持続可能な設計:グリーン建築資材調達への青写真

Work meeting
  • April 25, 2024

インフラと建築物からのCO2排出量のうち、およそ5分の1を占めるのが、鉄鋼・セメントの生産に起因する排出です。この課題に対処するため、私たちはグリーン建築資材調達のための持続可能な枠組みを開発しました。これはネットゼロ化に向けた重要な一歩となります。

Richard Abadie, Carlos Mendes, Jürgen Peterseim and Shree Kumar Rakshit 著

急速に都市化が進む今日の世界では、環境意識がこれまでになく高まっており、インフラや建築物のオーナーとデベロッパーは、コストパフォーマンスも確保しながらサステナビリティに配慮した未来を築くという、途方もない課題に直面しています。その1つの解決策として、持続可能なグリーン建築資材調達のための包括的枠組みの導入が挙げられます。

建築資材は、特に製造・使用に伴う炭素排出量の削減に関して、長らく「脱炭素化が困難」と考えられてきました。19世紀以来、建造環境の根幹を支えてきた現代のセメントや鉄鋼は、生産に必要な原料や燃料の面で炭素集約度が高い産業です。国際エネルギー機関(IEA)によれば、セメントと鉄鋼の生産からは、それぞれ年に23億トン、26億トンのCO2が生成されます。この数字は、今後大幅に増えると見られています。国連の推定によれば、2050年には、世界の人口の80%以上が都市部に暮らすようになり、現在の建築資材需要が実質的に倍増する趨勢にあります。

グリーン建築資材とは?

グリーン建築資材は、ライフサイクルを通じてサステナビリティを優先的に考え、生産、建築、運用、廃棄に至るまで、従来の資材よりもCO2排出量が抑えられています。グリーン資材の製造に伴う直接、間接の排出量を最小限に抑える解決策の1つとして、エネルギーの効率化が挙げられます。例えば、生産施設では、水素高炉やCO2回収貯留(CCS)技術などの新しい低炭素プロセスが利用できます。しかし、石灰石や鉄鉱石などの原料の採取、加工、輸送の各段階を含め、サプライチェーン全体で発生する排出については、監視や削減が極めて複雑で、費用もかさみやすい問題があります。

18%

建築物からの排出量のうち、建築に用いる鉄鋼やセメントの生産段階で内包される「エンボディドカーボン」が18%を占めます。

出所:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)WG3、2022年

低排出または排出ゼロの資材の開発は、さまざまな難題があるためになかなか進みません。セメントの原料となるクリンカー(鉱物などを焼き固めた焼塊)を製造する焼成工程には、1450°C以上の高温が必要になります。その際に放出されるCO2があるため、炭素排出量を完全に排除することが困難なのです。研究者や業界関係者は、高温炉の代わりに室温下での電気分解を利用したり、CO2排出ゼロのコンクリートの継続的な実験に取り組んだりするなど、革新的なセメント製造法を模索しています。しかし、これも一筋縄ではいかない難題であり、解決には時間がかかるうえに、それ相応の経営資源の投入が必要になります。

PwCのレポート「2023年版気候テックの現状」によれば、気候テック(気候関連技術)の投資家は、工業・製造・資源管理セクターからの排出の問題に的を絞ったスタートアップに、投資総額の14%に相当する81億米ドルを投じています。これらセクターを全て合わせると、世界の排出量の34%を占めます。従来の鉄鋼生産は、石炭やコークスなど化石燃料に大きく依存しています。従来型の高炉から、CO2強度を抑えたアーク炉に移行すれば、比較的短期間で効果が得られます。アーク炉は、2050年には世界の鉄鋼生産の35〜40%を占める可能性があります。しかし、水素製鉄溶融酸化物電解(MOE)など、環境への影響をさらに抑えたクリーン技術の導入を拡大するほうが資本集約度は高くなります。その場合、再生可能エネルギーのパイプライン、製造施設の刷新、特殊グレードの鉄鉱石塊成鉱など代替原料の供給保証、マテリアルリサイクル(材料リサイクル)や循環型経済のハブなど、大がかりなインフラ変更が必要になります。

さまざまな視点から変化を見極める

プロジェクトのオーナーやデベロッパーにとって、新たなトレードオフの要素が出てきたことから、迅速な対応が求められることは明白です。過去100年間を振り返ると、建設業界では、コスト、品質、工期というおなじみの「トライアングル」のバランスをどう取るかという問題が常につきまとっていました。開発の計画・実施に当たって、こうした問題を重視することは依然として必要不可欠です。しかし、資材需要の高まりやサステナビリティを取り巻く期待を踏まえると、建設のこれからの100年は、今挙げたトライアングルに環境と社会の2つも含めた方向へと進むでしょう(以下の図を参照)。

