「サステナビリティの要求に対応できないCFOは、時代に遅れてしまうかもしれません」

シリーズ「価値創造に向けたサステナビリティデータガバナンスの取り組み」 第2回:統合管理を含めたデータガバナンス/マネジメントの要諦
多様なテーマを抱えるサステナビリティの領域におけるデータガバナンス/マネジメントを推進するにあたり、個別最適に陥りデータの全社的な利活用に至らないことが課題とされています。本コラムでは、組織横断的なデータガバナンスが必要な理由、そしてその推進の要諦を解説します。
CFOの職務が再び書き換えられる時代になっています。多くの企業は、従来の財務的価値の要素を測定、管理、報告することにのみ重点を置いてこのポジションを定義していますが、今、サステナビリティ目標を支えるためのさまざまな責任をCFOに求める企業が増えています。長期的な価値とパフォーマンスに視野を向けるならば自然なこととして、この権限の拡大を歓迎するCFOがいる一方、環境・社会・ガバナンス(ESG)要因は財務パフォーマンスとは無関係であり、責任の範囲外だと考えるCFOもなお存在します。あるCFOは、「ESGがわが社の売上の増加や調達価格の改善に役立つと思えない」と皮肉を言います。
しかし、CFOがサステナビリティの取り組みをリードすることは、ESG目標のためだけでなく、長期的な価値創造のためにも重要であると言えます。まず考えるべきは基礎的な財務指標です。多くのCFOはすでに投資家からの質問にさらされており、大半の企業が、今後数年内に次々と開示やコンプライアンスの要求に応える必要があると感じているでしょう。財務部門の持つ高い情報管理能力は、ステークホルダーからの信頼を構築する際に活かすことができるのです。また、財務部門は、将来予測、予算編成、リソース配分、バランススコアカードなどのさまざまなツールを持っており、これらを用いてあらゆるビジネスプロセスや価値創造に関する意思決定にサステナビリティ要素を落とし込むことが可能です。例えば、気候関連の物理的リスクや移行リスクについて、バリューフォワードな視点を提供する方法が他にあるでしょうか。あるいは、環境税や優遇税制の影響や機会を理解する方法はどうでしょうか。また、投資家や他のステークホルダーの信頼を得られるような開示やマテリアリティ評価を提供することはできるでしょうか。企業が短期的なパフォーマンスを求める声に対応することと、サステナビリティに関連する長期的な機会を捉えることとの適切なバランスを見いだすには、CFOのリーダーシップが不可欠です。
CFOが担うリーダーシップの役割はどのようなものでしょうか。その答えは企業によって異なります。最高経営責任者(CEO)や取締役会がCFOに何を求めるか、既存の部門間での業務分掌がどのように行われているかに左右される部分もあります。また、企業が持続可能な価値を創造する上でESGとビジネス戦略をどのように整合させるかによっても、答えは変わってきます。サステナビリティへの取り組みが法規制を順守することに限定されている企業では、CFOの役割は形式の定まった会計やその他の報告義務を果たすことにとどまるかもしれません。しかし、サステナビリティが企業戦略の決定的な要素である企業では、エコシステム全体に及ぶ関係性のネットワークや、企業の財務データの管理機能、データ収集システムの監督機能を兼ね備えたCFOこそ、サステナビリティを重視する幅広い組織を統括するにふさわしい責任者の1人となります。時とともに企業のサステナビリティに対する姿勢は変化すると考えられるため、自分の責任範囲も同じように変化することに気づくCFOも多いでしょう。
「サステナビリティの要求に対応できないCFOは、時代に遅れてしまうかもしれません」
サステナビリティをリードするCFOは、相互に関連する4つの役割を果たす必要があるとPwCは考えています。これらは多くのCFOにとってなじみのあるものですが、4つのいずれの役割も新たな要求によって形を変えつつあります。
戦略的ビジョナリー:人、地球、利益のトレードオフの関係を理解して整理し、サステナビリティの長期的なリスクと機会を、戦略とそれに対するリソース配分に反映させる、展望を描く人
