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第1回:日本のテクノロジー企業は、なぜグローバル市場でプレゼンスを失ったのか

はじめに

近年、流行語になりつつある単語として、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が挙げられます。これは、テクノロジー業界に限らず、あらゆる業界において無視できないビジネストレンドの1つになっています。センサーやカメラなどのセンシング技術、IoTのようなデータ収集技術、AIなどのデータ解析技術、エッジコンピューティングや5Gなど即時性を向上させるテクノロジーなど、デジタル技術はこの十数年で加速度的に発展しています。これらの技術は、社内オペレーションの効率化や顧客へのサービス付加価値向上(提供スピードや品質の向上など)につながるため、テクノロジー企業は自社の成長のため、これらの技術の活用を前提にビジネスモデルを再構築することが求められています。

海外企業に目を向けると、GAFAなどのテックジャイアントが、起点となるハードウェアとクラウドAI技術を駆使してB to C分野における顧客データビジネスで他社を圧倒し、フィジカル空間のデジタル化(デジタルツインなど)にも進出しつつあります。こうした状況は、一部の国内テクノロジー企業を衝動的にDXに走らせるには十分過ぎる程のインパクトをもたらしています。結果として、「DXというバズワードに踊らされ、DXを通じて実現したいビジョンが明確ではない」「経営トップが覚悟を持ってDXにコミットせず、日々進化するデジタル技術を表面的にキャッチアップするにとどまる」「自社に導入できるテクノロジーを血眼になって探索し、深く検討することなくDXと銘打たれるシステムやサービスを導入する」といったケースが頻発し、「思ったような成果が上がらずに頭を抱える」経営者が続出しているのではないでしょうか。

確かに、このDX時代にあってはデジタル技術を効果的に導入し、自社のオペレーションを改善することや、顧客にサービスとして提供することは必要不可欠と言えます。そのトレンドを促進する1つの要因として挙げられるのが、企業ビジョンの一つの方向性としての「社会・環境課題解決」です。

主に製造業においては、従来、自社の顧客ニーズを満たすことがフォーカスされていました。しかし、気候変動などの環境問題、貧困などの社会問題が深刻化する中、近年あらゆる業界において、さまざまなステークホルダーを考慮し、ESGの観点から持続可能なビジネスモデルを追求するトレンドが生まれています。実際、DSM、Dowなど世界的な素材メーカーや消費財メーカーはESGを重視した経営戦略を策定しており、追随するようにそれらを事業戦略に落とし込む企業が現れ始めています。化学業界においても、世界的に環境基準や安全基準が厳格化されつつあり、環境汚染を取り締まる国が増えています。その結果、化学メーカーは毒性の低い代替物を見つけるか、必要な廃棄物処理の費用を負担することを求められる可能性がますます高くなっています。従って、一部の化学メーカーは 1.製品の利益率や成長率、2.調達を特定の国に依存するリスク、3.代替品の活用状況を考慮し、魅力的ではないセグメントから撤退するなど、事業ポートフォリオ変革の動きを見せています。

結果として、企業ビジョンの1つの方向性として「成長著しい技術を活用した社会・環境課題解決」が少しずつ挙げられつつあります。このトレンドに適切に対応することが、企業の市場におけるプレゼンスに大きく影響すると想定されます。アナリティクスやAI、ネットワーク構築など、データを可視化・解析するケイパビリティを有するテクノロジー企業は、社会・環境・経済面における提供価値を中長期的に高めるためのイネーブラーとして機能することが、今まで以上に期待されているのです。

DXに向けた取り組みは、「DXで何を実現したいのか」というビジョンが明確化されていれば、企業の本質的な提供価値を強化する手段として非常に有効です。しかし、それが明確でなければ、貴重な経営リソースを無駄にする可能性が高いと言えます。著しいスピードで変化するビジネスやテクノロジーのトレンドを捕捉することは必要ですが、変化の大きいテクノロジー業界においては、「何が自社の競争優位の源泉となるのか」を改めて考え、自社のビジネスモデル再構築を進めなければならない局面に差し掛かっているのではないでしょうか。