建設の最適解の見極めはますます複雑に

環境配慮型の 建設の枠組み

出所:PwCによる分析

プロジェクトを評価する際、プロジェクトのオーナーやデベロッパーは、炭素排出量の削減や、グリーン資材の供給刺激策を含め、社会へのプラスの効果の実現など、新しい一連の達成目標を予算内に収めなければなりません。この取り組みに当たっては、サステナビリティに配慮した業務や製品イノベーションを誓約するサプライヤーの開拓、認定、協業(多くの場合はエコシステム内で実施)が必要になります。炭素市場やカーボンプライシング、科学的根拠に基づく目標、インセンティブなど、供給促進に照準を合わせた取り組みや政策手段は、脱炭素化の経済コストを背景とした供給側の不透明感を和らげるには至っていません。特に大規模インフラプロジェクトでは、市場での売り上げを確保する目的で、建設前にグリーン資材の一部を購入する「オフテイク」(長期購入)を保証し、こうした資材の需要を喚起することが極めて重要です。

グリーン資材の課題に対処するには複雑な変革が必要です。そこで、私たちは、企業やサプライチェーン全体でサステナビリティに取り組むデベロッパーとプロジェクトオーナーを支援する戦略的枠組みを構築しました。

持続可能なグリーン建築資材調達のための枠組み

持続可能な グリーン建築資材調達のための枠組み

1. 戦略:サステナビリティへの道を開く

このサステナビリティへの取り組みの第一歩となるのは、廃棄物や資材使用量の全体的な削減に向けて、グリーン資材や設計上の必須事項を盛り込んだ堅実な脱炭素化戦略です。持続可能な資材調達に移行する具体的な目標とスケジュールを設定すれば、セメントや鉄鋼からの排出量削減で野心的な目標を達成できます。英国では最近、大規模な高速鉄道プロジェクトが進められており、そのプロジェクトの脱炭素化戦略には、体化排出量(資材の生産・輸送・廃棄に伴う温室効果ガス総排出量)を2030年までに半減させる計画も含まれています。プロジェクトリーダーの間では、これを実施する手段として、プロジェクトの中でもとりわけ炭素負債が大きい初期段階で、絶えず変化するニーズに対応可能なグリーン建築資材の混合利用、リサイクル資材の利用拡大、エネルギー効率の高い建設施工法の導入が想定されています。

インペリアル・カレッジ・ロンドンがPwCとの提携で実施した調査によると、戦略的柔軟性を備えたプロジェクト設計にすることで、寿命、機能性、環境サステナビリティが高まるとともに、価値の保護や創出につながります。「大規模インフラプロジェクトは大きな不確実性とリスクを抱えているだけに、計画担当者は、設計段階でプロジェクトのライフコストと環境フットプリントのバランスを考慮しなければなりません。このプロセスには大きな価値がありますが、それを引き出すには、グリーン建築資材の採用と、戦略的な設計柔軟性の組み合わせが鍵を握ると実感しています」。同カレッジのダイソン・スクール・オブ・デザインエンジニアリングの准教授であるMichel-Alexandre Cardin博士はこのように説明します。

しかるべき戦略を策定するためには、サプライチェーンや製造工程について用意周到な取り組みが欠かせません。プロジェクトの計画担当者としては、資材の市場と供給状況の両面について理解を深めておくと、意思決定を促進したり、経済・環境・社会の要素のバランスを考えた方針を策定したりするうえで必要な知識が得られます。目指すべきゴールは、コストを最小に抑えつつ、温室効果ガスをできる限り削減することにあります。そこで、計画担当者としては、経営陣の賛同を得られるように、どのようなトレードオフを抱えているのかを把握しておく必要があります。

グリーン資材調達を盛り込んだ脱炭素化戦略を展開する際、経営陣は次の点に取り組む必要があります。

  • 経営トップが旗振り役に:グリーン資材の導入や中核的な経営目標との整合性確保について、経営陣が旗振り役として推進する体制を確立します。特に鍵を握るのは、財務担当役員の後押しです。
  • 責任の所在を明らかにし、継続的な改善を怠らない:責任の所在を明確にした仕組みを導入し、継続的な改善を目指す空気を醸成しながらプロジェクトを設計します。脱炭素化の総費用(TCD)に端を発するトレードオフの要素を注意深く見守ることも含め、戦略を定期的に評価・調整し、サプライチェーン全体でサステナビリティを踏まえた成長のペースを落とさないことが大切です。
  • 新しいテクノロジーの積極活用:新しいテクノロジーは、グリーン資材の開発促進で重要な役割を果たします。エンジニアは、AIを駆使したデジタルツインを構築して需要を最適化することに加え、テクノロジーを生かして、計画・設計段階でこれまで以上にカーボンインパクトを盛り込むことができます。

