消費財・小売業界

消費財・小売業界とネイチャーポジティブ

世界のGDPの半分以上(約44兆米ドル)が自然資本に中〜高程度依存しており1、自然資本の毀損はビジネスにとって重大なリスクになります。世界経済フォーラム2022年の報告書によると、今後10年の世界的重大リスクの第3位が「生物多様性の喪失」、第8位が「自然資源危機」となっています2

とりわけ、「化学品・素材」「航空・旅行・観光」「不動産」「鉱業・金属」「サプライチェーン・輸送」「生活消費財・ライフスタイル」の6つの産業では、サプライチェーン由来のGVA(Gross Value Added ;粗付加価値)の50%超が自然に中〜高程度依存しています。第一次産業が直接的に自然関連リスクに直面しているのに対して、消費財・小売業界はこうしたサプライチェーンを通じた「隠れた依存性」によって自然関連リスクにさらされています3

また消費財・小売業界は常に消費者の選別の眼にさらされているセクターとして、市場嗜好の変化の影響を受けやすいという特徴があります。今後ネイチャーポジティブへの市場嗜好の変化に反して、取り扱う商品が自然へ負の影響を与え続けていると、消費者に選ばれず、市場競争力低下のリスクに直面することになります。

こうしたことから、消費財・小売業界のネイチャーポジティブは、サプライチェーンのネイチャーポジティブと消費者のネイチャーポジティブ購買意識に着目して実現していく必要があります。

2030年のネイチャーポジティブ実現に向けたイメージ

WEFのレポートでは、ネイチャーポジティブへの投資と移行を進めることで、年間10.1兆米ドル規模のビジネスチャンスが見込まれることが指摘されています。消費財・小売業界では、サプライチェーンにおける負の影響を逆転する投資と取り組み、消費者のネイチャーポジティブを可能にする/促進する取り組みを行うことが、2030年のネイチャーポジティブ実現に向けたイメージです。

まず、消費財・小売業界は自らのバリューチェーンにおける自然への依存と影響を把握する必要があります。具体的には、生物多様性や自然資本と事業活動の関連性、そしてその影響を把握しなければいけません。もし自然資本に負の影響が及んでいれば、その回復に向けて投資や取り組みを行うことで、ネイチャーポジティブを実現することができます。

また消費者のネイチャーポジティブを意識した購買を可能にするために、商品やサービス提供に伴う自然資本への負担が、自然の再生能力を超えないことを確認することが重要になります。具体的には、サステナビリティに配慮した生産物を調達し、認証取得などによってネイチャーポジティブに貢献する商品・サービスとブランドを育てると同時に、購入者に向けたマーケティングを展開し、ネイチャーポジティブへの行動変容を促していくことが求められます。

ネイチャーポジティブな取り組みの事例

サプライチェーンにおける自然への依存と影響の評価

  • 国際自然保護連合(IUCN)のガイドラインを参考に、バリューチェーンにおける生物多様性への影響と依存度を定性的に評価
  • ENCORE(Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure)、IBAT(Integrated Biodiversity Assessment Tool)などの生物多様性関連土地データベースを活用し、生物多様性の喪失、生物多様性の重要エリア、希少種生息エリアと主要調達地域との関係性を分析
  • BIM (Biodiversity Impact Metric)を使用した調達原料別の生物多様性への影響評価

生態系保護・保全・回復のための投資と取り組み

  • 国際自然保護団体と協力し、藻場などの海岸生態系の保護・復元する取り組み
  • 森林・草原・湿地帯を保護するプロジェクトに寄付

サステナビリティに配慮した調達

  • サプライヤーと協力し、森林破壊などのリスクの高い地域から調達される原料を特定し、森林破壊を行わない制度の導入を要請
  • Fair Trade、Rainforest Alliance Certified、 UTZ、Better Cottonなどの第三者機関の認証を取得した原料を調達

ネイチャーポジティブに貢献する商品・サービスの提供とブランディング

  • 自社商品のプラスチックのフットプリントを公表、全てのプラスチック包装をなくす目標を設定
  • 海洋から回収された廃プラスチックを含むリサイクルパッケージを開発・使用
  • 少し傷んだ/変色した/劣化した生鮮食品をフードウェイスト低減と再ブランディングし低価格で販売

消費者のネイチャーポジティブへの行動変容促進

  • リサイクル原料としての廃品の持ち込みに対し、商品購入時に使えるデジタル通貨を付与
  • 詰め替え用家庭用品を販売・普及
  • 残り物を使ったレシピを紹介するハンドブックや動画の公開など、キャンペーン活動を開催

PwCのサービス 

自然資本関連のアップスキリング

  • 自然資産関連基礎研修・社内の理解浸透支援
  • 自然資本を巡る国内外の規制・イニシアチブ・企業対応の最新動向

自然資本に関するリスクと機会の評価

  • 自然資本への依存と影響の定性・定量分析
  • 自然資本関連のリスクと機会の分析・整理

ネイチャーポジティブビジョン・戦略策定と実行支援

ビジョン・戦略策定

  • バックキャスティングでのビジョン策定
  • 経営戦略と整合するネイチャーポジティブ戦略策定

戦略実行支援

  • ネイチャーポジティブ戦略に基づく目標/KPI設定支援
  • ネイチャーポジティブ戦略推進支援

自然関連情報開示支援

  • 国内外の先進開示の事例集とGap分析
  • TNFD開示案作成支援

1 WEF,2020,自然関連リスクの増大:自然を取り巻く危機がビジネスや経済にとって重要である理由
(2022年11月7日閲覧)
https://www3.weforum.org/docs/WEF_New_Nature_Economy_Report_2020_JP.pdf

2 WEF,2022,The Global Risks Report 2022
(2022年11月7日閲覧)
https://www3.weforum.org/docs/WEF_The_Global_Risks_Report_2022.pdf

3 WEF,2020, New Nature Economy Report II: The Future of Nature and Business
(2022年11月7日閲覧)https://www3.weforum.org/docs/WEF_The_Future_Of_Nature_And_Business_2020.pdf

 


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