サイバーセキュリティ対策の土台を築く「資産管理」の導入・高度化への道筋

  • 2025-10-22

資産管理はサイバーセキュリティ対策の土台となる重要な取り組みです。しかし、多くの企業では「資産情報の可視化の困難性(シャドーITのまん延、IT/OT/IoTなど多種多様な環境・デバイスへの対応)」、「資産情報の鮮度と正確性の維持(ライフサイクル管理の複雑化、手動管理の限界)」などへの対応に苦慮しているケースも確認されており、これらの複雑な課題に対して本質的かつ効率的な対応が必要な状況です。本記事では資産管理の導入・高度化を実現するための鍵となる「3つのステップ」を解説します。

サイバーセキュリティにおける資産管理の重要性

サイバーセキュリティ対策の第一歩は資産管理から始まります。サイバーセキュリティにおける資産管理の目的は、大きく2つあります。

1つ目は、平時における潜在リスクの可視化です。正確な資産情報やネットワーク構成図に基づきリスクアセスメントや脆弱性管理を行うことで、どの資産にどのようなリスクが存在するかを事前に把握し、効果的な対策を講じることが可能になります。

2つ目は、有事におけるインシデント対応の迅速化です。万が一インシデントが発生した際、資産情報やネットワーク構成図を基に発生原因や影響範囲を即座に特定できれば、初動対応の遅れによる被害拡大を最小限に食い止めることができます。

つまり、資産管理とは「平時から自社の守りを固めるとともに、有事の際には迅速に対応できるようにする」ための活動であり、サイバーセキュリティ被害を最小化するための土台となる取り組みと言えます(図表1)。また、近年、サイバー攻撃の高度化・巧妙化を背景に、政府によるサイバー対処能力強化法などの能動的サイバー防御を推進する法整備が進んでおり、社会的に重要な資産を管理する重要性はますます高まっています。

図表1:サイバーセキュリティにおける資産管理の重要性

サイバーセキュリティ観点での資産管理における課題

資産管理の重要性を認識しつつも、多くの企業がさまざまな課題に直面し、その目的を果たせずにいるのが実情です(図表2)。

図表2:資産管理における代表的な課題

これらの課題は互いに関連しあっており、課題を個別に潰していく場当たり的なアプローチによる解決は困難です。

例えば、「資産情報の不備」を解決するため、「全ての資産情報を、完璧に、手作業で収集・更新しよう」とすれば、膨大な工数を費やすことになり、「運用プロセスの非効率」が悪化します。結果、疲弊した現場は活動を継続できず、情報は再び陳腐化していきます。

反対に、「運用プロセスの非効率」を解決するため、「ツールで取得できる情報だけで効率的にやろう」と割り切れば、管理工数は削減できますが、資産の重要度といったビジネス上の文脈や、ツールが対応していない機器の情報が抜け落ちてしまいます。その結果、情報の網羅性が犠牲になった資産リストが出来上がります。

さらに、情報と効率の最適なバランスを見つけて前述の課題を解決したとしても、それを実行・維持するための「運用体制」が不足していれば、仕組みが形骸化してしまいます。

だからこそ、個々の課題に最適化した場当たり的なアプローチではなく、これら全ての要素を俯瞰し、自社にとっての資産管理の最適解を導き出す統合的なアプローチが不可欠となります。

資産管理の導入・高度化を実現するための3つのステップ

複雑に絡み合った根深い課題を解決するためには、いきなりツール導入にはしるような手段先行型の進め方では期待した効果が得られない可能性が非常に高いと言えるでしょう。資産管理の高度化は、「なぜ、何をやるのか」という戦略を最初に定義し、「どうやって実現するのか」という仕組みを構築、そして「誰が、どう動かし続けるのか」という組織への定着につなげる、といった一連の変革プロジェクトとして捉える必要があります。この成功の鍵となる3つのステップを解説します(図表3)。

図表3:資産管理の導入・高度化を実現するための3つのステップ

ステップ1:戦略の策定

プロジェクト全体の成否を左右する最も重要なステップです。戦略なきままでは期待した投資対効果が得られないため、「何のために、何を、どこまでやるのか」という目的と方針を明確にし、資産管理の高度化の実現に向けた設計図を描きます。

  • 目的とスコープの明確化
    「何のために資産管理を導入・高度化するのか」という目的を定義し、「どこまでを対象とするか」の範囲を明確にします。
  • 資産管理対象の優先順位付け
    資産の重要度や攻撃可能性を基にリスク評価を行い、「まずはどこからどのレベルで管理するか」という管理対象の優先順位を決定します。
  • 資産管理方針の策定
    目指すべき将来像を定義し、「どのように資産情報を収集するか」「どのような情報を整備し、どのように活用するか」といった基本方針を策定します。
  • ロードマップの策定
    上記を基に、「いつ、誰が、何を実現するか」という具体的な実行計画に落とし込みます。

ステップ2:仕組みの構築

戦略という設計図に基づき、それを実行するための業務プロセスと基盤を構築するステップです。ツール導入を先行させるのではなく、実現したい業務プロセスを設計し、それを最も効率的に実現できる手段を検討することが重要です。

  • 業務プロセスの設計
    策定した戦略に基づき、資産管理台帳やネットワーク構成図などの整備(図表4)から、それを活用した脆弱性管理やリスクアセスメントに至るまでの業務の全体像を設計します。
  • 役割分担の明確化
    設計した業務プロセスを踏まえて、「誰が情報を登録し、誰が脆弱性管理やリスクアセスメントを行うのか」といった役割分担を明確に定義します。
  • 最適なツールの選定・導入
    資産情報やネットワーク構成の収集および最新情報の維持管理を最も効果的に実現できるツールに関して客観的な評価(PoC含む)を行い、必要なツールを選定・導入します。

図表4:資産管理において整備する情報の例

ステップ3:組織への定着

変革を一過性のもので終わらせず、組織の標準業務として定着・拡大させるステップです。システム主管部門への丁寧な導入支援などを通じて、仕組みが形骸化するのを防ぎます。

  • システム主管部門への導入支援
    システム主管部門への説明会や研修の実施を通じて、システム主管部門が新しいプロセスやツールを円滑に使いこなせるよう継続的に支援します。
  • 導入範囲の段階的な拡大
    戦略で定めた優先順位に基づき、スモールスタートで得られた成功モデルを他の部門や資産へと段階的に展開し、全社的な活動へと進化させます。
  • 継続的な改善サイクルの確立
    効果測定やシステム主管部門からのフィードバック収集を行い、変化に対応しながら仕組みを継続的に改善していくサイクルを確立します。

まとめ

サイバー攻撃が巧妙化する現代において、自社の「守るべきもの」を正確に把握する資産管理は、全てのセキュリティ対策の原点です。しかし、多くの企業ではさまざまな課題が複雑に絡み合い、その重要性とは裏腹に、有効な打ち手を講じられずにいるのが実情です。本稿で提示した「戦略の策定」「仕組みの構築」「組織への定着」という3つのステップは、この根深い問題を解決するための統合的なアプローチです。これら3つのステップを連携させ、着実に実行することが、企業のサイバーレジリエンスを高めるための鍵となるでしょう。

執筆者

藤田 恭史

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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羽奈 洋介

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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奥野 潤也

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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小林 旺太郎

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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