金融業界

金融業界とネイチャーポジティブ

世界経済フォーラム(WEF)の調査結果によると、世界のGDPの半分以上(44兆米ドル1)は自然資本に依存または高度に依存しています。水や森林、清浄な空気といった自然資本資産は、企業に素材や原材料を提供し、企業を自然災害から保護し、企業が排出した汚染物質を吸収することにより、経済活動を可能にしています。自然資本資産の思わしくない変化は、それに依存する企業に悪影響を与える可能性があります。

金融機関のポートフォリオは、その融資、保険、または投資の対象である企業に影響を及ぼすこうした自然資本リスクにさらされています。そのため、金融機関のネイチャーポジティブは投融資ポートフォリオにある個々の企業のネイチャーポジティブを通して実現する必要があります。またネイチャーポジティブエコシステムへの投資と移行を進めることで、年間10.1兆米ドル規模2のビジネスチャンスが見込まれ、ネイチャーポジティブに向けて積極的に資金動員を行う金融機関は大きな機会を掴むことができます。

2030年のネイチャーポジティブ実現に向けたイメージ

2030年のネイチャーポジティブ実現に向けて、金融機関はポートフォリオの自然資本への依存と影響を評価し、その結果を投融資判断・リスク管理に活かし、投融資先企業へのエンゲージメントを進めていくことが重要です。ポートフォリオの自然資本への依存と影響の評価においては、投融資先の経済活動に係るバリューチェーンの地理情報、自然資本利用情報(土地、水、コモディティ利用等)、自然への負荷情報(温室効果ガス(GHG)排出、汚染)を把握する必要があります。投融資先の自然関連情報開示を促進することにより、金融機関は信頼性の高いデータに基づいたリスク評価と意思決定が可能となります。事業特性や所在地によって異なりますが、一般的に農業、観光業、漁業、林業が自然資本への依存が高く、農業、林業、石油&ガス、鉱業、建設業、食品・飲料業が自然資本への影響が高いと考えられます。これらのセクターへの投融資においては、自然資本要素のインテグレーションと、ネイチャーポジティブへの移行を促すようにエンゲージメントを行うことが特に重要です。

また、「ポスト 2020 生物多様性枠組案」で2030年までの資金ギャップが年間7,000億ドル3と試算されている中で、自然保護・保全・復元をテーマとした金融商品を提供することで、金融機関は自身のレジリエンスを高めると同時に、ビジネス機会を創出することもできます。

金融機関はポートフォリオの自然関連リスク評価と管理、投融資への自然資本要素のインテグレーション、ネイチャーポジティブへの移行を促す投融資先へのエンゲージメント、ネイチャーポジティブ金融商品の提供を行うことが、2030年に金融機関に求められる取り組みのイメージです。

ネイチャーポジティブな取り組みの事例

ENCOREを使用した自然資本への依存と影響の評価

  • 企業活動の自然資本への依存と影響を評価するツール「ENCORE」における、事業プロセスに付与されている自然資本への依存と影響の格付けを活用し、投融資比率に準じて各セクターの自然資本への依存度と影響度をスコアリング
  • セクター別の依存度と影響度のスコアをもって投融資ポートフォリオの自然関連リスクを総合的に評価

EXIOBASEとGLOBIOを活用した生物多様性フットプリントの算出

  • 投融資先のセクターと地域別の売上高を、産業連関表「EXIOBASE」を通してインプット(コモディティ、水の使用等)とアウトプット(汚染物の排出)に変換
  • インプットとアウトプットを生物多様性へのインパクトドライバー(気候変動、土地利用等)に結びつけ、GLOBIOモデルのPressure-Impactのデータを使い生物多様性フットプリントMSA(Mean Species Abundance)を算出
  • 投融資ポートフォリオの生物多様性フットプリントを、個々の投融資企業の企業価値に占める投融資額比率に準じるその企業生物多様性フットプリントの合計として算出

投融資方針への自然資本要素の組入れ

  • 自然資本にネガティブな影響を及ぼす可能性の高い業界に対して、投融資方針において自然関連のクライテリアを設定
  • 土地利用や生物多様性に関する深刻な論争に直面している企業、森林破壊へ重大な影響を及ぼす企業等への投融資を控えることを投融資方針に明言

生物多様性スクリーニングインデックスの開発

  • 生物多様性スクリーニングインデックスを開発。既存のインデックスに含まれている企業に対して、財務スクリーニングやESGリスクスクリーニング等を行った後に、生物多様性にネガティブな影響を及ぼす上位企業を排除するスクリーニングを追加
  • このインデックスを活用した金融商品の取り扱いも開始

生物多様性にポジティブインパクトを及ぼす企業への金利優遇

  • 投融資先企業が生物多様性に及ぼす影響をKPIで測定
  • 生物多様性にポジティブな影響を及ぼす企業に金利優遇等インセンティブを与える

生物多様性への悪影響の高い先へ反対議決権行使

  • 森林破壊への悪影響の可能性が高く、かつ取り組みが適切でない企業に反対議決投票
  • それらの企業に保護エリアや生物多様性・環境センシティブエリアでの操業・資源摂取を控えるようにエンゲージメント

PwCのサービス 

自然資本関連のアップスキリング

  • 自然資産関連の基礎研修・社内の理解浸透支援
  • 自然資本を巡る国内外の規制・イニシアチブ・企業対応の最新動向

自然資本に関するリスクと機会の評価

  • 自然資本への依存と影響の定性・定量分析
  • 自然資本関連のリスクと機会の分析・整理

ネイチャーポジティブビジョン・戦略策定と実行支援

ビジョン・戦略策定

  • バックキャスティングでのビジョン策定
  • 経営戦略と整合するネイチャーポジティブ戦略策定

戦略実行支援

  • ネイチャーポジティブ戦略に基づく目標/KPI設定支援
  • 自然資本を考慮した投融資方針策定支援
  • 自然関連リスク管理体制構築支援
  • 投融資先へのエンゲージメント支援

自然関連情報開示支援

  • 国内外の先進開示の事例集とGap分析
  • TNFD開示案作成支援

 

1 WEF,2020, Nature Risk Rising:Why the Crisis Engulfing Nature Matters for Business and the Economy(2022年10月21日閲覧)
https://www3.weforum.org/docs/WEF_New_Nature_Economy_Report_2020.pdf

2 WEF,2020, New Nature Economy Report II: The Future of Nature and Business(2022年10月21日閲覧)
https://www3.weforum.org/docs/WEF_The_Future_Of_Nature_And_Business_2020.pdf

3 Convention on Biodiversity Diversity,2021,First Draft of the Post-2020 Global Biodiversity Framework(2022年10月21日閲覧)
https://www.cbd.int/doc/c/abb5/591f/2e46096d3f0330b08ce87a45/wg2020-03-03-en.pdf

参考文献


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