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2025-01-27
※本稿は、『日刊工業新聞』2024年11月28日付「経営リーダーの論点(11)」に寄稿した記事を再編集したものです。
※発行元の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
技術で勝って、ビジネスで負ける―。品質工学をはじめとする日本の製造業が世界に誇れる基礎体力を持って、経営をエンジニアリングする発想に転換することにより、価値創造経営やコーポレートトランスフォーメーション(CX)といった企業変革を考える突破口になるのではないか。技術とビジネス、そして社会課題を俯瞰(ふかん)する全体設計図(アーキテクチャー)を構想することで、モノづくりから価値づくりへのサイクルが回り、企業・産業の成長シナリオを描ける。
日本の製造業における海外売上比率は増加の一途をたどっている。事業や海外進出先が多角化したことにより、経営の複雑性が増している状況下にある。こうした中、国内での雇用やマザー工場の位置付けなどを踏まえつつ、グローバルでのサプライチェーン(供給網)の多様化、柔軟化が求められる。
テクノロジーの側面に目を向けると、自動車業界におけるCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の高度化の波に加えて、生成人工知能(AI)をはじめとするデジタル技術の浸透が、製造業にも連動してきている。この結果、従来の競合企業に加えて国内外のスタートアップやグローバルの主要プラットフォーマーをはじめとする異業種企業の台頭は目覚ましいものがある。
世界105カ国・地域の4702人(うち日本179人)の最高経営責任者(CEO)を対象にしたPwCの「第27回世界CEO意識調査」(2023年10-11月実施)によると、「現在のビジネスのやり方を変えなかった場合、10年後に自社が経済的に存続できない」と考える日本のCEOは64%だった。世界全体では45%で、米国や西欧と比較して将来に対する危機感が強い側面がうかがえる。
「技術で勝って…」とインターネットで検索すると、予測で「…ビジネスで負ける」という一文が表示される。日本の製造業が強みとする技術力と対比する形で、経営力に対する問題を想起させる事例の一つかもしれない。
そもそも「技術」のカテゴリーが広いことにも注意が必要である。技術は①コンポーネント技術②マネジメント技術③インテグレーション技術―に大別できる(図表1)。自社ビジネスにおいて、対象となる技術は誰にとっての技術なのか、その目的とする技術が何なのかを定義し、経営資源の中でどう捉えるかが大切になる。
図表1:技術のカテゴリーとその定義
技術のカテゴリー |
定義 |
例示 |
コンポーネント技術 |
製品の構成要素を作り出すための技術 |
|
マネジメント技術 |
製品を安定的に提供するための技術 |
|
インテグレーション技術 |
顧客へ最終製品として提供するための技術 |
|
では、技術とビジネスをどう両立させていくのか。技術とビジネスのプロセス、そして社会を取り巻く環境を俯瞰するアーキテクチャーを描くことで、自社と最終顧客との関係性を整理することを提案したい。製造業にとって身近な存在であるエンジニアリングの思想で考えるアプローチである。
さらに、どのようにして最終顧客までのアーキテクチャーを描いていくのかを考えると、その糸口は日本の製造業で生まれ、海外ではハウス・オブ・クオリティーと呼ばれる品質工学手法である品質機能展開(QFD)にある。顧客の要求事項に対し、対象の製品や技術のスペックに落とし込む手法として広く活用されている。
QFDは次のようなステップを踏む。まず、製品開発を始める段階で実現したいモノ・技術に対する個別ニーズを整理し、そのニーズに合うように具体的な要求品質を設定する。次に要求品質に対して求められる品質特性を定める。要求品質の重要性を評価後、品質表を用いて品質特性との対応関係を評価し、目標とする品質を満たすために強化するポイントを洗い出して、開発目標などとの整合性を確保する。
設計に従事する方々は、既にQFDを活用しており、いまさらと思われるかもしれない。だが、重要なのは、設計の要求水準の策定にとどまらず、最終製品の全体像や産業の全体像、そして社会課題まで俯瞰し、自社の要件や製品の位置付けを機能展開していく点にある(図表2)。品質機能展開の対象、目的、課題設定を抽象化してアーキテクチャーを描くことが肝要だ。
図表2:品質機能展開(QFD)を用いて社会課題まで対象を拡げていく(イメージ)
ただ、自社商材が素材、中間財、流通、最終製品のどれを取り扱うかによって、誰を最終顧客と捉えるのか、そして社会課題や産業課題をどのように捉えるのかが変わり、自社の取り巻く産業のアーキテクチャーを描くことに苦労するかもしれない。
その際の具体例として、社会課題の場合は持続可能な開発目標(SDGs)の17のゴールと各指標を機能展開の項目として活用することや、企業課題は環境・社会・企業統治(ESG)情報開示で用いられている国際統合報告フレームワークを機能展開の項目として参照する方法がある。
環境・エネルギー分野をはじめとする各種産業の国際標準のテーマにも、多くの機能展開の要素が内在している。また、自社のパーパス(存在意義)やミッションと照らし合わせて、顧客と製品の関係、そして組織体制を機能展開していく方法もあるだろう。
このような機能展開の軸を定める際、自社の部門内、あるいは部門の壁を越えて議論し、外部環境やステークホルダー(利害関係者)、最終顧客との関係性を見つめなおすこと自体にも価値が生まれてくる。
持続可能なビジネスを推進する上で、社会の変化をどのように捉えていくのか。エンジニアリングでは、制御工学やシステムズエンジニアリングに代表されるようなダイナミックな事象や、システム同士の関係性を捉える工学体系がある。これらで引用される「インプット―プロセス―アウトプット―フィードバック」といったサイクルを活用していくのがポイントになる。
市場ニーズから最終顧客の価値提供までの流れを相関図として捉えると、市場や規制、技術の変化、顧客の変化を見える化しやすくなる(図表3)。顧客への価値提供の構成要素を、例えば財務と非財務の企業資本と捉えると、価値創造経営、価値創造のプロセスと類似していることに気づくだろう。
図表3:システムとアーキテクチャー
このように、経営をエンジニアリングして技術とビジネスを両立、アーキテクチャーを構想し、モノづくりから価値づくりへのサイクルを回して成長シナリオを描くことを期待したい。
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