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テクノロジー・メディア・情報通信（TMT）業界のM&Aは、長期的な構造的成長要因に支えられています。そしてデジタル化の波はいまだやまず、企業は市場の変動に対応すべく、イノベーションと事業再構成を求められています。金利上昇、インフレ、需要見通し、地政学的緊張、サプライチェーンの混乱、規制強化などは全て、CEOと投資家の信頼感に対する圧力となっています。従ってディールメーカーは2023年、より慎重な姿勢をとり、特に規制当局の精査を受ける可能性のある大型ディールについては、ディール組成のハードルが上がるでしょう。それでも、戦略的なディールや質の高い対象企業に関するディールは実行されると予想されます。
ディールメーカーは、成功を収めるべく現在の経済情勢を生かして、資本不足に陥っている企業や、拡大中のプラットフォームやテクノロジーを有する企業を模索すると思われます。ディールメーカーが価格に関する期待値の変化を踏まえ、買い手と売り手の間の価値ギャップに対応していく中で、創造的なストラクチャリングが見られると予想されます。
資金調達コストの上昇は、（TMT業界に多く見られる）収益拡大とクライアント獲得に注力する成長企業を対象としたディールや、資金調達のハードルがより高い大型ディールにおけるディール金額に影響を及ぼす可能性があります。豊富なキャッシュを有する企業や投資家は、今後数カ月間のうちに低下中の資産価格のメリットを活かす可能性があり、特に米ドル建てバランスシートの投資家の間では、非公開化（public-to-private）取引がさらに進むと思われます。
こうした兆候は、短期的には機会主義的なM&Aを示唆するものであり、おそらくジョイントベンチャー（JV）やパートナーシップ、その他のディール組成に向けた協定が増加することを示すものでしょう。
「現在、TMT業界のM&Aは激動の状況にあります。ディールメーカーは成功を収めるべくディール投資テーマを積極的に実行に移し、リターンを得る必要があります。そのためには、ディールに先立って確固たる価値創出プランを練り、ディール後には確実に実行策を遂行することが必要です」
M&Aが活発な分野
2023年、以下の分野のM&A活動が活発になると予想します。
- 堅調が続くソフトウェア
- 情報通信組織のスリム化（delayering）
- メタバースの未来
- ビデオゲームの活躍
堅調が続くソフトウェア
ソフトウェア関連のディールは、プライベート・エクイティ（PE）投資家による割合が高く、引き続きTMT業界におけるディールの多くを占めると予想されます。2022年にソフトウェア案件の半分以上を占めたPE投資は、予測可能な収益、高利益率、優れたキャッシュコンバージョンが組み合わさった魅力的ビジネスモデルにより、2023年もソフトウェアディールを牽引すると思われます。また、ソフトウェアベンダー自身も新たなケイパビリティを獲得し、新たな市場に打って出ることが予想されます。
情報通信組織のスリム化（delayering）
事業者がデジタルインフラの収益化を模索する中、従来の垂直統合型事業者モデルのスリム化は今後も継続するでしょう。また、多国籍通信事業者グループは、設備投資と次世代ネットワーク展開の資金を調達すべく、引き続き積極的なポートフォリオ管理や各市場における最適化に取り組んでいくと思われます。こうしたトレンドを受けて、2023年にはタワーカンパニー（TowerCo）、光ファイバー、IoT、データセンター関連のディールが発生すると予想されます。
メタバースの未来
資本が潤沢な企業はメタバースの将来的な成功を固く信じており、機会主義的に先行者利益を求めていることは、M&A活動の原動力になると予想されます。現在、メタバースは黎明期にあり、将来的な成功に向けて自社ブランドとソリューションを位置づけるための革新的な方法を企業にもたらしています。メタバースの成熟化とともに、各種データ圧縮技術やグラフィックは進化し、ユーザーエクスペリエンスの向上や商取引の活性化が予想されます。
ビデオゲームの活躍
2023年には、ビデオゲーム関連のディールに対する投資家の関心が高まると予想されます。しかし、米国ではすでに連邦取引委員会がゲームセクターに関心を寄せているように、規制上の監視が強化され、大規模ディールはより複雑化する可能性があります。ゲーム業界が有するロイヤルティの高いユーザーベースと独自のIPを活用することで、サブスクリプション、広告、アプリ内課金による収益化の道筋が開かれるでしょう。半導体、メタバース、ソフトウェア技術の発展と相まって、これらの要因はゲームセクターの魅力維持につながると思われます。
