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国際エネルギー情勢に関する分析と政策提言のため、IEAが毎年発行しているWorld Energy Outlook(WEO)の最新版が2025年11月に発行されました。今回特に強調されていたのが、「世界が電化時代(Age of Electricity)に突入し、電力需要が急速に高まっている」という点です。近年、エネルギーコストや産業競争力への配慮などを背景に、欧米を中心に脱炭素政策の修正・減速といった動きも見られ、世界の脱炭素への論調は二極化してきています。その一方で、WEO2025では、今後のAI、データセンター、EVの増加などを主因として、世界の電力需要は2035年までに40~50%程度増えていくと予想しており、「電化の時代」は不可逆であることがわかってきています。本ニュースレターでは、最新のWEO予測に対して、現状の日本の見通しや計画がその内容に沿っているのか、今後どのような電力環境が求められていくのかについて考察していきます。
WEO2025では3つのシナリオ(※1)に沿って予測が展開されています。3つのシナリオとは、現在世界各国で導入されている政策のみで進むことを想定する現行政策シナリオ(CPS)、各国が表明済みの具体的政策に基づいた公表政策シナリオであるSTEPS、2050年までにネットゼロが達成される道筋を示したシナリオ(NZE)を指します。現行政策シナリオ(CPS)に沿って進んだ場合、2100年には世界の平均気温が3度近く上昇するという衝撃的な予測が示されました。パリ協定で合意されている、産業革命前比で気温上昇を1.5度に抑えるという目標の2倍近くの上昇となっており、現在の取り組みだけでは全く不十分であることが示されています(図表1)。
図表1:WEO3つのシナリオ別気温上昇予測
電化の新時代を迎えた今、将来的な電力需要の増加に応えるため、発電設備容量を増やしていく必要があります。ただし、世界全体が2050年までのネットゼロを目指す中、化石燃料による火力発電をこれ以上増やすことは選択肢に上りません。このため、今後容量を増やす必要がある燃料は主に再生可能エネルギー(再エネ)と原子力発電(原発)ということになります。WEO2025では、1.5度目標を達成するNZEとして、2035年までに世界全体で再エネは4倍程、原発は1.75倍程設備容量を増やす必要があると予測しています。また、エネルギーの生産性も1.5倍程改善する必要があるとしています(図表2)。日本政府は第7次エネルギー基本計画(エネ基)(※2)において、2040年の電力の見通しや各電源別の構成割合目標などを掲げていますが、果たしてこの見通しや目標は、WEOの描く2050年ネットゼロの姿を満たすものとなっているのでしょうか。次項で検討していきます。
図表2:NZEにおけるエネルギー移行の主要指標
経済産業省が第7次エネ基と共に発表している「2040年度におけるエネルギー需給の見通し(※3)」によると、2040年の日本の発電電力量の見通しは1.1~1.2兆kWh程度とされています。政府が第7次エネ基で掲げる電源構成目標は、再エネがこの内の4~5割程度、原発が2割程度となっています。各種電源の設備利用率を用いて2040年に日本が目指す設備容量をPwCが計算(※4)したところ、再エネが最大で270GW、原発が36GWとなります。2024年時点での再エネ設備容量が141GW、原発が33GWであるため、日本政府の計画では2040年までに再エネを1.9倍、原発を1.1倍程度増加させるという見通しとなります。
前述のように、WEO2025のNZEでは2035年までに世界全体で再エネを4倍、原発を1.75倍程度増加させる必要があるとしています。国ごとの増加必要量には違いがありますが、世界平均から考えると、日本の2040年までの設備容量増加シナリオでは、WEOが提示する2035年での必要設備容量にも足りていません。この結果、現状のままでは2050年でのネットゼロを達成できない公算が大きいということになります。冒頭で触れたとおり、世界の脱炭素への方向性は一貫したものではなくなってきています。この点で、ネットゼロの達成という題目は以前ほど強力な誘因とはならなくなってきているのかもしれません。ただ一方で、「2040年度におけるエネルギー需給の見通し」において、日本の電力需要は2022年から2040年までに1.2倍程度に増える想定となっています。世界全体で2035年までに需要が40~50%程増えていくというWEOの予測を考えると、日本での電力需要も2040年には1.2倍以上に増加する可能性があります。この「電化の時代」の到来という避けては通れない未来においても、日本の2040年の設備容量の見通しでは想定が不十分ではないかと考えられます。
WEO2025では、CPSとNZEにおける各種電力関連項目への、世界全体の必要投資金額の乖離も示されています。予測によると再エネに対する必要投資金額が最も大きく乖離しており、その次にエネルギー効率、送電網・蓄電への投資が必要となっています(図表3)。PwCの試算(※4)によると、日本政府の再エネ計画はWEOが世界的に求めるNZEでの設備容量水準と2倍以上の開きがあり、再エネやエネルギー効率改善への投資を大きく引き上げていくことが不可欠であると言えます。ただし、この差は現状想定されている対策では埋まらないため、今後のイノベーションによる飛躍的な伸びが必要となってきます。こうしたイノベーションへの取り組みは、ネットゼロの達成という観点だけではく、国力や産業競争力の向上という観点からも求められるものであり、二極化した社会にも説得力を持って捉えられる可能性があります。
