資産運用業界における変革への対応

テクノロジーの可能性

Asset Wealth Management
  • 2025-04-01

PwCが資産運用会社と機関投資家を対象に新たに実施した「アセット&ウェルスマネジメント調査」は、2028年の市場予測と合わせて、テクノロジーがいかに大きな影響を持つかを示しています。テクノロジーは、投資家の期待を再構築するとともに、変革を押し進め、未知の市場を開拓します。

資産運用会社は、競争のやり方を再考する必要に迫られています。生成AI(GenAI)、分散型台帳技術(DLT)、ビッグデータ、クラウドコンピューティングなどの破壊的なテクノロジー(Disruptive Technology)は、効率とパフォーマンスを向上させるための重要なツールとして引き続き機能しますが、その影響は拡大しています。これらのイノベーションは、オペレーション能力を強化するだけでなく、資産運用業界のエコシステムにおける価値提供、収益モデル、ビジネスモデルに革命をもたらしています。

調査対象となった264の資産運用会社のうち、80%が破壊的なテクノロジーが収益成長を促進していると回答しており、これは業務効率の向上に貢献していると回答した運用会社とほぼ同じ数です。

さらに、これらのテクノロジーはバックオフィス機能をサポートするものから顧客とのやり取りにおいてより重要な役割を果たすものへと移行しているため、10人中7人が、プロダクトやサービスのイノベーションを推進する上での破壊的なテクノロジーの重要な役割を指摘しています。テクノロジーはオペレーション能力の強化、つまりコスト削減の手段として捉えられがちですが、今後は、日本においてもトップラインの成長や新しいビジネスモデルの構築に重点がおかれていく可能性があります。今回のグローバルの調査が、日本の資産運用業界の皆様の一助になれば幸いです。

新しいテクノロジーは、業務効率、収益成長、従業員の生産性に影響を与えています

(「重要な影響がある」と「非常に重要な影響がある」の回答のみを表示)

テクノロジー主導のエコシステム

収益の可能性は、プロダクトのイノベーションや新しい市場の開拓から、プロダクトの販売、ポートフォリオ管理、リスクおよびデータ分析のプラットフォームなど、他のプレーヤーへのサービスとしての技術の提供まで多岐にわたります。私たちの分析によると、他社にサービスとして技術を提供すること自体で、資産運用会社の収益を12%増加させる可能性があります。

マス富裕層市場の開拓

また資産運用会社は、破壊的なテクノロジーを利用して多くの人へ真に価値ある商品を提供することができます。すなわち、適度に投資可能な資産を持つ個人で構成される、広大でまだほとんど開拓されていないマス富裕層市場に、パーソナライズされた富裕層向けソリューションを提供することです。資産運用会社の7割以上(72%)が、破壊的なテクノロジーによって顧客の好みがテクノロジー対応ソリューションにシフトしていくと考えています。

巨額の富の移転を活用

顧客の好みの変化は、特に若い世代の投資家の間で顕著になると予想されます。彼らはテクノロジーを活用した高いエンゲージメント、経験、高度なパーソナライズ化に慣れ親しんでおり、その多くが今後10年間で68兆米ドルと推定される世代間の富の移転の受益者となるでしょう。また、サステナビリティやソーシャルインクルージョン(社会的包摂)などの分野で自身の価値観を反映したブランドも求めており、破壊的なテクノロジーや気候変動、人口動態の変化などの他のメガトレンドと戦略的に相互作用しています。

プレッシャーから抜け出す

重要なのは、資産運用会社が機会を活用し、業界のテクノロジー主導の変革に追いつくために十分に先を見据えて、そして素早く対応しているかどうかです。現在、ほとんどの資産運用会社(68%)は、総設備投資の6分の1未満しか変革をもたらす可能性のあるテクノロジーに割り当てていません。この問題は、大規模資産運用会社のような規模と多額の投資予算がある、または小規模資産運用会社のようなニッチな分野への注力ができる、のいずれにも該当しない、潜在的なプレッシャーに晒された中規模資産運用会社にとって特に差し迫った問題です(これらの資産運用会社向けの5つのポイントを参照してください。下記、中規模資産運用会社はどのように競争力を保つことができるか?)。

