カーボンニュートラル実現に向けたバイオ・合成燃料普及の可能性

  • 2026-02-16

車両サイズの大きいトラック、バスなどの商用車においては、ZEV化(BEV・FCEV化)のみでは、従来のパワートレインを搭載した車両と比較して航続距離が短いことや、重量の大きいコンポーネントを搭載することによる積載量制約が生じることから、カーボンニュートラル(以下、CNとする)実現の手段として採用することが難しい状況となっています。そのため、従来のパワートレインを生かしながら、燃料の脱炭素化を通じたCN実現が求められています。燃料CN化の手段としては、トウモロコシなどの食料作物、廃食油や食品廃棄物などのバイオマスを原料とするバイオ燃料と、再生可能エネルギー由来の水素および回収されたCO₂を原料とする合成燃料の2種類が存在します。原料および製造方法が異なることから、各種燃料供給に向けたサプライチェーン・経済性・技術制約や、その普及に向けた課題は異なります。

このため、商用車分野におけるCN実現においては、ZEV化のみを前提とするアプローチには限界があり、既存パワートレインを生かしつつ、燃料の脱炭素化を通じて排出削減を進めることが、現実的かつ即効性のある選択肢として重要性を増しています。

CN実現に向けた各国の動き

欧州(以下、EU)は規制を中心とした「規制主導型」、米国は税制優遇などを活用した「市場インセンティブ主導型」、日本は「部分的に制度が整備されている段階」と整理されます。

欧米では、政策の方向性が明確に示されており、これが燃料の普及や関連市場の拡大を後押ししています。一方、日本では制度整備が進みつつあるものの、市場形成を本格的に促す仕組みについては、今後さらなる検討と強化が求められています。

EUの動き

脱炭素化およびエネルギー転換を目的とする主要政策である「グリーンディール*1」「Fit for 55*2」「RePowerEU*3」を掲げ、輸送業界向けにはRED*4Ⅱ/Ⅲや乗用/小型商用車や大型車向けCO₂排出規制*5,6に関するEU規則を発表するなど、グローバルリーダーとして、BEV普及を主軸に据えつつ、バイオ、合成燃料といったCN燃料導入を後押しする施策を打ち出してきました。ただし2025年12月時点、乗用/小型商用車向けCO₂排出規制で規定した2035年のCO₂削減目標100%は、90%へと緩和される方向で議論が進んでいます。残る10%については、バイオ、合成燃料を活用するなど一定の条件を満たすことで2035年以降もHEV、PHEV、内燃機関搭載車を条件付きで販売可能とする議論も合わせて行われており、制度設計の方向性については注視が必要な状況です。

EU域内の国別CN燃料導入動向を見ると、特にフランスでは、エネルギー安全保障などを起点に早期からバイオメタンを活用するなど、燃料のCN化観点だけでなく、エネルギー安定調達の観点からもバイオ燃料の普及を進めています。

バイオ、合成燃料のCO₂排出量換算に関するルールは、REDⅡ/Ⅲで規定されており、バイオ燃料は自然由来のCO₂排出であることから、燃料燃焼時のCO₂排出はカウントされないこととなっています。合成燃料については、原料となるCO₂の調達方法により燃料燃焼時のCO₂排出カウントは異なります。また、ネガティブエミッションと呼ばれる、本来は大気中に解放されるCO₂・メタンなどを回収し燃料化することで排出量よりも吸収・除去量を上回らせるネガティブカウントは、上限が決まった状態(-45kg-CO₂eq/GJ)で設定されています。

米国の動き

連邦レベルのCN燃料普及策として、RFS*7で燃料供給事業者向けにバイオ燃料導入に対する義務量が規定されており、一定以上のバイオ燃料が市場に普及するような仕組みが既に構築されています。RFSは、ガソリンやディーゼルを供給する事業者に対し、バイオエタノールやバイオディーゼル、再生可能ディーゼルなどの利用義務量が1年ごとに設定されています。RFSの下では、再生可能燃料は原料やCO₂削減効果に応じて区分されており、トウモロコシ由来エタノールなどの従来型バイオ燃料に加え、廃食油や動物性油脂を原料とする先進的バイオ燃料も位置付けられています。義務履行はRIN*8と呼ばれるクレジットを通じて管理されており、市場メカニズムを活用しながら制度運用が行われている点が特徴です。こうした仕組みにより、米国ではバイオ燃料の安定的な需要が創出され、特にバイオエタノールや再生可能ディーゼルの普及が進んできました。