図表3:燃料供給、電力、最終用途における平均年間投資(種類とシナリオ別、2022~2035年)
日本政府は2050年カーボンニュートラル実現のために注力する革新技術として、以下の6つを上げています(※5)。
ペロブスカイト太陽電池と浮体式洋上風力については既に政府から、2040年までに合計35GWとする導入目標容量が示されていますが、これだけでは足りず、他の革新技術による大幅な上積みが必要となっています。また、光電融合技術による電力利用の効率化や省電力化など、エネルギーの生産性を上げる取り組みも重要です。
2050年のネットゼロを達成するために、また本格的な「電化の時代」到来に向けて備えるために、今、日本および日本企業はどのような電力戦略・投資判断を取るべきなのでしょうか。私たちPwCはこれらの戦略判断や革新技術導入などに向けた投資判断において、GX(グリーントランスフォーメーション)ビジネス開発支援、技術インテリジェンス支援など、意思決定と価値創出を支える伴走型の支援を提供しています。
PwC Japanグループでは、カーボンニュートラルとエネルギー安定供給の両立を目指したグリーンエネルギーの普及や分散化の促進を通じて、多様な業界/クライアントのビジネスにおける新たな価値への転換を支援します。
(※1)World Energy Outlook2025における3つのシナリオ
(※2)第7次エネルギー基本計画
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/20250218_01.pdf
(※3)経済産業省「2040年度におけるエネルギー需給の見通し」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/20250218_03.pdf
(※4)2040年発電設備容量の試算方法:
設備容量(GW)=発電量(TWh)÷(設備利用率×年間時間数(8,760h))×1,000
設備利用率は経済産業省「発電コスト検証に関するとりまとめ」での2023年時点の各種電源の設備利用率を想定(モデルプラント方式)。技術の進展による設備利用率改善は考慮に入れない
経済産業省「発電コスト検証に関するとりまとめ」
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/pdf/cost_wg_20250206_01.pdf
(※5)日本政府が注力する6つの電力革新技術:
「エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2025)より
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2025/pdf/whitepaper2025_all.pdf
(※6)光電融合技術:従来の電気信号と比較してエネルギー消費や処理遅延が大幅に小さい光信号を、データ処理や通信に活用する技術。データセンターなどにおける消費電力の大幅な削減が期待できる技術であり、デジタル化と脱炭素化の両立を支える技術として期待されている
(※7)ペロブスカイト太陽電池:従来のシリコン型太陽電池と比較して、軽量で柔軟といった特長をもつ、日本発の次世代型太陽電池。従来設置が困難であった耐荷重性の小さい屋根や壁面などにも導入でき、再エネ導入拡大と地域共生を両立する役割が期待されている
(※8)浮体式洋上風力:風車を海底に固定するのではなく、洋上の浮体構造物に設置する発電方法。水深の深い沖合でも導入が可能なため、今後の洋上風力の導入拡大に欠かせない技術
(※9)次世代型地熱発電:「クローズドループ方式」「超臨界地熱発電」などがある。「クローズドループ方式」は、地下の高温の地層に人工的にループを掘削・設置し、内部に水などを流し込み、発生した蒸気でタービンを回して発電する地熱発電の方法。「超臨界地熱発電」は、地下深部(3~6km以上)の超高温・高圧の地熱流体を利用することで、従来よりも高出力での地熱発電が可能となり、また、発電効率の向上も期待される技術
(※10)革新軽水炉:設計段階から新たな安全メカニズムを組み込むことにより、万が一の事故があった場合にも放射性物質の放出を回避・抑制するための機能を強化した原子炉
(※11)小型軽水炉(SMR):出力が30万kW以下の小型軽水炉。自然循環により、冷却ポンプや外部電源なしで炉心冷却が可能
(※12)高速炉:冷却材にナトリウムを利用することでプルトニウム燃焼を効率的に行う。廃棄物量・有害度低減、資源の有効利用など核燃料サイクルの効果を向上させる
(※13)高温ガス炉:発電だけでなく高温熱を利用して水素製造を行う。冷却材に化学的に安定なヘリウムを利用。減速材に耐熱性や蓄熱性などに優れた黒鉛を利用することで冷却機能を喪失しても自然に冷温停止が可能
(※14)核融合:核融合反応から得られる熱エネルギーを利用して発電。
(※15)合成メタン:CO₂と水素を合成して製造される。既存のインフラなどを利用できるため、ガスの円滑な脱炭素化に寄与する。
※6~15の技術定義は「エネルギー白書」、第7次エネルギー基本計画、経済産業省各種資料より抜粋。
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