「デジタル環境は急速に変化し続けており、ユーザーエクスペリエンスの向上を目指すプラットフォームやソリューションの導入が進んでいます。機会主義的なプレイヤーが戦略的ポジションを固めようとする中、こうした要因が2023年のM&Aを後押しすることになるでしょう」
2022年におけるM&Aで最も活況を呈したTMT
テクノロジー・メディア・情報通信のディール件数と金額（2018年〜2022年）
出典：Refinitiv、Dealogic、およびPwCの分析
2022年、TMT業界は世界のディール市場の多くを占め、ディール件数、ディール金額ともに全体の約4分の1に達しました。金利上昇、景気後退の兆候、規制措置、地政学的緊張により、特にハイテクセクターへの投資意欲が削がれた結果、過去最高を記録した2021年に比べてM&A市場は軟化しました。全体として、2022年のTMT業界のディール件数およびディール金額は、前年比でそれぞれ21％、36％減少しましたが、パンデミック発生前の2019年の水準をそれぞれ25％、38％上回りました。
PE投資家はTMT業界に魅力を感じており、2022年には他のどの部門より多くのM&Aに関与しました。
世界のTMTディール件数とディール金額：PE関与の割合（2018年～2022年）
PEによるディールへの関与（直接的な買い手、ポートフォリオ企業買収による間接的買い手、あるいは売り手として関与のいずれかにかかわらず）は、2018年にはディール件数、ディール金額のそれぞれ約3分の1を占めていましたが、2022年には2分の1以上と過去5年間で増大しています。
ソフトウェア案件が引き続き優勢
世界のテクノロジーディール件数とディール金額（2018年～2022年）
2022年のハイテク関連のディール件数のうち約3分の2、ディール金額の4分の3をソフトウェアディールが占めました。ソフトウェアディールの全体的なディール件数とディール金額は2021年から減少したものの、同部門の活動はパンデミック以前の水準を上回っています。
2022年のハイテク関連のディール件数のうち約3分の2、ディール金額の4分の3をソフトウェアディールが占めました。ソフトウェアディールの全体的なディール件数とディール金額は2021年から減少したものの、同部門の活動はパンデミック以前の水準を上回っています。
M＆A活動の背景にある主なテーマ
「キャッシュこそが王様」
金利上昇と株価下落により、2つの重要な資金調達手段が阻害されています。その結果、資本コストが上昇し、多くのディールメーカーは手元のキャッシュ投入に重点を置いたディール戦略に移行しています。過去に起きた市場の反発により、キャッシュを有する買い手はより低いバリュエーションでディールを行うというユニークな機会を得ており、長期的な株主価値の向上を達成し得る有利なポジションの確保につながりました。このような資本制約のある環境では、強力なバランスシートを誇る企業が取引に有利であると思われます。
基本に立ち返る
バリュエーションが低下し、金利が上昇し、主要資本市場へのアクセスが低下する中、強力なファンダメンタルズを示す企業は、ディール対象としての魅力が一層増しています。ディールメーカーの関心は、収益面の実績に乏しい大規模プラットフォームをターゲットとすることから、強固な経常収益力と高マージンを示すビジネスモデルを対象とした投資に移行しつつあります。そのため、利益率の高い中堅のSaaS企業への関心が高まっており、今後も関連ディールが活発化すると予想されます。
世界市場を阻害する規制
規制面の不確実性と地政学的緊張により、2023年のディール組成はさらに複雑化すると予想されます。具体的には、米国の反トラスト法およびデータ保護法、欧州の独占禁止関連規制、ESG要件の増加、中国との緊張などがM&A活動の妨げとなる可能性があります。欧州では規制当局の独占禁止アジェンダにより、メディアなどの業界において国際的なプレイヤーと競争するために不可欠と思われた対等合併が失敗に終わりました。さらに、ビッグテック、データ保護、ESGに関する監視が強まっていることは、ディールメーカーがディール戦略において規制環境を考慮する必要性がますます高まっているということに他なりません。
テクノロジー
- ソフトウェア：TMT業界におけるM&Aは、ソフトウェア関連が引き続き主流となるでしょう。2022年のソフトウェアディールの半数以上をPE投資家が占めており、今後もこの傾向は続くと予想されます。これは、ソフトウェア企業が魅力的なビジネスモデル（予測可能かつ上向きの収益性、高い利益率、強力な収益創出力）を有しているためです。一方で、ソフトウェアベンダー自身も新たなケイパビリティを獲得し、新しい市場に打って出るために買収を模索していくでしょう。豊富なキャッシュを有する企業は公開企業のバリュエーションが低下する機を捉えることが予想され、経営陣が自信を増していく中で、大規模なディールが数多く見られる可能性があります。