価値源泉の再考

保険会社、年金基金、基金、ファミリーオフィスなどを含む257の機関投資家を対象とした調査の結果は、投資戦略、ひいては価値源泉を再考する緊急性をさらに強調しています。破壊的なテクノロジーによって投資へのアクセスが容易になり、資産運用会社への依存を減らすことができると思うかという質問に対しては、回答者の59%が「はい」と回答しました。

機関投資家は、データを活用したインサイト、適応性、カスタマイズなど、テクノロジーによって強化された機能を期待するようになりました。10人中6人が、技術革新を投資戦略にどのように組み込むかについて、資産運用会社と定期的に話し合いを行っています。機関投資家は、リアルタイムのリスクモニタリング、高度な市場トレンド予測、効率的なポートフォリオリバランスなどの分野で、自社における破壊的なテクノロジーへの投資も強化しています。

なぜ今行動するのか?

投資家の需要が変化し、技術が急速に進歩する中、資産運用会社は長期的な存続のために、従来のビジネスモデルを超えた成長を追求する必要があります。

したがって、本レポートは、破壊的なテクノロジーの成長可能性を活用するための、4つの行動を中心に構成されています。

1. テクノロジーで価値を提供する

プロダクトのイノベーション、プライベート市場への進出、マス富裕層の顧客獲得、データ管理のサイロ化の解消を実現します。

2. 協力して競争する

エコシステム内での戦略的パートナーシップの構築、小規模なプレーヤーのサポート、ROIの最大化、サードパーティリスクの管理を行います。

3. 才能とスキルを再考する

従業員のスキルアップを加速するとともに、テクノロジー主導の労働力の価値を活用し、将来の役割とキャリアパスを形作ります。

4. 破壊的なテクノロジーへの信頼を築く

透明性を高め、保護を強化し、サイバーセキュリティを優先します。

1.テクノロジーで価値を提供する

最大手の資産運用会社は、それ自体がテクノロジーおよびデータ企業になりつつあります。その結果、革新的で新たな価値源泉が開発され、私たちが2023年に行った予想よりもさらに急速に成長している市場において、競争を優位に進めています。

PwCの基本シナリオでは、世界の運用資産残高(AuM)は2028年までに171兆米ドルに達すると予想しています。この成長は、2023年の分析結果に基づく5%から5.9%の年平均成長率(CAGR)を反映しています。オルタナティブ投資におけるAuMは、全体のAuMよりもはるかに速く成長し、CAGR6.7%で2028年までに27兆6,000億米ドルに達すると予想しています。プライベート市場への関心は、マルチアセット型資産運用会社の創設を加速させ、インフラストラクチャー、プライベートクレジット、その他の潜在的に利益率の高いビジネスの買収を加速させています。

世界の運用資産は2028年までに171兆米ドルに達する見込み

CAGR 2019-23 = 4.8%

テクノロジーを活用してプロダクトイノベーションを推進

成長を促進するイノベーションの焦点の1つは、トークン化されたプロダクトです。PwCの基本シナリオでは、トークン化された投資ファンド(ミューチュアルファンドとオルタナティブを含み、マンデートを除く)の運用資産は、2023年の400億米ドルから2028年までに3,170億米ドル以上に増加すると予測されています。これは市場全体のごく一部に過ぎませんが、特に、プライベートエクイティ、不動産、コモディティ、その他の非伝統的資産を含むオルタナティブファンドにおいて、流動性と透明性の向上、広範な投資の必要性にけん引され、50%を超える驚異的なCAGRで成長しています。

さらに、規制が緩和に伴い、デジタル資産への投資の拡大も見込まれます。これにより、資産運用業界はポートフォリオを多様化するとともに、相関性のないアセットクラスを活用し、テクノロジーに精通した新世代のクライアントを引き付けることができます。今回の調査では、資産運用会社のうち、現在、商品の一部としてデジタル資産を提供しているのは5分の1未満(18%)でした。これらの商品はまだ始まったばかりですが、投資家の関心は高まっています。デジタル資産を提供する資産運用会社の8割が、資金流入が増加したと回答しています。