一方、合成燃料については、RFSのように導入義務量として明確な目標が設定されているわけではありません。RFSは主としてバイオ燃料を対象とする混合義務制度であり、合成燃料の導入義務設定は制度設計上含まれていません。これに対して、2022年に成立したIRA*9では、クリーン燃料の生産者に対する税制支援やクレジット制度など、製造・供給を後押しするインセンティブが盛り込まれています。

バイオ、合成燃料のCO₂排出量換算に関するルールは、RFS内で規定されており、燃料製造のパス(プロセス)ごとに設定されています。一部の製造プロセスでは、ネガティブエミッションが認められています。

州レベルの動きとしては、環境政策で先行するカリフォルニア州において、LCFS*10に基づき、燃料の基準となる炭素強度が設定されており、これを通じてバイオ燃料や合成燃料の導入促進が既に進められています。

CO₂排出量に関するルールはLCFSの枠組みの中で定められており、バイオ燃料・合成燃料については、原料調達から製造、輸送、最終的な燃料燃焼に至るまでの一連の燃料パスウェイに応じて炭素強度を算定することが規定されています。こうしたライフサイクルベースの評価により、CO₂削減効果の高い燃料ほど制度上有利に位置付けられる仕組みとなっています。

日本の動き

日本政府は、バイオエタノールの導入目標量を2030年にE10相当(10%混合)、2040年にE20相当(20%混合)と設定していますが、それ以外のバイオ燃料に対する導入目標は規定されていません。合成燃料のうち、e-ガソリン、e-ディーゼルに該当する燃料については、2030年代前半の商用化目標は設定されているものの、具体的な目標量については設定されていない状況です。一方、e-メタンについては、2030年に既存インフラの1%を代替することと、2050年には都市ガスの90%を代替することが、経済産業省のメタネーション推進官民協議会などでの議論結果を踏まえて規定されています。

バイオ、合成燃料のCO₂排出量換算に関するルールは、J-クレジットにおいて詳細な排出量定義が規定されています。ネガティブエミッションが認められるのは、家畜糞尿由来バイオメタンのみ条件を満たした場合に限られます。ただし、欧米の動向を踏まえて今後ルール改定が進む可能性もあるため、動向について注視が必要であります。

燃料の種別による普及に向けた課題整理・打ち手

ここからは、バイオ燃料および合成燃料について、原料となる資源や製造方法の概要を整理するとともに、それぞれの特徴を確認していきたいと思います。合わせて、コストや供給体制、技術面での制約などにも触れながら、今後、これらの燃料を普及させていく上での主な課題について整理していきます。

バイオ・合成燃料の概要

図表1:各バイオ・合成燃料の概要

図表1に記載の通り、バイオ燃料は、ディーゼル燃料を代替するFAMEやHVO、ガソリン燃料を代替するバイオエタノール、CNG/LNG燃料を代替するバイオメタンが存在します。合成燃料(e-fuel)は、各従来燃料の代替として、e-ディーゼル、e-ガソリン、e-メタンの大きく3種類が存在します。バイオ燃料は、植物や廃食油などに由来する生物由来炭素を原料として製造される燃料であるのに対し、合成燃料は、再生可能エネルギー由来の電力で製造されたグリーン水素と、回収したCO₂を原料として化学的に合成される燃料を指します。両者は、原料や製造プロセスが異なることから、導入のしやすさや供給ポテンシャル、コスト構造などにそれぞれ特徴があります。以下では、こうした違いを踏まえながら、各燃料の特性や活用に当たってのポイントを説明していきます。

FAMEおよびHVOは、いずれも植物油、廃食油、動物性油脂といった油脂系資源を原料として製造されるバイオ燃料です。両者は同じ原料を用いるものの、製造方法が異なり、FAMEがアルコールと反応させるエステル交換反応によって生成される一方、HVOは水素を用いた水素化処理によって製造されます。こうした製造プロセスの違いにより、燃料としての性質にも差があり、HVOは既存のディーゼル燃料との混合に関する制約がほとんどないのに対し、FAMEについては混合比率に一定の制約が設けられています。具体的には、ディーゼル燃料に対して何%まで混合可能かを国や地域ごとに、B5(5%相当)やB7(7%相当)のような形で規定しており、各国の制度や燃料規格に応じた対応が求められます。

