コーポレートガバナンス・コード改訂:資本配分は「方針」から「実行・検証」へ

  • 2026-10-19

本稿の要旨

日本企業は、資本効率と株主還元を意識する経営へ大きく前進しました。一方、設備投資や研究開発投資のモメンタムは、いまだ高まっていません。2026年の東証要請アップデートとCGコード改訂を、日本企業はどう捉えるべきでしょうか。資本市場が期待しているのは成長投資の多寡ではありません。日本企業が成長戦略と事業ポートフォリオを一体で捉え、資金・人材・技術・知的財産・データなどを価値創造が期待できる領域へ再配分し、その成果を取締役会が継続的に検証する経営へ転換できるかどうかです。資本配分は「方針」から「実行・検証」の局面に入るのです。

1. 改訂CGコードの位置づけとは

2023年3月に東京証券取引所(以下、東証)が「資本コストや株価を意識した経営に向けた対応」を要請して以降、日本企業は、資本コストや資本収益性の把握、PBR(株価純資産倍率)改善、政策保有株式の縮減、配当、自己株式取得などの取り組みを進めてきました。

2026年4月、東証は「資本コストや株価を意識した経営」に関する要請をアップデートし、「経営資源の適切な配分」を中心とした投資家の期待と取り組みのポイントを示しました。そこでは、①中長期的な経営方針として目指す姿や成長の道筋を明確にする、②目指す姿に向けた資本の使い方、配分、優先順位を示す、③保有資産が価値創出に向けて最適な状態にあるかを検証する、④これらについて取締役会レベルで実効的な議論と監督を行う、などが重要な視点として示されています。

さらに東証が2026年8月に公表した機関投資家アンケートでは、投資家が企業の進展を評価するポイントとして、キャピタルアロケーション方針の明確化、低収益・非中核事業の撤退や再編を含む事業ポートフォリオ改革、資本コストや資本効率を意識した経営管理、経営トップと取締役会のリーダーシップ、対話を通じた継続的な改善などが挙げられました。

こうした東証の動きと、2026年7月のCG(コーポレートガバナンス)コード改訂は軌を一にしています。CGコード改訂では、成長の道筋を構築・提示し、資本コストを踏まえて成長投資や事業ポートフォリオの見直しを行い、経営資源が有効に活用されているかを継続的に検証することを、取締役会の役割として一段と強調しています。

2023年以降の改革が、資本コストや市場評価を「意識する改革」であったとすれば、次に求められるのは、経営資源を実際に動かして成長分野に投入し、その成果を検証する「実行と再配分の改革」だと考えます。今回のCGコード改訂は、ガバナンス改革の重心を資本効率の把握や形式的な開示から経営資源配分を通じた企業価値創造へ移すものと捉えるべきでしょう。

市場の関心もアップデートされています。今、市場で問われているのは、資本コストを把握しているか、ROE(自己資本利益率)やPBRの目標を掲げているかだけではありません。企業がどのような姿を目指して成長戦略を打ち出し、その実現に必要な経営資源をどの事業や能力へ配分し、どのような時間軸で企業価値向上につなげるかです。

市場に大きな影響を与える外国人投資家をはじめとする機関投資家も、投資額や還元額そのものではなく中長期的な企業価値向上の実現を日本企業に期待し始めています。そのためには、経営資源を「どこへ配分するか」「どこから引き揚げるか」「成果をどう検証するか」「成長の道筋をどう説明するか」という経営資源の再配分機能がさらに改善・高度化されることが重要です。

一連のプロセスを軌道に乗せるには、経営トップが企業価値向上に主体的に関与し、取締役会が経営の最終意思決定機関として実質的に機能する必要があります。取締役会の責任は一段と重くなるでしょう。CGコードの改訂は取締役会に対し、企業経営に必要なスキル・経験を有する人材が実質的な議論を行う場となるよう、変革を迫っているのです。

2. ガバナンス改革は道半ば

日本のコーポレートガバナンス改革は、資本効率と企業価値を意識した経営を上場企業に浸透させるうえで、一定の成果を上げてきました。2014年公表の伊藤レポートによる問題提起、CGコードの導入と改訂、東証による「資本コストや株価を意識した経営」の要請を通じて、経営者と取締役会はROE、PBR、資本コスト、株主還元を従来以上に意識するようになりました。その成果は資本配分の変化に表れています(図表1)。経済産業省の「成長投資ガイダンス データ集」によれば、上場企業の配当は2013年度の8兆円から2024年度の25兆円へ、自己株式取得は3兆円から17兆円へ増加しました。