デジタル資産への関心が高まる中、暗号資産は依然として投資家の関心が高い商品です

テクノロジー・アズ・ア・サービスによる収益拡大

他の資産運用会社にテクノロジーとデータ分析サービスを提供することも、潜在的な収益源です。PwCの分析によると、テクノロジーサービスの提供は、早期参入者にとって2028年までに最大12%成長する可能性があります。先駆者には、クラウドベースのポートフォリオ管理、リスク分析、ウェルスマネジメントツールで目覚ましい売上を上げている資産運用会社があります。また、運用アドバイスや年金サービスなどに活用するテクノロジープラットフォームの販売を将来の収益源と考えている資産運用会社もあります。

活性化するマス富裕層市場

相次ぐ規制の変更とテクノロジーの普及によって、マス富裕層セグメントへの扉が開かれており、私たちの予測では、超富裕層に次ぐペースで純資産が大きく拡大すると予想されています。

マス富裕層は急成長している市場セグメントであり、純資産は2028年までに408兆米ドルを超えると予想されています

破壊的なテクノロジーは、個人投資家がプライベートマーケットやトークン化されたファンドの小口の持分を購入できるようにするアプリやプラットフォームの実現を可能にします。トークン化により細分化された所有権は、最低投資額を引き下げ、流動性の低い資産を流通市場で取引できるようにするため、市場の開放につながります。私たちの調査では、資産運用会社と機関投資家の両方でトークン化されたプライベートマーケット資産に対する大きな関心が寄せられていることが明らかになり、各グループの半数以上がトークン化されたアセットクラスのトップとしてプライベートエクイティを求めています。

トークン化は資産運用業界全体で人気を集めています

オルタナティブ投資の民主化を支える

オルタナティブ投資の民主化に伴い、顧客の理解や適切な成果の提供などの分野で、規制や投資家の要求が高まっています。破壊的なテクノロジーを活用し、クライアントの目的、リスク選好度、リスク能力に関するより多くのデータを、はるかに大きなクライアントベースでより迅速に分析できるようにすることで、カスタマイズされた費用対効果の高い方法でこれらの期待に応えることができます。この方法の開発は始まったばかりであり、例えば、現在、資産運用会社のうち、破壊的なテクノロジーを使用してパーソナライズされた投資アドバイザリーを強化しているのはわずか20%です。

PwCの「Wealth Management Insights 2024」で強調されているように、個人投資家へのプライベートマーケットの開放のもう1つの重要な要素は、デジタルと対面の相互作用を組み合わせたハイブリッド型アドバイスモデルにおける投資家の要求に応えることです。破壊的なテクノロジーは、顧客の属性把握、分析、インサイトに最も大きな違いをもたらすことができるため、アドバイザーはより多くのクライアントに対して寄り添ったサービスを提供することが可能です。

差別化要因としてのデータ統合

資産運用会社の59%が現在、投資業務にビッグデータ分析を採用または検討しています。ここでは、構造化データ(整理され、簡単に検索可能なデータ)と非構造化データ(生データおよび未整理データ)の両方がイノベーションの推進に重要な役割を果たしています。例えば、生成AIを使ったファンドの収益性分析のように、データ統合を通じて初めてテクノロジーによる収益とコスト削減のメリットを実現できます。

しかし、データ主導の資産運用会社を実現するには、テクノロジーだけでなく、文化や組織も重要です。その多くがサイロ化された資産運用会社では、まず、販売、財務、投資管理などのビジネス領域間のデータの境界をなくし、連携し統合された情報主導のアプローチを採ることが必要です。

もう1つ大きな優先事項は、分析内容をビジネス目標に合わせ、実行可能な価値を最大化することです。典型的な例としては、新しいアセットクラスがポートフォリオ構築に与える影響を評価したり、新世代の投資家や従業員が何を重視しているかについての理解を深めたりすることが含まれます。

2.協力して競争する

資産運用会社と機関投資家に、今後数年間で運用と分析に最も変革的な影響を与える破壊的なテクノロジーは何かと尋ねたところ、AI、生成AI、クラウドインフラストラクチャ、ビッグデータ、ブロックチェーンテクノロジーに回答がほぼ均等に広がっていました。