ガソリンに混合する形で利用されているバイオエタノールは、現在実用化されているものの多くが、トウモロコシやサトウキビといった糖質・でんぷん質を含む作物を原料としており、これらを発酵処理することで製造されています。こうしたバイオエタノールは、既に各国で商用利用が進んでおり、ガソリンの一部を代替する手段として広く活用されています。

一方で、食料との需要の競合を避ける観点から、非可食原料を用いた次世代バイオエタノールの開発も進められています。具体的には、木質バイオマスなどのセルロース系原料や藻類を用いた製造技術が研究・開発段階にありますが、製造コストや技術面での課題が残っており、現時点では本格的な実用化には至っていません。

バイオメタンは、家畜糞尿、下水汚泥、食品廃棄物といった有機性廃棄物を原料として、嫌気性消化プロセスを通じて生成されるガスです。これらの原料は比較的安定して発生するため、地域資源を活用したエネルギーとして、国内外で一定の導入実績があります。この、製紙工程から発生する副産物や林地残渣(ざんさ)などを原料とするケースも検討されていますが、原料の回収や前処理の難しさ、コスト面の課題などから、現時点では本格的な普及には至っていません。今後は、こうした課題を踏まえつつ、原料の多様化や利用拡大に向けた検討が進められています。

合成燃料は、再生可能エネルギー由来の電力を用いて製造されたグリーン水素と、回収したCO₂を原料として化学的に合成される燃料を指します。原料に化石資源を用いない点が特徴であり、燃焼時に排出されるCO₂は原料として利用したCO₂と相殺されることから、CNな燃料として位置付けられています。合成燃料の原料として用いられるCO₂には、主に工場や発電所などから排出される排ガス由来のCO₂や、大気中から直接回収するDAC*11由来のCO₂があります。前者は回収コストが比較的低い一方、将来的な排出源の縮小による共有不足が課題とされます。後者は回収濃度が低いことからコスト面での課題はあるものの、長期的には安定的なCO₂供給源として期待されています。

e-ガソリンやe-ディーゼルは、グリーン水素とCO₂から一度合成ガスを生成した上で、FT*12合成を用いて製造される方法が一般的です。また、同じ原料を用いながら、まずメタノールを生成し、その後に化学反応を通じてガソリンやディーゼル相当の燃料へ転換する製造ルートも検討・活用されています。

一方、e-メタンは、グリーン水素とCO₂を原料として、メタネーション反応を経て生成される合成燃料です。都市ガスと同等の性質を持つことから、既存のガスインフラを活用できる点が特徴とされており、ガス分野におけるCN化の手段として注目されています。

バイオ・合成燃料普及に向けた課題

図表1では、バイオ燃料および合成燃料について、それぞれの原料の種類や製造方法の概要を整理しました。これを踏まえ、以下の図表2では、原料の調達段階から燃料として最終的に供給されるまでのプロセス全体を俯瞰し、普及に向けた主な課題を整理しています。特に、原料の供給安定性や、製造・供給に要するコスト構造の面では、バイオ燃料と合成燃料の間で異なる制約や課題が存在しており、それぞれの特性に応じた対応が求められます。

図表2:各バイオ・合成燃料の原料調達~燃料供給における課題整理

原料調達の観点で見ると、バイオ燃料は、生物由来資源に依存するため、原料の発生量に物理的な制約があり、再生可能資源としての原料確保を巡る競争が年々激化しています。特に近年は、持続可能な航空燃料(SAF*13)の需要拡大に伴い、廃食油や植物油などの原料の確保をめぐって取り合いが顕在化しています。このため、限られた原料をどの用途に優先的に配分するかが重要な論点となっており、車両向け燃料として安定的に原料を確保していくことが、今後の普及に向けた大きな課題となっています。合成燃料は、製造過程において大量に必要となるグリーン水素の生成コストが依然として高水準にあることから、再生可能エネルギー由来電力の価格がコストを押し上げる主な要因となっています。加えて、水電解設備についても、大規模に導入・運用されている拠点は現時点では限定的であり、十分な製造規模を確保することが難しい状況にあります。このため、スケールメリットを生かしたコスト低減が進みにくく、足元では、バイオ燃料と比べてコスト面で不利な位置付けにあります。一方で長期的には、再生可能エネルギー電力の価格低減や水電解技術をはじめとする関連技術の進展により、製造コストの大幅な低下が期待されています。こうした前提が整えば、合成燃料はCN性と供給の安定性を両立し得る燃料として、将来的に重要な役割を果たす潜在力を有していると考えられます。