一連のガバナンス改革には罰則がないにもかかわらず、上場企業の間には、資本効率や市場評価を意識する経営が着実に浸透しつつあります。一部の海外機関投資家は、これを日本企業のガバナンス改革の進展として驚きをもって評価しています。こうした声にも表れているように、日本企業のガバナンス改革の進展は、日本株の評価を支える重要な要因の一つとなっています。

株主還元が進む一方で、現預金もTOPIX500ベースで55兆円から118兆円へ増加しています。この半面、設備投資の対売上高比率は2016年度の5.4%から2023年度の5.1%へ低下し、研究開発費の対売上高比率は2.1%から2.2%への小幅な上昇にとどまりました。

これらの変遷から二つの変化を読み取ることができます。一つは、改革の成果として日本企業が自社の株価上昇(時価総額の増加)を経営の優先課題と位置づけ、「余剰資本を社内に留保すること」よりも「余剰資本を株主へ返すこと」を重視しつつあるということです。もう一つはその半面、日本企業は稼いだ利益を将来の競争力を生む投資へ振り向ける段階には十分には移行していないということです。

今回のCGコード改訂が日本企業に促しているのは、中長期的な成長戦略に基づき経営資源を成長分野に振り向けることです。デフレ経済からの脱却に時間がかかった、地政学リスクが予期せぬ形で高まった、経営陣も経験したことがない金利上昇局面に入ったなど、考慮すべき事情はあります。成長分野を見定めて経営資源を投入することは、低成長下の日本経済にあってはなおさら容易ではありません。一方、市場は、経営資源を低収益・非中核事業から引き揚げ、より成長可能性の高い分野へ移す推進力(モメンタム)が日本企業にあるかを注視しています。特に長期投資志向の機関投資家は、取締役会が経営資源配分の質を高める役割を積極的に果たしているかを見極めようとしています。この点は、改訂CGコードが日本企業の次の課題として掲げる点とも通底しています。

図表1:株主還元は拡大、成長投資はほぼ横ばい

株主還元は拡大、成長投資はほぼ横ばい ,

3.成長投資は欧米に劣後

日本企業の「資本コストや株価を意識した経営」は過去の姿と比べると大きく進展しました。しかし、それを海外企業と比較すると別の課題が浮かび上がります。

経済産業省のデータでは、日本の上場企業1社当たり平均株主還元額は、2024年度に2013年度比で3.5倍となり、欧米企業より高い伸びとなりました。市場では、株主還元に消極的な日本企業という従来のイメージは変わりつつあります。

一方、図表2が示すように、成長投資では厳しい現実が浮かび上がります。CAPEXの対売上高比率は、2016年度から2023年度にかけて、日本が5.4%から5.1%へ低下したのに対し、米国は5.5%から5.9%、欧州は5.4%から5.8%へ上昇しました。差がより顕著なのはR&Dの対売上高比率です。同期間に日本は2.1%から2.2%への微増にとどまりましたが、米国は2.8%から4.8%へ、欧州も2.5%から3.4%へそれぞれ上昇しました。

これは日本企業が設備投資や研究開発に消極的なことを必ずしも意味しません。とは言え、売上高に対する投資強度が十分に高まっておらず、特に研究開発で米欧との差が広がっていることは経営のリスクと考えられます。それは、企業の競争優位の源泉が設備だけでなくソフトウェア、データ、人材、知的財産、組織能力へ広がる中、十分な投資原資がなければ過去の延長線上で投資額を維持するだけで精一杯となり、新分野の競争に劣後する可能性があるからです。

それでは株主還元を抑えて成長投資を増やせばよいのか。そうとも言えないのが、経営者にとって悩ましいところです。東証アンケートや投資家との対話を通じて示される長期投資志向の機関投資家の期待は、資本コストを上回る投資機会を見極め、価値創造(EP、Economic Profit)の拡大につながる投資を実行し、実行後の成果を検証し、その期待リターンを時間軸と共に説明することです。経営者は株主還元と成長投資を対立概念と認識するのではなく、中長期的な経営方針に基づき、投資機会が乏しい場合には余剰資本を還元し、価値創造が期待できる場合には必要な資本を機動的に投じる。こうした経営判断を一貫した基準で行い、その合理性を市場へ示し、市場から株価という形でフィードバックを得ることが重要です。経営資源配分の質を向上させることは日本企業にとって重要な経営課題であり、そこで取締役会が果たす役割はますます高まっていると言えます。