変革を推進するテクノロジー

一部の資産運用会社は、イノベーションと差別化を推進するために、特定のテクノロジーに賭けています。しかし、市場全体では、プレーヤーがパフォーマンスへの期待値とバイアス、セキュリティ、倫理などのリスクとのバランスをとるにつれて、変化の先陣を切るのは特定のテクノロジーや「スーパーアプリ」ではない(生成AIでさえそれに該当しない)との認識が高まっています。

むしろ、破壊的なテクノロジーの融合は、あらゆるものを見直し、既存のテクノロジーとデータインフラストラクチャーにその存在意義を問いかけています。資産運用会社の半数以上(58%)は、自社が適切なテクノロジーインフラストラクチャーを欠いていることが、破壊的なテクノロジーを採用する際のハードルであると考えています。

革新化の出発点を作る

クラウドの採用は、長い間、より広範な技術統合とアプリケーションの前提条件でした。非常に多くの資産運用会社が検討し始めたばかりであるという事実は、資産運用業界が他のセクターと比較して後れを取っていることを示唆しています。クラウドプラットフォームが、AI、生成AI、分散型台帳テクノロジー、IoT、ビッグデータ分析など、さまざまなテクノロジーに高速でアクセス可能かつ拡張性がある機能を提供することで、変革を加速できます。

資産運用会社の71%は、クラウドとテクノロジーが今後2〜3年で業界の未来を形作ると考えています。

資産運用会社は、どのようにすればクラウドの可能性を最大限に活用できるでしょうか。PwCの「2024 Cloud and AI Business Survey」では、トップパフォーマーの回答者の12%が投資に対して最大のリターンを実現していると回答しています。主な差別化要因は、AIとクラウドの近代化を単なる技術上の優先事項と見なすのではなく、戦略を主軸に実装を検討することです。トップパフォーマーは、クラウドサービスプロバイダーとの関係の選択と構築にも注意を払っています。

エコシステムの活用

このような背景から、資産運用会社の81%が、技術力を強化するために、戦略的なパートナーシップ、統合、または合併・買収を検討しています。

大規模資産運用会社は、買収や合弁事業を通じて、スタートアップ企業やスケールアップ企業の選りすぐりの人材やテクノロジーにアクセスし、開発と市場展開を加速しています。中小規模の資産運用会社は、大規模な競争相手の投資に匹敵することはできませんが、フィンテック、マネージドサービス、テクノロジーサービス、その他のエコシステムパートナーを活用して、必要な機能を提供してもらうことはできます。これらの関係が生み出す広範なエコシステムにより、小規模なプレーヤーはシステムを迅速に稼働させることができるだけでなく、非中核業務をより効率的で費用対効果の高いパートナーにアウトソースすることも可能になります。

このようなエコシステムの原動力は、多くの資産運用会社が新しくてなじみのないオペレーティングモデルに挑戦していることを意味します。最適なパートナーのための市場調査とコラボレーションの促進は、競争優位性を生み出すために不可欠となっています。資産運用会社全体で適切にコラボレーションを推進するためには、パートナーの選定に加え、実施の責任者または同様の役割を担う人を任命する必要が生じる場合があります。

また、資産運用会社はオペレーティングモデルを改良して、ネットワーク内で際立ち、最大の価値を提供する必要もあります。これを達成するには、戦略的なオペレーティングモデルをビジネス目標に合わせること、特に、エコシステム全体でのシームレスなコラボレーションのために、テクノロジー全体での相互運用性を開発する必要があります。クラウドソーシングによるイノベーションとオープンソーステクノロジーを採用することで、資産運用会社は従来の働き方と比較して、より高い俊敏性とコスト効率を達成できます。

小規模なプレーヤーによるサービス提供の支援

フィンテックやその他のサードパーティを含む小規模なサービスプロバイダーは、多くの場合、大規模なパートナーの要求を満たすべく開発をスケールアップするためのオペレーション能力に欠けています。また、業界内の規制要求を満たすための経験と専門知識が不足している可能性もあります。そのため、大規模なパートナーからのサポートが不可欠です。

EU、英国、香港、シンガポール、オーストラリアの規制当局は、フィンテック企業がイノベーションをテストし、より大きな金融サービス組織とつながることができる仮想環境(サンドボックス)の提供を試験的に開始しました。また、より大きなパートナーの上級管理職が取締役会に加わり、開発と規制に関するガイダンスを提供するといった運用上のコラボレーションの例もあります。