本連載では、国内テクノロジー企業とグローバル先進企業の歩みを分析することで、この変化の大きい局面において国内テクノロジー企業がどのような戦略を採り、どのように事業活動を営むべきかについて検討し、示唆を導き出します。
主に電機メーカー(総合電機など)、電子部品メーカー(半導体など)などのテクノロジー企業を想定

連載第1回から3回では、主に下記3つの論点を取り上げます。

  •  第1回:国内テクノロジー企業のグローバルでのプレゼンスが、1980年代後半~2000年代にかけて下がった理由は何か
  • 第2回:グローバルでプレゼンスを向上させた企業は、何を重視し、どのような経営戦略の下に事業活動を進めたのか
  • 第3回:国内テクノロジー企業の競争優位の源泉とは何で、今後どのような戦略を採用し、事業活動を行うべきか

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により堰を切ったようにDXが推し進められる状況を俯瞰し、国内テクノロジー企業の競争優位の源泉と、今後目指すべき方向性を検討します。

本質的な課題はDXへの対応ではない

戦後復興期から高度経済成長期にかけて、国内テクノロジー企業(当時の総合電機メーカーなど)はグローバル先進企業に追いつくことを目指し、海外からの積極的な技術導入などを通して技術力向上に努めました。結果として日本のテクノロジー産業は、家電・電機、半導体などの複数の業界において国際競争力を高め、グローバルで高いシェアを獲得するまでに成長しました。

しかし、グローバルで一定のプレゼンスを発揮していた国内テクノロジー企業は、1980年代後半から2000年代に急速にそのプレゼンスを低下させてしまいます。その原因は大きく、以下の3点で説明できます。

1. 外部環境情報(マクロトレンド・競合動向)や自社ケイパビリティを踏まえた戦略策定力が不足
2. 大胆な意思決定を後押しするガバナンス体制・人事制度が未整備
3. コアケイパビリティ強化に向けた十分な投資と、事業・地域をまたいだ経営リソースの適切な配分の欠如
図表1 国内テクノロジー企業の想定されるプレゼンス低下要因

1. 外部環境情報(マクロトレンド・競合動向)と自社ケイパビリティを踏まえた戦略策定力が不足

的確な意思決定を行うにあたっては、社内外の正確な情報をタイムリーに取得し、それらを踏まえた戦略の構築が前提となります。「ビジネスやテクノロジーのトレンドがどのように動いているか」「競合はどのような戦略に基づき事業活動を営んでいるか」といった外部環境情報や、「バリュープロポジションを有するケイパビリティは何か」といった自社分析の結果を踏まえ、戦略を策定することが競争優位の確立には必要となります。その点、国内テクノロジー企業は1980年代後半から2000年代にかけて、社内外の情報を正確に分析し、戦略に落とし込む戦略策定力に課題を抱えていたと考えられます。

2. 大胆な意思決定を後押しするガバナンス体制・人事制度が未整備

仮に、1980年代後半から2000年代にかけて国内テクノロジー企業が外部環境情報(マクロトレンド・競合動向)と自社ケイパビリティを踏まえた戦略策定力を有していたとして、重要な局面において情報の分析結果に基づいて大胆な意思決定を下せたかは疑問の余地が残ります。事実、ある大手総合電機メーカーはかつて有力な半導体事業を抱えていたものの、総花的に製品ラインナップを維持し続けたため、半導体事業が独立性を保てず、同市場におけるマクロトレンドの大きな変化に対応するための打ち手を講じることができませんでした。

正しい情報に基づく大胆な意思決定ができない理由として、適切なガバナンス体制・人事制度が未整備であることが挙げられます。詳細は後述しますが、中長期的な視点から企業価値向上に向けた戦略が取りづらい環境であることが国内テクノロジー企業の大きな課題の1つであり、短期的な財務リターンを追いかける意思決定につながっていると考えられます。

3. コアケイパビリティ強化に向けた十分な投資と、事業・地域をまたいだ経営リソースの適切な配分の欠如

国内テクノロジー企業は上記2点の課題を抱えた結果、適切な意思決定、特に投資判断ができなかったケースが散見されます。中でも、市場におけるプレゼンスに直結する、外部環境分析を踏まえた自社のコアケイパビリティ強化の投資や、コアケイパビリティを生かせる事業ポートフォリオの構築(事業の売却・買収)、そしてコア事業のグローバル展開に向けた投資については、「必要十分な投資額を確保しタイムリーに投資実行をする」ことがなされなかったのではないでしょうか。