- ITサービス：サイバーセキュリティ、開発・運用統合（DevOps）、ソフトウェア開発、DX、ローコードが2023年のITサービス案件の主要テーマとなるでしょう。組織がDXを進め、セキュリティリスクが高まり続ける中、これらの分野ではトレンドを上回る成長とマージンが見込まれます。人材不足により、ITサービス事業者は主要な能力分野における規模の拡大に向けた買収に出るでしょう。ITサービス企業は、マネージドサービスの提案やSaaSソリューションの再販により経常収益が増加しており、PEをはじめとするディールメーカーにとってより魅力的な存在となっています。
- 半導体：2023年の半導体ディールは、主に規制環境の強化により、落ち着いて推移すると予想されます。例えば、米国Nvidiaによる英国Armの買収案や、中国Sai MicroElectronicsによるドイツElmos Semiconductorの買収案など、複数の超大型ディールが、独占禁止法や国家安全保障上の懸念から成立に至りませんでした。米国の半導体企業は、国内半導体製造・設計・研究の強化を目的とした「CHIPS法」や「半導体促進法（FABS Act）」の影響もあり、国内製造設備に投資を向けています。これによって、国境を超えたメガディールの組成が阻害される可能性が高まります。中国企業による海外半導体企業へのアウトバウンド投資は、国家安全保障の観点から、特に米国と欧州で制限される可能性が高いでしょう。しかし、チップ不足とサプライチェーンの問題により、製品やサービスをチップに依存している非半導体企業は、設計、IP、供給の管理を強化するために、買収を検討することになると思われます。
- インターネット：イーロン・マスク氏がツイッター社を440億米ドルで買収したことを受け、2023年のインターネットディールはより落ち着いて推移すると思われます。インフレとマクロ経済要因によって消費者の財布の紐も固くなり、広告収入源の減少や加入者数の鈍化圧力になると予想されます。さらに、規制当局はデータ保護、子どもの安全、公正競争に対して目を光らせており、インターネットビジネスモデルにもコストと制約が加わっています。
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メディア
昨年、メディア業界では統合が見られましたが、収益性を重視する主要プレイヤーにとって資本規律が焦点となる中、2023年が変曲点となる可能性があります。これまで資本が飽和状態にあった市場では、企業はコンテンツと加入者数の増加に資金を投じていました。しかし2023年、投資家はコンテンツ支出や加入者解約の抑制、広告付きビデオオンデマンド（AVOD）の展開に注力し、より慎重な投資を行っていくでしょう。
- スポーツ中継：スポーツ中継に対するクライアント需要は、チーム売却から広告に至るまで、一貫してディールの原動力となっています。米国NFLでは、デンバー・ブロンコスが記録的な高値で売却され、他の有名スポーツチームも今後売却される可能性があるという見通しも囁かれています。こうした点からも、「トロフィー」資産がいかにユニークな価値をもたらすかが浮き彫りになっています。同時に、スポーツくじ、データアナリティクス、ライブコンテンツの権利への関心も高まっており、この分野は今後も買収の対象として注目されるでしょう。
- 映画：映画館の入場者数は、メディア分野の他の領域に比べ、パンデミックからの回復に時間がかかっています。パンデミックにより、映画の配給方法に関する既成の「ルール」が混乱に陥っただけでなく、制作パイプライン全体の中断や、今後のラインナップの減少をもたらしました。ストリーミングサービスの成長や公開時期戦略の変更によってビジネスモデルも変化しており、パンデミック前の劇場入場者数に回復するまでにはまだまだ時間がかかる可能性があります。特にパラマウント同意判決の見直しが2020年後半に終了したこともあり、こうした制度的変化がM&Aの新時代をもたらす可能性もあるでしょう。
- 広告：パンデミックとAVODの展開による混乱など変化の続く広告市場では、今後も広告テクノロジーや、エンゲージメント、効果測定におけるイノベーションが続くでしょう。変化する状況に不可欠な新テクノロジーは、市場ポジションの向上を目指す大手企業にとって魅力的なものとなります。企業がディールを通じて自社のリーチや顧客プールの拡大を望む中、競争力のあるポジションや個別のウォールドカーテン（クローズドプラットフォーム）へのアクセスを維持するためにM&Aが推進される可能性があるでしょう。
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テレコム