投資収益率の向上

資産運用会社は、旧態依然のシステムを廃止し、その能力を近代化する一方で、拡散して複雑な技術インフラストラクチャーを統合するためのコスト、課題、リスクに直面しています。機能性が期待を下回ったり、完全に失敗したりすると、自信はすぐに失われます。そのため、複数のシステムとそれを取り巻くイノベーションを迅速に統合し、明確に定義されたビジネスニーズに実装を集中させ、ダイナミックな状況に対応することが重要です。さらに、私たちの調査によると、破壊的なテクノロジーを適切に実装すると、最大15%のコスト削減がもたらされる可能性があります。

また、堅牢な監視メカニズムを確立することも重要です。資産運用会社の大多数(73%)は、ユーザーからのフィードバックや満足度調査、定期的なパフォーマンス追跡(57%)、デジタルソリューションの活用による手作業によるエラーや非効率性の削減(56%)を通じて、破壊的なテクノロジーの有効性をすでに測定しています。

サードパーティリスクへの注目を強化

ビジネスの運用上の安全性と回復力は、サプライチェーンの最も弱い部分に依るため、サードパーティのリスク管理に対するより体系的なアプローチが非常に重要となります。サードパーティガバナンスへの注目は、EUの新しいデジタル・オペレーショナル・レジリエンス法(DORA)など、規制当局による精査によってさらに勢いを増しています。多くの資産運用会社は、必要なサプライヤーのデューデリジェンスと監視を実施するためのリソースが不足している場合があり、マネージドサービスを活用する必要があるかもしれません。

3.才能とスキルを再考する

資産運用会社のエントリーレベルの仕事がテクノロジーに対応して進化するにつれて、雇用主はわずか数年でさまざまなスキルと能力を求めるようになります。

イノベーションを推進し、テクノロジーを最大限に活用するのは、システムではなく人です。したがって、資産運用会社は、今後2〜3年間のM&Aの最重要目的として熟練した専門知識を持つ人材獲得を据えており、回答者のほぼ3分の1が、現在、関連するスキルと才能が不足していると回答しています。

企業買収の大きな目的は、スキルの獲得となっています

アップスキリングとリスキリングの加速

能力を向上させるには、アップスキリングやリスキリングへの投資を増やすだけでは不十分です。現在、資産運用会社のうち、特に新しいテクノロジーを活用するために社内の人材をアップスキリングしているのはわずか39%です。さらに、必要な機能の一部(例えば、AIのトレーニングとプロンプト、オープンソーステクノロジーの活用機能など)は新しいものであり、現在のアップスキリングプログラムの範囲外である可能性があります。また、雇用主が提供するスキル開発が限られていることに対する不満も広がっており、それにより、多くの従業員が他社で働く機会を求めるようになっています。

PwCが実施した「Global Workforce Hopes and Fears Survey 2024」では、テクノロジーに特化した新しいスキルを習得し、開発したいという従業員の強い意欲が明らかになりました。

人材育成のための資産運用会社の戦略

テクノロジーを駆使した従業員の価値の潜在力を実現

人材のダイナミクスは、多くの資産運用会社のリーダーが想定しているよりもはるかに複雑になる可能性があります。伝統的には、アナリストを経験したうえでポートフォリオマネージャーの役割を担うのが常でしたが、破壊的なテクノロジーは、アナリストが提供する分析の多くを代替する可能性が高いです。実際、資産運用業務は、私たちの調査で資産運用会社がコスト削減の対象としている機能の上位にあります。

しかし、アナリストの役割は、なくなるのではなく、進化する可能性が高いと考えています。PwCによる最新のAIジョブバロメーターからの明確な結論は、人間が機械に取って代わられるのではなく、AIやビッグデータ、その他の破壊的なテクノロジーの可能性を活用することに長けた人々に取って代わられるということです。

破壊的なテクノロジーを、単に、より少ない労働力で同じタスクを達成する方法と見なしている資産運用会社にはつけが回ってくる可能性があります。これらの資産運用会社は、コスト競争には勝っても成長競争には負けるリスクがあり、ビジネスモデルの再発明の重要な要素である革新的な人材を犠牲にすることになりかねません。