戦後復興期から高度経済成長期においては、「そもそも製品やサービスに対する需要の総量が供給に対して多かった」「ニーズの細分化が進んでおらず、高品質な製品やサービスを提供できるか否かで差別化が図られていた」などの理由から、単純な技術力で競争優位が築かれていました。しかし、各業界において製品やサービスのコモディティ化が進むにつれて、「社内外の情報を適切に分析した上で、フレキシブルな対応を可能にするガバナンス体制・人事制度に基づき、コアケイパビリティ強化に向けた投資や事業・地域間でのリソース配分の最適化といった意思決定を迅速に下していく」ことの重要性が高まっていきました。

業種別の課題

これ以降は、各産業において国内産業が抱えた課題について、特に半導体、家電・電機、通信機器の業界について、説明します。

国内メーカー各社は1980年代まで半導体メモリ(DRAM)を中心に半導体事業において最先端の技術開発力を有し、他国の企業と差別化を図っていましたが、1990年代に差し掛かるとDRAMにもコモディティ化の流れが到来します。コモディティ化が進む中で、製造の技術革新スピードが加速し、製造関連の設備投資が巨額になったことを踏まえ、米国の半導体メーカーが主体となってファブレス化が推し進められました※1、2

つまり、半導体事業を営む各メーカーは、自身のケイパビリティを踏まえ、設計・開発のケイパビリティ向上にフォーカスするか、製造のケイパビリティにフォーカスして製造設備に対して大規模な投資を行うかの選択を迫られたのです。しかし、高度な(と思っていた)技術力を過信し、海外メーカーとの提携による技術流出を恐れた日本メーカーは、開発と製造を統合した事業形態(IDM)に固執し、結果的に設計・開発にも、製造にも十分な投資を行うことができませんでした。日本メーカーによる技術力への過信は、マーケットイン視点の欠如にも表れており、「市場ニーズを的確に捉えた製品・サービスを開発し、それを市場の中で標準化していく」営みを重要視しないことにつながったと考えられます(1.外部環境情報や自社ケイパビリティを踏まえた戦略策定力が不足)

上記の意思決定がなされなかった背景には、半導体産業に限らず日本メーカーにおいて中長期目線の意思決定を促すガバナンス体制・人事制度が未整備であったことも挙げられます。

そもそも日本では、サラリーマン経営者の登用が多く、投資やM&Aなどの意思決定を行う際に短期的な財務リターンを過度に重視し、中長期的な企業価値を高めるための投資が実行されにくい傾向があります。創業者社長や創業家出身の社長であれば、リスクを取った意思決定を行うこともできますが、日本企業の多くを占めるサラリーマン経営者は、あくまで有期の「雇われ経営者」で、自身の任期中に成果が出るような短期的な目的関数を重視する傾向にあり、中長期的に企業価値を向上させるような意思決定を行いにくいと言えます※3、4、5

一方で、欧米ではデータプラットフォーム構築に向けた投資など、短期的な業績アップには直結しないが中長期的なバリューが大きいと判断されるエリアへの投資が積極的に行われています。内部昇進のCEOの在籍期間を比較すると、米国では平均13.4年であるのに対し、日本の平均は5.1年と米国の半分以下で※6、米国では経営者の評価基準として中長期的な視点で企業価値を高めたかどうかが重視されていると考えられます。また、将来の株価に応じた報酬など、中長期的な企業価値の向上に向けたインセンティブ制度を実際に導入しているケースが存在することからも、長い目で経営者を評価しようとする姿勢がうかがえます。

また、日本において短期的な財務リターンが重視される大きな要因として、革新的な発想力と意思決定能力を評価するスキルマトリクスやサクセションプランを活用したトップ人事など、中長期的な企業価値向上を見据えた人事制度が未整備であることも挙げられます。