変革のカタリスト:背景にある戦略、組織体制、企業文化を、企業共通のサステナビリティアジェンダに合うものへと調整できる触媒役
協調的インテグレーター:自然資本と社会資本の両方を含むサステナビリティへのコミットメントを守るために、事業部門、サプライヤー、ベンダーや他のステークホルダー間でネットワークを構築する方法について知見を持つまとめ役
今日のCFOは、ますますサステナビリティ重視へと向かう社会の流れに直面していますが、これは、財務的価値と長期的な戦略計画に注力するCFOの役割から考えると自然なことです。CFOは、人間関係のネットワーク、企業の財務データに対するオーナーシップ、データ収集システムの監督権を兼ね備えていることから、サステナビリティを重視する幅広い組織の責任者としてふさわしい存在と言えます。サステナビリティをリードするCFOは、相互に関連する4つの役割を担うことになります。
データと部門横断的な理解を持って、企業のサステナビリティストーリーを株主価値や自然資本・社会資本に基づいた信頼できるビジネスケースとして提示する。
人、地球、利益のトレードオフの関係を理解して整理し、サステナビリティの長期的なリスクと機会を、戦略とそれに対するリソース配分に反映させる。
自然資本と社会資本の両方を含むサステナビリティへのコミットメントを守るために、事業部門、サプライヤー、ベンダーや他のステークホルダー間でネットワークを構築する方法について知見を持つ。
背景にある企業の戦略、組織体制、企業文化を、共通のサステナビリティの道筋に合うものへと調整できる。
CFOの役割は、数十年の間に、価値の保全に重点を置いた従来の財務重視のものから、将来の価値創造を包含する先見性重視のものへと拡大してきました。企業にとってサステナビリティの重要性が高まるなか、価値創造というCFOの使命には、新しい考え方と意思決定の方法が求められています――それは、投資家に対して自社の優れたパフォーマンスをいかに示すか、選択肢を整理する上で、サステナビリティ情報を活用しようとするものです。今日のCFOは、CEOや取締役会と協力しながら、財務および非財務データを企業の戦略目標、リソースと資本の配分、長期および短期のパフォーマンス指標に反映させる、持続可能なビジネスモデルの開発には欠かせない存在となっています。
「気候変動の影響は企業の生産設備、サプライチェーン、オペレーション、ひいては利益にますます重くのしかかっています。優れたサステナビリティのアプローチに投資する価値は、投資を遅らせることで避けるコストをはるかに上回るものとなるでしょう」
従来、企業の業績と会計報告に関しては、過去の情報を対象とした議論がなされてきました。業績や会計報告は、すでに発生したことを、さまざまな詳細度で、さまざまな統制のもとで定量化し、報告し、保証するものです。しかし、気候変動を初めとするサステナビリティのプレッシャーを受ける時代において、戦略的CFOは将来も見通さなければなりません。コンプライアンスや業績に関する多種多様な指標から、企業の戦略、オペレーション、製品、サービスに最も重要な影響を与える比較的少数の指標を抽出し、それらをステークホルダーの期待と一致させる方法を模索できなければなりません。これは、リソースの配分、長期的な設備投資、潜在的なM&Aターゲットや大型投資などの意思決定を行う場面で、多くの問いに答えていくことを意味します。自社の炭素排出原単位の予測値、その精度や測定方法は?今後導入の可能性がある環境税は?ある投資を別の投資より優先することで、どのような競争上の優位性が得られるか、あるいはどのようなリスクが発生するか?出資者や投資家はどのようなサステナビリティのパフォーマンス指標を求めているか?そして、どの事業に手を入れることが脱炭素化、社会の持続可能性や自然に最も大きく影響するのか?といった問いです。
投資資金の配分を単純化した例で考えてみましょう。3つの資産があり2つの取得に足る資金がある場合、企業は従来、一定のハードルレートを超えて最大のリターンを生むと予想される資産に資本を投じるものでした。今日、ネットゼロ(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)にコミットする企業や、排出規制を見据えている企業は、炭素指標や他の非財務的影響を投資判断に落とし込む厳密なアプローチを採用する必要にも迫られています。
