【インハウスバリュエーション】― 企業と投資家の認識ギャップに基づく企業価値向上に向けた取り組み―

  • 2025-08-29

インハウスバリュエーションによる企業と投資家の認識ギャップの理解が必要とされる背景

2012年12月に発足した第2次安倍内閣における「民間投資を喚起する成長戦略」の流れをくみ、日本企業の持続的な成長と中長期的な価値向上を目指す取り組みとして、スチュワードシップコードおよびコーポレート・ガバナンス・コードの改革が進められてきました。特に、2023年3月末に東京証券取引所が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」を公表して以来、日本の上場企業における企業価値向上に向けた取り組みは加速しています。資本コストや株価を意識した経営に基づく株価を形成するためには「企業と投資家の認識ギャップ」を把握した上で戦略を検討し、経営目標の設定、開示や対話の推進などを行っていくことが重要であり、電力・ガス・エネルギー業界においても、社内にアナリスト目線を持つことの重要性が高まってきています。

それでは、「企業と投資家の認識ギャップ」は、どこに潜んでいるのでしょうか。一般社団法人生命保険協会が公表している『生命保険会社の資産運用を通じた「株式市場の活性化」と「持続可能な社会の実現」に向けた取り組みについて(2024年度版)』では、投資家は「経営計画・経営戦略」「情報開示」「取締役の質の向上」「投資家との対話方針」などを重視するとしています。企業もおおむね同様の項目を重視していますが、「取締役の質の向上」については、強化する取り組みとして挙げていない企業が大半を占めています。

図表1:今後取り組みを強化する事項(企業)/強化を期待する事項(投資家)(%)

また、経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システム研究会によると、日米における取締役のスキル保有状況の比較では、CFOが管轄するような領域におけるスキルに如実な差異が見られ、このことは日本企業ではファイナンスや企業価値の観点から経営戦略を統合的に検討する取り組みが不足していることを示唆しています。

図表2:取締役のスキル保有状況に関する日米比較

その他にも、企業と投資家の間にはさまざまな認識ギャップが存在すると考えられますが、一例として投資意思決定時の判断基準の指標が挙げられます。例えば、投下資本利益率(ROIC)については88%の投資家が重視する一方、半数以上の企業が重視しないという調査結果が出ています。同様に、半数以上の投資家が「企業の自己資本利益率(ROE)は資本コストを下回っている」と考えている一方で、半数以上の企業は逆に「ROEが資本コストを上回っている」と考えているという大きな認識ギャップが生じています。このような認識ギャップは、適切に対応しなければ株価の低迷やアクティビスト活動の対象となり、長期に渡って多くのリソースをその対応に割くというリスクについても考慮する必要があります。

図表3:企業と投資家の認識ギャップ(例)

インハウスバリュエーションの手順と得られる示唆の例

企業と投資家の認識ギャップを識別するためのインハウスバリュエーションは例えば以下の手順で進めます。

  • 市場情報に基づく分析を通じて概括的に課題に関する仮説を構築
  • 公開情報に基づいた外部目線による企業価値分析(アウトサイドイン分析)
  • 内部情報を用いた積み上げによる企業価値分析(インサイドアウト分析)
  • アウトサイドイン分析とインサイドアウト分析に基づく認識ギャップの分析
  • 認識ギャップを考慮した今後の方向性に関する示唆出し

市場情報に基づく分析では、株主総利回り(TSR)や時価総額、株価純資産倍率(PBR)、株価収益率(PER)、ROE、株主資本コストの時系列およびベンチマーク比較分析などにより、課題に関する仮説を概括的な視点で構築します。図表4の例では、直近3年間でEV/EBITDA倍率の低下によるTSRの大幅下落が観察されており、投資家の期待形成に課題があるのではないかと考えることができます。

図表4:市場情報に基づく分析(例)

差込

次に、市場情報に基づく分析の示唆も考慮しながら、アウトサイドイン分析とインサイドアウト分析を行った上で、認識ギャップの分析を行います。公開情報と比較して、内部情報は詳細な粒度かつ長期的な計画を有していることが多く、企業価値評価を行う際の分析単位(全社、開示セグメント、SBUなど)や時間軸の差も意識しながら、成長性、資本効率、資本コストなどの項目についてギャップ分析を行っていきます。その結果、企業価値の観点から重要なギャップとして、例えば図表4の場合はA事業において企業が考えるほどの成長性を市場が織り込んでいないということや、企業が別事業として整理しているBとCが外部からは同じセグメントとして評価され、過小評価されてしまっているということなどの示唆を得ることができます。

最後に、識別された認識ギャップを考慮しながら、今後の方向性について整理します。A事業において企業が考えるほどの成長性を市場が織り込んでいないということであれば、企業が情報を開示している短期的な目線でのギャップなのか、外部に情報が開示されていないような長期的な目線でのギャップなのかを意識しながら、必要な対応施策を検討します。また、BとCが外部から同じセグメントとして評価されている状況に対しては、市場のパーセプションを変えるために必要な対応策を整理します。

認識ギャップを把握した上で、企業価値向上施策を検討するにあたっては、「全社・事業戦略と融合した財務戦略およびそれらを支える経営基盤を整備した上で、明確で一貫性のあるストーリーとして市場に提示することが重要」とするPwCの企業価値向上のための統合的アプローチも参考に取り組んでいただければと思います。

図表5:PwCが提唱する企業価値向上のための統合的アプローチの全体像

差込

執筆者

中尾 宏規

パートナー, PwCアドバイザリー合同会社

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山本 大貴

ディレクター, PwCアドバイザリー合同会社

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牧 洋子

シニアマネージャー, PwCアドバイザリー合同会社

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