併せて、事実上、事業本部長/事業部長レベルが意思決定を下すボトムアップ経営も、社内での組織間のすり合わせにより角が取れ、本来実施すべき大胆な意思決定を阻害する要因となっていると考えられます。ボトムアップ経営では、各事業部門やコーポレート部門とすり合わせた上で意思決定を下す満場一致型の合議制をとるため、各事業部門の顔を立てようというインセンティブが働き、結果として新たな取り組みや大きな投資を伴うようなプロジェクトの場合は特に、社内的にインパクトのある意思決定を迅速に下すことは難しくなります※7(2.大胆な意思決定を後押しするガバナンス体制・人事制度が未整備)

社内外の状況理解に乏しく、大胆な意思決定の前提となるガバナンス・人事制度が未整備だった結果、日本の半導体業界は大きな変革の波に乗り遅れるという結果を招いたと言えます。

コモディティ化に伴う価格競争への対応のため、主要生産国である韓国や中国のメーカーが一斉に増産投資に踏み切り、半導体製造装置メーカーと提携して製造技術の開発・向上に努めた一方で、日本は出遅れました。研究開発に関しても、韓国をはじめとするグローバルでプレゼンスを急速に向上させた諸外国と比較して、日本のメーカーの投資金額は著しく小さく、設計・開発技術でも後れをとることとなりました。実際に、国内大手半導体メーカーの2009年度における研究開発費は約1,500~1,600億円だった一方で、韓国の大手半導体メーカーは2008年度における研究開発費は約4.5倍 の約6,790億円(同年の平均為替レート、1ウォン=0.0962円で換算)と、大きな開きがありました 。

また、先述のように、1980年代まで半導体事業において最先端の技術力を有し、他国と差別化を図っていた日本メーカーには「マーケットイン志向」が浸透せず、オーバースペックな製品を世に送り出すことに終始し、価格競争でグローバルメーカーの後塵を拝す結果となりました。また、技術力はあるもののビジネスモデルの構築力は乏しく、とりわけ自社の製品規格を標準化することなどを軽視する風潮があり、グローバル市場で競争力を失うことになりました※8(3.コアケイパビリティ強化に向けた十分な投資と、事業・地域をまたいだ経営リソースの適切な配分の欠如)

さらに、半導体事業の業績悪化を受けて、短期的な業績改善のための早期退職制度を導入した総合電機メーカーなどでは、自社と比較して好待遇な韓国などのグローバルメーカーに優秀な技術者が相次いで流出する事態を招き、グローバルメーカーとの競争力の差はさらに開いてしまいました。

テレビ、冷蔵庫、洗濯機などの家電・電機への国内需要が多く存在した1980年代後半から1990年代は、技術的な優位性が市場での差別化につながっており、総合電機メーカーでは、できる限り高品質の商品を市場に送り出そうという「プロダクトアウト志向」が育成されました。

しかし1990年代に差し掛かり、グローバル化が進展すると、家電・電機においてもコモディティ化が加速しました。1980年代後半から1990年代にかけて、中韓の企業は経済成長の実現に向け、当時高い製造技術を有していた日本メーカーを模倣するためにリバースエンジニアリングを通して実際に製品を分解し、どういう製造手順で組み立てられているのかを解析することに労を惜しみませんでした。それが、日本の技術流出と中韓のプレゼンス向上、ひいてはコモディティ化の進展に影響したと考えられます。

このようなコモディティ化のトレンドの中にあっても、日本の家電・電機メーカーのマーケットイン視点の欠如は顕著で、「市場ニーズを的確に捉えた製品・サービスを開発し、それを市場の中で標準化していく」営みにおいて課題を抱えていたと考えられます※9(1.外部環境情報や自社ケイパビリティを踏まえた戦略策定力が不足)

家電・電機業界においても、中長期目線の意思決定を促すガバナンス体制・人事制度が未整備であったことも相まって(2.大胆な意思決定を後押しするガバナンス体制・人事制度が未整備)、「マーケットイン志向」に欠ける日本メーカーはオーバースペックな製品を世に送り出すことに終始し、価格競争でグローバルメーカーの後塵を拝すこととなりました(3.コアケイパビリティ強化に向けた十分な投資と、事業・地域をまたいだ経営リソースの適切な配分の欠如)

この副次的な結果として、国内総合電機メーカーが抱えた半導体事業が本業とともに共倒れしたのです。従来日本の総合電機メーカーは、自社のエレクトロニクス製品を高性能化させるため、半導体事業を自前で育ててきました※10