ある欧州の多国籍企業では、財務チームがカーボンバジェット(炭素予算)や他のサステナビリティ目標も、そうした計算に織り込もうとしています。二酸化炭素換算(CO2e)キログラムの観点からであれ、プロジェクトの存続期間にわたる金銭的価値の観点からであれ、炭素の「コスト」を認識することにより、財務的価値や炭素排出に関してより透明性をもった議論が行われるようになります。その上で、どのようなプロジェクトの戦略的な計算においても、オフセット購入コストの組み入れ、内部炭素価格の設定、業績連動賞与への排出指標の入れ込みといったことができるようになります。
CFOはまた、サステナビリティ要素を経営判断に反映させるにあたり、組織が拠点を置く各地域特有の優先事項にも注意を払う必要があります。例えば、国連の持続可能な開発目標によって、アジアは他の地域よりも開発ニーズが高く、気候リスクの影響も受けやすいことが指摘されています。そうした地域のCFOは、現地のコミュニティの状況に配慮しつつ脱炭素化に意欲的に取り組む方法を検討する必要がありますが、その利害は他の地域のコミュニティとは異なる可能性もあります。CFOは、気候がさまざまなシナリオの下で地域レベルのビジネスに与え得る物理的な影響について、物理的リスクと移行リスクの両方への自社の対応と併せて、明確に伝えなければなりません。
サステナビリティがまだ部門レベルで管理されており、リソースが限られている企業も少なくありません。しかし、エコシステムやバリュープールが進化するなかで成功を収めるには、企業が世界や周囲のコミュニティとどう関わり合っているかに敏感になる必要があります。したがって、サステナビリティは企業規模の問題であると、多くの企業が気づくようになっており、例えば気候変動がサプライチェーンに与える影響といったサステナビリティ要素が、事業にどのような影響を与えるか、さらには事業が従業員や顧客、環境にどのような影響を与えるかを測定・報告するには、特定の人材、プロセスやテクノロジーを擁する必要があることに思い至っています。多くの場合、組織には、全面的なサステナビリティ変革とは言わないまでも、大規模かつ体系的な変化が求められます。
CFOは、本質的にそうした取り組みの触媒役となる可能性があります。企業データや分析リソースの多くを管理する者として、CFOは既存のテクノロジーやシステム、インフラ、アーキテクチャ、ツールについて幅広い視野を持っています。多くの場合、ESGコントローラーのサポートを受けながら、具体的な目標を支えるデータを提供し、その目標達成のための取り組みを策定し、進捗状況を監視し、説明責任を果たし、継続的な向上に報酬を出すことのできる立場にあります。これは、財務パフォーマンスに対する立場と同様です。
具体的な第一歩として、企業は解決しようとしている問題と、その解決に必要な人材、プロセス、テクノロジーを特定する必要があります。
変革を成功させるには、企業の戦略、組織体制、企業文化を同期させ、シームレスに連携させる必要があります。つまり、戦略を組織運営全体に行きわたらせるとともに、サステナビリティのパフォーマンス指標を経営報告や統制システムに組み込まなければなりません。経営陣の報酬に反映させることも少なくないでしょう。
こうしたことの多くは、企業の従業員の知識とスキルにかかっています。例えば、従業員は何をすべきかだけでなく、その理由と方法を理解しなければなりません。サステナビリティの知識は、人々の日々の活動に埋め込まれ、「そうするのが普通」になる必要があります。従業員のサステナビリティの意識を今よりも高めていくのは、簡単なことではありません。CFOが要求する内部統制のレベルに従業員が慣れてしまい、社内で移行に苦労している企業も目にします。企業はまた、社外からの要求が複雑で、サステナブルな組織になろうとする自社の能力が影響を受けることにも絶えず苦労しています。
