東京大学とともにAIの可能性を広げる学生が主役のビジネスコンテストを開催

  • 2024-11-19

東京大学とPwC Japanグループは、未来を創る経営人材の育成を掲げて、2021年から大学生と社会人のそれぞれを対象に「AI経営寄付講座」を開催しています。2024年夏の学生向け講座は、受講対象を首都圏の大学の学部生・大学院生にまで広げる形で「AI起業サマープログラム」と題して実施しました。この講座は、ビジネス、AI、生活者の3つの視点を組み合わせた社会課題解決のアプローチを習得すること、また、そのための具体的な事業案を考え出すことを目的としています。

講座は、2024年8月6日の事前講義から100名超の学生が参加する形でスタートし、20余りのチームに分かれてワークショップを重ねながら、社会課題解決につながる事業アイデアの具体化を進めました。社会課題のテーマは、ウェルネス・スポーツ、地方創生・都市課題、交通・モビリティ、第一次産業、教育・文化の5つで、いずれもAIのさらなる活用が期待される分野です。

各チームは、テーマの選定、課題の深堀、ソリューションの考案、ヒアリングなどによるニーズ検証、プロトタイプ作成、企画書作成、ニーズの検証結果を踏まえた修正を行いながら、9月19日に事業案のプレゼンテーションを行いました。そして、最終日の9月26日には投票で選ばれたファイナリスト7チームが約2カ月に及ぶ学習の集大成の「ピッチコンテスト」に登壇し、それぞれの事業案を発表しました。また、発表後は審査員と講座の参加者が内容を評価し、優秀な事業案に賞が授与されました。

7者7様、多様な発想でAIの新しい活用を考案

ピッチコンテストでは、7チームが順番に事業案を発表しました。以下、各チームの発表の概要を紹介します。

チームA 自閉症の子どもとのコミュニケーションを簡単に

チームAは、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもと保護者のコミュニケーションを簡単にするアプリを提案しました。

自閉症の子どもは、複雑で抽象的なことを理解しづらい傾向があり、保護者や教員からの指示を理解できなかった時や、自ら伝えたいことを態度や言葉で伝えられなかった時に、パニック状態になったり、対人恐怖症になったりするケースがあります。また、コミュニケーションを円滑にするためには、絵などを使うことによって視覚的に支援することが有効です。

外部環境としては、自閉症の子どもの数が増加傾向にある一方、国内のサポート体制は十分とはいえません。そのことを課題と捉えて、チームAはAIを活用するアプリの開発と普及を考案しました。

アプリは、タブレット端末上で絵カードによるコミュニケーションを実現します。保護者や教員から伝える場合、テキストまたは音声(APIを活用してテキストデータに変換)で伝えたいことを入力すると、その内容をAIが理解して画面に絵カードを表示します。

子どもから保護者などへの伝達や返事は、例えば「何が食べたい?」という問いに対してチャットボックスに表示される絵カードから答えを選択します。また、表情検知AIによって子どもの感情を画面の色で表す機能を加え、癇癪を起こしてしまう前に対策することができます。

事業化では、このアプリを個人と法人向けにサブスクリプションサービスとして提供する方法を考えました。ユーザー候補は、発達障害の子どもの支援を行う施設など(約20,000法人)と、12歳以下の自閉症の子どもを抱える家庭(推計20,000家庭)を想定しました。また、障害を持つ子どもの支援は政府補助金(補助総武支給制度)の適用対象であり、ユーザーの負担を抑えながらサービスを利用できる可能性にも言及しました。

チームB 若者が気軽に農業と関われる機会を創出

チームBは、耕作放棄地の管理に困っている土地所有者と、農業に興味がある都市部在住の若者をマッチングさせるプラットフォームを提案しました。

国内では、地方を中心として耕作放棄地が増えています。その理由は、農業従事者の高齢化や後継者不足などで、放棄地周辺では、雑草、害虫、野生動物による環境の悪化などの問題が発生しています。また、土地所有者は耕作地が荒廃化すると固定資産税が高くなる問題があり、親族や知り合いに頼ったり、アルバイトを雇ったりして農地を管理している実態があります。

一方、都市部には若者を中心として農業に興味を持つ人たちが一定数います。例えば、デスクワーク中心の仕事が多く運動不足を感じている人、休日に地方で体を動かしたい人、登山やキャンプのようなアクティビティを探している人などです。

チームBは、このような現状を踏まえて両者のマッチングを考えました。

プラットフォームでマッチングさせる放棄地の情報は、衛星画像データ(オープンデータを利用)を用いて収集します。また、AIによる分析で、ユーザーの信頼や社会貢献の度合いをスコア化し、ユーザーの属性やサービスの利用状況から行動パターンを予測します。

サービスの特徴として、参加者同士が交流できるフォーラムやSNS機能によるつながりをつくり出し、コアで継続的なコミュニティを創出することを目的の1つとしました。

事業面では、社会課題解決に向けたボランティアモデルから規模の拡大を目指し、ユーザーの利用情報などを解析したデータ販売、地域の観光や不動産事業との連携による紹介料などを収益源として想定しました。