図表2:成長投資の国際比較:日本はCAPEX・R&Dとも米欧に劣後

成長投資の国際比較:日本はCAPEX・R&Dとも米欧に劣後 ,

4. 投資総額より経営資源配分の質を

東証が求める「経営資源の適切な配分」の本質は、資金の配分のみならず、企業価値を高めるあらゆる経営資源の配分を適切に行うことです。企業価値を高める経営資源は、資金や設備に加え、人材、技術、知的財産、データ、顧客基盤、ブランド、経営陣の時間などに広がっています。これらの経営資源を持続的な成長に向けた研究開発投資、人的資本への投資、設備投資、事業ポートフォリオの見直しなどを通じて、適切に配分することが求められています。

そこでは資本配分を財務部門が策定する資金計画に限定せず、成長戦略から自社に必要な能力を特定し、その能力を支える資金、人材、技術、知的財産、データを成長領域へ重点配分することが経営の優先課題となります。

課題解決のためには、成長戦略、事業ポートフォリオ、投資判断を一体で議論することが重要です。低収益事業を温存したまま新規投資を積み増せば、資本だけでなく、人材や経営者の時間も分散してしまい、その結果、成長領域へ十分な経営資源を集中できず、投資の実行力が低下します。これは図表2で示した成長投資の国際比較における懸念にも通じます。

反対に、短期的なROE改善を優先して投資を削減し、資本を削って株主還元を増やすことも根本的な経営課題の解決にはなりません。東証は、自社株買いや増配が有効な手段となる場合があることを認める一方、株主還元を増やすだけの対応や株主への一時的な大盤振る舞いではなく、資本コストを上回る資本収益性と持続的成長を目指すことこそが中長期的なROEの改善につながると期待しています。

日本企業に必要なのは、既存事業への維持投資、競争力強化投資、新規成長投資、事業の縮小・売却、保有資産の最適化、株主還元を、別々のテーマではなく、一連の経営資源配分ポートフォリオとして設計することです。

そこで重要になるのが、経営資源配分を静的な年度予算ではなく、複数年度にわたる経営計画に基づいた継続的なプロセスとして取り組むことです。経営資源配分を決定した時の前提条件は、市場環境、技術、顧客ニーズ、競争状況の変化と共に陳腐化します。そのため、当初計画どおりに支出したかだけでなく、投資仮説が今なお成立しているか、配分した人材や技術が期待した成果につながっているかを検証しなければなりません。

検証の結果、当初の期待を上回る可能性が見えてきた場合には、追加投資や人材の再配置を行います。一方、仮説の段階で想定した成果が得られない場合には、計画修正、提携、売却、撤退へと判断を切り替えます。撤退基準はあらかじめ決めておくことが重要です。経営資源を投入して終わるのではなく、成果に応じて再配分することが重要です。

資本効率と成長投資は対立する概念ではありません。価値創造が期待できる領域では投下する経営資源を増やし、期待した成果が得られない領域からは資金、人材、経営の時間を引き揚げます。この入れ替えを継続的に意思決定できる企業ほど、資本効率を維持しながら成長できるのです。

5. 経営モデル別に見た価値創造の類型化

経営資源配分を中長期の経営計画に基づいた継続的なプロセスとして取り組む企業に対し、取締役会(社外取締役)や機関投資家が認識すべきことは、経営資源の適切な配分は経営モデル(価値創造モデル)によって異なるということです。図表3ではその違いを類型化しました。全ての類型において経営資源配分の規律は共通しますが、配分すべき価値の源泉、経営資源の配分先、時間軸、撤退基準は価値創造モデルによって異なります。

(1)ポートフォリオ型の経営モデル(商社・金融など)

価値の源泉は、グローバルなネットワークを基盤に、投資先へ深く入り込んで事業投資の価値を生み出し、一方で環境変化に応じて事業構成を組み替える柔軟性です。経営資源は成長分野へのリスクマネー供給と各事業を担い得る経営人材へ配分される一方、金融では規制対応にも十分なリソースを割く必要があります。投資の時間軸は3~5年の中期です。撤退基準はP/L、資本効率、当初計画との乖離などで、例えば、3年で単年度黒字転換、5年で累損解消などが考えられますが、実際には業種や投資特性に応じて設定する必要があります。取締役会における議論は、全社最適の視点に立ったリスク・資本配分の判断、事業の撤退基準の厳格な適用、各事業投資を担い得る経営人材の育成が主要論点です。

(2)設備集約型の経営モデル(インフラなど)