前述の欧州の多国籍企業では、スコープ1、2、3の排出量といった技術的な概念はおろか、基本的なレベルでも会社のサステナビリティ戦略を理解している人は、一般社員の中ではほとんどいませんでした。そこで、財務チームとサステナビリティチームは、社内のステークホルダーをまとめるための集中的な取り組みに着手し、管理職などの上級社員をさまざまな段階でコアグループとして招集し、各種の運営委員会、1対1の面談、研修セッションを実施しました。この取り組みは従業員全体から広く支持を集め、ネットゼロのコミットメントを受け入れ、達成に向けて取り組む自信を皆に与えました。
サステナビリティの道の先頭に立つCFOは、既存のテクノロジーアーキテクチャに目を向け、ESGデータと統制を全体的なガバナンス、リスク、コンプライアンスツールのどこに統合できるか見極めを進めています。そうしたCFOは、既存の報告プロセスに自身の承認権限や認定権限をどのように組み込めるか検討しています。また、財務部門やIT部門と広く協力してエンタープライズテクノロジーを再検証し、すでにあるものを別の目的に利用できる部分、ギャップがありそうな部分、最高クラスのソリューションが必要な部分を見定めつつあります。そこから、次に進むべき道について計画を始めるのです。
「サステナビリティ報告はワンストップでできるものではありません。サステナビリティデータを収集し、それを今の損益計算書のようにまとめられる総合的なソリューションが登場するまで、企業は新旧技術の組み合わせに頼らざるを得ないでしょう。ソリューションの各ピースはさまざまな人が持っており、CFOはそれを全てまとめる必要があるのです」
あるグローバルな製薬会社の例を見てみましょう。多くの企業と同様、この企業もサステナビリティデータの収集、計算、レポート作成を手作業に依存していました。業績ダッシュボードはサイロ化していることが多く、経営陣が全社的なパフォーマンスを見渡すことはできませんでした。CFOは、ステークホルダーを集めて一連のワークショップを開催した後、同社のサステナビリティ報告の目標を明確にし、ガバナンス基準を定義し、ポイント別の統制プロセスを確立することに成功しました。その後、同社は社内テクノロジーを導入してデータ収集と分析を自動化し、サステナビリティ報告の作成能力を高めました。
期待される改善点は多岐にわたります。以前は手作業で収集したスコープ1と2の排出量を年に1回レビューすることが可能でした。しかし、新システムが完全に導入されれば、毎月レビューできるようになります。また、ある月に報告を行った工場の数から網羅性を考察したり、実際の排出量をその年の全体目標と比較したりすることもできるようになります。さらに、例えばどの工場の排出量が最も多いか、その責任はどの管理者にあるのかといった、さらに具体的な詳細も掘り下げられるようになります。
サステナビリティを重視するCFOには、2つの基本的な使命があるとPwCは考えています。まず、財務パフォーマンスに匹敵する方法でESGパフォーマンスとリスクを定量化し、体系化できる必要があります。また、サステナビリティデータを、持続可能な価値創造を行うビジネスモデルを育成する方法として、戦略に関する議論に持ち込むことができなければなりません。そのためには多くの戦術があります。
サステナビリティを重視するCFOが基本的使命を果たすための戦術的目標
サステナビリティに依って立つCFOは、以下の全てをこなせなければなりません。
先端的なCFOが実践するサステナビリティ統合の方法は、広く企業全体で必要な変革がどのようなものであるかを体現しています。それは、さまざまな部門の人々をまとめ、サステナビリティに協力して取り組むというものです。ある多国籍ビール会社のCEOは、自社のエネルギー消費や原材料利用のサステナビリティを強化することについて、「全員が責任を持つようにしなければ、成功はできない」と言います。
