【CES2026 エネルギー分野からの視点】―世界基盤モデルの活⽤による産業AI⾰命とスマートホームの盛り上がり―

  • 2026-04-30

CES(Consumer Electronics Show)は、毎年1月に米国ラスベガスで開催される世界最大級のテクノロジー見本市であり、技術トレンドのみならず、産業構造や競争環境の変化を読み解く上で重要な示唆を提供してきました。本稿では、2026年1月に開催されたCES2026を対象に、前年(CES2025)との比較を通じて、AIの進化がエネルギー分野および関連産業に与える示唆を整理します。

CESの概要とCES2025からの変化

CESは、家電製品の展示会としての側面にとどまらず、新技術の発表、実証、ならびに業界リーダーによる将来像の提示が行われる、グローバルなテクノロジープラットフォームとして位置づけられるものです。近年では、エネルギー、モビリティ、製造業といった産業分野からの参加も増加しています。

<CES2025における主な論点>

前年のCES2025では、AI活用の拡大に伴うデータセンター電力需要の増大を背景に、「Energy Transition」が主要テーマの一つとして取り上げられました。具体的には、電源確保の在り方や、再生可能エネルギーを中心とした電力供給の実現可能性について活発な議論が行われました。また、AIの高度化に不可欠な計算資源としてGPUが注目を集め、その性能向上がAIの発展を加速させるとの見方が示されました。基調講演においては、AIの進化が最終的にPhysical AIへと至るロードマップが提示されています(図表1)。

図表1:AIの発展ロードマップ(CES2025基調講演より)

<CES2026における変化>

CES2026では、エネルギー分野における再生可能エネルギーの議論は相対的に後退しました。核融合炉の実証炉に関する発表が見られたものの、デジタルツイン上でのシミュレーション段階にとどまり、長期的な構想として位置づけられています。一方AIについては、GPUやLLMといった個別技術の進化を超え、現実世界全体を対象とした学習・推論・予測を行う世界基盤モデルへの移行が明確に示されました(図表2)。CES2026では、Physical AIの実現に向けた取り組みが、特定の技術領域にとどまらず複数の産業分野から提示された点が特徴的です。

図表2:CES2026における変化

産業AI革命(世界基盤モデルと産業AI OSによる構造変化)

CES2026で示された重要な潮流の一つが、いわゆる「産業AI革命」です。これは、AIを個別業務や設備の最適化に用いる段階を超え、産業全体の意思決定、運用、責任の在り方に組み込むことで、産業構造そのものを変革する動きと整理できます。これまでのデジタル技術は、企業単位のDX(Digital transformation)や、製造現場を中心としたIndustrial transformationの文脈で導入が進められてきました。CES2026ではこれをさらに発展させ、AIを前提として産業の競争ルールや運用モデルを再定義するIndustrial AI transformationの方向性が示されました。この産業AI革命は、以下の2つの要素によって推進されます。

  • AIの学習・推論・シミュレーションを担う世界基盤モデルと計算力
  • 設計、製造、運用、インフラを横断的に統合する産業AIオペレーティングシステム(OS)

産業AI OSは、AIが産業活動の中でどの範囲まで判断を行い、最終的な責任を誰が負うのかといったガバナンス設計を担う基盤となるものです。この点において、管理者視点で都市運営を最適化する都市OSとは異なり、産業AI OSは世界基盤モデルを活用した学習・推論・予測を前提とする「観測者・予測者」の視点を有する点が特徴です。この結果、例えば製造業の工場は、従来の減価償却資産としての位置付けから、自己学習を通じて価値を高める知能資産へと変化する可能性が示唆されます。

スマートホーム領域における進展

CES2026では産業分野に加え、家庭という単位におけるAIとエネルギーの統合にも注目が集まりました。特に、スマートホームをテーマとしたパネルディスカッションが多数開催された点は注目に値します。その中心となったのが、標準化プロトコルであるMatterです。Matterは、米国のBtoC向けITプラットフォーマーを中心に家電・機器メーカーが参加するエコシステムを形成しており、宅内機器の相互接続と統合制御を可能とします。米国では電気料金の上昇を背景に省エネルギーおよびエネルギーマネジメントへの関心が高まっており、Matterは家庭用蓄電池やEV充電器といった、エネルギーとモビリティの接点としての活用も期待されています。
日本においては、HEMS(Home Energy Management System)等の導入コスト負担がスマートホーム普及の課題となってきました。一方、米国ではITプラットフォーマーが広告収益を活用するなど、利用者負担を抑えるモデルが模索されている点が特徴的です。CES2025ではMatter対応機器の登場自体が主な論点であったのに対し、CES2026では、Matterを前提としたAI連携や新たなビジネスモデルの検討へと議論が進展しました。AIの進化により、スマートホームはルールベースの制御から、ユーザー行動を学習・予測するAI主導の制御へと移行しつつあります。

今後に向けた示唆

CES2026から得られる示唆は、主に以下の3点に整理できます。

  1. EV充電を中心とした家庭内エネルギー制御の高度化
    家庭内エネルギー需要に占めるEV充電の割合は今後増加が見込まれます。EV充電制御の最適化は、電力コスト削減および需給調整の観点から重要性を増すと考えられるでしょう。CES2026で注目されたMatterは、日本におけるEV充電制御の新たな選択肢となる可能性を示唆しています。
  2. クラウド中心からエッジ処理への移行
    Matterを通じたクラウド制御は利便性が高い一方で、プライバシーや遅延といった課題が存在します。今後は、エッジ側でのAI処理を前提としたアーキテクチャへの移行も特定の用途では進む可能性があります。その際、競争の焦点はGPU単体ではなく、エッジ環境で生成AIを安全かつ低遅延で運用するためのフルスタックへと移行すると考えられます。
  3. 日本企業にとっての機会:運用知の活用
    エッジAIの実装には、シリコン、ソフトウェア、運用、セキュリティといった要素が必要となりますが、とりわけ運用面の知見は、既存のGPUメーカーが必ずしも強みを持つ領域ではありません。製造業やモビリティ分野で培われた日本企業の運用・安全・責任設計に関する知見は、産業AI時代において差別化要因となる可能性を秘めています。

図表3:産業構造の変革の例

今後、産業構造は、世界基盤モデルと産業AI OSを中核とするインフラ統合型へと移行することが想定されます(図表3)。その中で日本企業が競争力を発揮するためには、AIを産業に組み込む際の「運用設計」における価値創出が重要になるのではないでしょうか。

執筆者

志村 雄一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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竹内 大助

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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