登壇者
道輪 和也
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
世界各国・地域でプライバシー関連法の制定・改正が加速する中、企業には法域ごとに異なる要件に対応したコンプライアンス体制の構築が求められています。こうした状況を背景にプライバシー認証制度の重要性が高まり、認証間の相互運用性と国際展開を軸にしたグローバルな認証エコシステムが形成されつつあります。本稿では、2025年に改訂された「ISO 27701」の動向を踏まえつつ、GDPR公式認証である「Europrivacy」や、複数法域に対応する国際認証「Interprivacy」を中心に、グローバルプライバシー認証の最新動向を解説します。
最初に、グローバルにおけるプライバシー認証制度の動向を解説します。
近年、サイバーセキュリティ、AI、IoT、プライバシーなど、デジタル分野に関する法規制の制定・改正がグローバルで急速に進んでいます。特にプライバシー関連法については、世界各国で新たな法令の制定や既存法の改正が相次いでおり、規制やガイドラインのアップデート件数は非常に多い状況です。こうした中、企業は各国・地域ごとに異なるプライバシー法令への対応が求められており、最新動向の把握と柔軟なコンプライアンス体制の構築が不可欠となっています。
地域ごとのプライバシー法規制の特徴を見ると、そのアプローチには大きな違いがあります(下図)。
プライバシー法令の地域特色
出所:各国・地域の公的情報よりPwC作成
EUはGDPR(EU一般データ保護規則)による統一された規制の下、罰則が非常に高額です。米国は州ごとに法律が異なり、規制や罰則も州単位で定められています。中国は厳格な制度を持ち、安全評価や認証など個人データの管理が徹底されています。日本では利用と保護のバランスが重要視されていますが、近年は罰則強化の動きが見られます。
このように各国・地域でプライバシー法規制の内容や厳格さが異なる中、企業が自社のコンプライアンス体制を客観的に証明する手段として、認証制度が重要な役割を果たします。
下図はグローバルにおける主要なプライバシー認証制度について、その特徴やメリット・デメリットを一覧化したものです。
プライバシー関連の認証制度
出所:各国・地域の公的情報よりPwC作成
「ISO 27701」は、最も広く利用されているグローバル共通基準です。複数の法域にまたがって対応しやすい一方で、特定国の法令に完全準拠することを直接証明するものではありません。なお、同規格は最近改訂されており、後ほどポイントを説明します。
「Europrivacy」はGDPR第42条に基づく公式認証制度です。高額制裁リスクの低減というメリットがありますが、現状ではEU域内でしか直接効力がありません。こちらも比較的新しい制度であり、後ほど詳細を紹介します。
「Interprivacy」は、GDPRやCBPR(越境プライバシールール)をはじめ、さまざまな国際フレームワークとの整合を想定した設計となっています。ただし新制度のため認知度は低く、枠組みとして発展途上にあります。これについても後ほど補足します。
中国個人情報保護法認証制度は、PIPL(中国個人情報保護法)への適合性を証明する制度で、越境データ移転にも対応しています。ただし認証取得後も定期的な評価や本人同意が必要であり、制度改正や運用実務の変化に注意が必要です。
プライバシーマークは日本国内で高い信頼性を持ちますが、国内専用の制度です。サービスや部門単位ではなく法人単位での取得が必要です。
APEC CBPRはAPEC加盟国間での越境データ移転要件への適合性を認証する制度で、適用範囲がAPEC域内に限定されます。
SOC2は、クラウドサービス提供者向けの認証制度です。プライバシーの視点では法令への適合性の証明というよりも、技術的対策の証明に利用できる制度と位置づけられます。
次に、これらのプライバシー認証制度と各国法令の関係性について整理します。下図は各認証制度が各国・地域の法令に対してどのような効力を持つかを、「公式認証」「移転適法性支援」「補助的証跡」「間接的」の4段階で表現したものです。
プライバシー認証制度と各国法規との関係
出所:各国・地域の公的情報よりPwC作成
ISO 27701は国際標準であるため、特定法域の公式認証ではありません。ただし、多くの国のプライバシー法令に対する「補助的な証跡」として幅広く活用できます。
EuroprivacyとPIPLはそれぞれEUおよび中国における「公式認証制度」であり、地域内の法令遵守 を直接証明できる点が特徴です。
プライバシーマーク(Pマーク)は国内専用の制度で、日本の個人情報保護法への準拠を補助的に示すものです。
APEC CBPRはAPEC加盟国間における越境データ移転に関する適合性を認証する制度で、日本や米国でも移転の適法性を裏付ける手段として利用できます。
SOC2は、プライバシー法令の遵守を直接証明するものではなく、技術的・組織的対策が整備されていることを示す「技術面の補助証跡」として位置づけられます。
InterprivacyはGDPRやCBPRなど複数の国際フレームワークと連携しており、米国州法におけるデータ移転要件の準拠性を示す際にも利用できます。適用範囲の広さが大きな特徴です。
このように各認証制度の特徴を理解し、各国法令への対応力を高めることで、より安心・安全なデータ活用が可能となります。
ここからは、主要な認証制度ごとのポイントを順に解説します。最初に取り上げるISO 27701は、2025年10月に重要な改訂が行われました。ISO 27701は「プライバシー情報マネジメントシステム(PIMS)」とも呼ばれ、個人情報を適切に管理・保護するための国際規格です。従来は、ISO 27001(情報セキュリティマネジメントシステム)の認証を取得していなければISO 27701を取得できませんでした。しかし今回の改訂により、単体で認証を取得できるようになりました。これが最大の改訂ポイントです。