- 統合：通信業界では、引き続き統合がテーマとなっています。モバイル領域では、多くのプレイヤーが参入する市場における競争が、ネットワーク機能への資本投入を促す要因となっています。英国、イタリア、スペイン、カナダといった国では、移動通信事業同士のさらなる統合が予想されます。通信事業者は、固定－モバイル通信事業の統合ビジネスモデルがもたらすネットワーク、顧客、価値提案のシナジー効果によって利益を得るべく模索しており、特に欧州では、固定―モバイル通信事業の統合が進む可能性もあるでしょう。統合が進んでいない光ファイバー市場では、事業者が競争環境の中で規模の拡大と稼働目標の達成を目指した統合が進むと思われます。タワー（通信塔）領域では、バリュエーションがさらに低下する中、経営難や資本アクセスの制約により、統合が加速する可能性があります。
- 事業売却：資金調達コストの上昇と巨額の設備投資需要を踏まえ、通信事業者はキャッシュの創出とレバレッジの解消に向けて引き続きノンコア部門や保有資産の大きい部門の売却を進めていくと予想されます。モバイルタワーやデータセンターの売却については、ストラテジックバイヤーのバリエーション低下や資金調達コストの増加により、引き続きペースは鈍いと思われます。既存のケーブル会社は、慎重ながら低コストの出資者とJVを設立してFTTP（Fiber to the premises）敷設の加速、リスク回避、資金需要の低減を模索していくでしょう。より大きな視点で見た場合、通信事業者はスピンアウトを通じてノンコアIoT、メディア／コンテンツ、広告、B2B情報通信技術（ICT）部門のマネタイズを図っていくでしょう。
- テクノロジーの収束：通信事業者は、データアナリティクス、サイバーセキュリティ、クラウド分野などのM&Aを通じて、より成長性の高い収益源への転換を進めていくと思われます。米国市場では、ユーザー1人当たりの平均売上額（ARPU）と加入者数の成長が踊り場を迎え、通信事業者とブロードバンド事業者の間の競争が激化し、互いの領域を侵食し合う状況になるでしょう。ブロードバンド事業者がモバイルサービスを付帯しようと試みる一方で、通信事業者は家庭への固定無線アクセス（FWA）を提供しており、二者の間には多くの利害関係が存在します。ボルトオン型ディール（ユーザーインターフェイスやバックオフィスインフラ）は、それほど話題にならないものの、消費者向けとB2Bソリューションを可能にする基盤テクノロジーを最高レベルに高めるためには不可欠であり、2023年にはそうしたディールも見られるでしょう。
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テクノロジー・メディア・情報通信業界におけるM＆Aの展望
TMT業界では、あらゆる業界のケイパビリティ向上を目指して新たなテクノロジーやプラットフォーム、ソリューションが継続的に開発され、進化しています。業界に精通したディールメーカーはこうした力学を理解しており、自社の戦略やポートフォリオにメリットをもたらすM&Aを継続的に行っていくでしょう。このような時期には「動かず静観」という選択をとる組織もあるでしょうが、強固なバランスシートと使用可能な資本を有するのであれば、長期的成長と業界を超えたケイパビリティ向上につながるような追加的資産を獲得することでメリットを得られるでしょう。
データについて
M&A動向の解説は、業界で認知された情報源から提供されたデータに基づいて行っています。具体的には、本書で言及する金額と数量は、2022年12月31日時点でRefinitivが提供し、2023年1月2日にアクセスした、正式に発表されたディールに基づいています（噂や取り下げられたディールを除く）。これはDealogicからの追加情報および当社の独自調査によって補完されており、Dealogicのライセンスの下で提供されたデータから派生したデータも含まれています。Dealogicはこのようなライセンス供与されたデータに関する全ての権利を保持し、留保します。PwCの業界マッピングと整合させるため、ソース情報に一定の調整が加えられています。
※本コンテンツは、PwC米国が2023年1月に公開した「Global M&A Trends in Technology, Media and Telecommunications: 2023 Outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
TMT業界におけるローカルのM&A動向については、以下の国・地域を選んでご覧ください。
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