チームC 遠隔地に住む高齢者の運転を見守る

チームCは、高齢者の運転状況と運転能力をAIが分析し、遠くに住む家族などが確認したり、運転能力のリポートを踏まえたアドバイスを提供したりする見守りサービスを提案しました。

核家族化に伴って家族と離れて暮らす高齢者が増えています。地方では車なしの生活が難しいことが多く、高齢者による運転事故を防ぐ手段の拡充が求められています。

このような背景から、チームCはAIによって高齢者の運転状況をリアルタイムで継続的に可視化し、事故の前兆を察知したり、事故を未然に防ぐための対策に役立てたりするスマホアプリを考案しました。

このサービスは、運転中の高齢者に関する位置情報、加速度センサー、アウト・インカメラの情報などを記録し、AIが運転能力を分析します。また、見守り役である家族などはリアルタイムで情報を確認できます。その情報をAIが自動でリポートし、運転能力の衰えが見られる部分に関してはAIが適切な対処方法を提案したり、運転中に音声でサポートしたりすることで事故リスクを抑えます。

事業化に向けては、まず見守り対象者となるモニターを募集し、ドライブレコーダーを装備して運転中の映像を収集します。システム側では運転能力の判定項目と点数などのラベル付けを行い、ドライブレコーダーから得た映像の点数を教師データとします。

チームCのリサーチによれば、このサービスの潜在顧客数は約850万人で、市場規模は年間で約50億円(顧客全員がサービスを利用した場合)です。収益計画では、ユーザーからはサービス利用料や専用車載器の売上代金、ユーザー以外ではインプレッション型広告収入やデータ提供による収入を想定しています。

チームD コンテンツ周知でインバウンドの満足度と消費額を増やす

チームDは、訪日外国人観光客向けに国内で行われているイベントなどのコンテンツ情報を提供、レコメンドするアプリを提案しました。

コロナ禍以降、訪日外国人観光客は増加し、旅行関連アプリのダウンロード数も年々増えています。アプリを活用する旅行スタイルは今後も増え続けると予想できますが、一方で、国内の観光情報は有名な観光地に関するものが中心で、観光客が知りたいコンテンツを認知できていない現状があります。また、チームDが独自に行った外国人観光客向けの街頭アンケートでは、旅行中にどこに行くか探したり、1日や半日程度の空き時間で何をするか迷ったりする人が多いことが分かりました。

このような背景を踏まえて、チームDは、有名な観光地だけではなく、その周辺で行われているイベントなどのコンテンツをジャンル別で見られるアプリを考案しました。アプリでは、AIがユーザーの希望に沿った観光地をリコメンドします。また、移動時間などを考慮したプランの提案を行います。

このサービスを利用することで、ユーザーは行き先の検索に時間を使わずともアプリでコンテンツを知ることができます。その時間が短縮化されることで、事業者側はインバウンド消費を獲得するチャンスが拡大します。

AIは、初期は仮想ユーザーのデータをLLM(大規模言語モデル)で生成し、教師なし学習でクラスタリング(メモリベース協調フィルタリングを採用)と、クラスターごとに興味のあるコンテンツを割り当てます。リアルデータが一定量集まったら、それを用いてモデルを更新します。

基本はフリーミアムで無料で使えるサービスとして提供し、収益はユーザーからのアプリ内課金、企業スポンサーからの契約金、オンライン物販のアフィリエイト、データを活用したB to B事業契約金を想定しています。また、事業化した後の展開として、空港や観光地での現地PR、無料Wi-FiやWi-Fiレンタルサイトでの告知、旅行分野のインフルエンサーバンクを用いた告知などを考えています。

チームE ぶどうの粒の間引き作業を自動化

チームEは、ぶどう農家向けに、質が悪いぶどうの実を成長過程において自動で判別して切り落とす装置を提案しました。

ぶどう栽培には摘粒(てきりゅう)という工程があります。これは、ぶどうの房をより良い形や品質にするために、育成状態や大きさが不十分な果粒を取り除く作業のことです。ぶどう農家にとっては負担の大きい作業で、チームEの調査によれば、年間の労働時間の約半分を摘粒に費やしています。摘粒時期の農家1戸あたりの労働時間は1日40.5時間で、アルバイトを雇って対処している農家もあります。

チームEが考案した装置は、この作業を簡素化、自動化することにより農家の手間とコストを軽減するものです。ぶどうの果粒に装置を被せると、AIが画像から果粒のつきかたを3次元計測(LiDARで計測)し、理想の状態と比較して間引く果粒を判断してレーザーで切断します。

小規模農家を想定した試算では、1房あたり4回の摘粒が、この装置を使うことで1回で完了します。作業時間は1シーズンで700時間の節約になり、コスト面ではアルバイト料として支払っていた140万円の削減効果が生み出せます。

