も増えることが分かっています。そうした人々にどのようにして情報を提供し、支援するか。これから議論されるべき課題です。
一二三:
これまで挙げた課題のほか、子育て支援の文脈では、貧困家庭やひとり親家庭に対する支援も求められています。こども世代に貧困が連鎖しないよう、また周囲の支えを必要としている場合に適切な支援ができずに児童虐待に至ってしまうことがないよう、早い段階からの支援が必要です。例えば全国に約8,000人いるといわれる、予期せぬ妊娠やDVなどの事情により出産前から支援を必要とする「特定妊婦」。彼女たちのように支援が必要な方々をサポートすることが、子育てをする当事者の健康、ひいては、よりよい地域の未来にもつながります。
正垣:
正社員(以下、正規雇用)とパートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者(以下、非正規雇用)との労働格差も広がっています。ただその格差も、ウェルビーイングの観点では、一律の「改善」では対応できないケースもあります。例えば、これまで国として、正規雇用の方に対しては多様な働き方(雇用形態の変更なく、職務・勤務地・時間を限定して働く)の実現、非正規雇用の方に対しては同一労働同一賃金などの待遇の改善(を支援してきました。ただ、実際には時間配分や責任の大小などを考え、正規雇用の方でも「子育て中は非正規雇用がよい」というケースがありますし、非正規雇用の方も「正規雇用のような待遇でなくてよいから、いままでどおりの職務や時間で、安定して働きたい」というケースもあると思います。ニーズに沿わない方向へ施策や支援を推し進めてしまうと、結果的にその人の子育てを圧迫することになります。働くことに対する個人の価値観が多様化しているため、いまはこうした多様性への理解も必要な局面だと思います。
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 正垣 綾乃
一二三:
親自身が自分の働き方を考えるだけでも大変ですが、子育てが同時並行となると、「保育所や幼稚園との日々のやり取りはできているか」「こどもに毎日十分な栄養を与えられているか」といった問題も顕在化してきます。親だけがその役割・責任を持つとキャパシティオーバーになるのは当然であり、だからこそ包括的な支援が必要です。いまよりももっと広く、社会で子育てを歓迎し、支える雰囲気づくりをしていく必要があります。
西本:
情報リテラシーの格差にも喫緊の課題です。インターネットによってあらゆる情報が手に入る一方、科学的根拠のない情報もあふれています。間違った情報で食事をつくると、最悪の場合にはこどもの健康被害にもつながりかねません。他方、貧困家庭の場合、そもそもWi-Fi環境がなかったり、スマートフォンの使用に制限があったりと、情報へのアクセス自体が難しい場合もあります。誰が見ても、読み取りやすく、活用しやすい形で必要な情報を提供することが、一人ひとりの健康を救っていくと思います。
榎園:
子育てに関するさまざまな課題に、デジタルは広く解決策を提案できると感じています。労働面であれば、生成AIを活用して事務業務などの効率化を図り、働き方改革に活かすこともできます。業種的に導入しづらい企業や部署もあるとはいえ、リモートワークがさらに推進されれば、子育て支援につながると考えます。家庭をサポートする自治体でも、例えば窓口の人手不足にチャットボットなどを導入することで、支援を求める人を余さず対応することも可能です。健康面であれば、フェムテックといわれる女性の健康支援も日進月歩ですし、あらゆる面にデジタルを取り入れることで、支援の基盤が整っていくと考えられます。一言で「子育て」と言っても課題は多種多様であり、1つの取り組みだけで全ての課題を解決するのは困難であるため、複数のアプローチを掛け合わせて解決策を模索していく必要があると考えます。
一二三:
児童虐待防止の支援にも活かせると思います。支援が必要な家庭のなかには、そもそも児童相談所や市役所などの支援機関の開所時間内に訪問することが難しい方もいれば、電話や対面で話すのが苦手な方もいます。そこにデジタルを取り入れ、メッセージアプリなど非対面でのコミュニケーションの選択肢を増やすこともできるでしょう。自発的にSOSを出しにくい人の支援にも役立つ場面がありそうです。健康診断を受けていない、市役所が家庭訪問しても留守が続く、といった親の場合は、子育てに苦しんでいる可能性があります。データに基づいてこうしたリスクを事前にキャッチし、行政からプッシュ型で支援できる仕組みを作ることも、デジタルに期待したい部分です。
西本:
健康・栄養面とデジタルの掛け合わせでは、アプリなどで専門家に5、10分でも相談できる環境が作られるといいと思います。食事のバランスなどを毎日完璧に保つのは誰にとっても難しいので、守らなければいけない最低限のラインを明確に示すことが重要です。人の命という、ウェルビーイングの土台・基礎になる部分を、デジタルでより安定的に管理できる未来が望ましいと思っています。