しかし、総花的に製品ラインナップを維持し続ける総合電機メーカーは半導体事業の独立性を保てなかったため、「半導体事業の場合」で記述したようなドラスティックな変化がある中でも、あくまで自社エレクトロニクスの都合に合わせた投資を実行するにとどまりました。結果、半導体のマクロトレンドに合わせた投資の実行やプレゼンスを回復させる大胆な意思決定は実行できず、本業の業績が悪化するあおりを受けたのです※11

通信インフラ整備の文脈においては、1990年代は通信インフラを独占していたNTT を頂点に、「総合電機メーカーでもある通信機器・端末メーカーがNTTに通信機器や端末を納める」ピラミッド型のエコシステムが国内に形成され、NTTの需要を充足することでビジネスが成立していました。通信機器・端末メーカーはNTTの需要さえ満たすことができれば安定的な事業運営を実現できていたため、「技術のガラパゴス化」は急速に進展しました。

しかし、1990年代以降の移動通信時代の本格到来を迎え、2000年代後半になり業界内で標準的な通信機器・端末を展開するグローバルプレイヤーが台頭すると、従来型のピラミッド上位企業からの需要を充足する形のビジネスモデルが成り立たなくなってきました。

通信機器・端末メーカーなどは、一部例外を除いて、エコシステムの中の需要を満たすことに躍起になっており、海外市場など新規市場(需要)の開拓やマーケティング活動、製品の標準化などの活動を十分に行ってきませんでした。1つの例として、携帯電話製造においては、フィーチャーフォンからスマートフォンへの進化に伴い、モジュール化のトレンドが到来しますが、高度な「すり合わせ」技術に起因する競争優位性を信じていた国内端末メーカーは、その対応に先んじた中韓メーカーの後塵を拝する結果となりました(1.外部環境情報や自社ケイパビリティを踏まえた戦略策定力が不足)

通信機器業界においても、中長期目線の意思決定を促すガバナンス体制・人事制度が未整備であったため(2.大胆な意思決定を後押しするガバナンス体制・人事制度が未整備)、日本メーカーはグローバル進出に向けた準備や必要な研究開発投資を実行することができず、急速にプレゼンスを低下させました(3.コアケイパビリティ強化に向けた十分な投資と、事業・地域をまたいだ経営リソースの適切な配分の欠如)

また、通信業界が過去にグローバル展開で大きな成果をあげられなかった事例を見ると、日本メーカーの場合、一度構築すれば継続的に収益を生むエコシステムの構築力が決して高くないことも示唆されます。国内のピラミッド型エコシステムは、ある一定期間においては安定的な事業展開を見せたかもしれませんが、エコシステム構築力の低さからそのビジネスに規模的な広がりをもたらすことができず、縮小を迎えることとなりました。

一度構築すれば継続的に収益を生むエコシステムの一つの国内事例としては、NTTドコモによるiモードが挙げられます。携帯電話と課金・販売のプラットフォームを通して、消費者とコンテンツプロバイダーの提供者を結びつけ、双方から収益を得るというビジネスを世界で最初に生み出したと言えますが、グローバルでスケールするまでの結果には至りませんでした※12。また、NTTドコモのiモード以降、日本国内においてユーザーやステークホルダーを巻き込んだ大規模なエコシステムを構築し、長期にわたってそれを維持し、またグローバルにそれを広めた事例はほとんどありません。今後は、一度構築すれば継続的に収益を生むエコシステムを構築し、参入できるかどうかが、安定成長を促す一つの要素となってきます。

国内テクノロジー企業のこれまでの課題から得られる示唆

ここまで、1980年代後半から2000年代にかけて、国内テクノロジー企業(特に半導体、家電・電機、通信)が陥ってきた課題について説明してきました。繰り返しになりますが、その課題は下記の3点で語ることができます。

  1. 外部環境情報(マクロトレンド・競合動向)や自社ケイパビリティを踏まえた戦略策定力が不足
  2. 大胆な意思決定を後押しするガバナンス体制・人事制度が未整備
  3. コアケイパビリティ強化に向けた十分な投資と、事業・地域をまたいだ経営リソースの適切な配分の欠如