企業のサステナビリティ情報開示に対する信頼を築く、という課題について考えてみましょう。企業はサステナビリティ報告において、厳密性とデータの質を求める声の高まりに直面しています。はっきりと定義された開示と保証の要求事項、正式なプロセスと統制、明確な役割と責任が存在しない場合、この要求は無理難題のように感じられることがあるでしょう。CFOは、データを提供するさまざまなチーム間の協業と共同責任を推進することで、データに対する信頼を築き、タスクをより管理しやすくすることが可能になります。欧州のある製造会社では、サステナビリティ報告チームは財務部門の一部となっています。このチームでは、気候や監査、サステナビリティ保証などさまざまな分野の専門家が協力して、同社のサステナビリティデータが財務データと同じレベルの精査に耐えられるよう取り組んでいます。
CFOが容易に協業を促進できる理由はもう1つあります。財務部門は、サプライヤー、ディーラー、顧客のネットワークはもちろんのこと、組織全体のあらゆる人と関係を築いています。これは誰にも予算があるためです。ある欧州企業では、自社製品に関連する排出量を削減する際に、こうした関係が役立つことが分かりました。サステナビリティチームはゼネラリストで、ソリューションを見いだせるほど各製品を熟知していなかったため、同社は代わりに財務スタッフを改革の仕掛け人に位置付けることにしました。財務部門のチームが財務予算に加えて炭素予算を組織に組み込んだことで、製造部門の人々には、製品設計の刷新や気候変動に適応した製造プロセスの導入、エネルギー源の多様化など、多種多様な炭素削減方法を提言する気運が生まれました。製造部門のスタッフは一つひとつの製品を誰よりも熟知していたため、財務部門からの働きかけによって効果的なボトムアップ型のソリューションが生まれました。
将来を見据えるCFOは、高度に戦略的で複雑な全社規模の役割を担うことになります。リスク管理、購買、人事、オペレーション、そして税務と連携して責任を共有するでしょう。例えば、CFOは営業チームや製造チームと協力し、既存のデータ収集プロトコルや報告プロセスを用いて、財務・非財務の両面でのインパクト定量化を支援することになるでしょう。
サステナビリティに関する非財務指標の測定、管理、報告は、明確に財務と定義される役割にふさわしくない、と思われることは少なくありません。CFOがサステナビリティをリードするという考え方に驚き、あるいは失望するCFOにはよく接します。それは最高サステナビリティ責任者(CSO)の役割ではないか、と言われるのです。
場合によっては、その通りかもしれません。コンプライアンスだけでなく、戦略、リスク、財務、変革、人事など、本来ならCFOが担う役割と類似する、高度な権限を与えられたCSOは増えつつあります。その中で最も優秀な人材は、経営幹部の一員であるか、その直属であるか、取締役会と直接連絡を取り合っています。さらに、企業がどのように気候目標を達成するのかに関して投資家が透明性の向上を求めるなか、例えば投資家とコミュニケーションを取り、決算説明会に参加するCSOも出てきています。
しかし、そのようなCSOはごく少数です。正式なCSOの役割がある企業さえほとんどありません。しかも、CSOが存在する企業の多くは、CSOを組織上、経営幹部よりも相当下に位置付けるか、企業の社会的責任に重点を置かせています。突き詰めると、サステナビリティのさまざまな要求に効果的に対処するには、CSOとCFOとの協力が必要になります。
株主の期待を伝え、管理することは、すでに戦略的CFOの役割の1つになっています。CFOという職階は、規制要件や報告ガイドラインの変更に適応することに長けていますが、CFOに対するサステナビリティ要求の多くはそれと似たものです。CFOの仕事が、事実に基づいて企業のストーリーを伝えることであることは変わりませんが、今やそれには財務パフォーマンスだけでなくサステナビリティのパフォーマンスも含まれるようになっています。サステナビリティの確かなコミュニケーターは、企業の現在のサステナビリティ戦略とパフォーマンスを理解し、説明できる必要があります。これには、どのデータに重要性があるかの評価、データの集約・収集、パフォーマンスの測定値の報告・保証が含まれます。
「規制の導入が予想されていることは、企業が行動を起こす重要なきっかけとなりますが、それだけではありません。大半の組織は、市場の需要や従業員を含むステークホルダーの関心の変化にも動かされます」