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 西本 光希
榎園:
まだ子育てをしていない人や、こどもを授かれていない人、こどもをもたない選択肢をした人が協働でき、必要なときに必要なレベルで支援される社会であってほしいと思います。デジタルは活用すべきですが、そもそも子育て支援に関しては「人」が介入すべき点も多くあると考えています。特に「気持ちを伝えやすい環境づくり」は人にしかできないことです。会社であれば、子育て中の人も、それを支える人も、チーム全員が上司や同僚に意見や思いを言いやすい環境をつくる。こうしたコミュニケーションを丁寧に行うことで、誰かがひっそりと負担を溜め込むこともなく、ウェルビーイングが実現した子育て社会へとつながっていくのではと思います。
一二三:
はじめにお話しした国の政策もそうですが、いまと未来の子育て当事者、つまりエンドユーザーの声に応えることが求められています。「私はこういう支援を求めている」という生の声を聞いて施策に反映すること。また、そうした意見の形成に必要な情報提供を行うこと。それが子育てにやさしい社会、そしてウェルビーイングにつながると思います。そうして“社会全体”でこどもを育て、こども・若者、子育てをする人、周りの人、みんなが「元気に育ってよかった」と喜べるような社会をつくるのが理想です。
西本:
そもそも「ウェルビーイング」という概念はあくまで主観的で、一括で解決するのは難しいものです。その意味では、自分のライフステージ、働き方、ワーク・ライフ・バランスなどを、誰もが主体的に考えなければいけない時代にきています。自分の目指すビジョンが見えてきたときに「今の環境で実現できるのか」ということもクリティカルに検討できるはずです。
正垣:
ワーク・ライフ・バランスの観点でいうと、いま、働く人が何らかの理由で「働き方を大きく変えたい」と思ったときに、選択肢としては転職や退職を考えることが多いと思います。でも今後、子育てしやすい社会をつくるためには、各企業の中での人材流動性を高めていくことが大事だと思います。例えば同じ会社の中でフレキシブルに働き方や雇用形態を変えられる仕組みをつくったり、子育てで休職するメンバーのポジションに外部からメンバーを招致したりすることなども一手でしょう。
また「より多くの人が子育てに取り組める社会へ」という意味では、ひとり親家庭の場合、親の貧困を受け継ぐという問題が浮上しています。貧しい環境で育った子は、大人になっても貧困から抜け出せないケースがあり、経済的な問題などから、こどもを持つことが難しいと感じている人もいると思います。そうした人が「こどもを持ちたい」と思ったときに、社会がどう支援できるか。ここでは、環境に関係なく本人の意思で人生設計ができるよう、リスキリングをはじめとした、経済的な充実のために働き方の選択肢を増やすことができるような施策も、より充実させるべきだと思います。
榎園:
クライアントが幅広く、中央省庁や外郭団体、自治体、民間企業などさまざまな方とコラボレーションができます。そうした方々の知見を活かしながら、単一のテーマに対して考え方次第でさまざまな取り組みができるのが、面白みであり大きなやりがいです。
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 榎園 りか
正垣:
PSでの仕事は学びが多く、個人的にも日々刺激を感じています。案件ごとにその業界の第一人者や有識者の方と関われるので視野が広がりますし、社内チームにも、バックグラウンドの異なる優秀な方々が集まっています。コンサルタントとしてのキャリアを築いていくにあたって、多くの学びがあり、いい環境だと思っています。
西本:
個人的には、身近な問題を扱うことが多い部署だなと感じます。子育てに関しては自分も当事者ということで、実生活と業務がリンクする部分も多くあります。またコンサルタントという仕事は、社会課題、企業課題というあいまいな事象をどう定義するかによって、捉え方やアプローチが変化するもの。だからこそいろいろな観点、立場から議論できるPSの環境は、よりよい施策を検討するにあたって、とても恵まれていると思います。
一二三:
私もPSに所属していることで、日々、自身が成長しているとの実感が得られています。皆さんがいわれたようにクライアントも多様ですし、メンバーには社会福祉士や保育士といった専門家だけでなく、実際に国や自治体の施策作りにかかわった経験者も多くいます。今日お話しした子育て領域ならば、保護者、こども、若者、といった当事者に直接話を聞くことで学びがありますし、アカデミアも含め、各業界のステークホルダーに先進的な知見を聞くこともできます。このように外に触れる機会が多いことは、コンサルタントにはありがたい環境です。今後もそうした強みを活かし、必要なときには各専門領域の知見や経験を掛け合わせながら、子育てにやさしい社会づくりを目指していきたいと思います。
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