企業価値向上を実現する戦略的開示

今、企業開示に何が求められているか

開示制度の変化

日本企業を取り巻く開示制度は大きく変化しており、

  • 自主開示である統合報告書が普及
  • 2022年にTCFD提言に基づくリスク開示要請
  • 2023年3月31日以後に終了する事業年度からは人的資本開示が義務化
  • 2023年6月にISSB S1/S2基準が公表
  • 2028年からCSRDが欧州域外企業にも適用

と、非財務情報を含む開示要請の動きが加速しています(図表1)。

図表1:開示制度の変化

開示の現状

長期的な収益力が低いという課題に対処するための伊藤レポートが2014年に作成・公表されて以来、イノベーション能力を持つ日本企業の総資産利益率(ROA)などに変化が現れました。特に、統合報告書発行企業の増加や、企業と投資家のエンゲージメントの強化も見られ、企業の株価が上昇傾向にあることが報告されています。
その結果、2024年1月末時点で、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業の割合は3割未満まで低下しました。しかし、PBRの内訳をみると、ROEの上昇傾向は見られるものの、将来の成長期待を示すPER(株価収益率)は減少傾向にあり、結果として欧米と比較すると1倍割れ企業の割合は依然多いのが現状です。

開示の課題

統合報告書発行企業の増加など「形式面」での整備が進んでいるにもかかわらず、PBRが上がらない原因として、以下が考えられます。

  • 読み手にとって統合報告書上の記載から情報を収集しにくい
  • 企業価値(将来の成長期待値)につながる開示内容を特定できていない
  • タイムリーな発信ができておらず、企業価値向上につながらない
  • 企業価値向上に向けた効果的なアジェンダによるエンゲージメントができていない
  • 統合報告書の作成や投資家との対話で得た情報を活用するプロセスが整備されていない

図表2:開示プロセスにおける課題

取り組みの充実、開示形式の完備だけでなく、開示プロセス全体を通じた戦略策定をしないままでは、開示内容と企業価値との相関に説明性が持てず、本当の「価値創造経営」の実現はし得ないと考えています。

PwCコンサルティングのサービス

PwCコンサルティングは、開示媒体の目的設定から、経営へのフィードバックプロセスの構築まで、一連の企業価値向上を実現する戦略的開示の取り組みを支援します。

1. 媒体の目的設定、開示項目設定(作成準備フェーズ)

非財務情報の開示媒体が多様化している中、企業価値向上を実現する戦略的開示を進める上で、各媒体の目的(役割)とそれに応じた開示項目を設定することが必要となります。
まず、企業価値を体系化したツリーをもとに、参照する開示のフレームワーク、想定読者(ステークホルダー)、媒体の使用タイミングを検討し、各媒体の目的(役割)を明確化していきます(図表3)。
そして、各媒体の目的、目的決定に関係した要素に応じて、開示項目を設定します。

図表3:企業価値ツリーに基づく戦略領域とフレームワークの策定

これらを設定することにより、読み手にとって容易に情報収集をすることができる開示媒体体系を整備することができます。

2. 価値創造ストーリーの整理、長期改善計画の作成(作成フェーズ)

企業価値に直接的な影響をもたらす開示を実現するには、下記4つの視点が必要と考えます。

  • 企業価値との相関関係
  • フレームワークとの整合
  • 各戦略や施策との相関関係
  • 提供価値と自社のマテリアリティとの整合性

これらの視点をもとに既存の統合報告書上の課題を特定していきます(図表4)。

図表4:4つの視点による課題の特定

また、長期改善計画の作成は、自社の取り組み(経営戦略や開示)を考慮し、価値創造ストーリーの進捗指標を開示するタイミングとともに検討していきます(図表5)。

図表5:指標と開示タイミングの検討

3. 原稿作成の効率化(作成フェーズ)

企業価値に直接的な影響をもたらす開示を実現するには、開示をタイムリーに行う必要があります。そのためには、非財務情報開示の各媒体の項目の全体像を把握し、各項目の作成担当部署を整理しておく必要があります(図表6)。
そうすることで、さらに全媒体間での内容に一貫性を持たせることができ、読み手に対してどの媒体を通しても発信内容の意図を適切に伝えることもできるようになります。

