PwC税理士法人 パートナー 税務ガバナンス

塩田 英樹(Hideki Shiota)

 

税務を企業価値創出のエンジンへ

企業価値評価の変化と、税務ガバナンスの再構築

企業価値を、どのような指標で測るのか。その問いが変わりつつある今、税務の位置づけもまた変化しています。地政学リスクの高まりやサプライチェーンの再構築、グローバル・ミニマム課税(Pillar Two)の本格実装などを背景に、税務情報の透明性が強く求められる時代になりました。営業利益を中心とした従来の業績指標に加え、資本効率を意識したROE (⾃⼰資本利益率) やROIC (投下資本利益率) の視点が強まるなか、税後利益やフリーキャッシュフローは経営判断の重要な指標となっています。つまり、企業が支払う税金は単なるコストではなく、資本効率に直接影響を与える要因となります。とはいえ、「自社の実効税率が適正な水準にあるのか」「その構造がどうなっているのか」といった点を十分に把握できていない企業は少なくありません。表面的な税率は見えていても、その内訳や要因分析まで踏み込めていないケースが見受けられます。背景には、必要な情報がグループ横断で十分に集約されていないという事情もあります。

税務組織がいかに企業価値向上に貢献しているかを説明するためには、まず自社の税務ポジションを簡潔に説明できる状態であることが必要です。経営層から「当社グループの税務ポジションはどうなっているのか」と問われた際に、連結実効税率の推移や同業他社との比較、さらには国・地域別の状況を踏まえて俯瞰的に説明できること。また、グループを横断して税務の実態を把握するには連結実効税率だけでなく、国・地域別に分解し、各国の法定税率との比較や繰越欠損金の状況まで整理できることも必要です。その上で、自社で取り組む各施策がいかに実効税率に影響しているかを可視化することが重要です。

ただ、グローバル企業においてグループ全体が意識統一を図ることは容易ではありません。買収会社や各国子会社はそれぞれ異なる文化・事業背景を持ち、共通の方針を浸透させるには相応の調整を要します。また、多くの日系企業では機能別のグローバル統括体制が十分に確立されておらず、各国の税務責任者が現地経営のもとで動くため、グループ全体としての方向性を定めにくい状況も見られます。

これらの課題は、税務組織のKPI設計にも影響します。税務にはコンプライアンス対応やリスク管理、キャッシュ創出への貢献など、複数の役割があります。しかし、これらの役割の優先順位や評価基準の整理がはっきりしていなければ、何を優先し、どの成果をもって評価するべきかが曖昧になります。資本効率や企業戦略との整合を踏まえたKPIを設計することが、税務機能を戦略的に位置づけるための前提になります。

近年はBEPSやグローバル・ミニマム課税(Pillar Two)への対応を通じて、本社に情報を集約する仕組みが着実に整いつつあります。これらの制度は本来、低税率国への対応を目的としていますが、その過程で蓄積されるデータは実効税率の構造分析や改善余地の検討、さらには税務機能の戦略的活用に向けた基盤にもなり得ます。“見えづらかったもの”が“見えるようになった”いま、税務情報を経営判断にどう活用していくかが問われています。

こうした状況を踏まえると、税務ガバナンスの在り方も改めて整理する必要があります。私たちは、税務ガバナンスを「組織が目的を達成し、持続的に成長するための体制」ととらえています。コンプライアンスなど“守り”の側面のみならず、企業価値をより向上させる取り組みを行う――私たちは可視化された情報を起点に、経営との対話を重ねながら現実的かつ実行可能なかたちで、税務組織の再構築を支援していきたいと考えています。

税務を戦略機能として経営に接続する 

企業は、組織文化や事業構造がそれぞれ異なるため、税務として目指す方向性も異なります。だからこそ、税務組織のリーダーや担当者と対話を重ねることで、企業が「こうなっていきたい」と描く将来像と、その実現に向けた現実的な選択肢を整理していくことが重要だと考えています。PwC税理士法人では、その一環で、特定業界向けのクローズドセミナーや意見交換の場を設け、企業間の実務的なネットワーク形成も促進しています。もっとも、税務組織のリーダーや担当者との対話は、一つの“出発点”。KPI設計や予算配分といった論点は、CFOの理解があってこそ前進します。税務の課題を経営アジェンダとして共有し、必要に応じてCFOへ適切にエスカレーションする。その橋渡しも重要な役割だと考えています。

PwC Japanグループによる「CFO意識調査 2025年版」では、税務を管掌範囲に含むCFOは9割を超えていますが、税務実務を経験しているCFOは3割弱にとどまりました。税務は、キャッシュに直接影響を与える経営上の重要テーマでありながら、CFO人材の育成プロセスに、税務実務の経験が十分に組み込まれているとは言い難いのが実情です。

CFOの関心は企業価値の向上と、“攻めと守りの両立”にあります。従来の日本型税務は守り重視の傾向が強く、国内コンプライアンスに重点が置かれてきました。しかし、グループ全体を俯瞰し、資本効率や戦略と整合した税務運営を経験することは、ファイナンス人材としての視座を広げます。つまり、“攻めと守り”を統合的に担う税務組織は、次世代CFOの育成とも密接に連動します。私たちが目指しているのは、税務組織の地位向上です。税務が企業価値向上に資する機能として明確に位置づけられれば、そこで働く人材はリスペクトされ、信頼を獲得します。税務担当者のキャリアパスとしてCFOが自然な選択肢となる環境を、クライアントとともに育んでいきたいとも考えています。

現在、税務人材の「不足感」については多くの企業が直面している課題であり、限られたリソースで高度化を図るには、テクノロジーの活用も不可欠となっています。PwC税理士法人では、自ら率先してテクノロジーを活用し、その実践知をもとに、現実的で持続可能な活用方法を提示しています。生成AIの進展は、税務人材に求められる役割を変えつつあります。「何を人が担い、どの能力を強化すべきか」を明確にし、将来像から逆算して、組織を設計していく必要があります。

そして私たちが何より大切にしているのは、税務を担当する人が自らの仕事に誇りを持ち、生き生きと働ける環境を醸成していくこと。企業価値の向上だけを目的に制度を整えるのではなく、現場の実情を踏まえつつ、税務担当者が組織内で尊重される存在として活躍できる環境を築く。経営者にとってはもちろんのこと、税務組織に所属する担当者が素晴らしいと思える組織、その実現に向けて、経営と現場の視点をつなぎながら伴走してまいります。

略歴

公認会計士、税理士。2004年より、大手監査法人で上場企業・外資系企業の会計監査業務、内部統制支援業務に従事。2010年に税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(現PwC税理士法人)に転籍。2014~2017年8月までPwC英国法人ロンドン事務所へ駐在し、日系企業の欧州進出などに伴う影響分析や組織再編などを支援。現在は、インターナショナルタックス(国際税務)部門のパートナーとして、国際課税ルール(グローバル・ミニマム課税やタックスヘイブン税制など)への対応支援に関与しつつ、連動するテクノロジー活用や、専門人材不足などの課題解決に向けて、税務ガバナンス対応支援をリードする。

塩田 英樹(Hideki Shiota)

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