価値の源泉は、線路や車両といった有形資産を長期にわたり維持し、製品やサービスの安定供給と社会からの信頼を通じて長期的に安定したキャッシュフローを生み出すことです。この経営モデルは固定資産の入れ替えが容易ではありません。経営資源は中核事業の安全・更新投資、規制対応、新規事業に配分されます。中核事業から安定的に得られるキャッシュフローは、他の経営資源とともに新規成長投資に配分されます。投資の時間軸は中核事業だと10年超と長期にわたるため、3~5年単位で中間評価を行います。撤退基準はポートフォリオ型と同様に、P/L、資本効率、計画との乖離ですが、公共性が重要視されるため、地域社会への貢献見通しが加わります。取締役会における議論は、長期にわたる巨額の資本投入の妥当性、公共性・安全性の維持と効率化(コスト管理)の両立、そして中核事業とは性質の異なる新規事業への投資を評価・管理する仕組みの構築が主要論点です。

(3)知財・R&D型の経営モデル(製薬など)

企業価値を高める経営資源には資金や設備だけではなく、人材、技術、知的財産、データ、顧客基盤、ブランドなども含まれます。知財・R&D型の経営モデルにおける価値の源泉は、研究開発力と特許による市場独占権、そして将来の有望な技術を見極める目利き力です。成功確率が低いことを前提に複数の研究へ並行投資する一方で、長期の研究開発と開発途上での失敗(撤退)に耐え得る資金を確保することが、経営資源配分の中心となります。投資の時間軸は、インフラと同様に10年超と長期にわたるため、数年単位でゲート評価があります。撤退基準はその開発ステージごとの評価で、例えば、科学的エビデンス、市場競争力、投資対効果に基づいて判断が下されます。取締役会における議論は、不確実性が極めて高い投資を評価・管理する仕組みを構築できているか、開発計画の撤退基準を厳格に運用できているかが主要論点です。

(4)情報・人材集約型の経営モデル(IT・サービスなど)

価値の源泉は、個人のスキルを組織の知として仕組み化する力、蓄積したデータ、顧客リレーション、そして人材の獲得と育成です。経営資源はナレッジ(知見)とテクノロジーへの投資に振り向けられます。投資の時間軸は1~3年と最も短く、撤退基準は、顧客の定着度、顧客単位の採算性、人材などの機会費用、事前に設定した投資上限額・資金枠の消化などで判断されます。取締役会における議論は、人材価値の最大化とテクノロジー投資を行う一方、並行してAI導入による新しい経営モデルを構築できるか、併せてコンプライアンスや情報セキュリティなどのリスク管理が機能しているかが主要論点です。

価値創造が期待できる領域では経営資源を追加投入し、所期の成果が得られない領域からは引き揚げる。こうした入れ替えの意思決定を継続的に行える企業ほど資本効率を維持しながら成長できる点はあらゆる経営モデルに共通します。しかし、価値創造の中身は経営モデルで異なります。取締役会においては共通の規律を踏まえつつ、経営モデルの違いを念頭に置いた議論を行い、市場との対話を通じて投資家の理解を深めることが重要です。市場との対話は、自社の価値の源泉を失わせるような要求や価値創出に要する時間軸を無視した要求に関して、特に深める必要があります。上場企業においては、経営資源配分の質がますます問われているのです。

図表3:経営モデル別の価値創造の類型化:経営資源配分の質が問われる

経営モデル別の価値創造の類型化: 経営資源配分の質が問われる ,

6. 経営資源配分の質を高める:三つの判断基準と取締役会の役割

図表4:経営資源配分の質を高める判断サイクル

経営資源配分の質を高める判断サイクル ,

経営資源を適切に配分し、その質を高めるには、経営者と取締役会は次の三つの判断基準を明確にすることが有効です。第一は「どこに経営資源を配分するか」、第二は「どの事業・資産から経営資源を引き揚げるか」、第三は「配分した経営資源が価値創造につながったかをどう検証するか」です(図表4)。そして、この三つを独立した判断基準としてではなく、方針、実行、検証、再配分という経営サイクルとして設計することが重要です。

(1)どこに配分するか:成長戦略から必要な能力を逆算する

経営資源配分では、どの市場で、どの顧客に、どのような価値を提供し、どのような競争優位を築くのかを明確にします。そのうえで、戦略の実現に必要な能力を定義します。

必要な能力を獲得するには、設備投資(有形・無形資産)、研究開発、人材採用・育成などの社内の経営資源の増強と、M&A、少数出資、JV、業務提携などの社外からの経営資源の補強があります。これらを、参入速度(時間軸)、必要資本、期待リターン、リスク、統合難易度(撤退基準)の観点から比較します。