2. フィージビリティ:影響を評価する

このプロセスで重要な柱となるのが、グリーン資材の評価です。この段階では、環境に配慮した資材の認定や、プロジェクトへの導入に関する実用性評価を通じて、フィージビリティ(実行可能性)を判断します。プロジェクトオーナーは、脱炭素化戦略の一環として、品質、供給状況、体化排出量などの基準に沿ってグリーン資材を評価しなければなりません。

このフィージビリティ評価で重要なポイントは、グリーン資材導入に関連するコストの影響を徹底比較することにあります。脱炭素化戦略の段階ですでに多くのトレードオフに対処済みとなっていることから、利益に対するコストの評価に当たっては、特定のプロジェクトの初期投資、保守管理、長期サステナビリティなどの要因を、政府が支援する目標を基に慎重に検討する能力が求められます。ドイツ連邦経済・気候保護省の助成の下、WWFドイツとPwCドイツが手がける共同プロジェクト「Pathways to Paris」などのツールは、世界の平均気温の上昇を2℃以下に抑えるパリ協定の目標に合わせ、地域別に鉄鋼やセメントのコストと排出量の比較シナリオを作成できます。

この比較により、資材のライフサイクル全体について深く掘り下げ、原料採取、生産、輸送、建設、廃棄からの排出量を明らかにします。このように見ていくことにより、複雑な環境コストがあぶり出されると同時に、プロジェクトの総所有コスト(TCO)の細部に至るまで、プロジェクトオーナーの理解を深めることにもつながります。

サステナビリティに意欲的に取り組む熱意があり、ビジネス上も不可欠である場合、透明性は信頼の架け橋となります。現在、資材の購買に当たっては、ネット・カーボン・ポジション(CO2の総排出量から総隔離量を除いたもの)を低減できるグリーン認証など、カーボンオフセットの購入という選択肢があります。しかし、これは生産現場での削減と同じものではなく、特定のオフセット請求については禁止措置が導入され始めています。企業は、科学的根拠に基づく目標の原則にのっとり、何よりもまず脱炭素化に取り組む必要があります。これまでに削減量のおおむね80〜95%を占めているのが、この脱炭素化です。そして残る5〜20%に相当するやむを得ない排出についてはオフセットで対処します。したがって、影響評価の結果を広く公開することは、持続可能な成長を支える重要な要素になります。

フィージビリティの検証という複雑な状況を経営陣が先頭に立って切り抜けていくためには、以下の措置を検討することが大切です。

  • トレードオフを評価できる体制づくり:現時点で入手可能なグリーン資材を基にコストと排出量のバランスについて、社内チームが自前で、あるいは外部委託の形で、緻密に見極めます。
  • グリーン資材による削減コストの選択肢を明確化:今後5〜10年での市場への供給拡大に伴い、絶えず取引・実施コストの最小化に取り組みます。
  • 長期調達の見通しを検討:特にインフラや建築物のネットゼロ化を求める今後の規制に関して、経済的なトレードオフや競争状況、環境への影響を踏まえ、オフテイク契約を検討します。
  • 競争入札にデータを活用:データをフル活用し、環境への影響が最も少ない資材を特定します。プロジェクトでは、こうした資材を優先的に利用し、サステナビリティ関連の認証や事業案を固めるためにベンチマークと目標を設定します。

3. 調達:持続可能なパートナーシップの構築

持続可能な調達戦略は、単なる資材確保にとどまりません。業界全体でグリーン資材のイノベーションや需要を喚起するうえで、サステナビリティへの取り組みに確固たる誓約を掲げるサプライヤーの選定が極めて重要です。その際、ベンチマークに基づいて一定割合のリサイクル骨材をコンクリートに混合することを求めたり、排出性能の強化・保証に適合させたサプライヤー契約の重要業績評価指標(KPI)を策定したりするなど、新たな設計や循環型経済の原則を考慮することも含まれます。