改訂のポイントは他にもあります。一つは、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)から独立してプライバシーリスク対応に特化した規格となり、体系的なリスクマネジメントの仕組みを単独で確立できるようになったことです。もう一つは、これに伴い、パスワードなど個人情報保護に関連する管理対象が拡大したことです。
こうした改訂により、ISO 27701の新たな枠組みは企業のプライバシーリスク管理の基盤として、より柔軟かつ実務に即した形で活用できるようになりました。
次にEuroprivacyを見ていきましょう。Europrivacyは、GDPR第42条に基づく公式な認証制度として設立されました。GDPRを中心に構築されたこの認証スキームは、ISOに準拠し、その他のEU法令や地域的規格にも対応しています。現時点ではEU域内でしか取得できませんが、今後は日本を含む国際展開も検討されています。
Europrivacyの枠組みに関与する組織について、補足します。Europrivacyは欧州委員会が主体となった「プライバシーフラッグ」という研究プロジェクトと、民間企業のArchimede Solutions SARLによって開発された認証スキームです。運用はECCP(欧州サイバーセキュリティ・プライバシーセンター)が担っています。
EuroprivacyはGDPR準拠を示す欧州データ保護シールとして、欧州委員会から正式に承認された代表的な公式認証フレームワークです。このため、企業は認証の取得を通じてGDPR遵守を客観的に証明でき、違反による制裁金や行政指導のリスクを事前に把握・是正できるため、法務的・財務的リスクを低減できます。
さらにISO 27001との統合も可能であり、国際的な情報セキュリティ基準と組み合わせることで、グローバルなデータ保護体制を強化できます。ほぼ全てのデータ処理活動に適用可能で、今後はEU域内のみならず、他国への展開も予定されています。
下図はEuroprivacyの主な特徴を一覧にしたものです。
Europrivacyの特徴
Europrivacy認証を取得する最大のメリットは、GDPRの遵守状況を検証・実証する過程で、法的・財務的リスクを特定して軽減できる点です。その他にも、企業のレピュテーション向上やデータの越境移転の円滑化といったメリットがあります。また、認証を取得することで、顧客や取引先からの信頼を構築し、競争優位性を強化できます。さらに継続的に最新情報を入手できるため、常に最新の規制動向に対応した対策を検討することが可能です。
Europrivacyの認定基準は、GDPRの基本的な要求事項だけでなく、その他のEU規則やデータ処理方法を考慮した多層的な要求事項として整備されています。このため、GDPR以外の地域・国の法律に対しても適応しやすく、包括的なデータ保護アプローチを提供します。
さらに、CRA(サイバーレジリエンス法)やNIS2(改正ネットワーク情報セキュリティ指令)、EUデータ法(Data Act)など、日本企業にも影響のあるEU法への拡張にも対応可能です。こうした多様な拡張オプションにより、Europrivacyは幅広い法令遵守を支援し、変化の速い規制環境にも柔軟に対応できる仕組みとなっています。
Europrivacy認証の取得によって、企業はコンプライアンスにかかるコストを単なる“遵守のための支出”にとどめず、ビジネス価値の向上につなげられる可能性があります。プライバシー管理プロセスの合理化を通じて法的・財務的リスクを抑制し、GDPR対応を強化することで、市場での競争力向上に貢献し、健全な事業成長を後押しする手段の一つとなります。
最後にInterprivacyを解説します。
Interprivacyの認証制度
Interprivacyは、世界の主要なデータ保護規制に準ずる基準を提供する、地理的に中立な認証制度として整備が進められています。またInterprivacyは、IAF(国際認定フォーラム)によって認定されています。対応する法令にはGDPR、CBPR、DPF(EU-米国データプライバシー枠組み)など幅広い国際基準が含まれます。この認証を取得することで企業は複雑になりがちな国際データ移転の要求事項を満たし、各種規制への対応を効率化できます。
EuroprivacyとInterprivacyは相互運用性を持つフレームワークです。この連携により、Europrivacyへのスムーズな移行や、両方の認証を組み合わせた統合的なデータ保護が可能となっています。
Interprivacy認証の取得は、コンプライアンス管理の簡素化や、越境データ移転に伴う手続きの効率化といったメリットを提供します。企業のデータ保護プロセスを国際基準に沿わせながら、グローバルな事業展開をサポートできる点も特徴です。
認証制度は法令遵守のみならず、リスク低減、レピュテーション向上、ビジネス機会の拡大といった多面的な価値をもたらします。自社の事業領域や対象法域に応じて最適な認証を選択・組み合わせることが、今後のグローバル展開における鍵となるでしょう。PwCとしても、今後も皆さまの事業成長と持続的な価値創出に貢献できるよう、情報発信を続けていきたいと考えています。ありがとうございました。
道輪 和也
ディレクター, PwCコンサルティング合同会社
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日本企業がDXを推進し、ビジネスを持続的に成長させていくためには、デジタル時代において必要とされる信頼、すなわち「デジタルトラスト」の構築が求められています。PwCは、サイバーセキュリティ、プライバシー、データの安全性、信頼性などさまざまな観点から、クライアントのデジタルトラスト構築を支援します。
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