【水素のポテンシャルと実現に向けた課題】~投資の予見性を高めるには~

2022-11-11

※2022年11月に配信したニュースレターのバックナンバーです。エネルギートランスフォーメーション ニュースレターの配信をご希望の方は、ニュース配信の登録からご登録ください。

ネットゼロの実現に不可欠なローカーボン水素とその展望

2050年ネットゼロ目標の発表が相次いだ2020年から、はや2年が経とうとしています。ネットゼロ実現には化石燃料の脱炭素化が必須であり、水素はCCUS(二酸化炭素の回収・有効利用・貯留)と並び、排出削減困難なセクター(hard-to-abate)にとって脱炭素の切り札となります。

2020年以前に水素戦略を発表していたのは、日本、韓国、オーストラリアなどのごく一部の国でしたが、2020年から2021年にかけ、EUおよびその加盟国、さらにはチリ、カナダなどが相次いで水素戦略を発表し、現在では約50カ国が策定済、あるいは策定中です。

そして「IEA Global Hydrogen Review 2022」は発表誓約シナリオ(各国が宣言した野心を反映したシナリオ)の中で、2030年の水素の需要規模は2021年の需要規模である94mtを30%超上回る、130mtに達するとの見通しを示しています。

世界各地でかつてない規模と速度でプロジェクトが開発され、特に日本企業の関心が高いオーストラリアでは90件以上のプロジェクトが発表されています。そのうち70件以上がこの2年以内に発表されたものであり、それらの投資規模は2,500億オーストラリアドルを超えています。

変遷する課題

WEC(World Energy Council)とPwCの見解によれば、ローカーボン水素についての課題は、かつては開発するかどうかが焦点となっていましたが、その後対処すべき不確実性が明らかになったことで、現在では水素の可能性を最大限に発揮するための対策を取り、どのようにして開発するかという点が問われています。

政府の水素戦略発表に後押しされ、水素製造プロジェクトのパイプラインは増加していますが、IEAの調査では大半のプロジェクトがフィージビリティスタディなどを実施している計画段階にあり、最終投資決定(FID)に到達しているプロジェクトはわずか4%に留まっています。

プロジェクトの進展を加速させるためには、契約形態や価格決定のメカニズムなどの取引の仕組み作りが必要と言えるでしょう。

先行する支援策

日本でも、水素やアンモニアの商用サプライチェーン支援制度の導入が検討されていますが、他国でも同様に進められています。

米国では、バイデン政権が気候変動対策を積極的に推進しており、2022年8月にインフレ削減法(Inflation Reduction Act)が成立し、クリーン水素への最大3米ドル/kgの税額控除を発表し、コスト競争力の強化に寄与するとして期待が寄せられています。

英国では、2022年Low Carbon Hydrogen Business Modelが最終化される見通しで、ボリュームリスク、価格リスクを低減させる支援策が検討中です。

ドイツでは、2021年6月にH2Globalメカニズムが発表され、入札プロセスを経て 、2024~25年頃には同メカニズムに基づく取引が開始する予定です。このメカニズムは、欧州外で製造されるグリーン水素とその派生プロダクト(例:アンモニア)を対象とし、供給者とHydrogen Intermediary Network Company GmbH(Hintco)との長期購入契約、Hintcoと需要家の短期(1年程度)の供給契約が締結されます。買取価格と販売価格の値差は政府からの補助にて補填されます。2022年7月に発表されたタームシートドラフトでは、10年間の固定価格契約およびTake or Pay条項が示され、需要リスクが低減されます。他方、水素利用の初期段階で長期の需要量が不確実である需要家は、水素の利用状況に鑑みながら短期の調達契約が可能となります。需給双方で入札が実施されるため、全てのプロジェクト、需要家が対象ではないものの、リスクを低減し、市場を作っていくために有用な仕組みの1つだと言えます。

EUも、2022年9月に30億ユーロの資金規模のEU Hydrogen Bankを設立し、Innovation Fundの資金を活用し、水素のオフテイク保証を発表していることから、需要のリスクの低減の重要性がうかがえます。

LNGからの学びを活用して課題を克服

「先達はあらまほしきことなり」と言いますが、私たちにはLNGという先達があります。戦後の日本のイノベーション100選の一つであるLNGですが、当時は天然ガスの液化や船舶での輸送は技術的難易度が高いと考えられており、ターミナルも整備されていませんでした。しかしながらLNGが最初にアラスカから輸入された1969年から半世紀を経た現在、LNGは日本のエネルギーの柱になりました。

LNG開発にあたっては、民間による巨額の設備投資資金で賄う必要があったため、信用力の高いユーティリティによる長期買取契約を土台とした枠組みが構築され、それが上流開発資金の確保のカギとなりました。その後、LNG市場が拡大し、多くの需要が生み出されたことから長期契約とスポット契約を組み合わせた形でプロジェクト開発が進みました。取引の仕組みづくりだけではなく、エネルギー安全保障やよりクリーンなエネルギー活用を推進する政策、巨額の投資に対する公的金融機関と民間金融機関による資金供給に、LNGで培った経験が参考にできると考えられます。

さらにご興味のある方は、下記のサイトをぜひご覧ください。

【グリーン水素経済 - 今後の「脱炭素」の重要市場を予測する】
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/green-hydrogen-cost.html

【Getting H2 right】
https://www.pwc.com.au/integrated-infrastructure-building-australia/getting-h2-right-australias-competitive-hydrogen-export-industry.html

執筆者

小仲 夕紀

マネージャー, PwCアドバイザリー合同会社

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