WP29 CSMSに基づくセキュアな製品開発の実践

自動車に特化した脅威マトリクスとしての活用に期待が寄せられるAutomotive Threat Matrix

  • 2024-04-22

はじめに

UNR-155の施行により、自動車の脅威に対するリスク評価と対策技術の検討は必須となっています。また、自動車に対する攻撃事例や脆弱性はさまざまなカンファレンスで毎年発表されており、開発中だけでなく、リリース後も継続的なモニタリングおよび自社製品への影響評価、対策を検討することが望ましいです。

本稿では、脅威分析やリスク評価、セキュリティテストなどさまざまな用途での活用が期待できる「Automotive Threat Matrix」について、その特徴や「MITRE ATT&CK」との違い、活用イメージについて紹介します。

ATT&CKとの差異

ATT&CKでは、「Enterprise」「Mobile」「ICS」のそれぞれが各ドメインに併せて独自の戦術定義を持っていますが、ATMでも13の戦術のうち「Manipulate environment」と「Affect vehicle function」が特有の定義となっています。「Manipulate environment」はその名称のとおり、センサーや周辺の通信機器に関する、自動車が認識・通信する外部環境を利用した攻撃手法が定義されており、運転支援機能(ADAS)や自動運転車両に対する攻撃に考慮されたものとなっています。Affect vehicle functionはATT&CKにおける他のMatrix(以下、マトリクス)での「Impact」に相当する定義ですが、自動車においては走る・曲がる・止まるなどの機能への影響が最も重大なリスクである点から、明確に定義されているものと考えられます。

また、攻撃手法についても72の攻撃手法のうち、大部分はATT&CKから転用していますが、以下27の攻撃手法はATM特有のものとなっています。

※各攻撃手法の説明にATT&CKへのリンクがないものをATM特有と判断しています。

戦術 攻撃手法

Manipulate environment, Affect vehicle function

Adversarial machine learning

Manipulate environment

Relay communications

Manipulate environment

Analog sensor attacks

Initial access

Physical modification

Initial access, Command and control, Exfiltration

Aftermarket, customer, or dealer equipment

Persistence

Abuse UDS for collection

Persistence

Disable software update

Persistence

Abuse UDS for persistence

Privilege escalation

Exploit co located computing device for privilege escalation

Privilege escalation

Reprogram co located computing device for privilege escalation

Privilege escalation

Hardware fault injection

Defense evasion

Bypass mandatory access control

Defense evasion

Bypass code signing

Defense evasion

Bypass UDS security access

Lateral movement

Abuse UDS for lateral movement

Lateral movement

Bridge vehicle networks

Lateral movement

Reprogram ECU for lateral movement

Collection

Access vehicle telemetry

Command and control

Receive only communication

Command and control, Exfiltration

Cellular communication

Command and control, Exfiltration

Internet communication

Command and control, Exfiltration

Short range wireless communication

Affect vehicle function

Unintended vehicle network message

Affect vehicle function

Modify bus message

Affect vehicle function

Local function

Affect vehicle function

Abuse UDS for affecting vehicle function

Affect vehicle function

CAN bus denial of service

上記の攻撃手法には、Bypass UDS security accessのように車載機器で用いられる診断機能を悪用する手法など自動車に特化したものもあれば、Hardware fault injectionのように自動車に限らない製品一般に適用可能なものも含まれています。後者を含め、CANやECUといった文言を用いて、車載機器における攻撃方法がイメージしやすく整理されています。

また特定の攻撃手法については、車載機器に対する過去事例における悪用例が紹介されており、詳細理解の助けとなります。

なおATMは、ATT&CKと比較して、各攻撃手法に緩和策や検知方法の情報が含まれていません。これは自動車のアーキテクチャがメーカーおよび車両モデルごとに異なることによる、プラットフォームの多様性が影響しているものと考えられます。ただし上述のように72の攻撃手法のうち、大部分はATT&CKから転用しています。これらはATT&CKを参照すれば緩和策や検知方法が分かります。

その一方で、27の攻撃手法については緩和策や検知方法の情報が存在しないため、車載機器や車載通信などの自動車特有の環境を理解したセキュリティの専門家が考える必要があります。

最後に

ATMは自動車に特化した脅威マトリクスとして、ATT&CKのコンセプトを踏襲しつつ同様の感覚で利用することができ、脅威・リスク分析(TARA)や脅威情報の共有、ペネトレーションテストを行う際のシナリオ作成などで活用することが期待できます。

WP29 CSMS対応ツール活用メリットを2分で解説

自動車に関する国際法規であるWP29 UNR155に適合するため、車両OEMとサプライヤーは、適切なサイバーセキュリティ要件を導出し、それを満たす製品を開発することが求められています。PwCが提供する「WP29 Cyber Security Management System(CSMS)支援プラットフォーム」は、セキュアな製品開発において最も重要である脅威分析を効率的に実施するためのウェブツールであり、脅威や攻撃に関する最新の情報を提供します。

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執筆者

林 和洋

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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奥山 謙

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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和栗 直英

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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亀井 啓

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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山口 直幹

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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