税務判例検討:取引相場のない株式の個人から法人への譲渡についてその価格の評価(所得課税)が問題となった事例‐最高裁令和2年3月24日判決‐

2020-05-28

PwC Legal Japan News
2020年5月28日

最高裁判所は、2020年(令和2年)3月24日、個人が法人に対して取引相場のない株式を譲渡した場合の株式の「譲渡の時における価額」(以下「譲渡時価額」といいます)(所得税法59条1項2号所定の著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(低額譲渡)に該当するか否か)が問題となった事案(以下「本件」といいます)につき、納税者勝訴の判断を下した東京高裁平成30年7月19日判決(以下「原判決」といいます)を破棄し、東京高裁に差し戻す判決を下しました(以下「本件判決」といいます)。

所得税法59条1項の適用に当たり、所得税基本通達(以下「所基通」といいます)59-6は、株式の譲渡時価額に関して、原則として、同通達が定める一定の条件の下、財産評価基本通達(以下「財基通」といいます)の178~189‐7までの例により算定した価額とするとしていますが、(1)所基通が定めた条件(同族株主の判定を譲渡者等の譲渡直前の議決権数により判定等)と(2)財基通が定める基準(少数株主の判定を株式取得者等の取得後の議決権数により判定)との関係が不明確であったため、いかなる解釈をすべきかという点が問題となりました。

原判決は、この点について、通達の意味内容についてはその文理に忠実に解釈するのが相当であるとしたうえで、本件における株式譲受人は財基通188の(3)の少数株主に該当するから、譲渡対象となった株式の価額は配当還元方式によって算定した価額となるとして、納税者勝訴の判断を下しました。これに対し、本件判決は、譲渡所得に対する課税の場面においては、相続税や贈与税の課税の場面を前提とする財基通の定めをそのまま用いることはできず、所得税法の趣旨に即して、これ応じた取扱い(少数株主に該当するか否かも株式を譲渡した株主により判定)がされるべきであるとして、原判決が下した判断を破棄しました。

本件判決は、個人から法人に対する非上場株式の譲渡という実務上よく行われる取引類型につき、現行の通達の文言からは実務上誤解を招きやすい譲渡時価額に関する解釈(とりわけ所基通59-6に係る解釈)を明示したものであり、今後の株式等の譲渡所得に関する財産評価の実務に影響を与えるものと考えられます。本稿では、本件判決の概要を紹介するとともに若干の検討を行います。

  1. 事案の概要
  2. 本件の争点
  3. 裁判所の判断
  4. 検討
  5. 最後に

(全文はPDFをご参照ください。)

PwC税理士法人 お問い合わせ