投資総額が先にありきの計画は避けるべきです。また、M&Aはそれ自体が成長戦略の実現ではありません。戦略の実現に必要な技術、人材、顧客基盤、市場アクセスを獲得するための手段の一つと認識するべきです。M&Aは案件成立をもって完結するのではなく、PMI、シナジー実現、KPIレビューを通じて獲得した経営資源を持続的な企業価値向上につなげられるかが成否の基準となります。

(2)どこから引き揚げるか:保有資産を価値創出に向けて最適化する

企業が保有する資産については、価値創出に向けて最適な状態であるかを検証することが重要です。保有資産の最適化は余剰現預金や政策保有株式の削減だけを意味しません。不動産、設備、知的財産、データ、子会社、事業そのものについても、保有を継続する合理性を問い直す必要があります。

その際の判断基軸となるのが、自社がその事業・資産の価値を最も高められる「ベストオーナー」なのかという視点です。その事業・資産が現在キャッシュを生み出しているかだけでは十分とはいえません。将来必要となる追加投資を自社で行う合理性と能力があるか、自社全体の成長戦略との連動性(整合性)があるか、他の所有者の下でより大きな成長が可能かを検討する必要があります。

その結果、自社による保有が最適でないと判断される場合には、縮小、提携、カーブアウト、完全売却、PEファンドとの共同出資、段階的な持分売却などの施策を比較検討します。事業売却やカーブアウトは、それ自体が目的ではなく、経営資源をより大きな価値を生み出せる領域へ移すための手段であることは言うまでもありません。

保有資産の最適化では、市場環境や事業戦略の変化に応じて、保有合理性を継続的に検証することが重要です。また、撤退判断を先送りしない経営規律も求められます。

(3)どう検証するか:支出管理から価値実現管理へ転換する

投資後のフォローアップで必要なのは、予算消化率や工程進捗だけではありません。投資時の仮説に基づき、当初想定した価値が実現し得るかを確認する必要があります。

評価指標は、投資目的に応じて設定すべきです。例えば、EP、事業別ROIC、将来キャッシュフロー、顧客獲得などが挙げられます。単年度の損益だけでなく、経営モデルに適合した経営計画に基づいた将来の競争力や収益力につながる指標を定める必要があります。

当初想定との差が生じた場合には原因を分析し、追加投資、計画修正、提携、売却、撤退のいずれを選択します。投資後の検証は、過去の判断の責任を追及するためではなく、経営資源の配分を未来志向で決めるために行うべきです。

(4)取締役会の役割

東証は、目指す姿、資本の使い方、保有資産の最適化について、取締役会レベルで実効的な議論と監督を行うことを重要な視点としています。機関投資家も、経営トップの主体的な関与、取締役会・社外取締役の監督、投資家との対話を通じた改革の実効性・透明性向上を評価の観点としています。

取締役会の役割は、個別の投資案件を承認するにとどまりません。企業が目指す姿と成長の道筋について経営陣と議論し、経営資源配分の優先順位が戦略と整合しているかを監督し、事業・資産の保有合理性と撤退基準を継続的に検証することも重要です。そこでは、あらかじめ定めた時間軸に基づき、投資仮説と実績の差を確認し、追加投資、計画修正、売却、撤退の判断を促すことが求められます。

投資家(株式市場)との対話も重要です。東証は、自社の資本コストや資本収益性、市場評価を取締役会で分析し、改善計画を策定・開示した後も、投資家との対話の中で取り組みを継続的にアップデートすることを求めています。策定した方針を説明するだけでは、市場の十分な理解と支持を得にくいでしょう。取締役会は、対話から得た市場の評価や認識ギャップがIRを通じて経営に反映されているかをチェックし、経営者に資源配分方針の修正につなげるよう促す役割も担います。

資本配分経営を「方針」から「実行・検証」に移行させるには、経営方針、配分、引き揚げ、検証、対話の好循環が求められます。それが実現して初めて、企業価値創造の仕組みが機能するのです。

参考資料

  • 東京証券取引所「『資本コストや株価を意識した経営』に関する要請のアップデート」(2026年4月28日)
  • 東京証券取引所「『取組みの進展が見られる企業』等に関する機関投資家アンケートの結果」(2026年8月12日)
  • 金融庁・東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)」および改訂概要
  • 経済産業省「成長投資ガイダンス」および「成長投資ガイダンス データ集」

執筆者

吉原 重之

パートナー, PwCアドバイザリー合同会社

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守山 啓輔

ディレクター, PwCアドバイザリー合同会社

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