{{item.title}}
{{item.text}}
Download PDF - {{item.damSize}}
{{item.text}}
2022-02-08
日本経済新聞2022年2月8日寄稿
PwCあらた有限責任監査法人
代表執行役 井野貴章
4月に東京証券取引所の市場区分が再編され「非財務情報」の開示も本格化する。業績データにとどまらない非財務情報の中心はESG(環境・社会・企業統治)関連の指標だ。特に最上位の「プライム市場」に上場する企業は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に基づく対応が求められる。新たな開示に伴う脅威とチャンスを指摘したい。
まず脅威についてだ。従来はTCFDへの対応も含め、非財務情報の開示は企業の「自由演技」に委ねられていた。開示の枠組みに裁量があり、内容を厳密に検証する仕組みや罰則もなかった。今後は投資家がESG情報をこれまで以上に意思決定に織り込むので情報の信頼性が問われる。不正や誤謬(ごびゅう)があり、損害を被れば訴訟を提起する恐れもある。
注意を促したいのは人工知能(AI)の普及がリスクを増幅しかねない点である。財務会計でAIが自動的に数値を集計するように、非財務情報も文字情報や不定形な数値情報を自動的に収集し、評価する手法が始まっている。
もしAIのアルゴリズムが不適切だったらどうなるか。情報開示も分析結果も誤ってしまい、経営陣も投資家もミスリードされる。海外ではAIを使った各種のサービスでトラブルが発生し訴訟となるケースが出てきている。むやみな技術への依存と過信は禁物だ。
トラブルを避けるためグローバルなルール作りが進んでいる。国際会計基準を策定するIFRS財団は国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を設立し、非財務情報の基準について6月までの完成を目指している(注)。この基準を生かすことで業績データとESGを統合した開示への道が開かれるはずだ。一方、経済産業省もAIを使用する際に、そのインパクトに応じて信頼を確保しつつ社会実装を進めるためのガイドラインを提示している。こうした動きも企業はしっかりフォローすべきだ。
非財務情報の開示に伴うリスクを認識し、的確に対応した企業は社会に信頼される。これこそがチャンスだ。そして信頼される企業が多く存在する資本市場は国の発展に貢献する。脅威をチャンスに変えるための創意工夫の余地が全ての関係者に開かれている。
(注)ISSBは、2022年3月31日、IFRSサステナビリティ開示基準の開発にあたって、IFRS第S1号公開草案「サステナビリティ関連財務情報開示の全般的要求事項」およびIFRS第S2号公開草案「気候関連開示」を公表した。いずれの公開草案もコメント期限は2022年7月29日であり、2022年後半に公開草案に寄せられたフィードバックに対し再審議を行い、2022年末までに新たな基準の公表を目指している。
※本稿は、2022年2月8日に日本経済新聞に掲載された記事を転載したものです。
※本記事は、執筆者の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
PwC Japanグループは、サステナビリティに関連した戦略から新規ビジネス創出、オペレーション、トランスフォーメーション、リスク対応、開示・エンゲージメントといった幅広い経営アジェンダを包括的かつ実践的なアプローチで支援します。
PwC Japan有限責任監査法人では、海外諸国の先行事例やベストプラクティスを基にした、企業のガバナンス向上の取り組みを効率的・効果的に支援するために、さまざまなサービスを用意しています。
PwCは、TCFD・TNFD対応を含む、気候変動や自然資本関連の情報開示について、総合的に支援します。