新しい世界のための役割とキャリアパスの形成

アナリストを含むほとんどの役割が進化した場合、資産運用会社は新しい機能と空いた時間をどのように活用できるでしょうか。まずやるべきことは、テクノロジーによって業務が代替される、または根本的に変わる人々の再教育のための具体的な計画を立てることです。また、将来のポートフォリオマネージャーのエントリーレベルの役割を再考することも重要です(上記の求人広告例のように)。先行者は、人材を引き付け、教育し、最大限に活用できる立場にあるだけでなく、従来の伝統的なアナリストよりも幅広い採用プールから人材を採用することができます。

従業員に権限を与える

破壊的なテクノロジーの可能性を活用するには、権能、イノベーション、創造性を中心とした文化的な変化も必要です。

最初のステップは、慎重なスタッフに破壊的なテクノロジーの利点を受け入れるように促すことです。彼らが自分の役割と、その中で何を達成できるかを再考する機会を提供します。新しいテクノロジーや業務変革などにチャレンジする姿勢を奨励します。成功するスタッフは、失敗のリスクがあっても、新しいやり方を試すようになります。

オペレーションやサービスに対する評価軸が、資産運用会社単位ではなくエコシステム単位へと移行していることは、これまでの前提を大きく変える可能性があります。新たな優先事項には、自社の利益を保護および強化しながら、パートナー企業と協力的かつ生産的に活動することが含まれます。

4.破壊的なテクノロジーへの信頼を築く

破壊的なテクノロジーの変革力を解き放てるかどうかは、最終的には、信頼(テクノロジーへの信頼、テクノロジーが責任を持って使用されているという信頼、機密データが適切に保護されているという信頼)にかかっています。特に、資産運用会社の67%が、自社で破壊的なテクノロジーを採用する際の主なハードルとして、テクノロジーによる意思決定の正確性に関する懸念を挙げています。

透明性と投資家保護の強化

資産運用会社が破壊的なテクノロジーを採用すると、投資家は、投資データとパフォーマンス指標へのリアルタイムなアクセスを通じて、透明性とエンゲージメントの向上から恩恵を受け、モチベーションを高めることができます。

しかし、このような透明性の向上へのシフトは、特に今日の広範なエコシステムにおいて、サイバーセキュリティとデータプライバシーに関する懸念も引き起こしています。資産運用会社の半数以上(54%)が、破壊的なテクノロジーが自社のサイバーセキュリティ対策に大きな影響を与えると回答しています。資産運用業界は、保険や銀行など、金融サービス業界の他のセグメントと同様に、顧客情報の堅牢な保護を確保し、システムの完全性を維持するために、規制の枠組みを適応させる必要があります。

この新しい世界では、事後対応型のコンプライアンスフレームワークだけでは不十分です。優先事項には、データのプライバシー、セキュリティ、アルゴリズムのバイアス、透明性に対処する倫理的フレームワークの開発と組み込みが含まれます。また、クライアントや投資家に対して、使用されている技術ツールやAIモデルについて明確なコミュニケーションをとることも重要です。

サイバーセキュリティを組織全体の優先事項に

データが急増し、より多くの運用、意思決定、ステークホルダーとのやり取りがテクノロジーを通じた対応になるにつれて、サイバーの脆弱性は必然的に増加します。そのため、リスク管理に対する組織全体の理解と責任を育むことが重要です。PwCの「2025 Global Digital Trust Insights」で強調されているように、これに成功している組織は、侵害される件数が少なくなり、攻撃による被害もそれほど大きくありません。

資産運用会社は、破壊的なテクノロジーを受け入れ、それが競争、成長、新しい価値の解放のためにどのように役立つかを理解する必要があります。実際、ほとんどの資産運用会社は、より若く、よりテクノロジーに精通した投資家層を取り込み、急成長するマス富裕層市場にサービスを提供しようとするため、テクノロジー対応ソリューションへの大幅なシフトを予見しています。変革をもたらすテクノロジーへの投資は、単なる戦略ではなく、将来を見据えた成功の鍵となります。


※本コンテンツは、PwC米国が2024年11月に公開した「Asset and wealth management revolution 2024」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

主要メンバー

辻田 大

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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久保 直毅

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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髙見 昂平

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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