【エネルギー業界における買収先、出資先のデューデリジェンス】―コンプライアンスデューデリジェンス(CDD)―

  • 2025-11-28

はじめに

近年ロシアをはじめとした地政学リスクがくすぶる中、エネルギー業界は、国内のみならず電力が不足しているアジアを中心とした新興国、発展途上国においてもエネルギーの安定供給に寄与すべく、活発にビジネスを展開しています。
このような状況下、買収、出資、アライアンスといった形態の違いはあるものの、日本企業では海外のエネルギー企業や政府機関とこれまで以上に関係を持つ機会が増えているものと推察します。
ビジネスチャンスを掴むには当然リスクが伴うというのは読者の皆さんもご認識のことかと思います。そこで今回は、海外、特に、新興国や発展途上国、消費者物価指数(CPI)の低い国・世情不安を抱える国、あるいはFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)が「マネーローンダリングの可能性が高い」と指定している国の企業や政府機関と取引を開始する前に確認しておくべきコンプライアンスデューデリジェンス(CDD)について触れていきます。

エネルギー会社におけるCDDとは

デューデリジェンスというと、財務デューデリジェンス、税務デューデリジェンス、法務デューデリジェンス(法務DD)、ITデューデリジェンスあたりを思い浮かべる方も多いと想像しますが、近年は地政学リスクの高まりもあり、CDDを本格的に実施している企業が増えています。
バックグラウンドチェック(関係する企業や役員などの不芳情報チェック)を実施していない企業は少ないかと思いますが、エネルギー会社においては、もう一歩踏み込んだCDDを実施する必要があるというのが私たちの認識です。グローバルでの贈収賄事例や制裁金額などを確認すると、経済制裁や贈収賄といったコンプライアンス領域においては、エネルギー会社が他の業界より圧倒的にリスクが高い状況です。
これは、もともとエネルギー会社のビジネスに政府関係者が絡むことが多い、また、取引新興国、発展途上国、世情不安国においては、制裁や贈賄に関する規制が緩く、一方、エネルギー会社はドルを中心とした通貨で取引をしているため、米国の法令等の域外適用をもろに受けるという構造的な問題があるためと私たちは考えています。
従って、エネルギー会社においては、コンプライアンス全体の根幹となるガバナンスに加え、少なくとも上記2つの領域では、取引先と関係を持つ前にしっかりとしたデューデリジェンスを実施し、実施した内容を証跡として記録化すること、事後的に問題が発覚した場合でも当局に説明できるようにしておくことが必要になります。
例えば、米国のFCPA(連邦海外腐敗行為防止法)ガイドラインにも、持分比率が50%を超えない出資であっても、できることを最大限実施するよう求められており、CDDは必須事項になっています。補足しますと、近年ESGや非財務リスクが注目されており、経済制裁、贈収賄の2領域に加え、サプライチェーン全体での人権、環境、地域社会との共生といったテーマをデューデリジェンスの対象に加えることも不可欠となってきています。

法務DDとCDDの違い

ご質問を受けることが多いので、法務DDとCDDの違いについてここで触れておきます。前者は、取引実行の障害となり得る法律上の問題点や、対象となる企業・事業が有する法律上の問題点の有無およびその内容について確認することです。具体的には、契約、訴訟といった既に起きている事象を掘り下げて見ていくことになります。一方の後者は、取引関係を持った後では対応が難しい、取引関係を持つ段階では表面化していないリスクを見つけにいくものです。
具体例を挙げると、取引関係を結ぼうとしている先が経済制裁スクリーニングを十分に実施していない(または理解していない)、贈収賄ルールや社内の罰則規定、モニタリング体制が脆弱で、既に政府関係者との間になんらかの贈収賄行為をしている可能性がある、といったようなケースです。
このように高い残存リスクが存在する場合において、ディールを破棄するのか、もしくは対象企業から誓約書等を取り付けるのかといった、ディール成立前に経営判断が求められる事項を検出することが、CDDの目的になります。

CDDの流れ

図表1に買収時のCDDの対応フロー例を示しました。少額出資の場合も買収時と基本は同じプロセスをたどるのですが、少数株主であるという制約もあるため、実際に得られるエビデンスが限定的なこともあります。そのような場合であっても最善を尽くし、実施内容を証跡と合わせて記録化しておくことをおすすめします。

図表1:CDDの対応フロー例

【Non Access DD】

対象企業とやりとりの許可が下りる前の段階でのデューデリジェンスを指します。対象会社に情報が漏れることがないよう、細心の注意を払いながら進めることが何よりも重要となります。主な実施事項は図表2のとおりです。
なお、私たちがデューデリジェンスを実施する場合、PwCのグローバルCDDフレームワークをベースに各エネルギー会社の個別の案件、事情に即したものに仕立てます。
チームを組成する際は、本邦と現地それぞれにコンプライアンスに関する専門家とエネルギーの専門知見を有する者を含めます。現地のコンプライアンス専門家は、現地の当局目線を把握しており、現地のコンプライアンス事情に精通している者が参画します。また、現地のエネルギーの専門知見を有する者は、現地のエネルギー業界固有のビジネスの商慣習・規制構造に精通しており、ESGやインフラ事業特有のパートナー選定リスクへの対応などの経験を有している者を参画させることが多いです。

図表2:NonAccessDDの主な実施項目

【Access DD】

対象企業とのコンタクトの許可が下りた後のデューデリジェンスを指します。対象企業に丁寧に説明し、情報をつまびらかに開示してもらうことが何よりも重要です。中でもAccess DDの後半に実施するマネジメントインタビューは重要であり、書面では聞きづらいセンシティブな情報を聞き出したり、買収後、改善をお願いするような事項があれば、口頭でも構わないので、ここでコミットしてもらうことになります。主な実施項目は図表3のとおりです。

図表3:Access DDの主な実施項目

チェックリスト例

最後に、ご参考までにCDDで活用するチェックリスト例をお示しします(図表4)。経済制裁や贈収賄を中心とした内容の場合、30問から50問程度の設問を用意しておけばよいですが、入札環境、買収先の国や規模等に応じ、リスクベースアプローチで使い分けることも有用でしょう。

図表4:CDD設問に関するチェックリスト例

執筆者

正木 重治

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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