パートナーシップは、エコシステム内での業界の融合促進につながります。その好例が、柔軟性に優れたコンクリートやバイオプラスチックなどの素材技術、さらに野心的な目標に関する活発な協業やイノベーションです。ある大手欧州系自動車メーカーでは、世界初の化石燃料不使用の鋼材を使った市販車の製造を目指しています。同メーカーは、鉄鉱石生産者やエネルギー企業も含めた広範なエコシステムの一環として、鉄鋼メーカーとの協業を進めており、2026年までに製鋼工程からの化石燃料排除の目標を掲げています。こうしたプレミアム製品を始め、さらに長期にわたる同様のグリーン資材調達の確約などを通じて、グリーン資材市場が成長すれば、コスト低減を背景にグリーン資材の技術習得や幅広い導入に道が開かれる可能性があります。

供給サイドに目を転じると、今後の進展を阻む障害があります。特にサステナビリティ基準が厳格でない地域や生産面のイノベーション導入が乏しい地域では、需要が拡大してもサプライヤーがそれに見合った供給体制を維持できない可能性があります。サプライヤーに意識改革を迫り、サステナビリティ意識の高い事業活動へと誘導することは容易ではありません。

プロジェクトオーナーやデベロッパーとしては、持続可能な資材を優先的に選定する姿勢を打ち出し、需要を集約していくことが明らかに急務となります。多くのプロジェクトで同様の方針を打ち出すようになれば、財務上のメリットがもたらされるだけでなく、意向表明としても説得力を持つようになります。

調達面の課題に関して、経営陣は以下の点を考慮する必要があります。

  • 共同イノベーションの機会を模索:サプライヤー、顧客、エコシステムとの協業は、取引に限定せずに広げていくことが大切です。その際、サステナビリティの取り組みを前進させるため、革新的な解決策づくりへの共創も含めるべきです。従来の限界を打ち破るためにも、共同研究開発の取り組みを後押しする必要があります。
  • 費用対効果に優れた調達を追求:サステナブルだからといって、プレミアム価格を上乗せする必要はありません。グリーン資材調達の費用対効果を最適化する機会を見つけなければなりません。画期的な解決策、プロセスの改善、業界横断型の協業、スケールメリットはいずれも費用対効果の高い慣行につながります。縦割り意識から脱却して視野を広く持ち、すでに他業界で確かな実績を上げているグリーン資材や燃料、エネルギーのプロジェクトに学ぶ姿勢が求められます。
  • 取引先であるサプライヤーの評価にサステナビリティの項目を追加:サプライヤー評価作業に、炭素強度やネットゼロ化の誓約など、サステナビリティ指標を盛り込みます。サプライヤーには、環境面の実績について責任を持たせ、サステナビリティの取り組みに強い意欲を見せるサプライヤーには、それ相応に報いることが大切です。電力供給面では、電力購入契約(PPA)などの長期協定は、リソースを効果的にプールする手段であることが証明されています。

4. 実行:誓約から行動へ

実行段階は、品質管理、リアルタイムモニタリング、順応的管理の種をまく段階です。

グリーン資材の適正使用を徹底し、品質管理を維持するうえで、サプライチェーン評価とサプライヤー・製品の品質保証が欠かせません。資材の徹底したモニタリングとは、具体的には、定期検査の実施、寿命・性能に関するデータの収集、グリーン資材のエネルギー効率や全体的な環境フットプリントに対する影響の追跡調査を指します。

この段階で最も重要な特徴として、適応性が挙げられます。確かな成果を生むためには、新たなデータに対応し、得られた気づきに応じて戦略を発展させていく能力が不可欠です。最近、ある風力発電事業者と鉄鋼メーカーが提携しましたが、これは、持続可能な調達のコミットメントを絶えず進化させながら履行していく一例と言えます。この提携では、風力発電用タワーの建設に当たって、最初のグリーン鋼材調達計画の策定段階から、リサイクル材料で製造する交換用ブレードが将来的に市場投入された時点で調達対象に含める方針が盛り込まれています。このような協業は、現場の声を反映させる仕組みを確立できるかどうかにかかっています。