サービス提供は1年ごとのレンタル契約を想定しました。まずは人力で装置を房に被せ、ルールベースで摘粒を行います。その過程でデータを収集し、生成モデルのAIを開発するとともに、装置そのものを自律的に移動できるようにして完全な自動化を目指します。

チームEがぶどう農家で行った調査によると、良い房を自動で作れる機械があれば2000万円でも払うという声がありました。熟練と手間を要する工程の自動化は、省力化のみならず新たな就農者の参入障壁を低くする効果も期待でき、将来的な人材不足問題の解決を通じてサステナブルなぶどう農業を実現することにつながります。

チームF 栗の分別の自動化とデータ活用を両立

チームFは、栗農家向けに、栗の規格と品質を自動で分別する装置とシステムを提案しました。

市場で売られている栗は、農薬で栗を燻す燻蒸(くんじょう)という作業によって害虫(クリシギゾウムシ)の幼虫や卵を処理した燻蒸栗と、手作業で害虫被害の有無を判別する無燻蒸栗があります。無燻蒸栗は、香りや味が良くて、残留農薬の心配がないため、高単価で販売できるといった価値がある一方、目視による選果の負担が大きく、直径1mmほどの穴(クリシギゾウムシの卵)を見つけ出すのが難しいという課題があります。中小規模の栗農家は無燻蒸栗を生産していることが多く、繁忙期には短期のアルバイトを雇って作業しています。

チームFは、栗を1つずつ撮影し、AIの画像分析によって虫食い、先割れ、カビを見つけ出す分別装置を考案しました。シミュレーションによると、この装置の導入によって分別作業は1個あたり10秒から0.5秒に大幅に短縮でき、人手も削減できます。

また、選果の過程では、栗の大きさ、色艶、傷、虫穴などのデータを蓄積することができます。これらを天候や市場の需給など外部データと組み合わせることにより、データに基づくマーケティングに活用できます。例えば、市場データを踏まえた最適な価格設定や販路の選定ができ、そこに潜在的なニーズがあると考えたチームFは、分別装置と連動するソフトウェアも考案しました。

事業化に向けたロードマップでは、まずは廃棄処分となる栗を安価で購入して、カメラで読み込んだ栗の画像をもとに不良品を検出する判定モデルの学習用データセットを構築します。データ活用については、分別装置を稼働させながらデータを蓄積し、MAツールやCRMツールをサブスクリプション形式で提供する計画を立てました。この装置は栗を対象としていますが、将来的には規格判定の負担が大きい他の農作物にも対応させ、より大きな市場での普及を目指します。

チームG 社会で役立つ論理的思考をゲーム感覚で磨く

チームGは、論理的思考やディベートのスキルを磨けるゲームを提案しました。

現状の中高生の学習環境は、受験対策に偏重する傾向などがあり、社会で実際に役立つスキル習得とのギャップがあります。例えば、仕事では会議や商談の場で自分の意見を正しく伝える必要がありますが、学校でそのようなスキルを養う時間は少なく、論理的思考によって相手を説得したり納得させたりする力を伸ばす機会も足りていません。これは中長期的には社会人としてのキャリア形成にも悪影響を与えます。

このような課題意識から、チームGはゲーム感覚で論理的思考を鍛えるアプリを考案しました。ゲームの流れは、まず複数ある議題の中から興味があるテーマを選び、そのテーマについて賛成か反対かを決めます。その後、自分が選択した立場から主張や反論を行い、その内容の論理性と説得力をAIが判定します。判定に用いるデータは、過去のディベート大会の音声やテキストデータ、各分野の専門家の論文、ニュース記事などを使用します。また、ユーザーを増やしながらディベートのデータを収集します。

この繰り返しを通じて、ユーザーは論理的思考力、説得力、交渉力を磨きます。継続利用を促す施策として、ユーザーの論理力を可視化する成長グラフ機能や、競争心を刺激するランキング機能、達成感を生むバッジシステムなどを導入します。

収益面では、ユーザーはフリーミアムで基本機能を無料で使えるようにし、オンライン対戦やゲーム内のイベントで使用する通貨による収益獲得を計画しています。将来的には、収集したデータを研究機関、教育機関、企業に提供し、ディベートスキルの向上や研究に貢献する構想も見据えています。

AI社会で価値提供できるビジネスと人材づくりを加速

7チームのプレゼンテーションを終えて、ピッチコンテストの最後には優れたプレゼンテーションの表彰を行い東京大学の教授とPwC Japanグループのパートナーが総評と各賞の評価ポイントを解説しました。

この講座は今回で4回目の開催となり、新たな視点からの社会課題へのアプローチと、実現可能性が高い事業案が数多く発表されました。一方で、AIの進化のスピードは速く、講座を開始してからの4年間を見ても、生成AIの急速な普及を含めてAIの活用領域と、それに伴うビジネスチャンスが広がっています。

PwC Japanグループは、引き続きAI分野の講座やイベントに積極的に関わり、効果的で実践的なスキル習得の機会を創出し、社会課題の解決に貢献していきます。

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