
次世代モダリティを用いた抗悪性腫瘍薬開発の現状と展望
近年、先進的で多様なモダリティが有望な癌治療薬として開発されるようになっています。本稿ではいくつかの先進モダリティを「次世代モダリティ」と位置づけ、それらの悪性腫瘍分野における開発状況について調査するとともに概説し、将来展望についての考察を加えます。
「バーチャル治験」は、「リモート治験」「Location Flexible Trial」「Decentralized Trial」などとも呼ばれていますが、私は「どこでも治験」と呼びたいと思います。医療機関への通院を別の手段に置き換えて治験の「現場」を医療機関の外に拡大するからです。患者の利便性を高めるだけでなく、治験のスピードアップや関係者の工数削減などのメリットがあると考えられており、製薬業界および新たなビジネスチャンスを期待する他業界から注目されています。
医薬品開発の過程で治療効果や安全性を確認する「治験」に患者が参加するためには、医師から説明を受けて、参加するかどうかを自身で決定し、参加への意思を表明するための署名を行う必要があります。つまり、治験に出会う機会はもっぱら医師からの紹介ということになります。基本的には、足を運んだ医療機関で治験を行っており、かつ診察した医師が治験に関わっていない限り、患者が治験に出会うことは困難です。さらに治験では、定期的な通院や入院を必須とするケースが多く、仕事などで日中に時間を確保することが難しい患者にとっては、参加のハードルが高いのが実情です。
「患者中心の医療」(以下「Patient centricity」)という考え方の普及に伴い、治験が変わろうとしています。近年、医薬品の開発に患者の声を取り入れる機運が高まっており、患者にとって分かりやすくアクセスしやすい治験情報の発信や、治験に参加する患者の利便性を高める工夫が行われるようになってきました。その具体例として、患者会向けの治験情報発信プラットフォームやSNSの活用、動画を利用した説明などが挙げられます。
こうした「Patient centricity」を目指した患者フレンドリーな治験を企画・実行することに加え、デジタルの活用も模索されています。海外では、例えばスマートウォッチやデバイスなどを活用して患者が自宅にいながら治療効果や安全性を確かめるためのデータを集める、オンラインで医師の診察を受けるといったことも行われています。
バーチャル治験に参加する患者は、例えば次のような過程をたどることが想定されます。
SNSで自身の疾患に関する治験の情報を目にしてウェブサイトにアクセス、説明を読んだあと、病状や治療状況などを尋ねるアンケートに回答します。その後、治験実施者からの連絡を経て電話面談による詳細な説明を受け、指定のウェブサイトにアクセスして治験参加に同意する電子署名を行います。
数日後、オンライン診療や体調報告用のアプリがインストールされたデバイス、心拍数などを測定して医療機関に送信するウェアラブルデバイス、そして治験薬が自宅に届き、治験が始まります。期間中はウェアラブルデバイスの装着やオンライン診療で体調報告を行い、体調で気になる点などがあればアプリを通じて医師や看護師に相談します。
治験薬の服用期間が終わった後に最後の体調報告を実施し、デバイスを指定された宛先に返送して終了です。米国のバーチャル治験では、実際に患者が医療機関を一度も受診することなく完結するケースもあります。
上述の例の場合、SNSでの治験広告、患者の本人確認および電子署名を受け付ける治験用ウェブサイトの構築、オンライン診療や患者から相談を受ける仕組み、患者貸与用デバイスの準備・管理、デバイスや治験薬の配送、データの受領・解析などが必要になります。これら全てを、バーチャル治験を行う製薬企業や医療機関が自前で用意するのは容易ではありません。
そのためバーチャル治験の準備から実施をサポートするサービスに取り組む企業が増えています。米国ではバーチャル治験を専門とするベンダーもあります。このように、バーチャル治験は新たなビジネスチャンスを生み出しています。
では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受け、ようやくオンライン診療に関する規制が緩和された日本国内で、今後バーチャル治験が普及し新たなビジネスを創出する可能性はあるのでしょうか。日本国内の課題や進捗状況などについて、本連載の別の機会で紹介する予定です。
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 志賀 麻里絵
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