国内テクノロジー企業がたどった道のりを俯瞰すると、短絡的なDXの取り組みに走る前に、過去の失敗から学ぶ必要があることが分かります。そこから導き出される、特にポイントとなる示唆は下記3点です。

  • 正しい外部環境情報の収集およびその分析、自社のケイパビリティ分析に基づき、自身のバリュープロポジションを生み出すコアケイパビリティを明確化し、強化する
  • 特定されたコアケイパビリティを生かせる事業ポートフォリオへの絞り込みと、グローバル展開に向けた中長期目線の投資を実施する
  • 大胆な意思決定・投資判断を可能にするイネーブラーとしてのガバナンス体制・人事制度を整備する

次に考察すべきなのは、グローバルでプレゼンスを維持・向上させている先進企業の歩みです。国内テクノロジー企業がたどった経緯を反省材料としつつ、グローバルで成長する先進企業の取り組みをベストプラクティスとして学ぶことによって本質的な競争優位の源泉を明確化し、国内テクノロジー企業が今後採用すべき戦略や、営むべき事業活動が明らかになるでしょう。

第2回では、グローバルでプレゼンスを維持・向上させる先進企業は、何を重視し、どのような戦略の下に事業活動を営んでいるかについて、考察します。

※1 参考文献:遠藤誉, 2018年.「日本の半導体はなぜ沈んでしまったのか?」『Newsweek』(2021年7月30日閲覧)https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/12/post-11458.php

※2 参考文献:津田健二, 2017年.「東芝NANDフラッシュを誰が買うか」(2021年7月30日閲覧)
https://news.yahoo.co.jp/byline/tsudakenji/20170418-00069991

※3 参考文献:シニフィアンスタイル, 2018年.「「PL脳」が会社を滅ぼす!アメリカでより深く理解されているファイナンスの付加価値とは?」『DIAMOND online』(2021年7月30日閲覧)https://diamond.jp/articles/-/189229

※4 参考文献:朝倉祐介, 2018年.「ビジネスに対する考え方のOSを「PL脳」から「ファイナンス思考」にアップデート!答えのない時代を生き抜く武器を手に入れよう」『DIAMOND online』(2021年7月30日閲覧)https://diamond.jp/articles/-/174517

※5 参考文献:平田秀俊, 2019年.「中小社長こそ知りたい「PL脳」を卒業する方法 売り上げ・利益ばかり追求しても会社は回らない」『日経ビジネス』(2021年7月30日閲覧)https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19nv/00124/00018/

※6 出所:ニッセイ基礎研究所、2019年.「レポート名:日米CEOの企業価値創造比較と後継者計画」

※7 参考文献:李濟民, 2002年.『開発こうほう』02’06「経済のグローバル化と日本企業の対応」(2021年7月30日閲覧)https://www.hkk.or.jp/kouhou/file/no467_report.pdf

※8 参考文献:パワーデバイス・イネーブリング協会, 2017年.「日本に“標準化戦略”を根付かせる 産業競争力の鍵を握る標準化、伊賀洋一氏に日本の戦略を聞く【前編】」『日経クロステック』(2021年7月30日閲覧)https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/column/15/090100007/050800046/

※9 参考文献:長内厚, 2014年.「日本の家電メーカーがアップルの後塵を拝した理由 日本企業に求められる統合戦略【第1回】」『Harvard Business Review』,(2021年7月30日閲覧)https://www.dhbr.net/articles/-/2705

※10 参考文献:遠藤誉, 2018年.「日本の半導体はなぜ沈んでしまったのか?」『Newsweek』(2021年7月30日閲覧)https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/12/post-11458.php

※11 参考文献:中島三佳子, 2021年.「「電子立国日本」のおごり、国の無為無策……「日本の半導体産業はもう復活できない」と断言できる理由」『エコノミストOnline』(2021年7月30日閲覧)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210323/se1/00m/020/058000c

※12 参考文献:高橋寛次、大坪玲央、 2017年.「「iモード」に続く“日本発”生まれるか グーグル、アップルら世界のIT企業に残したビジネスモデル」『SankeiBiz』(2021年7月30日閲覧)
https://www.sankeibiz.jp/business/news/170221/bsj1702210500002-n1.htm

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執筆者

樋崎 充

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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木村 弘美

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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諏訪 航

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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坂野 孔一

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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田村 光

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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