図表6:各媒体の記載項目と作成担当部署の整理

4. 対話高度化支援(開示・対話フェーズ)

東京証券取引所からの要請である「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」にも明記されているように、効果的な投資家との対話は企業価値に直結します。効果的な対話を実現するためには

  • 対話する相手の理解
  • 対話アジェンダの設定
  • 使用媒体の選定
  • 会社対応者の選定

を検討する必要があります。こうした対話を通じ、投資家から開示上のフィードバックのみならず、経営に関するフィードバックも得ることができます。

5. 開示プロセスにおける経営課題抽出、経営改善プロセス設計(経営へのフィードバック、情報のアップデートフェーズ)

統合報告書作成フェーズや開示・対話フェーズで把握した課題を経営層にフィードバックし、戦略・取り組みの高度化をしていくサイクルが回らなければ、統合報告書はただ発行するだけのものになってしまいます。そのため、課題を抽出し、優先順位をつけて、改善ステップを検討することが重要になります。
観点が不十分になりがちな課題として以下のようなものがあげられます。

  • フレームワークを意識しすぎて充実した開示ができていない
  • 戦略・取り組み自体に高度化に向けた再考の余地がある
  • 戦略・取り組みの検討プロセスに見直しの余地がある

これらの課題について、各社の中期経営計画策定期間などのタイムラインを考慮して優先順位付け、改善ステップ検討を実施していくことで、長期視点での高度な価値創造経営が実現できます。

このような統合報告書から経営改善のサイクルを実現することにより、統合報告書に対する社内意識の向上や報告書制作チームの充実につながり、「IR部門等の作成担当部門のみが作成する媒体」から脱却し、「戦略的な開示による真の企業価値の向上」へとシフトすることが可能になります。PwCコンサルティングは各フェーズの支援を通じて、そうしたシフトを後押しします。

生成AIを活用したPwC Japanグループの取り組み

PwC Japanグループは生成AI を活用し、企業の統合報告書作成における価値創造ストーリーの整理(統合報告書企画支援)、および原稿作成(統合報告書執筆支援)に関するサービスを提供しています。

本サービスでは、生成AIによって優れていると判断された企業の統合報告書を分析し、ステークホルダーにとって魅力的な報告書のベストプラクティスを抽出します。このベストプラクティスを基に、生成AIを活用した迅速なドラフト作成を行います。

図表7:本サービスを活用した統合報告書の作成イメージ

生成AIの活用によって効果的・効率的に統合報告書を作成するだけでなく、PwC Japanグループの豊富な業務経験や知見と組み合わせることで、企業価値向上を実現する戦略的開示の実現を目指します。

  • 統合報告書企画支援:
    非財務情報開示に精通したPwC Japanグループの専門家とともに、統合報告書のストーリーを策定します。クライアントが重要であると考えるステークホルダーやアピールのポイントを整理した上で、大手機関から高い評価を得ている統合報告書や、ステークホルダーが注目している企業の報告書を基に、生成AIが魅力的な統合報告書のベストプラクティスを分析・抽出します。
  • 統合報告書執筆支援:
    上記のストーリー策定とベストプラクティスを基に、生成AIを活用してドラフトを作成します。クライアントとの協議と、生成AIによる文章のブラッシュアップをスピーディーに繰り返すことで、より質の高い報告書へと仕上げていきます。

このように企画支援と執筆支援を迅速に進め、ドラフト作成の実施サイクルを繰り返すことで、内容のブラッシュアップとさらなる品質向上が期待されます。最新のテクノロジーを活用しながら、企業の非財務情報の開示をさらに高度化し、企業の統合報告書作成をサポートします。

サステナビリティ経営の実施に留まらず、その取り組みを効果的に伝えることの重要性はますます高まっています。PwC Japanグループは、豊富な知見と生成AIの技術を活用し、企業の特色・魅力をステークホルダーへ適切に伝えていくための取り組みを支援します。

主要メンバー

小林 たくみ

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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田原 英俊

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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三善 心平

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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林 素明

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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政田 敏宏

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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小倉 健宏

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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