PwC税理士法人 パートナー 金融税務

西川 真由美 (Mayumi Nishikawa)

 

クロスボーダー投資に伴う税務ストラクチャリングを支援

多様な投資家に対応する税務設計

クロスボーダーで資本が移動する現在、投資ファンドを通じた国際投資は拡大しています。こうしたクロスボーダー投資を円滑に進めるためには、各国の税制や租税条約を踏まえたストラクチャリングが不可欠です。私は、投資家や運用者の方々が想定外の税負担や実務負担を負うことなく投資を行えるよう、クロスボーダー投資に伴う税務の観点で、投資スキームの設計段階から支援しています。

クロスボーダー投資のストラクチャリングでは、まず投資家の属性や投資対象となる資産の種類によって課税関係が大きく異なる点を理解することが重要になります。投資家には、機関投資家、事業会社、ファンド、さらには近年増加しているファミリーオフィスなど、さまざまな属性があります。一般的には、外国で課された税金は居住地国で外国税額控除などによって二重に課税されることのないように調整する仕組みがありますが、年金ファンドのような投資家の場合、居住地国において課税が免除されるため、海外投資によって課税が生じた場合、納税額がそのまま投資コストとなってしまうことがあります。このように、投資家の属性によって税負担の意味合いが大きく異なるため、投資家ごとの状況を踏まえたストラクチャーを検討する必要があります。

また、投資資産の種類によっても税務上の取り扱いが変わります。株式や債券などの金融資産については、租税条約などによって一定の減免措置が講じられるケースが多くなっています。一方、不動産投資においては、不動産の所在地国に課税権が認められるのが国際課税の基本的な考え方であるため、投資家自身が投資先国で、申告や納税を行う必要が生じる場合もあります。そこで、ファンドビークルの設計を工夫し、投資家ではなくファンド側で申告を行う仕組みにするなど、投資家の実務負担を軽減する構造を検討しています。投資家が安心して投資できる環境を整えることが、クロスボーダー投資に伴う税務ストラクチャリングの重要な役割だと考えます。

さらに、クロスボーダー投資では投資資金をまとめるファンドビークルの法的・税務的な性質を正確に理解することも欠かせません。日本国内で設立されたビークルであれば、組合、信託、法人など、法的性質は比較的明確です。しかし海外で設立されたビークルの場合、現地法の下で構築された仕組みを日本の法制度に照らして分析し、日本の税務上どのように扱われるかを検討する必要があります。例えば、海外ではパートナーシップと呼ばれるビークルであっても、その実態が法人に近い場合もあり、慎重な分析が求められます。

こうした検討は、税務だけで完結するものではありません。ビークルの法的性質を判断するためには、現地の会社法や信託法などの制度理解が不可欠であり、弁護士などの専門家との連携も重要になります。また、投資先国の税制を把握するために、PwCのグローバルネットワークを通じて各国の専門家と連携することも多々あります。投資家の属性、投資資産の特性、そして各国の税制や法制度を横断的に分析しながら、クロスボーダー投資に伴う税務課題を整理し、投資家にとって合理的で実務的にも運用しやすい投資スキームを設計していくことが、私の役割です。

運用局面まで見据えたクロスボーダー税務支援

ファンド投資は通常、数年から十年以上にわたる長期の運用を前提としているため、投資実行後にも継続的な税務対応が発生します。私は、投資スキームの設計段階から関与するだけでなく、こうした投資実行後の税務実務、運用局面までを一貫して支援しています。

投資実行後に多く発生するのは、租税条約の適用手続きや税務申告といった実務対応です。海外投資家が日本で投資収益を得る場合には、配当や利子に対する源泉徴収税率を軽減するために租税条約の適用手続きを行う必要があります。また、日本の投資家が海外投資を行う場合には外国税額控除を適用するために、海外で実際に納税したことを証明する資料を収集し、日本の申告書に反映させる必要があります。こうした制度は国際課税に対応する仕組みとして整備されていますが、実務では相当の事務負担を伴うことも少なくありません。特にファンド投資の場合、各投資家のファンドに対する持分割合に応じて必要な情報を整理する必要があるため、手続きはより複雑になります。

そのためクロスボーダー投資では、税コストと事務手間のバランスをどのように取るかが重要な判断ポイントになります。税負担を最小限に抑えることだけを追求すると、手続きが複雑になり、実務上の負担が大きくなる場合があります。一方で、多少の税コストを受け入れる代わりに、手続きを簡素化するという選択肢が合理的な場合もあります。投資家の方針や投資規模によって最適なバランスは異なるため、十分な対話を重ねながら、各投資家にとって現実的で持続可能な方法を検討していきます。

ファンドの運用期間中は、記帳、税務申告、条約適用手続きなどが毎年発生します。投資家にとって、投資案件を担当するチームとは別に、税務対応を担う部門にとっても継続的な業務となるため、実務を安定的に回していく体制づくりも重要になります。税務アドバイザー側でも、投資スキームの設計段階から関与し、運用局面の税務実務まで、長期的に伴走できる体制を整えることは、投資家であるクライアントにとって大きな安心につながります。私たちは、必要に応じてPwCのグローバルネットワークと連携し、各国の税制や実務を踏まえた税務対応を検討しつつ、投資実行後に発生する租税条約の適用手続きや税務申告など煩雑になりがちな税務手続きについても、ワンストップで対応しています。

私は税務の役割について、次のように考えています。税はもちろん社会のルールとして納めるべきものですが、罰金のようなものではありません。本来払う必要のない税を払うことになってしまうのは避けるべきですし、税の問題が原因で、企業活動や投資活動が阻害されるのは望ましいことではありません。税務は、企業や投資家のビジネスを支えるインフラの一つです。クロスボーダー投資に伴う税務課題を整理し、制度の背景や国際的なルールを踏まえながら、クライアントが本来目指す事業や投資を円滑に進められる仕組みを整えていくこと――それが、私たち税務アドバイザーに求められている役割だと考えます。

略歴

税理士。2003年から金融機関向けの税務アドバイスに従事し、2018年8月より現職。日系および外資系の銀行、証券会社、リース会社、信託銀行、投資顧問会社などの金融機関向けの税務サービスとして、税務申告に加えリースや信託を含む金融商品や投資、ファイナンスストラクチャーの開発案件に関与し、投資家またはレンダー向けの税務意見書の作成などを担当。また、役員を中心とした株式報酬制度の設計時における税務面からのアドバイザリー業務にも従事し、海外税制のリサーチのほか国税当局への事前照会サポートも行う。

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