
持続可能な化学物質製造への道筋
化学産業の脱化石化は、世界的なネットゼロを実現する上で最も重要な要素の1つといえます。本レポートでは、基礎化学物質の脱化石化に向けた具体的な道筋を示し、予想されるCO2排出削減効果や必要な投資について説明します。
2021-12-24
※2021年11月に配信したニュースレターのバックナンバーです。エネルギートランスフォーメーションニュースレターの配信をご希望の方は、ニュース配信の登録からご登録ください。
今回は、日本のエネルギー業界としてどのように脱炭素化を推進していくことが可能か、また求められている役割はどのようなものか、考察いたします。
2021年10月31日から11月12日まで英国・グラスゴーで開催された「国連の第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)」には、先進各国政府首脳や多様な専門家が参加し、今後の気候変動対策について議論が交わされ、さまざまな宣言が発表されました。
日本からは岸田文雄首相が出席し、日本の温室効果ガスの削減率は2021年4月に当時の菅義偉首相が気候サミットで掲げた数字を踏襲し、2030年に2013年比46%の削減を目標として進めるとともに、50%の削減も目指す旨の宣言を行いました。その中で、再生可能エネルギーの導入とともに、アジア全体における火力発電のゼロエミッション化の推進をけん引するとの説明をしました。
一方で、アジア全体の脱炭素化を目指す岸田首相の宣言を受け、「気候行動ネットワーク(CAN)」は未確立の技術に頼って既存の火力発電を推進するものであるとして、「化石賞」に日本を選びました。各国首脳がCOP26に参加するために消費した航空燃料についても議論を呼ぶなど、気候変動へより踏み込んだ対応策が期待されていることも目立ちました。加えて、南太平洋にある島嶼国ツバルのサイモン・コフェ(Simon Kofe)外相が、太ももまで海につかりながら気候変動対策を訴える動画を公開し、国家の存続に差し迫った危機が及んでいることを訴えました。
実際に、気候変動の研究グループClimate Action Trackerによれば、COP26で各国の宣言が実行されても、今世紀末には1.8度の上昇が想定されるとの研究発表が出されるなど、地球温暖化は待ったなしの状況です。そのような中で、エネルギー業界の脱炭素化が地球の命運を握っているといっても過言ではありません。
日本のエネルギー業界としてどのように脱炭素化を推進していくことが可能でしょうか。また、求められている役割はどのようなものでしょうか。
カーボンニュートラルを宣言した日本の温室効果ガス排出量(2021年4月環境省発表:確報値)のうち、91%を二酸化炭素(CO2)が占めています。そのうちエネルギー起源の排出量は93%(全体の約85%)となっており、エネルギー起源のCO2排出量の削減が喫緊の課題となっています。
環境省によると、2013年度のCO2排出量に対して、2019年時点で排出量は15.9%削減されています。その他の温室効果ガスを含めても約14%の削減を達成はしているものの、ゴールがカーボンニュートラルである限り、エネルギーの脱炭素化なくして日本の脱炭素化はあり得ないということになります。
その中でも、最も大きな割合を占めるのが電力(エネルギー転換部門)です。電力は他のエネルギーと異なり、日本国民全員が利用しているエネルギーであるため、この領域の転換が必須となります。日本では、水力とその他の再生可能エネルギーを合わせた電力比率は2019年度の時点で18%(水力7.7%、その他再生可能エネルギー10.3%)となっており、原子力の6.2%を入れてもカーボンフリーのエネルギーは25%弱にとどまっています。
産業部門で活用される重油、軽油、および産業ガス、また運輸部門で使われるガソリンや軽油、業務部門や家庭部門で使われる都市ガスやプロパンガスなどの燃料もまたエネルギー源として脱炭素エネルギーへと切り替えを行っていく必要がありますが、30~40年単位で利用するインフラ業界にとって2050年までへのカーボンニュートラルは非常に大きなハードルと言わざるを得ません。
現時点で、化石燃料への依存割合を低めたり、アンモニアの混焼、水素発電の導入、CCSによって低炭素化したLNGの活用なども含めて、電力会社は既に脱炭素化に向けて業界全体で努力をしているものの、大きなパラダイムシフト、変革が必要なタイミングになっていると言えます。
エネルギー業界は脱炭素化ドミノの起点として、そのエネルギーを活用する企業・個人への大きなインパクトを提供できる領域となっています。これまでと同様に、人々の暮らしと生活基盤を支えるために、提供するサービスをサステナブルにすることはエネルギー業界にとっての使命となります。
エネルギー業界だけで、提供する電力や燃料の全てを脱炭素化燃料へ切り替えることは現時点では非現実的と言えます。冷暖房、自動車、発電機などエネルギーを利用する機器は多様化しており、ほとんどが化石燃料由来の燃料を活用しているからです。また、再生可能エネルギーの導入可能量も日本国内での適地は徐々に少なくなってきており、日本のエネルギー消費量を支える発電量を確保することが現時点では難しい状況です。
そのため、そもそものエネルギー利用のあり方から変革する必要があり、そのためには多様な業界とのコラボレーションと新たなビジネスモデルの構築が必要となります。例えば、エネルギー業界と自動車、産業設備業界と連携したインフラの整備・転換、業務部門である施設の設備機器の切り替え、またAIやIoT機器の導入による効率的な運用などの新たなサービスの構築がカギとなります。
こうしたエネルギー活用の変革には、一過性のアクションではなく、継続的な取り組みが求められます。全国民が多少負担する必要はありますが、取り組みをサステナブルなものとするためには、継続的に個人や企業が負担を強いられるのではなく、容易に実施できる仕組みを構築することや、コストの削減と利便性の向上を両立し、実際に大きなメリットがもたらされることが重要となります。
化学産業の脱化石化は、世界的なネットゼロを実現する上で最も重要な要素の1つといえます。本レポートでは、基礎化学物質の脱化石化に向けた具体的な道筋を示し、予想されるCO2排出削減効果や必要な投資について説明します。
PwC Japan有限責任監査法人は4月11日(金)より、表題のセミナーをライブ配信します。
本書では、SDV(ソフトウェア定義車両、Software Defined Vehicle)とは何か、今後何をすべきかを検討いただく一助として「SDVレベル」を定義し、SDVに関するトピックや課題を10大アジェンダとして構造分解して、レベルごとに解説しています。(日経BP社/2025年4月)
エンタープライズクラウドおよび産業用AIソフトウェアの大手プロバイダーであるIFSとPwCコンサルティング合同会社は、エネルギー産業をはじめとした設備を保有する企業の投資最適化・アセットマネジメント高度化に向け、協業を開始します。