燃料製造のプロセスに関しては、バイオ燃料については既に商用化が進み、製造技術としては一定程度成熟していることから、技術面での大きな課題は限定的と考えられます。一方、合成燃料については、依然として技術開発の余地が大きく、例えばFT合成における燃料留分の向上や、メタネーションにおけるメタン生成効率のさらなる向上などが、主要な技術的課題として挙げられます。今後は、こうしたプロセスの高度化を通じて、効率改善やコスト低減を図っていくことが重要となります。

燃料供給のプロセスにおいては、燃料特性の違いを踏まえると、大きく分けて二つの課題が存在します。一点目は、バイオエタノールの混合比率引き上げに伴う供給方式の見直しです。今後は、従来主流であったETBE*14を用いた混合方式から、バイオエタノールを直接混合する方式への移行が想定されており、これに対応するためには、車両側だけでなく燃料供給ステーションを含むインフラ全体で、仕様や安全基準の再検討が必要となります。この結果、既存インフラの改修に伴うコスト負担や、規格・標準の整備が普及に向けた大きな課題となる見通しです。二点目は、バイオメタンやe-メタンといったガス系燃料の供給インフラに関する課題です。現状では、CNGやLNGの供給ステーション数が限られており、燃料供給網の整備が十分に進んでいないことが、普及のボトルネックとなっています。特にバイオメタンは、原料によっては高いCO₂削減ポテンシャルを有するものの、それを活用するための燃料供給網が不足している点が課題として挙げられます。

 

以上を踏まえると、経済合理性の観点からは、短期的には既存技術やインフラを活用しやすいバイオ燃料の普及を中心とした取り組みを進めることが求められます。一方で、中長期的には、カーボンニュートラル性と将来的な供給拡大の可能性を踏まえ、合成燃料の活用へと段階的にシフトしていくことが必要と考えられます。

具体的には、ディーゼル系燃料については、FAMEには混合比率に制約があることから、今後は既存車両や燃料規格との親和性が高いHVOの普及を促進していくことが重要となります。他方、CO₂排出削減効果の観点においてバイオメタンは高いポテンシャルを有していることから、その活用拡大に向けて、車両側の対応に加え、燃料供給ステーションの整備など供給インフラ面での取り組みを進めていく必要があります。

商用車分野におけるCN実現に向けては、単一の技術や燃料に依存するのではなく、時間軸と用途特性を踏まえた複線的なアプローチが求められます。既存車両を含めた即時的な排出削減にはバイオ燃料は有効です。今後は、制度設計・市場形成・技術開発を一体のものとして進めることで、燃料CNを商用車分野の現実的な脱炭素手段として定着させていくことが重要であり、PwCコンサルティング合同会社は、こうした産業や社会全体の変革プロセスに寄り添い、構想策定から実行に至るまでを包括的に支援することで、よりよい社会の実現に向けた取り組みを後押ししていきます。

*1 EUの気候中立実現に向けた包括的政策枠組み

*2 2030年削減目標(55%減)達成のための政策パッケージ

*3 エネルギー供給多様化と脱化石燃料を加速する政策措置

*4 Renewable Energy Directive:再生エネルギー指令

*5 Regulation(EU)2019/631:新しい乗用車および新しい小型商用車のCO2排出性能基準を定める規則

*6 Regulation(EU)2019/1242:新しい重貨物車のCO₂排出性能基準を定める規則

*7 Renewable Fuel Standard:再生可能燃料基準

*8 Renewable Identification Number:再生可能燃料識別番号

*9 Inflation Reduction Act:インフレ抑制法

*10 Low Carbon Fuel Standard:低炭素燃料基準

*11 Direct Air Capture:大気中に拡散したCO₂を直接回収する技術

*12 Fischer–Tropsch:COとH2から液体燃料などを合成する技術

*13 Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料

*14 Ethyl Tertiary-Butyl Ether:バイオエタノール由来の燃料添加剤

執筆者

矢澤 嘉治

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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志村 雄一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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村松 哲郎

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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河合 祐耶

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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石河 雄太

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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