この段階に移る際、経営陣は以下の点を考慮しておく必要があります。

  • 主要パートナーとの協力体制:グリーン資材サプライチェーンの関係企業各社をプロジェクトに巻き込むことにより、あらゆる面から確実に検討でき、財務上、技術上のリスクを分担する機会を確保できます。包括的な知識が成功につながるのです。
  • 早い段階からステークホルダーを巻き込む:早い段階からプロジェクトについて地元政府機関や住民、資金調達先と連絡を取り合い、憶測の発生を回避するとともに、透明性ある認可プロセスを促進します。
  • ステークホルダーへの報告に備えてデジタル化を推進:効率的にプロジェクトマネジメントを進めるうえで、今やリアルタイムダッシュボードなどのデジタルツールの導入は最低条件と言えます。テクノロジーを活用することにより、プロジェクトのあらゆる側面がサステナビリティのゴールと整合性を保ち、規則や規制(EUの企業サステナビリティ報告指令など)の進展に伴ってステークホルダーに報告できるようになります。
  • 従業員トレーニングを優先:知識豊富な従業員は、組織にとって最強の財産です。優先してトレーニングを実施し、グリーン鋼材用の直接還元鉄(DRI)やセメント用のCO2回収など、グリーン資材の製造プロセスを適切に取り扱うためのスキルや意識をチームメンバーに伝授します。
  • 成果を発信する:プロジェクトの進捗状況は、サプライヤー、顧客、政府機関、金融機関に定期的に報告し、グリーン資材プロジェクトが大規模に実現可能であることを示します。

5. 最適化:取り組みに終わりなし

たとえプロジェクトの最後の作業が終わったとしても、サステナビリティの飽くなき追求に終わりはありません。成功、失敗を問わず、経験と教訓を文書にまとめることは、単なる事後検討作業にとどまらず、継続的な改善に道筋をつける手順でもあります。

また、この段階は、市場の革新とグリーンビル運動に影響力を行使する重要な手段としても機能します。皆さんがもたらした実績は、プロジェクトや事業の範囲を超えて大きな影響力を持つこともあります。ある組織内で生まれた気づきが、業界関係者との緊密な協業や意思疎通を通じて、業界全体の変革のきっかけとなることもあるのです。例えば、ある工業ガス供給業者と建材メーカーは、全長4kmのパイプライン施設の建設プロジェクトで協業を進めており、ドイツにあるグリーン資材製造施設のエネルギー確保を目的に、効率的で環境に配慮した水素の供給を目指しています。

こうした目的を達成するには、以下の主な施策を通じて、学びと適応の文化を醸成することが大切です。

  • 学びの文化を奨励:グリーン資材への移行には時間がかかります。業界のエコシステムが発展し、供給側と需要側の双方ともに拡大する必要があるからです。変化のペースが速まる中、学びと適応に対応できる文化を育むことは競争優位につながります。
  • 研究開発への投資:さらなる調査・探求は、低炭素の技術や素材を継続的に改良していく一助となります。
  • 大規模に構築:商業規模の施設の建設でスケールメリットを享受したり、パートナーと協力してオフテイク数量を拡大させたりする施策を検討します。
  • 早めに動く:多くの企業がネットゼロ化を表明しており、この誓約を守る必要があります。こうした企業と手を組むことにより、オフテイクと先行者利益を確保できます。インフラプロジェクトは時間がかかるため、早めに動くことが複数年にわたる市場での優位性につながる可能性があります。

この枠組みを採用することにより、プロジェクトのオーナーとデベロッパーは、建設産業・建造環境関連産業の再構築への道筋を描くことができます。その結果、業界のサステナビリティ志向を高めるとともに、各社独自の競争力向上につなげる機会が生まれます。サステナビリティを中核戦略に織り込む動きが続く中、世界中のプロジェクトから得られる教訓は、進捗状況を示す重要な手がかりとなります。グリーン資材の採用が広がり、市場やサプライチェーンの目鼻がついてくる中、先頭に立っていち早く動く企業こそが、これまで以上に持続可能で収益性も高く、環境意識の高い世界への道を開くことになるのです。

著者

Richard Abadie
PwCの資本プロジェクトおよびインフラ担当グローバルリーダー。ロンドンを拠点とするPwC英国パートナー。

Carlos Mendes
資本プロジェクトおよびインフラ担当のリーディングプラクティショナー。アブダビを拠点とするPwC中東パートナー。

Jürgen Peterseim
専門はサステナビリティサービス。ベルリンを拠点とするPwCドイツディレクター。

Shree Kumar Rakshit
専門は産業脱炭素化・気候技術。ロンドンを拠点とするPwC英国ディレクター。

本稿にご協力いただいたDaryl Walcroft、Neil Broadhead、John Mullins、Jakob von Baeyer、Jennifer Brakeの各氏に著者からお礼申し上げます。

主要メンバー

服部 真

Strategy Consulting Leader, PwCコンサルティング合同会社

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林 素明

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

Email

齋藤 隆弘

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

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本多 昇

ディレクター, PwCサステナビリティ合同会社

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田原 英俊

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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安田 裕規

パートナー, Japanese Business Network UK Co-Leader, PwC United Kingdom, PwC Japan

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