このタスクは、税務当局や規制当局の法的要件を満たすことをはるかに超えるものです。他のオーディエンスとのコミュニケーションも重要であり、それには別の、もっと複雑なレベルの報告が求められます。例えば、ベンダーやサプライヤーが、特定の事業部門の排出量を測定し、排出量目標に向けた進捗状況を追跡し、それを業績連動報酬に反映できるよう、製品のカーボンフットプリントに関する特定のサステナビリティデータを求めてくることがよくあります。また、投資家や金融機関も、サステナビリティ情報を強く要求しています。調査対象となった投資家の3分の2以上が、企業は自社の行動が環境や社会に与える影響の金銭的価値だけでなく、サステナビリティ要素と自社のビジネスモデルとの関連性を開示することが重要だと回答しました。現時点では回答者の9割近くが、企業の報告には裏付けのない主張が含まれ過ぎているとの考えを示しています。
CFOは、サステナビリティ関連の目標とパフォーマンスをさまざまなオーディエンスに伝えることができなければなりません
オーディエンスは、サステナビリティの目標とパフォーマンスが重要性を持ち、透明性が高く、しっかりとしたデータに基づくものであることを期待しています。
資金提供者に対する影響力を持つため、格付け会社も重要なオーディエンスの1つです。投資家の半数近くが、リスクと機会を管理する上で格付け会社のサステナビリティスコアに依拠していると回答しています。格付け会社の所見を資金配分の決定に組み込んでいる資産運用会社もあります。また、一部の投資家や金融機関は、トップレベルの格付けはまったく無視しながらも、自社の内部格付けまたは独自の格付けの情報源として格付け会社を利用しています。
格付け会社によって見るサステナビリティの側面は当然異なりますが、一般的には、格付け会社は、ESGトレンドによる長期的な影響に対する企業のレジリエンス(強靭さ)を考慮しています。さらに重要なのは、定義上、格付けの各レベルに含まれる企業は一定の割合に限られているということです。例えば、トリプルA格の企業は5%のみ、ダブルA格は15%といった具合に、ある意味強制的な格付けが行われます。そのため、企業は自社の活動を透明化し、より高い格付けを得て、市場や金融機関からの資本コストを正当に低下させることがますます重要になっています。
あなたがCFOであれば、オーディエンスの状況と彼らのデータに対するニーズを確実に理解することが課題となります。主要な投資家との直接対話では、さまざまな格付けをどのように利用しているか念頭に置くようにします。格付け会社が依拠する、公開されている業界固有の基準は、範囲が狭く、不透明である場合が多いため、詳細なチェックリストを対話に持ち込んで、その背景に透明性を提供します。また、方法論についての議論にも備えるべきです。方法論やそれに組み込まれる要素を無視した、あまりにも大まかな情報開示が、投資家や他のステークホルダーの支持を得ることはまずありません。
価値創造の新たなモードに自らの役割を適応させるCFOは、急速に再構成が進む世界の中で自社をリードする絶好の機会を得ています。サステナビリティのダイナミクスを具体的なビジネス項目に落とし込み、サステナビリティの知識を定型プロセスや手順に組み込み、財務・非財務データや洞察を社内やステークホルダーと共有することで、透明性、機運、そして信頼が構築されます。確かに、それは簡単なことではありません。CFOには、曖昧さに対処する忍耐力、不確実性を乗り越えるビジョン、そして変化を起こす勇気が求められます。それを実践するCFOは、価値創造の新たな方法を見いだすことができるのです。
※本コンテンツは、PwCが2023年3月14日に発表した「How CFOs further value creation by leading on sustainability」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
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