データとAIによる産業・業務変革の未来 FDE(Forward Deployed Engineer)の視点から考える「業務実装」

衛星データで「観る」から「動かす」へ

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  • 2026-11-06

本調査の詳細を記載したPDFレポートは、今後、本Webサイトにて公開を予定しています。

生成AIをはじめとするAIの進展によって、データ活用は、情報を収集・分析するだけでなく、現実世界の状態や変化を捉え、将来を予測し、その結果を意思決定や業務上の実行へつなげる領域へと広がりつつあります。

前稿「AIが再編する次世代デジタル基盤」において、AI時代のデータ取得・通信・計算・制御を支える地上・宇宙融合インフラの将来像を描きました。こうした基盤の進展は、さまざまなデータやAIを通じて、幅広い産業・業務の変革につながる可能性があります。本レポートでは、その一例として衛星データに着目し、企業内・外部データやAIと組み合わせながら、企業の業務や意思決定へどのように組み込み、具体的な価値へ転換し得るかを「活用・業務実装」の視点から考察します。特に、技術やソリューションを提供するだけでなく、実際の業務現場に入り込み、業務とデータ・AI・システムをつなぐFDE(Forward Deployed Engineer)的な実装アプローチにも着目します。

衛星データは、広域・遠隔地・分散した対象を継続的に観測でき、地上センサーやドローンなどを補完しながら、現実世界の変化を捉えるデータレイヤーとして機能し得ます。一方、その利活用は依然として十分に広がっているとは言い難い状況です。本レポートでは、各産業における衛星データの導入検討・業務利用経験を有する実務者へのヒアリング結果も踏まえ、衛星データを既存の業務や意思決定へ組み込む「業務実装」を、普及拡大に向けた重要な鍵として位置付けています。重要なのは、「何が起きているか」を把握するだけでなく、「何を判断し、実行するか」までつなげることです。これは、本編で示す業務設計、データ・システム連携、運用定着という考え方とも対応しています。

衛星データ単独ではなく「データコンビネーション」で価値が生まれる

衛星データの価値は、データそのものではなく、企業の業務や意思決定を通じて経済効果として顕在化します。企業内データやIoT・センサーデータ、気象・地理・統計データなどと組み合わせ、AIによる分析・解釈を通じて業務へ組み込むことで、売上向上、コスト削減、リスク低減、環境価値などにつなげることができます。

本調査では、農林水産、資源・鉱業、公共・防災、インフラ・ユーティリティ、建設・不動産、物流・交通、金融・保険、環境・ESGの8分野を対象に、「衛星データ×企業内データ×外部データ×AI」によるソリューションの市場ポテンシャルを推計しました。その結果、グローバル市場ポテンシャルは2030年に年間約9.5兆円、2035年には年間約23.6兆円に達すると推計されます。なお、ここでいう市場ポテンシャルは、衛星データそのものの販売市場ではなく、衛星データを起点に、企業内・外部データやAI・システムを組み合わせ、各産業の業務課題を解決するソリューションとして将来的に形成され得る市場を指します。各ユースケースで創出可能な経済効果に、将来の想定導入率やWTP(Willingness to Pay)を考慮して推計しています(図表1)。

市場ポテンシャルは幅広い産業・業務にまたがる一方、その規模には産業ごとに大きな差があります。これは、産業そのものの市場規模だけでなく、衛星データを活用できる業務の広がりや利用頻度、創出可能な経済効果、将来的な導入可能性などによっても異なるためです。

図表1:衛星データを起点とした経済価値・市場ポテンシャル (2035年、グローバル)

衛星データソリューション市場ポテンシャルの産業別内訳(2035年、グローバル)

AIによって衛星データ活用は「観る」から「動かす」へ

衛星データの業務実装は、データを「観る」ことから、状態や変化の分析・予測、具体的な対応策の提示、そして実際の業務を「動かす」ところまで段階的に高度化していきます。

本調査では、この変化を、現実世界を観測・可視化する「レベル1 観測・可視化」、状態や変化を分析・予測する「レベル2 分析・予測」、具体的な対応策を提示する「レベル3 対応策の提示」、判断結果を業務システムや設備・機械などの実行系へ接続し、対応・実行する「レベル4 実行」の4段階に整理しました(図表2)。現在はレベル1~2の活用が中心ですが、業務データとの統合やAIの活用によってレベル3~4へ進むことで、衛星データを意思決定や業務実行へより深く組み込めるようになります。ここでいう「実行」は、設備・車両・建機などを動かすフィジカルな実行だけでなく、追加調査の指示、点検・作業計画の変更、人員・資源の再配置、通知、承認、発注などを業務システム上で行うデジタルな実行も含みます。

図表2:衛星×AIの業務実装レベル(レベル1~レベル4)

衛星×AIの業務実装レベル(レベル1~レベル4)

さらに、その先の段階では、世界モデルやフィジカルAIの進展により、3D都市モデルやデジタルツイン、衛星・センサーなどのデータを用いて、AIが現実世界の状態や変化を理解し、将来の状態や行動の結果を予測する活用も広がる可能性があります。

「実行」の形は産業によって異なります。建設では施工計画や建機・ロボットの運用、不動産では追加調査や投資判断、公共・防災では警報や人員の配置、環境・ESGでは調査・検証や環境管理などが考えられます。共通するのは、現実世界の変化を継続的に捉え、人とAIが役割を分担しながら、判断や行動を更新していくことです。

業務課題から衛星データの活用機会を見極める

こうした可能性を実際の価値へ変えるには、データや技術から用途を考えるのではなく、まず自社の業務や意思決定における課題を特定することが出発点となります。

活用機会は、「意思決定・経済インパクト」と「継続利用性」の双方から捉える必要があります(図表3)。農地管理やインフラ監視のように継続的に発生する業務では改善効果を積み上げられる一方、不動産取得、大規模投資、災害対応などでは、頻度は低くても1回の意思決定が大きな経済的・社会的影響を持ちます。

図表3:衛星データの活用機会の捉え方(「意思決定・経済インパクト」×「継続利用性」)

衛星データの活用機会の捉え方(「意思決定・経済インパクト」×「継続利用性」)

優先的に取り組む業務課題を特定した後は、実現したい業務の姿から、必要な衛星データ、業務・外部データ、AI・システムを逆算して設計します。また、最初から高度な自動化を目指すのではなく、実際の業務で価値を確認しながら、レベル1の観測・可視化から、レベル2の分析・予測、レベル3の対応策の提示、レベル4の実行へと段階的に高度化していくことが重要です。

その際、すべてを自社で担う必要はありません。自社が担う領域と外部パートナーと連携する領域を見極め、自社の業務や保有するデータ・システム・人材に応じて適切な実装体制を構築することが求められます。特に重要となるのが、業務と技術をつなぐ役割です。FDE(Forward Deployed Engineer)に代表されるように、実際の業務現場に入り込み、業務課題をデータ・AI・システムの要件へ落とし込みながら、実装・検証を繰り返して業務に定着させるアプローチが重要になります。

今後問われるのは、「衛星データで何ができるか」ではなく、「自社のどの業務を、衛星データやAIによってどのように変えられるか」です。業務課題を起点に必要なデータ・AI・システムを逆算し、実際の業務で価値を確認しながら活用を広げることが、衛星データを継続的な業務変革につなげる鍵となります。

執筆者

中林 優介

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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榎本 陽介

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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井田 広之

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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須田 夏帆

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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吉竹 昴

アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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