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水素社会実現に向けた議論が加速する中、自然に生成される天然水素を低コストで採掘・活用しようとする動きが世界各地で始まっています。一方で、生成・移動・貯留・損失といった各メカニズムには未解明な部分も多く残されています。
本稿では、天然水素開発に関心を有する事業者の意思決定支援を目的に、天然水素に関する最新の研究・開発動向および課題を整理し、地下資源という共通点を有する他の地下事業の事例も参照しながら天然水素の将来像を類推します。
ホワイト水素、ゴールド水素、地質水素とも呼ばれる天然水素は、地下で自然現象により生成されて地層中に存在する水素を指します。既存の水素が「製造」プロセスを要する二次エネルギーであるのに対し、天然水素は製造プロセスを要しない一次エネルギーであり、環境負荷が小さい点が大きな特徴です(図表1)。蛇紋岩化反応、放射線分解、微生物分解、マグマからの脱ガス、断層破砕など多様な自然現象によって生成され、世界のほとんどの国・地域で胚胎可能性があると考えられています。
図表1:水素の種類と環境負荷・製造コスト
出所:
IEA, Global Hydrogen Review 2024, https://www.iea.org/reports/global-hydrogen-review-2024
Hydrogen Europe, https://hydrogeneurope.eu/resources/green-hydrogen/
FUTURECOAL, HYDROGEN, https://www.futurecoal.org/sustainable-coal/hydrogen/
他H-Nat 2024講演資料を基にPwC作成
現時点で商業生産を行っているのはマリ共和国の1カ所のみですが、北米・欧州・オーストラリアを中心に20カ所以上で開発プロジェクトが進行中です(図表2)。米国、フランス、オーストラリアでは探鉱や試掘がすでに実施されており、2026年内に探鉱・試掘を予定する事業者も多数存在します。各国政府主導の取り組み、国際会議の開催、法規制の整備、大学などでの研究も並行して進展しており、市場形成は確実に加速段階に入っています。
図表2:国外の天然水素プロジェクト開発状況
出所:IEA「Global Hydrogen Review」(2024), H-Nat 2024,2025講演情報、各社報道資料を基にPwC作成
PwC独自のモデル・想定シナリオ、地質環境の分布、国内外の事業者とのディスカッションに基づき、時間軸と前提条件を添えた将来シナリオを描出しました。国外では「地産地消用の開発」と「大手エネルギー会社を中心とした輸出用の開発」の二極化が進むと想定されます(図表3)。国内では地産地消を基本に開発が進み、国内産と輸入産の両方を市場が受容する構造へと移行する可能性が示されています(図表4)。
図表3:国外で天然水素開発が海外輸出にまで拡大する場合における天然水素開発変遷想定
出所:PwC作成
図表4:国内で天然水素開発が拡大する場合における天然水素開発変遷想定
出所:PwC作成
天然水素は新たな一次エネルギーとして、環境負荷が小さな資源であるという観点から国外で先行して開発が進められています。地質学的観点からは日本国内にもポテンシャルが示唆されており、国産資源としての重要性も認識されつつあります。世界各地での開発を通じて地下の原位置データが蓄積され、有望地点を見極める検討が可能なフェーズに移行しているとともに、生産・増進回収・純化精製などの技術も原位置実証段階に入りつつあることから、「いま」が参画の好機といえます。海外事業への投資、国内事業に向けた戦略構想・計画立案・ロードマップ策定など、今すぐ着手できる打ち手が存在します。
天然水素開発事業の成立性および生産した水素の利用事業の成立性の検討が事業者に求められています。将来の水素社会を見据え、サプライチェーン全体像を想定したうえで、自社の立ち位置、目指す方向性、必要なアクションを定義していくことが、これからのエネルギー戦略における要諦となります。
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